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空から来た魔女の物語  作者: 咲雲
南の地にて
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177話 海上で密かな思惑

今回あまり進められなかったので短いです。


 こちらの船は帆船ではなく、屋形船を大型にしたような外観であった。

 帆を張る船はほとんどない。陽光を反射して大きく風をはらむ帆は目立ち、妖鳥や、ごくまれに翼のある亜竜種の襲撃を誘うからだ。

 彼らからすれば帆船のマストは鍵爪で引っかけたり、掴んで持ち上げやすい親切なでっぱり部分に過ぎない。そうでなくとも大型の怪魚の体当たりで折れるリスクも高かった。

 泳いでいる魚がそもそもすべて当たり前に魔魚なのである。いかにも戦闘力の高そうな、無骨なつくりの乗り物でなければ、船員は安心して乗りたがらない。

 自然、優美さよりも防御力、迎撃力に重点をおいて発展を遂げる。


 しかしそこも所有者の権力と財力がものをいう。神官騎士と推定勇者の少年の一行を乗せ、青鹿の女将一行を拾いあげた乗り物は、提供者の好みを反映し、無骨ながら見る者に気品を感じさせるであろう設計になっていた。

 推進力は風ではなく水の魔術。海流の影響や水の抵抗を軽減させながら進む高度な魔術式が船体に組み込まれており、エネルギーには魔力を充填可能な大型の魔石が使用されている。

 船員の中には必ず魔術士が最低ひとりは存在し、魔石がエネルギー切れにならぬよう定期的に魔力をそそぎこんでいる。ゆえに高位の魔術士の客人は、船員を睥睨して下劣な蟲と蔑む人種でもない限りは歓迎される傾向にあるようだった。


 もちろんこれほどの船団は一般人が所有できるレベルのものではない。

 岸から岸までの距離が近い内陸の湖の船舶とも規模が段違いであり、最長でも近隣の島国までとはいえ、航海に適した設計の船は大きさも頑強さも速度も遥かに上だ。

 女王と名のついた優美で巨大な白い帆船に憧れをふくらませている瀬名からすれば、いかにも侵略に使われそうな見てくれの武装船が海を切って進む様など「え~…」と幻滅する光景かもしれなかった。

 だが見方を変えれば、これらは大航海時代の西欧諸国の船ではなく、全体的に古代船のイメージに近い形状をしている。

 それをひとこと告げさえすれば、低いテンションはすんなり最高潮へと反転するであろう。


 現状、内陸に集中している北方諸国において、湖や大河を隔てて近隣諸国がひしめき合っているような状況はなく、これらの船団が他国との水上戦に求められることはない。

 ただ、造船技術は明らかに南方諸国が何段階も進んでおり、決して北方には不要と無視すべきものではなかった。

 もっと小型な漁船として設計しなおせば、漁師や、水場の依頼を受けた討伐者の死亡率も減り、市場には新鮮で多様な種類の魔魚が多く並ぶようになるはずである。

 魔獣の生息数が多いために、食卓には肉が並びがちになるが、実は瀬名は本来、肉よりも魚派なのだ。

 先日、「魔物のお肉ってどれも美味しいんだけどさ……もう少しお魚が食べれたらいいんだけどな……」と切なげに漏らしていた。


 魚の流通量の改善は急務である。

 海が狩場の南方諸国と、湖が狩場の北方諸国では軍事的テリトリーも重ならない。

 技術者のスカウトは困難ではないはずだ。

 もし人員を貸し渋られた場合、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことは可能である。ただ、それでは新技術が浸透するまでに早くとも数ヶ月、遅くとも数年は待たねばならなくなるだろう。

 ――それは瀬名(マスター)にとって望ましい展開ではない。

 

「……ところで、ちょいと訊いていいかい?」


 ARK(アーク)(スリー)は目まぐるしい計算を中断することなく、思考回路の一部を割いて問いかけに反応した。

 とまっている肩が先にびくりと揺れ、推定勇者の少年の心拍数が上昇、呼吸も不規則になった。


「あんたの肩にとまってるそれ、ひょっとして……」

「ぜ、ゼルシカさんごめん、今はっ……」

「ごめんなさい、訊かないでくださいませ……!」


 涙腺のゆるんだ目を隠すこともなく、少年が懇願し、少女もそれに続く。

 女将は二人を交互に見やり、神官騎士に目線で問いかけた。重々しい頷きが返るのを受け、再度少年の肩に視線を戻す。


 そこにいるのは小鳥。

 ただし、羽の色は。



「…………茶色?」



 どこにでもいそうな、ありふれた茶色の小鳥である。

 成体でこれほど小さな種は発見されておらず、一見すれば何かの雛のように思われるであろう。


「なんとまあ、たまげたね……」

「ぜ、ゼルシカさんん……っ」

「あの、仰りたいことは重々承知なんですけれど、どうか今は……っ」

「その、後でご説明いたしますので、ちょっとここでは……」

「すまん……察してくれ」


 女将は小鳥に視線を突き刺したままだ。

 が、あいにく当の小鳥は、その疑問に答えるわけにはいかなかった――少なくとも今は。

 ここでは部外者の目が多過ぎるからである。

 行き交う船員の姿に思い至り、女将は得心がいった表情で、それ以上は口にしなかった。




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