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空から来た魔女の物語  作者: 咲雲
東の地へ
159/316

158話 命名権は強い者にある

誤字脱字報告ありがとうございます<(_ _)>

直すのが楽なので助かります。


※多忙のため13日・14日は更新お休み&過去更新分の見直しをします。

今月末頃までは隔日更新になる日が時々あると思います。2019.12.13


(これは……鳥、なのか……?)


 その奇妙な白い小鳥――小型探査機EGGS(エッグズ)に、誰もが次の言葉を探しあぐねている。

 すると白い小鳥の周辺にチカ、と小さな光が瞬き、何事かと見守る人々の前で、光の線を描き始めた。



 ――〝鳥型小型探査() タマゴドリ 1号〟



 光王国の公用語、エスタ語だ。


「な、なんだこれは……?」

「タマゴドリ……?」



 ――〝非自律思考型〟


 ――〝学習機能あり〟


 ――〝最高管理者セナ=トーヤ〟


 ――〝アーク・スリーの指令により調査活動を継続〟


 ――〝現在の任務:違法人身売買による被害者回収作戦に参加〟



 呆然と光の文字を追う人々の中で、ゼルシカが片眉をひょいと上げた。


「アーク・スリーってのぁ、あの青い小鳥のことかい?」



 ――〝肯定〟



「要するに、あんたはあたしらと一緒に行動して、協力してくれるっつーことでいいんだろ?」



 ――〝肯定 これより本作戦の任務に同行〟



「ならいいよ。ところで1号ってこたぁ、ほかにもあんたみたいなのがいるのかい?」



 ――〝肯定 同型器複数あり アトモスフェル大陸の情報収集 別作戦への同行および連携 その他任務継続中〟



「そうかい。しっかし、セナも凄いもん寄越してくれたねえ。そこそこ長く生きてるつもりだったけど初めて見るよ、こんなのは」



 ――〝肯定 類似品・比較対象ともに現存せず〟



「だろうねえ……。んじゃま、よろしく頼むさね。とりあえずあんたの呼び方は〝タマ1号〟でいいかね?」

「おいちょっと待て!」

「タマって、せめてもう少しまともな呼び名を!」

「いえあの、そういう問題では?」

「なんだい、うるさいねえ。んじゃ、綺麗な真珠色だから〝白1号〟にしようか?」

「いやだから、もっとマシな命名をだな!?」

「これにそんな安直極まりない名称をつけるのはいかがかと!?」

「いえですから、そういう問題ではない気が!?」


 なかまたちは こんらんした。

 ひとぞくは こんらんした。

 おおかみぞくも こんらんした。

 まさかのえるふも こんらんした。


「いちいちやかましいこと言うんじゃないよ、呼びやすいのが一番だろ!? 白でいくよ白で!! シロ1号は文句あるかい!?」 


 ゼルシカの一喝に全員まとめて大人しくなり、タマゴ鳥はキラキラ、と瞬いた。



 ――〝ミャオウ〟





 神官アロイスが神聖魔術を唱え、仲間達はかろうじて麻痺と混乱状態から復帰を果たした。

 こんな何もないところで、まさかの魔力の無駄遣い。しかし、神官達の治癒と補助魔法が今回は大いに役立つと期待されているので、瀬名による魔力回復薬がたっぷり支給されていたのだった。


「すまん。やはり我々はこの先、ともに行けそうにない」


 冷静さを取り戻した顔に、やや苦々しそうな色を浮かべ、精霊族(エルフ)達が言った。


「久しぶりにこの地へ訪れたが、我々にとって良くない気配が満ちているのを感じる。以前はこれほどではなかったはずなのだが…」

「我らがともに行くと、寝た子を刺激する結果になりそうだ。助力どころか困難を倍増させかねない。同行したせいで相性の悪い大物が出てくるような、そんな予感がする」

「……精神汚染系の強力な術者か、魔物の縄張りがどこかにある、ってことか?」


 カシムが突っ込んで尋ねれば、さして反発もなく「そうだ」と答えが返った。


「大概の精神支配には負けんが、汚染系は苦手だ。我らに限らず、精神感応力を持つ者はほとんどがそうだ――むろん耐性には個体差、種族差もあるが」


 弱い術士相手ならば、多少の相性のハンデぐらい、ねじふせられる。

 だがもし、ジャミレ=マーリヤ級の術士や魔物がいたならば。

 そしてこの地――帝国の地そのものに、不吉なものがどこかに潜み微睡(まどろ)んでいそうな、そういう予感がするのだ。


「おそらくだが、我々が動かなければ、それも動かない」

「ふん。まあ仕方ないさね、当初の予定通りってことさ」

「だな。姐御を筆頭に、俺ら五名、カシムとカリム、神官二名、もとからこのメンバーで行く予定だったんだ。問題ねえよ」

「シロを抜かすんじゃないよ」

「お、おう」


 せっかくラザックがまとめようとするも、ゼルシカの鋭い突っ込みが刺さった。


「出口の近くに馬車を組み立ててある。――アークの情報をもとに、この国で使われている移送馬車の外観を複製して、部品をこちらに運び込んでおいた。内部構造はこちらのほうが良い性能になっているぞ」


 同情めいた視線とともに、助け船が出された。


「おお、助かる。じゃ、行きましょうぜ姐さん!」

「そうそう、行きましょう行きましょう!」

「調子いいねあんたらは…。んで、どこへ行きゃあるんだい?」


 その問いに答えたのはタマゴドリ1号、改め、シロ1号であった。

 宙に光の線を描き、辺りの詳細な地形と、自分達の現在地を赤い光点で示す。

 森の出口近くと思しき位置に、青い点がいくつか明滅していた。その光点から線が伸び、〝複製馬車:改〟の文字が浮かぶ。


「おおっ、凄いじゃないか!!」

「…………すげ……」

「な、なんだこいつぁ……」

「こんなんありか……」

「立体地図、というらしいな。以前アークの地図を見たことがある」

「二度目だからといって慣れはせんし、凄いものは凄いんだがな……」

「はは……なぁカシム、こっち来てよかったろ……? ていうか俺はよかった、こんなワザを使う奴に勝てるかってんだ……」

「…………」


 呆然とせざるを得ない人々の中で、最も肝の据わっているゼルシカだけが通常運転だった。

 彼女が今回のリーダーに任命されたゆえんである。





 頑強なつくりの馬車には、外部から鎖と鍵をかけられていた。もちろんこれらは偽物(フェイク)である。

 移送馬車の外側には布をかけられ、馬車の本当の姿を隠している。この布地も、馬車の外観も、外側だけは完璧な複製だった。


「案外乗り心地いいぜ? あんま揺れねえし」

「この床板、厚手の布が貼られてんだな」

「防音のためっつーけど、おかげで俺らは腰痛くなんねーから助かるぜ」


 素材は本来のものと異なり、より頑丈に、長距離の高速移動に耐えられるつくりになっている。

 二台ある馬車のうち、片方にはゼルシカとカシムが御者席に座り、もう片方にはアロイスとカリムが御者席に座っていた。カシムとカリムは、遠目では用心棒に見える。

 他の者達は馬車の内部でくつろいでいた。

 大きな移送馬車を引くのはそれぞれ雪足鳥が三頭ずつ。灰狼と神官達はゼルシカの馬車の内部に乗り込み、騎乗する者のいない雪足鳥はアロイスの操る馬車に乗って大人しく寝ていた。


 森を離れると、すぐに景色は変貌し、茫漠と乾いた荒野が見はるかす彼方まで広がっていた。

 不毛の地。まさにその言葉がぴったりあてはまる、それ以外に表現しようのない世界だった。

 遠くに高い台地があり、細くしおれた草と尖った低木の群れがあり、むき出しの地面は表面が風にさらわれ、平らにならされている。

 皮肉にも草一本、石ころひとつ転がっていないのっぺりとした大地は、彼らに快適な馬車の旅をもたらした。

 揺れず、静かで、障害物もない。

 遮るもののない世界を斜陽が朱く塗り潰し、反対側に濃厚な影を長く落とす。


 命名・シロ1号は馬車の速度に合わせ、御者席から視界の邪魔にならない位置に立体図面(カーナビゲーション)を表示させていた。

 村も町も近辺にはなく、住む者などないはずの不毛の土地に、時おりひとかたまりの集落がある。



 ――〝監視人〟


 ――〝国営盗賊団〟


 ――〝監視人〟


 ――〝帝国軍特殊任務部隊〟


 ――〝魔物:荒野蠍 一体〟


 ――〝廃墟 墓所 生命反応なし〟



 この通り、一行はシロ1号のおかげで、「しまった、こんなところにこいつらが張っていたとは…!?」という状況に陥る心配がまったくないのだった。

 順調過ぎるほど、旅は順調に進む。

 遠い目になる者が多少いたとしても、旅路の安全の前にはさしたる問題ではなかった。




おばあちゃんとシロ…「ワン」じゃないのは既にいっぱいいるからだと思います。

ちなみにカシムとカリムは大型猫の獣人。豹っぽいイメージです。

獣人としては比較的細身なので、体格大きい+群れを作る灰狼が苦手。

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