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空から来た魔女の物語  作者: 咲雲
白き賢者の楽園
115/316

114話 まがいものの【神】の鉄槌 (前)

今回は超絶短いです。


 どうか、私達の道行きを見守っていてください。

 私達の家族が苦難を乗り越えられますように。

 大切な友の未来に幸溢れんことを。

 すれ違う人々が絶望の沼に迷い込まぬよう、どうか彼らの行く先の闇を照らしてあげてください。

 

 通りかかる小さなもの達は、いつも膝をつき、首を垂れ、両手の指を組み合わせ、真摯に語りかけていった。

 ――それはもう、砂塵となって片隅に消え、どこにも残らない遠い昔だ。





 いつからだったろう。

 そこはとても静かだったが、いつしか少しずつにぎやかになった。

 灰と白と鈍青だけだった世界に、赤と黒と鉄錆(てつさび)の色がまざりあい、流れ出し、染み渡り、かつてない彩りの饗宴が繰り広げられている。

 それは頻繁に続けられ、あまりにも何度もあるので、やがて〝それ〟は、気付けば耳を澄ますようになっていた。

 甲高い音、くぐもった音、何かを引っ掻くような音、絞り出すような音、それらは小さなもの達の小さな開口部から漏れ出して、時に辺りへ響き渡るほどの勢いで噴き出すこともあった。

 それらはしばらくのあいだ奇妙な動きと音で〝それ〟の視界を楽しませ、けれどやがて潰れてしまって動かなくなる。

 そうして潰れていないもの達は、〝それ〟の前まで歩み寄って膝をつき、こう奏でるまでがいつもの流れだった。


 ――神よ、哀れな罪深き魂を浄化し、今あなたの御許へ送ります。

 ――偉大なる神よ、どうか我らの真心をお受け取りください。


 しもべ達は心から祈りを捧げ、それが何年、何十年、何百年とあったことなのか、時間の経過の概念を持たない〝それ〟にはどうでもいいことだった。

 ここは月も沈まず太陽も昇らない地下の楽園。

 小さなもの達が、大きな〝それ〟に、ただひたすら祈りと信仰、そして供物を捧げるためだけの世界。

 すべてに安息を与える約束の地。


 そして〝それ〟は理解した。


 我が名は、【神】である。

 小さなもの達を従える存在。

 我は【神】である。

 しもべ達は【我】のために贄を用意し、切り裂き、潰し、折り、砕き、朱き魂の最後の一滴までを【我】のために搾り取る。

 苦痛と恐怖と怨嗟の悲鳴が何よりも心地良い宴。

 そう、それは〝我が瞳を楽しませ、心はずむ面白きものである〟。

 汚泥に浸かり絶望にまみれた美味なる魂を【我】に捧げよ、さすれば――




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