食欲は強し
頭を空っぽにして、読んでください。
大人の事情というような事情はないです。
不思議な童話、ってことで。
砂糖。調味料である。
"女の子は、砂糖菓子でできている"
……それは、誰の言葉であっただろうか。そんな前置きから始まった物語。
これは、ルミーヌ国に伝わるおかしなおかしなお話。
♢
砂糖論争……この宇宙の誰もが知る話である。当然、宇宙を管理する役職"神"にも耳に入っており、解決の目処を立てよと指示されるのも致し方ないことである。
砂糖論争には、中立派、砂糖擁護派、砂糖批判派、というふうに派閥ができている。
「面倒臭いなぁ……」
役職"神"の中でも、厄介事を引き受ける部署。ハズレくじにあたったアポロンは、やる気無しの給料ドロボーである。
彼には秘書がついているが、美少年。個人的には女性を希望していた。
「やる気でないわ……」
今回砂糖会談を行うのは、砂糖星人と付き添いの木星人が擁護派代表として。
地球人と付き添いの金星人が批判派代表として。
火星人が中立派代表として。
アポロンはこれからのことを思い、憂鬱である。
♢
和解を目的とした会談の訳だが、空気は冷え切っていた。……冷房のせいである。
中立派、タコンは二本の腕で自身を守るようにし、三本の足が震えている。切り取られた亡きニ本の足は、たこ焼きとしてゴロウの口に納められていた。彼の足は、もともとは四本だったのである。
批判派、地球人ゴロウは、たこ焼きソースをハンカチで拭い、脂汗をダラダラと流していた。己の脂肪のせいで、室温を下げても下げても暑そうな顔をしている。
付き添い人イカスカンは、ヌルヌルとした手で器用にごまを擦っていた。比喩でなく、本当にごまを擦ってごまむすびを作っていた。ゴロウのためである。
擁護派、砂糖星のシュガー大国シュガー三世は冷え切る室内に苛つきを覚えていた。彼はまだ若くして王になったため、気が短い。
一方、シュガー三世から溢れる砂糖をかき集めている付き添い人クラーゲル。彼は愛娘のため、菓子作りに精を出している。三世はいい材料だ。
「ふふん、砂糖人に未来などないのだよ。いずれアリに食われちまう運命ですしな。のこのことやって来るなんて、未だ国制を採用している星らしいですな」
「そうだそうだー!」
「さすがゴロウさん! ……ふふ、ごまむすび、作り終えましたぞ」
「うむ、苦しゅうないぞ。……むすび屋、ソチも悪のよぉ……」
「いえいえ、まだ店は持っておらんのです。今はまだ、貴方の食事係ですから」
「ほっほっほ、見事な忠誠心よ」
「御恩と奉公、ですかねぇ?」
先に口撃を仕掛けた批判派。後半は擁護派そっちのけでエセ時代劇を演じる。
やや脱線しかけたが、盛り返すように三世が声を張り上げる。
『批判派の方々っ!』
ややサラサラと砂糖擦れの音がして、砂糖人特有の甘い香りが漂う。
ゴロウはミントガムを口にした。批判派は常に鼻直しのミントガムを持ち歩いているのだ。
『敵前逃亡などは致しませんよ。誇りがありますから。僕らは僕らの正当性を主張します。そちらこそ引っ込んでくださいな』
『その通り!』
『引っ込んでろー!
……ふぅ。この砂糖、どのお菓子に使おうかな』
付き添い人の言葉に引っかかりを覚えたのは少数らしく、批判派が反撃をし始めた。
「砂糖の正当性を謳うからには、集団内で保つ秩序というのもまた重要なものですぞ。こんなに甘ったるい匂いを醸して……。他星と関わるなればこそ、こうして口を出されてしまうのです」
「そうだ、そうだ」
「砂糖の代わりに塩でも塗ってろ。……この塩むすびのようにな!」
「うむ、お前、中々いい腕しとるよ」
ここでどっと笑いが起きる。
しかしそれは反対派だけの様子で、
砂糖派は顔を傾げた。
塩は彼らにとって砂糖を引き立たせるものであり、砂糖人は年頃になると少量の塩を自ら化粧代わりに塗る。シュガー王子もその一人である。ニキビはシャレにならない。
塩むすびを掲げるイカスカンに疑問を覚えたのは、やはり少数だった。
〈休憩時間です〉
白けた空気が漂う中、休憩の合図が入った。
安堵のため息を漏らすタコン。その吐息は、どちらかと言うと件のたこ焼きについてである。
またミントガムを取り出すゴロウ。
お茶をがぶ飲みするイカスカン。と、ゴロウ用のを出してしまい、大変焦っている。
ガリガリと砂糖の歯ぎしりをするシュガー王子。
サンオントウ大臣の砂糖を取りに行くクラーゲル。娘思いの恐妻家である。彼には料理好きの妻の為にも様々な砂糖が必要だった。
ああ、こちらまでため息を付きたくなってしまう有様だ。
……? 窓の外から他人事のように見ていたが、ふと自身ヘの違和感に気づく。
何かがおかしい。
手がザラザラとするし、頭を掻くとポロポロと白い粒が…そばにアリが寄ってきて、私のフケであろうものを運んでいく。
肌がざらざらとした。
よくよく考えれば、甘ったるい匂いは私からもする。
恐る恐る池を覗き込むと、そこには全身が白く凸凹とした一般的な砂糖人が……
♢
「な、何じゃこりゃあ! ……はっ!」
と、ここまでがアポロンの夢である。
彼は砂糖論争の上手い解決法を模索する内、いつの間にか眠りこけていた。
「何だったのだあれは? あぁ、仕事のし過ぎかもしれないな…
そろそろ嫁が、癒やしがほしい…」
彼は独身男としての願いをつぶやき、ぐったりと項垂れる。
彼には秘書がいるが、男である。
出会いの場よりも仕事が多く、プライベートはままならない。
ふと、ノックの音が執務室に響く。
「失礼します。
…アポロン様、時間でございます」
「ありがとう、フィリオル。
この書類、庶務第二課に提出しておいて」
礼儀正しい秘書、フィリオルは手短に述べると、書類を手に静かに退室した。
アポロンは少し身だしなみを整え、早速首脳会談を見学しに行く。
彼が見たのは、夢とそっくりの光景で。
嫌な考えが頭をよぎり、また池を覗き込んでみると……
「タ、タコンになってる!?」
「私はイカスカンになってしまいました…」
いつの間にやら、隣にはイカに成り果てたフィリオルの姿が。
鼻から吹き出た墨はベッタリとして、
甘ったるい匂いが……。
そして、フィリオルは会議を抜け出したイカスカンに連れられ、ゴロウのごまむすびを作り出し。
タコの丸焼きになりかけたアポロンであった。
♢
(砂糖論争どこいった……)
そう感じたのは、誰であったろうか。
……その後アポロンらがどうなったかは、誰も知らない。
大人の事情……というか食事事情です。
オチが迷走しています。
というか、ストーリーが迷走してますね。
一応、(個人的には)異世界の童話です。