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食欲は強し

作者: 鮫島梟


 頭を空っぽにして、読んでください。

 大人の事情というような事情はないです。

 不思議な童話、ってことで。


 砂糖。調味料である。

 "女の子は、砂糖菓子でできている"

……それは、誰の言葉であっただろうか。そんな前置きから始まった物語。

 これは、ルミーヌ国に伝わるおかしなおかしなお話。



 砂糖論争……この宇宙の誰もが知る話である。当然、宇宙を管理する役職"神"にも耳に入っており、解決の目処を立てよと指示されるのも致し方ないことである。

 砂糖論争には、中立派、砂糖擁護派、砂糖批判派、というふうに派閥ができている。


「面倒臭いなぁ……」

 

 役職"神"の中でも、厄介事を引き受ける部署。ハズレくじにあたったアポロンは、やる気無しの給料ドロボーである。

彼には秘書(てんし)がついているが、美少年。個人的には女性を希望していた。


「やる気でないわ……」


 今回砂糖会談を行うのは、砂糖星人と付き添いの木星人(クラーゲル)が擁護派代表として。

 地球人と付き添いの金星人(イカスカン)が批判派代表として。

 火星人(タコン)が中立派代表として。

 

 アポロンはこれからのことを思い、憂鬱である。



 和解を目的とした会談の訳だが、空気は冷え切っていた。……冷房のせいである。


 中立派、タコンは二本の腕で自身を守るようにし、三本の足が震えている。切り取られた亡きニ本の足は、たこ焼きとしてゴロウの口に納められていた。彼の足は、もともとは四本だったのである。


 批判派、地球人ゴロウは、たこ焼きソースをハンカチで拭い、脂汗をダラダラと流していた。己の脂肪のせいで、室温を下げても下げても暑そうな顔をしている。

 付き添い人イカスカンは、ヌルヌルとした手で器用にごまを擦っていた。比喩でなく、本当にごまを擦ってごまむすびを作っていた。ゴロウのためである。


 擁護派、砂糖星のシュガー大国シュガー三世は冷え切る室内に苛つきを覚えていた。彼はまだ若くして王になったため、気が短い。

 一方、シュガー三世から溢れる砂糖をかき集めている付き添い人クラーゲル。彼は愛娘のため、菓子作りに精を出している。三世はいい材料だ。


「ふふん、砂糖人に未来などないのだよ。いずれアリに食われちまう運命ですしな。のこのことやって来るなんて、未だ国制を採用している星らしいですな」

「そうだそうだー!」

「さすがゴロウさん! ……ふふ、ごまむすび、作り終えましたぞ」

「うむ、苦しゅうないぞ。……むすび屋、ソチも悪のよぉ……」

「いえいえ、まだ店は持っておらんのです。今はまだ、貴方の食事係ですから」

「ほっほっほ、見事な忠誠心よ」

「御恩と奉公、ですかねぇ?」


 先に口撃を仕掛けた批判派。後半は擁護派そっちのけでエセ時代劇を演じる。

やや脱線しかけたが、盛り返すように三世が声を張り上げる。  


『批判派の方々っ!』


 ややサラサラと砂糖擦れの音がして、砂糖人特有の甘い香りが漂う。

 ゴロウはミントガムを口にした。批判派は常に鼻直しのミントガムを持ち歩いているのだ。

  

『敵前逃亡などは致しませんよ。誇りがありますから。僕らは僕らの正当性を主張します。そちらこそ引っ込んでくださいな』

『その通り!』

『引っ込んでろー! 

 ……ふぅ。この砂糖、どのお菓子に使おうかな』


 付き添い人の言葉に引っかかりを覚えたのは少数らしく、批判派が反撃をし始めた。


 「砂糖の正当性を謳うからには、集団内で保つ秩序というのもまた重要なものですぞ。こんなに甘ったるい匂いを醸して……。他星と関わるなればこそ、こうして口を出されてしまうのです」

「そうだ、そうだ」

「砂糖の代わりに塩でも塗ってろ。……この塩むすびのようにな!」

「うむ、お前、中々いい腕しとるよ」


 ここでどっと笑いが起きる。

 しかしそれは反対派だけの様子で、

 砂糖派は顔を傾げた。

 塩は彼らにとって砂糖を引き立たせるものであり、砂糖人は年頃になると少量の塩を自ら化粧代わりに塗る。シュガー王子もその一人である。ニキビはシャレにならない。

 塩むすびを掲げるイカスカンに疑問を覚えたのは、やはり少数だった。


〈休憩時間です〉

 

 白けた空気が漂う中、休憩の合図が入った。

 安堵のため息を漏らすタコン。その吐息は、どちらかと言うと件のたこ焼きについてである。

 またミントガムを取り出すゴロウ。

 お茶をがぶ飲みするイカスカン。と、ゴロウ用のを出してしまい、大変焦っている。

 ガリガリと砂糖の歯ぎしりをするシュガー王子。

 サンオントウ大臣の砂糖を取りに行くクラーゲル。娘思いの恐妻家である。彼には料理好きの妻の為にも様々な砂糖が必要だった。



 ああ、こちらまでため息を付きたくなってしまう有様だ。

 ……? 窓の外から他人事のように見ていたが、ふと自身ヘの違和感に気づく。

 何かがおかしい。


 手がザラザラとするし、頭を掻くとポロポロと白い粒が…そばにアリが寄ってきて、私のフケであろうものを運んでいく。


 肌がざらざらとした。

 よくよく考えれば、甘ったるい匂いは私からもする。

 恐る恐る池を覗き込むと、そこには全身が白く凸凹とした一般的な砂糖人が……

  



「な、何じゃこりゃあ! ……はっ!」


 と、ここまでがアポロンの夢である。

 彼は砂糖論争の上手い解決法を模索する内、いつの間にか眠りこけていた。

 

「何だったのだあれは? あぁ、仕事のし過ぎかもしれないな…

 そろそろ嫁が、癒やしがほしい…」


 彼は独身男としての願いをつぶやき、ぐったりと項垂れる。

 彼には秘書がいるが、(てんし)である。

 出会いの場よりも仕事(やっかいごと)が多く、プライベートはままならない。

 ふと、ノックの音が執務室に響く。

 

「失礼します。

 …アポロン様、時間でございます」

「ありがとう、フィリオル。

 この書類、庶務第二課に提出しておいて」

 

 礼儀正しい秘書、フィリオルは手短に述べると、書類を手に静かに退室した。

 アポロンは少し身だしなみを整え、早速首脳会談を見学しに行く。


 彼が見たのは、夢とそっくりの光景で。

 嫌な考えが頭をよぎり、また池を覗き込んでみると……


「タ、タコンになってる!?」

「私はイカスカンになってしまいました…」


 いつの間にやら、隣にはイカに成り果てたフィリオルの姿が。

 

 鼻から吹き出た墨はベッタリとして、

甘ったるい匂いが……。

 そして、フィリオルは会議を抜け出したイカスカンに連れられ、ゴロウのごまむすびを作り出し。

 タコの丸焼きになりかけたアポロンであった。


♢ 


(砂糖論争どこいった……)

 そう感じたのは、誰であったろうか。



 ……その後アポロンらがどうなったかは、誰も知らない。



 大人の事情……というか食事事情です。

 オチが迷走しています。

 というか、ストーリーが迷走してますね。

 一応、(個人的には)異世界の童話です。

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