131話 美しき猟犬達 (1)
いつも来てくださる方、初めて来られる方、ありがとうございます。
なんとレビューを書いてくださった方がいまして、感激のあまりわあああと悶えてしまいました…!
これからも訪れる方々に楽しんでいただけたら嬉しいです。
豚侯爵ガスパール=エーメ=グランヴァル。
豚夫人イヴェット。
エスタローザ光王国において、二大巨悪と呼ばれる夫妻である。
ぶくぶく肥え太った外見と、残虐にして嫌らしい中身が、ともに「人のふりをして失敗している豚頭鬼」と噂されていた。
もちろん、領民の噂ではない。現在のグランヴァル侯爵領で、そのような〝誹謗中傷〟を声高に口にできる愚か者などいるはずがない。
禁止薬物の売買、違法奴隷の売買、密輸入、賄賂、横領、私刑による領民の虐殺――とにかく、禁止と前置きされているものは大概破っている、そう噂されている夫妻だった。
幅広く〝商売〟をし、際限なく肥え太りながら、何故か未だにその証拠は見つかっていない。だから彼らの身辺は、今も白く清らかなのだ。
ただし十数年前までは、まだ抑えられる者が存在した。手に負えなくなったのは、当時まだ今ほどの巨漢ではなかった夫妻に、一人娘が生まれてからである。
政略結婚により夫婦となり、義務として作った子ではあったが、これが奇跡的な完成品だったのだ。
地位と身分のある男はより美しい妻を望み、王侯貴族には顔立ちの整った者が比較的生まれやすい。豚侯爵夫妻は、中身が外見に反映した残念な例であったが、祖先には美形がそれなりにおり、レティーシャは使用人達から密かに「隔世遺伝の奇跡」と呼ばれたものだ。
ちなみにガスパールには、イヴェット以外に妻はいない。これは亡きイヴェットの父親が、多額の持参金と婚姻の条件として約束させたもので、ガスパールはそれを守った。
彼は美しい娘達を使用人として雇い、抵抗できぬよう従僕に押さえさせ、寝台に引きずり込んだ。か弱き者の涙と悲鳴は、彼を興奮させるスパイスだった。
さんざんなぶった後は飽きて放り出す。ボロボロになった娘は、イヴェットの悋気によってさらに痛めつけられ、当主を誘惑したあばずれとして投獄されるか、娼館に送り込まれるか、袋詰めになって川へ流された。イヴェットはガスパールへの愛情からそうしているわけではなく、それらのおぞましい行動は、すべて若く美しい娘達への妬心と、逆らえない相手を痛めつける愉悦からだった。
妻が玩具を処分してくれるので、侯爵は不要な落とし子の発生する心配をしなくていい。
夫妻の仲は良好だった。
夫妻ははじめ、今ほど娘を可愛がってはいなかった。しかし、レティーシャが愛嬌をふりまくと、周囲の反応が非常によくなると気付いた。
敵対したくない相手、友誼を結びたい相手が、最初のうちは渋い顔をしていても、可愛らしく美しい娘が微笑みかけると、途端に表情をなごませる。さらには、息子がレティーシャ嬢と仲良くしたがっているからと、追及の手を緩める者もいた。
素晴らしい娘だ、と夫妻は思った。そうして、一人娘を心から可愛がるようになった。
美しい顔立ち、美しい声、美しい心。
何より、自分達に従順な。
さてどんな猟犬が来るか…。