114話 まがいものの【神】の鉄槌 (前)
今回は超絶短いです。
どうか、私達の道行きを見守っていてください。
私達の家族が苦難を乗り越えられますように。
大切な友の未来に幸溢れんことを。
すれ違う人々が絶望の沼に迷い込まぬよう、どうか彼らの行く先の闇を照らしてあげてください。
通りかかる小さなもの達は、いつも膝をつき、首を垂れ、両手の指を組み合わせ、真摯に語りかけていった。
――それはもう、砂塵となって片隅に消え、どこにも残らない遠い昔だ。
◇
いつからだったろう。
そこはとても静かだったが、いつしか少しずつにぎやかになった。
灰と白と鈍青だけだった世界に、赤と黒と鉄錆の色がまざりあい、流れ出し、染み渡り、かつてない彩りの饗宴が繰り広げられている。
それは頻繁に続けられ、あまりにも何度もあるので、やがて〝それ〟は、気付けば耳を澄ますようになっていた。
甲高い音、くぐもった音、何かを引っ掻くような音、絞り出すような音、それらは小さなもの達の小さな開口部から漏れ出して、時に辺りへ響き渡るほどの勢いで噴き出すこともあった。
それらはしばらくのあいだ奇妙な動きと音で〝それ〟の視界を楽しませ、けれどやがて潰れてしまって動かなくなる。
そうして潰れていないもの達は、〝それ〟の前まで歩み寄って膝をつき、こう奏でるまでがいつもの流れだった。
――神よ、哀れな罪深き魂を浄化し、今あなたの御許へ送ります。
――偉大なる神よ、どうか我らの真心をお受け取りください。
しもべ達は心から祈りを捧げ、それが何年、何十年、何百年とあったことなのか、時間の経過の概念を持たない〝それ〟にはどうでもいいことだった。
ここは月も沈まず太陽も昇らない地下の楽園。
小さなもの達が、大きな〝それ〟に、ただひたすら祈りと信仰、そして供物を捧げるためだけの世界。
すべてに安息を与える約束の地。
そして〝それ〟は理解した。
我が名は、【神】である。
小さなもの達を従える存在。
我は【神】である。
しもべ達は【我】のために贄を用意し、切り裂き、潰し、折り、砕き、朱き魂の最後の一滴までを【我】のために搾り取る。
苦痛と恐怖と怨嗟の悲鳴が何よりも心地良い宴。
そう、それは〝我が瞳を楽しませ、心はずむ面白きものである〟。
汚泥に浸かり絶望にまみれた美味なる魂を【我】に捧げよ、さすれば――