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空から来た魔女の物語  作者: 咲雲
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119話 Day 2/5

いつも来てくださる方、初めて来られる方もありがとうございます。

昨日は更新お休みして申し訳ありません。

誤字脱字報告もありがとうございます、助かります。


「もうくっつけるの?」

《はい》


 白くなめらかな人体の一部を見つめ、「まだ早いんじゃない?」と瀬名は心配になった。

 培養液に浮かぶ腕は、悪く言えば作りかけの人形のパーツを連想させる。

 もう皮膚の内部が透けて見えたりはしないけれど、人工血液の役割も兼ねた透明な薬液が手指を満たしているせいで、余計に無機物の冷たい印象しかない。


《記録にあるエルダ嬢のものと形状はほぼ一致しています。再生力を一時的に強めている、この段階で始めたほうがいいでしょう》


 ウォルドの神聖魔術や、精霊族の秘薬を使ってくっつける方法もありかと思ったのだが、今回は使えなかった。

 治りはするが、半々の確率で後遺症が残るという点がネックだったのだ。

 過去の事例から想像するに、おそらく骨が歪んだ状態でくっついてしまったり、治癒の過程で神経がうまく繋がらなかった可能性などが考えられる。

 ある程度不自然な状態で繋げられても、人体は時間とともにそれを修正してしまうことがある。ただしそれには個体差があり、知覚できない部分で致命的な損傷が修繕されないまま放置されていれば、結局治ったとは言い切れない状態になったりもするだろう。

 

 そのあたりは完璧主義のドクターARK(アーク)にお願いするのが一番なのだ。

 違和感がないぐらい元に戻るまで、何ヶ月も何年もかけたくないであろうARK(アーク)氏は、エルダが最短で現場復帰できる最善の方法を選択してくれるに違いなかった。


 エルダの右肩部分から薬液に浸け、その液体の中で接合手術は行われた。医療ポッドの内部で、針先のように微細なロボットアームが無数に伸び、高速で繋げていく作業には目を奪われずにいられない。

 そうそうお目にかかれない光景だった。

 ミリ単位のズレもないほど、骨と骨の幅と形状を完璧に合わせ、血管や筋肉が自然に繋がるよう微調整を行い、補修しつつなめらかにくっつけていく。

 〝縫う〟のではなく、文字通り〝くっつける〟作業だった。

 医療用の接着剤があり、ロボットアームの針先から微量を注入しつつ、各部位をちくちくちくっと接着させているのだとか。


「ぜんぜん目で追えないヨ……」

《もしこれを追えるようであれば、蠅の羽ばたきが肉眼で捉えられるレベルの動体視力があることになります》

「うおう! ……てか、この世界、蠅なんていたんだ?」

《この国ではあまり見かけませんが、興味を持つことは推奨いたしません。大きさが――》

「わかった、みなまで言うな。言わなくていい」


 もはや、切り離されていた部分がまるでわからないぐらいに、綺麗に腕はくっついていた。

 ただこの段階では、エルダ本来の肌と、新しい腕の皮膚の色はまるで違う。

 強いて言うなら、その色の違いでその箇所がわかった。


《少し時間を置き、接合部分を馴染ませます。その後、エルダ嬢の血液が循環するようになれば、赤みが差して今よりも本来の肌色に近付くでしょう》


 それでも生まれたての腕は、赤ん坊と変わらないやわらかさと白さ、なめらかさだ。

 お嬢様育ちのエルダの身体は、庶民育ちのお嬢さん達と比較すれば圧倒的に美しいけれど、一切の刺激を避けられるはずもなく、培養液で一から作られた肌とは明らかに違う。


《ですので、敢えて皮膚に適度な刺激を与え、自然な状態に近付けます。その調整は明日になるでしょう》





 再びシモンに会いに行く。

 昨日はよく食べよく眠ったおかげか、だいぶ顔色が良くなっていた。

 さて、シモンを今後誰がどのように鍛えるかだが、瀬名には少し気になっている点があった。


「気になるって、何かあったのか?」


 シモンの泊まっている部屋には、アスファとリュシーも集まっている。

 特に瀬名の容赦ない性格を最初に味わっているアスファは、今後シモンがどうなるのか、かなり心配している様子だった。


「んー、アスファの話でちょい気になるとこがあってね」

「お、俺の話って?」

「別に怖いことじゃないよ?」

「アンタがそれ言ったら恐怖しかねえよ!」

「失礼な、私を何だと思ってるのかね? ――まあ、見せてもらったらすぐにわかるか。シモン、ちょっと上、脱いでみてくれる?」

「えっ?」

「はぁ!?」


 シモンとアスファは目をまるくするが、リュシーはハッと気付いた様子だった。


「シモン君、言う通りにしてみてください」

「え? は、はい……」


 怪訝そうにする少年二人だったが、リュシーも言うからには何かあるのだろうと思ったらしい。

 シモンは服の裾に手をかけ、のろのろとそれを脱ぎ落とした。


「――えっ?」

「なるほど……」

「やっぱり。シモン、ちょっと、背中こっちに向けてみてくれる?」

「は、はい」


 指示通り、おずおずと背中をこちらに向けてくれた。

 想像と違わないものを前にして瀬名はふむふむと頷き、リュシーは合点がいったように頷く。

 アスファだけがひたすら驚いていた。


「あの……?」

「えええ、これどういうことだよ?」

「そういうことなんですね」

「そうそう」

「あ、あの~?」

「ああごめんごめん。服、もう着ていいよ」

「はぁ……」


 困惑しながら再び着込むが、周りの視線に落ち着かなげに身をすくませる。


 瀬名が見たかったのは、シモンの上半身の肉付きだ。

 おそらくアスファもリュシーも、彼の細く小柄な外見から、ひょろひょろと折れそうなか弱い肉体を想像していたのだろう。

 ところがシモン少年の身体は、さすがにムキムキとは言い難いけれど、その上半身を包むのは紛れもなく筋肉だったのだ。

 栄養状態が悪いせいで、さほど肉付きが良いわけではない。けれど瀬名のイメージでは、徹底的に減量したボクサーを想起させる上半身だった。

 細いけれど、余分なものが徹底的に削られているために細い、そういう雰囲気がある。


 もしやそうではないかと瀬名が思ったのは、アスファの話にあった、遺跡でシモンが矢を射るくだりのところだ。

 力のない素人の射る矢は、まともに飛ばない。けれどシモンの矢は、勢いを衰えさせることなく〝まっすぐに飛んだ〟と言っていた。

 弓矢の扱いに慣れている。普段からよくそれを使っているとなれば。

 ――シモン少年の肩周りや背中には、まさに弓矢を扱うのに適した筋肉が適度についていたのだ。


「ひょっとして村にいた頃は、狩りをしてた?」

「は、はい……家が、貧しくて……ギルドに登録してからも、お金がないから、たまに獣を狩ったりして……」


 そうして食べ物を確保し、飢えを満たしつつ、自覚のないままに少しずつ身体が作られていった。

 それがこのシモン少年だった。


「よし。――シモン君、キミの指導は精霊族の誰かに頼もうか!」

「ええええええぇぇえぇぇッ!?」

「……い、意外なことになったな……」

「……そ、そうですね……」




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