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 読んでいただいてありがとうございます。

 2019.7.22、序章の話の順番と構成を変更しました。

 読みやすくなっていればいいなと思います。


 くすんだ緑色の怪物が咆哮をあげ、たったひとつの眼球が獲物を捉えてぎょろりと血走る。

 人に近い形状をしているが、人ではない。身の丈は三メートルほどもあり、体毛はなく、額の目を挟んで無骨な角が二本生えている。

 岩を削っただけのごつごつした棍棒を振りまわし、獲物を肉塊に変えるべく、ずしんずしんと小さな地震を起こしながら迫り来る光景を、〝少年〟は肩にとまった青い小鳥を指先で撫でながら、離れた位置から冷静な面持ちで観察していた。

 正確には怪物を、ではない。それに対峙する者達の動向を、だ。



「なあ、セナ。やっぱりあいつらには少し荷が重いんじゃないか?」


 と、生真面目な慎重派だが子供に甘いウォルド。


「俺ぁセナの見立ては正しいと思うぜ。おまえ過保護なんだって」


 軽く返したのは、口調の軽さと裏腹に、徹底した実力主義のグレンだ。


「んむんむ。成長したのー」


 いまいち思考の読めないバルテスローグは、今日もどこかズレている。

 そんなのんきな会話が交わされた直後、戦闘の幕が上がった。



 焦げ茶の髪の少年が特攻をかけ、全身筋肉の塊のような一つ目巨人の棍棒をよけつつ、その足めがけて思い切り剣を振り下ろす。

 ガキン、と皮膚にはじかれ、すぐさまその場から飛びのいた。


「くそっ、こいつめちゃくちゃ硬ぇ!?」

「当然でしょう、あいつの皮膚に普通の剣が刺さるわけありませんわ! ――聖霊よ我が声に応えよ、【炎の」

「ばかエルダッ、なにやってんだ!!」

「ふむぐっ! ……な、何をなさるの!?」

「森ん中で火なんぞぶっ放すんじゃねーよアホ!!」

「あ、アホですって!? あなただって無知にもほどが……」

「うるせえッ!! つか喚くヒマあんなら避けろ!!」


 口を塞いで詠唱を中断させ、森林火災は免れたものの、こんな状況なのに赤毛の少女は呑気に叫び返してくる。

 アスファは舌打ちしながら、彼女の襟元をひっつかんで引きずり倒した。そのすぐ上を、巨大な棍棒がうなりをあげながらかすめてゆき、背筋をゾッと氷塊がすべる。

 スピードは遅い。彼らを徹底的にしごく〝教官〟達の速さと比較すれば、全身の動きを余裕で追えるほどにのろい。だから喋りながらも回避できているが、一撃でも食らったら確実に終わるだろう。

 アスファは即座に移動しようとしたが、何故か腕がずしりと重い。

 ――仰向けに倒れた少女が、アスファの腕をがっちり捕え、そのまま硬直していた。


「おま、こんな時に……!?」


 ふ、と影が落ちる。冷や汗が伝うのを感じながら、恐る恐る視線を上方にやれば、単眼の巨人がニタリと嫌らしげに嗤い、少年と同じぐらいの大きさの棍棒を振りあげるところだった。

 今まで屠った獲物の血肉に黒ずみ、逆光なのに細かい傷や亀裂のひとつひとつが鮮明に見える。

 まずい、このままじゃ――


「【土の槍】!!」


 焦る少年の横で、若干裏返った悲鳴まじりの〝略詠唱〟が飛んだ。不発に終わるリスクの高い詠唱方法と聞くが、幸い成功したようだ。

 地面がぼこぼこっと盛り上がり、いくつもの巨大な土の柱が、岩の強度を持って怪物の全身に突き刺さる。槍と呼ぶには形状が(いびつ)で、見た目は洞窟内の石筍(せきじゅん)に似ていた。


「げっ、刺さってねえ?」


 怪物の皮膚の頑丈さが上回ったのか、略詠唱のせいで制御が甘くなったのか。それでも脇腹や腕、腹などを固定する役には立ったらしく、その動きが止まる。

 もともと動きはさほど俊敏ではない上に、頭の回転も鈍い。

 少年は叫んだ。


「リュシー!」

「はい!」


 灰白色の髪がひらめき、慎重に機を窺っていた三人目が細剣を抜き放つ。

 薄い髪色と褐色の肌が特徴的なリュシーは、アスファやエルダよりも一見ほっそりとした女性だが、停止した怪物に恐れる様子もなく飛び移り、体重を感じさせない身軽さでその肩まで登りきった。


「ウガ?」


 怪物は間抜けな声を発し、肩の上の小さな生き物に首をめぐらせ――

 切っ先が渾身の力で眼球を貫き、頭蓋の裏側にまで達した。





「いい感じになってきたね」

「……そうか?」

「おまえ悲観的だな、かなりマシになってんだろ。――意外にも坊やが司令塔におさまったな」

「そうだね。あとはエルダの状況判断が課題かな」

「だな」

「一杯やりたいのう」


 ぎゃんぎゃん罵り合う少年と少女を横目に、とどめを刺した大人は慎ましく沈黙している。

 どうしようもなく噛み合わない面子に見えるが、彼らの〝訓練〟を開始したのはおよそ半年ほど前のこと。問題のすべてが一朝一夕であっという間に片付くわけでもなし、結果をしっかり出せるようになっただけでも、この問題児達には脅威の成長速度と言える。

 なんといっても、当初はグレン達が手助けをしてさえ、雑魚に手こずるぐらいだったのだ。それが今や彼らの力だけでそこそこの大物を仕留めるに至ったのだから、わずかずつではあるが、少しずつ噛み合ってきているのだ。


 魔馬の牽引する荷車に獲物の巨体をくくりつけ、町へ帰還する。

 血臭をごまかす薬剤や獣の忌避香は、今回ばかりは必要がなかった。傷口が小さいために血があまり流れず、しかもこの怪物の硬さは尋常ではないので、そこらへんの屍肉喰らいはあまり寄ってこないのである。


「おおっ、すげえ!」

人喰巨人(ギガント)じゃねえか! あいつらやりやがったな!」

「でけえ……」


 門前に集まってくる人々の賑わいを余所に、〝少年〟は「それじゃあ、また」と早々に彼らのもとを離れた。

 この後は獲物を買取に出し、反省会を兼ねた夕食会となる。〝彼〟の仕事は重要な役目の大部分をもうほとんど終えたようなものなので、今ではなるべく見守りや最低限の助言にとどめていた。

 ここから先は友人達に任せておけばいい。

 あまり彼らに踏み込んで、余計なことを教え過ぎてはいけないのだから。


「……なあ。あいつって、いつもどこに住んでんの?」


 無邪気な疑問を背中で聞きながら、〝少年〟は再び町を出た。




◆  ◆  ◆




《三名尾けて来ています。左後方から一名、右後方から二名。いずれも男です》


 青い小鳥が小さな声でささやいた。

 その声は女性にも男性にもとれる。


「最近うちの近辺うろちょろしてる奴ら?」

《いいえ、稚拙な行動パターンから流れのチンピラと思われます。背後(バック)はついていないでしょう》

「なら、小細工いらないか」

《ただし途中で仲間と合流する可能性が高いと思われます。待ち伏せ組と挟み撃ちにするか、森に入った直後に全員で取り囲む計画か、いずれにせよ数だけは増えるでしょう》

「チンピラの群れって面倒だなあ。走るよ」

《了解です》


 鮮やかな青い翼が高速で羽ばたいた。予備動作もなく走り出した(あるじ)の傍を、青い小鳥はつかず離れずの距離を保ちながら飛ぶ。


「クソッ、気付きやがったか!」

「てめえら、追えッ!」


 ごろつきどもが慌てふためき、わらわらと集まって怒号を飛ばし始めた。

 森に近付けば近付くほど人の気配が少なくなり、賊にとっては都合の良い環境になる。だから構わないと思ったのだろう――普通なら、そのとおりだ。

 自分達より遥かに細い少年の身体にしては、思いがけず逃げ足が速い。けれどそれだけだ。獲物の背中はずっと見えているし、そのうち体力が尽きて速度が落ちるだろう。彼らはそう思っていた。


 追い立てているつもりで、自分達が誘導されていることに気付かない。


 あいにくどれだけ走ろうと、彼らは小鳥の主に追いつけない。引き締まってすっきりと伸びた理想的な肢体は、外見からは想像できないほどの速さとバネと強靭さで駆ける。

 だが決して引き離さないよう、実はこれでも速度をゆるめていた。

 さりげなく街道を逸れ、縫うようにまばらな木々の中を走る。


「しつこいというか、根性あるね」

《彼らの会話によれば、〝森の魔女〟は誰も見たことがない高価な道具や、誰も知りえない強力な魔術薬のたぐいを溜め込んでいるそうです。情報源は不明》

「……あほか」


 誰も知らない、見たことがないのに、何故それが高価だとか強力だとかわかるのだ。

 そんなふうに己へ指摘(つっこみ)を入れられるほど賢いなら、そもそもチンピラになどなりはしない。

 そもそも多少頭のまわる人間なら、獲物が街道を逸れた時点で追うのをためらうだろう。まあ、「どうせすぐに追いつくから問題ない」と高をくくっているのかもしれないが。


《約五分後に第十三シールド。後方の部外者達はいかが致しますか?》

「放置で。勝手に迷って自滅すりゃいい」

《承知いたしました》


 小鳥の(あるじ)は速度を上げた。そろそろ体力が尽きるに違いないとふんでいたのか、背後の馬鹿どもが慌てていたが、知ったことではない。


 樹々の密度は増し、ここはもう〝まばらな林〟ではなく〝森の中〟だ。


 軽く跳躍し、木の枝に手をかけ、その勢いで崖の向こう側に飛び移った。大岩をひらりと乗り越え、灌木の間を駆け、そして不可視の膜を通り抜けた。

 常人より鋭敏な感覚のおかげで、見えないがなんとなくそこにあることがわかる。

 ごろつきの集団はあっという間に遠ざかった獲物の姿に呆然とし、ようやく追うのをあきらめたが、自分達がどこにいるのかわからなくなっていることに気付いた。森の中まで深追いし過ぎたのだ。

 獲物を見失ったばかりか、戻る道がわからない。


「おい、どうすんだ! 街道はどっちだ!?」

「知らねえよ!」

「おい、誰か憶えてる奴いるか!?」


 準備もなく道を逸れて森の中に入り込めば、迷って当たり前だ。追うのに夢中だった彼らは、ようやくそれを思い出して蒼白になっていた。

 小高い丘の上から、小鳥の(あるじ)は少し意地悪い気分で、いかつい子羊達の彷徨う姿を見下ろした。

 彼らがこちらに気付くことはない。広範囲に展開された大規模なシールドは、内部の都合の悪いものをさりげなく隠す。さらに彼らは「なんとなくあちらへ行きたくない」と漠然と不安を感じ、自由に動いているつもりで、実は中心部へ接近しないように誘導されている。そういう〝場〟をこの周辺一帯に作り上げているのだ。


「一応訊くけど、連中が何者で、どこから来たか調べはつく? おおよそでいいけど」

《先ほど照合完了いたしました。王都方面から流れてきた強盗団の一部です。指名手配されたため、ほとぼりを冷ます目的で田舎へ逃れてきたようです》

「なるほど。ならここは是非、遭難しておいて欲しいね」

《滝壺へ誘導しますか?》

「できるの? って、できなきゃ言わないか。……ちなみに殺人の前科持ちはいる?」

《全員です。荷馬車を襲って商人と護衛を皆殺し、窃盗目的で忍び込んだ館で家人に気付かれ惨殺、酔って通行人に因縁をつけ》

「あ、わかったから。誘導しておいて」

《承知いたしました。街道方面へ向かわないよう移動範囲を制限し、夕暮れ頃に滝壺へ向かうよう誘導いたします》

「念が入ってるね。任せた」


 陽が沈みかければ、どんどん視界が悪くなる。森の中ならなおさらだ。落ちた直後にたまたま生きていたとしても、暗くなっていれば岸がどちらにあるかわからないまま溺れるしかない。

 自分は絶対そんな最期など迎えたくないものだ。

 小鳥の主は(うそぶ)くと、自業自得の子羊達に背を向け、それきり興味をなくした。





 その後しばらく走り続け、すべてのシールドを通過する。やがて見覚えのある場所まで来ると、小鳥の(あるじ)はゆっくりと歩き始めた。

 樹齢何千年にもなろうかと思われる大樹の海が唐突に(ひら)け、整然と耕された畑が目の前に広がる。

 碁盤の目状に作られた畑は、舗装された通路や水路にかかる小さな橋とあいまって、畑と呼ぶより美しい庭のようだった。

 否、庭と呼ぶべき場所に畑をつくっているのだから、少々規模の大きな家庭菜園と言ってもいいかもしれない。

 育てているのは野菜や穀物、果樹のほか、ここに来て手に入れた何種類もの薬草類だ。

 森に自生していない植物や(たね)その他は雑貨屋や薬屋などで仕入れ、分析器にかけ、成分のみならず成長に適した環境や育て方も導き出し、栽培に成功した。

 といっても、小鳥の(あるじ)の仕事はオリジナルの入手までであり、分析から栽培に至る過程はすべて自称しもべ達がやってくれたので、まったく苦労していない。


 ちなみに、米に酷似した穀物も栽培している。この大陸では米が害草扱いされていると知った日には衝撃を受けたものだ。なんたることか。調べてみればこの大陸の米もどきは、水と土さえあれば他の植物を枯らすほどに繁殖力と生命力が強く、畑潰しと呼ばれている厄介者だったのだ。

 しかし小鳥の(あるじ)はあきらめなかった。お米様だって好きで迷惑をかけているわけではない。彼らはただ弱肉強食の掟に(のっと)り、生きるために逞しさを身につけてきただけなのである。

 ゆえに、要は彼らが他人(ひと)(さま)に迷惑をかけずに済む生育環境を提供してさしあげれば良いのだ。

 ためしに地面をくりぬき、その表面をコーティングし、やわらかい土と大量の水を流し込んで米粒をまいた。それだけでたった三メートル四方の水田から、二~三ヶ月ごとに二キロ前後の米が収穫できるようになり、しかも炊いた米は非常に美味だった。

 〝畑潰し〟の名のままにあちこちへ無限に蔓延(はびこ)らないよう、他の畑と遮断することが必須条件。おまけに、大量の清水で育てなければ炊いた時の味や食感が良くならないので、畑ではなく水田をつくらねばならない。この辺りでは平地が少なく、普通の農家では経済的にも技術的にも難しいだろう。たとえ安全な育て方を教えたところで、広まりそうにない。


(つうかそれ以前に、ひとんちの畑にわざと米まく奴は一発で死刑になるってのがな……)


 理由。意図的に〝畑潰し〟を投下して食べ物を壊滅させる行為イコール殺人罪と同等だからだ。下手をすれば周辺の畑にも被害が及び飢饉を招きかねないので、罪はかなり重かった。

 まあ、自分さえ美味しく食べられるなら、別に広めなくてもいいのだが。

 無理もないけれど。切ない。


《お帰りなさいマセ、マスター》


 細い通路を進んでいると、菜園の世話をしている召使いロボットが声をかけてきた。

 シルバーホワイトの腹には〝Alpha(アルファ)〟と赤く書かれている。雪だるまに手と四本足をつけたような姿で、クラゲに似ていなくもない。


「ん、ただいま。相棒は?」

《あと三時間ぐらいで帰還予定デス》


 彼の相棒は青で〝Beta(ベータ)〟と書かれており、周辺の地質や水質その他もろもろの調査担当だ。夕方になるまでは戻ってこないだろう。

 通路を通り抜けたところに、水路に囲まれた小洒落た広場があり、中央に白い丸テーブルを置いてあった。

 陽はまだ少しだけ高く、小腹がすいていたが、疲労は感じない。走ったせいで多少汗をかいた程度だが、それもすぐ乾くだろう。夕刻に向けて気温はどんどん低くなってゆくが、今は運動直後の身体が熱をもっていた。


 胸当てを外し、シャツをさらりと撫でたそよ風にほっと息をつく。

 防具の下から現われたのは、あるかないかのささやかなふくらみ。

 もともと遺伝的に大きさがなかった上に、現在は身体を鍛えているせいで、余計に成長が遅い。……いや、これが既に限界値な気もする。

 性別を大っぴらにしたくない身としては、胸当てで押さえても圧迫感がない体形には、ありがたいと考えるしかないだろう。


 身長は百七十三センチに達したあたりでほとんど伸びなくなった。充分だ。

 ()()()()今より十センチ以上低かったはずなのだから。


 胸当てをテーブルの上に転がし、椅子に腰を落ち着けた。

 胸元で冷ややかに輝くドッグタグ型のネックレスは、その実、空気に触れても肌を拒絶するほどの冷たさを帯びることはない。

 体温と馴染んで違和感がなく、指先で弄びながらそこに刻まれた美しい紋章を眺めていると、Alpha(アルファ)がグラスをのせた盆を運んできて、ほのかに林檎の香りがする果実水をそそいでくれた。

 ちびちび喉を潤していると、さらにAlpha(アルファ)はいつの間に用意したのか、ポテトサラダ、きのこオムレツといった軽食に加え、数種の果物のコンポートにホイップクリームとアイスを沿えて出してきた。

 綺麗に盛りつけられた豪華なデザートを前に目をまるくしていると、表情などないはずなのに、不思議と愛嬌のある雰囲気でAlpha(アルファ)が言った。


《お誕生日おめでとうございマス、マスター》

「……ああ。そういえば……」


 小鳥の(あるじ)は苦笑した。すっかり忘れていた。

 三月一日。この大地の上の人となったのは、ちょうど七年前の今日。

 肉体年齢ではおよそ十七歳、そして精神年齢は……。


 小鳥の(あるじ)は上半身をそらし、少し離れた場所にあるそれを座ったまま見上げた。

 虹色を帯びたパールホワイトの巨大な球体は、上の部分が空の色を映し、まるで透き通っているように見える。

 ビルの十階部分までがまるごと入ろうかというほどの高さで、こちら側から見れば下部の三分の一ほどが地中に埋もれていた。

 以前はえぐれた地面がむき出しになっていたけれど、今や色とりどりの草や花が覆い、メルヘンチックな真珠の城のできあがりである。

 ただし球体の表面には、メルヘンのかけらもない黒い文字がでかでかと浮かび上がっており、七年経った今も薄れる気配すらない。一見すれば塗料で書いた文字だが、実際は色を固定した文字の表示だとかで、風雨や経年による劣化はないのだそうだ。


「……ARK(アーク)(スリー)

《はい、マスター》


 青い小鳥が応えた。


「ふと思ったんだけどさ。あんたの名前、何か理由があって表示してるの?」

《私が意図的に表示しているわけではなく、製作者がそのように作りました。自己修復機能の核に組み込まれていますので、消すことは不可能です》

「そうだったんだ。今さらだけど初めて知った」


 どうあっても文字が消えないように作られた理由をいくつか想定し、それがすべて〝読める人間がどこかにいる〟ことを前提としているのに思い至って、小鳥の(あるじ)――東谷(とうや)瀬名(せな)は考えることをやめた。

 そしてさっきから空腹を訴えだした腹の要望を満たすべく、食欲をそそるテーブルの料理に視線を戻すのだった。




 人名・地名・魔法名等は意味とか深く考えず、適当に感覚で決めるようにしています。

 最初は名前をつける時に意味を調べたり何かを参考にしようとしていたんですが、ひたすらものすごーく悩んで時間かかるので断念しました…。

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