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鉄仮面は正統派魔法少女①


『ねえ、何やってるの?』

 あれは確か、小学三年生の夏休みのことだった。

 当時の私には友達と呼べる相手は誰もいなくて、いつも一人で過ごしていた。そしてあのときも、ただ静かにじっと座っていた。

『セミの死体を見てほくそ笑んでる』

 炎天下、私は視線をセミの死体に向けたまま、おざなりに返す。

『ねえ、知ってる? セミって土の中で何年も過ごして、そこから数週間そこら地上で喚き散らして死んじゃうんだって。バカみたいだよね。そんな命に意味なんてない。だから、私は私より無意味なものを見つめて、悦に入ってるんだ』

 追い払おうとして、私は素直に胸の内を語る。少女がどんな顔をしているかは見る気にならなかった。どうせいつもと同じだ。

 けれども少女は私が想定していたどんな反応もせずに、

『そうなんだ。こんなところに座ってたら熱中症になっちゃうよ』

 ただそう言って、私に麦わら帽子をかぶせるだけだった。

 思わず少女を見上げる。

『……!』

 息を呑むほど、きれいな女の子だった。

 私のそれとは大違いの、陽光を浴びてキラキラ輝く長い黒髪、こちらを見下ろす大きい宝石みたいな緑色の瞳、夏だと言うのにほとんど焼けていない真っ白な肌が、同じく真っ白なワンピースから覗いている。……まるでお人形さんのよう。

『……じゃあ、そのアクエリアスもちょうだい』

 これが、私が間宮暦を初めて認識したときのことであった。

 このとき、私はきっと二度目の生を受けたのだと、今なら思える。

『美味しそうに飲むね、間接キスなのに』

『ぶほおおおおっ!』


《ぎああああああああっ――》

 まばらな電灯に照らされたブランコ、ジャングルジム、砂場――欺瞞魔法にて人払いした、夜の公園。

 そこにクラゲの悲鳴が響くが、それもまた徐々に小さくなっていく。

「……これで5体目」

「5分21秒。最短記録更新だな、セツナ」

 左右非対称、ピンクと黒の魔法少女――私たちの足元にはバラバラに切り刻まれてしおしおと萎びていく単眼だった青いものが落ちていた。

「……いい加減飽きたわ。こいつら慣れたら簡単に攻略できるし。だいたい、あの黄色いのはどこに言ったのかしら? 普通特撮だったらどんどんこっちを研究して新しい怪人を逐次投入していくものなんじゃないの?」

 かれこれ三週間、私たちはクラゲを屠っていたが、それもまた日常に埋没しかけていた。

「そして特撮じゃなくて現実なら、一体が駄目なら数で押すところよね。なんでかしら」

「私たちを倒すことが目的じゃないとか」

「そう言えばマッドサイエンティストって言ってたもんね。つまり私たちはデータ取りにいいように利用されていると」

「……ムカつくな。さっさと顔を出しやがれってんだ」

 心底忌々しげにカレンが言う。そのままツバを吐き捨てそうだったのを、行儀が悪いので私が止める。

 マッドサイエンティスト――すなわちクラゲの親であるフォスフォラス。私たちを繋いだ糸を切り離せるかもしれない、今のところ唯一の希望。しかし彼は一度も顔を見せていないし、影を掴むことさえ出来ていなかった。クラゲに言葉が通じるなら無理やり吐かせることも出来るのに。

「それもこれもあのうっとうしい糸のせいだ。これじゃ隠密活動もできねえ」

「クラゲに見つかったら何も出来ないのに?」

「うるさいよバカ」

「そのバカがいないとなんも出来ないのはどこの誰――」

 背後から殺気。それも尋常じゃない。

 私たちはそこで言葉を切って、剣を構え振り返った。

「……何者だ」

「………」

 視線の先、それは答えない。

「……その仮面、フォスフォラスか?」

 そう、仮面。夜闇に妖しく輝く、赤い十字。

 黒いナチ将校みたいな軍服に身を包んだ華奢な少女が、こちらを仮面越しに無機質に見つめている。

「――ヘスペラス」

 カレンの疑問に答えるかのようにつぶやいて、その懐からなにか棒状のものを取り出した。

「――!」

 それは警棒でも何でもなく、細長い白いバトンのようなもの。500mlのペットボトルほどの長さ。先端はハートマークの輪っかを作っていて、その真中に淡いピンク色の宝石めいたものが浮いていた。

((魔法少女に変身するやつだ……!))

 自分は髪をナイフで切って変身するくせに、私たちはすぐさまにそう理解した。

「……変身」

 聞こえるか聞こえないかという無愛想な小声。間髪入れずに、その宝石が輝く。

 すると少女の身体がキラキラとしたピンク色の輝きに包まれて、そのボディラインが際どく映される。幼児体型だ!

 その輝きは服に変質していき、最終的にやはり魔法少女然とした格好が現れる。ピンクと白を基調とした、フリル満載の格好。白い手袋、背中には小さな翼、短いスカートの下にはドロワーズが垣間見えていた。

(……うわあ、黒じゃなくて白いだけでこんなに魔法少女らしくなるんだ)

 そしてそのまま少女は決めポーズを取る。魔法少女ステッキを顔に近づけて、空いた手はこちらに伸ばされて人差し指と小指だけ立て、右の太ももを大きく上げていた。

 ……ただし、仮面はそのままで。

「いやシュール過ぎるだろ!」

 思わずツッコミを入れる。二人の総意だった。

「――ちょっ」

 しかしツッコミへの返答は言葉ではなく、魔法のステッキの先端部から放たれた火球だった。

 野球ボールほどの大きさのそれを私たちは横に跳ねて回避するが、ついで私たちが背にしていた砂場で爆音が奏でられる。

「……!?」

 振り返れば、隕石でも落ちたかのように砂場は敷居ごと半円状に蒸発していた。

「……あれ、当たってたら」

「絶対死んでたわバカ!」

(あの仮面、やっぱりあいつはフォスフォラスの仲間だ!)

 近づくのは危険だと判断し、左手から銃を召喚、仮面の少女――ヘスペラスに向かって数発牽制も兼ねて銃弾を放つ。

「………」

 しかしそれはステッキが発生させたバリアによって防がれ、その内側から先程の火球が発生――一瞬バリアに開いた穴から放たれた。すぐさまに閉じ、そこに隙は存在しない。

(それはズルだろ!)

 今度は縦に跳躍し攻撃を回避、今度はジャングルジムが溶けていった。

 ああ、子どもたちの遊び場が台無しになっていく。

(――そんなこと気にしてる場合じゃないだろ!)

 跳んだのは間違いなく判断ミスだった――三発目が着地する寸前の私たちに襲いかかる。

「バリアだ!」

 ヘスペラスと同様、私たちもそれをバリアで受け止める。お椀を横にしたように私たちを包むそれの表面で、火球は一気に膨張する。

「……熱っ!」

 バリア越しだというのに鉄板の上にいるような凄まじい熱、真っ赤な炎が視界を奪う。その中でも、私たちはバリアに徐々にヒビが入っていくことを悟った。

(これ、逃げたほうがいいんじゃ)

(バカ野郎、ろくに前も見えてないんだ、出た瞬間狙い撃ちにされる!)

(だったらここで待っていても――)

 私の思考を遮って、轟音。バリアが限界を迎え、粉々に砕けた。その衝撃を受け止めながらも、私たちはなんとか地面を踏みしめる。

 視界はバリアだったものが白熱し煙を上げることで塞がれて、ろくに見ることもできない。

「やっぱり来た!」

 予想通り、凄まじい熱を感じ――再び火球が飛んでくることを悟る。

「大丈夫だ、いける!」

 びゅうびゅうと、何故か風が吹いた。視界が晴れる。

 目と鼻の先に、火球が接近していた。

 カレンは剣を野球選手がするように構えて、

(まさか、カレン、あなた――)

 刃はその身に風をまとって、私たちを焼き尽くそうとする火球に触れた。

 本来ならば、刃が火球に触れた瞬間、凄まじく膨張して私たちを飲み込んでいたのだろう。

(セツナはバカだろうから分からなかっただろうが、火球が膨張する条件は、何かにぶつかることにある。……けれども、動くときに身にまとう風にぶつかって爆発したら、何の意味もないよな?)

 しかし火球はボールがバッドにぶつかるようにまっすぐ跳ね返されて、今度はヘスペラスの展開したバリアの触れて爆発を起こした。

(つまり、剣に風をまとわせて跳ね返したって、そういうこと?)

(ああ、そういうことだ! バカにしては察しが良いな!)

 脳内会話。ここまでコンマ数秒。

 かのバリアが砕け散り、ヘスペラスの周りを煙が覆い尽くしている。

(あの火球にやられずに攻撃できるのは、今しかないっ!)

 私たちは彼女に向かって駆け出した。先ほどとは真逆だ。

 放つのは、ピンクのオーラを放つ魔力融合の剣――この三週間で編み出した、最も反動が小さく発動しやすい簡易式である。

 しかしそれでも、本来の魔力全てを込めるのと同等の威力の刃は、煙ごと仮面の少女を叩き斬るように振り下ろされ――

「………あれ?」

 しかしそこに彼女の姿はなかった。

 煙が晴れた中、いくら目を凝らしてもその姿は見当たらない。

「跡形も無く吹き飛んだとか――」

「ありえないだろ。だいたい、手応えがまったくなかった」

 だというのに、剣がまとっていたはずのオーラは何を斬ったわけでもないはずが、まるで最初からなかったかのように消え去っていた。

「……となると、逃げた?」

「だろうな。これが特撮だったら完全に倒したと思い込むところだが」

 私たちは消化不良を感じながらも、その日はおとなしく退散していった。


『生き返るぅううう!』

 翌日の昼休み。私からカレンは抜け出して、宙に浮いて心底気持ちよさそうにのびをしている。

 無論のところ私にともに昼ごはんを食べる相手などいないわけで、カレンと二人きりだ。

 場所は屋上――すなわち、こないだクラゲが吹き飛ばしたあの屋上である。当然ながら何もなく、黒焦げの地面があるだけだ。本来は立入禁止。セミがうるさく、遮るものがないから7月の直射日光がきつい。

 なぜここなのかといえば、カレンが私の体から堂々と離れられる場所を所望したのもあるが、もう一つ重要な点がある。

「今日はここでいいかな」

 一辺の縁の近く、私は隅に隠しておいたシートを敷いて、重しにパラソルを置くとそうつぶやいた。そのまま座って傍らのランチボックスから取り出すのは、双眼鏡。かなり値の張った、高倍率高画質の名機である。

「……うん、見える。いちゃついてますよ。やっぱり爆発させときゃよかったわ」

 拡大された視界が捉えるのは、中庭の木漏れ日の下にあるベンチに座った二人の男女。

 優しげな緑の双眸を垂れ目にたたえた、黒髪ショートカットの美少女――間宮暦とそれのおまけである。

 そう、これこそが真の目的。ここからなら中庭でお弁当を食べる暦たちが見える上に、もしどんな腹の立つことが起きてもナイフを取り出してすぐさま襲いかかることが出来ないのだ。これにより、カレンとの約束は果たされる。

「ああでも、今日は手作り弁当じゃないな。これでかれこれ一週間連続記録。やったね」

 そんなことをいいながら、手元の手帳にメモをとる。表紙に踊る文字は暦ノート。

『……お前、昨日あんなことがあったのに、だいぶ余裕じゃねえか』

 呆れたように横からカレンが声を掛ける。

「別に、気にしても仕方ないし。また来たら倒せばいい。私たちなら出来るでしょ」

 私はおにぎりを適当にかじりつつ、二人から目を離さない。

『……っ、あのなあ、お前』

「それに、何があっても私が監視を緩める理由にはならないわ。もしあのモブ男が唐突に本性を表したらどうしようかって、やっぱり心配で仕方ないもの」

『確かに人を見る目がないものな。駄目なやつが好きみたいだし』

「そうよね。なんであんな男がいいのかしら。……って、あんたそれ――」

『嫌味?』と続くはずだった言葉は、衝撃の展開を前に雲散霧消した。

「――なんかいい雰囲気になってるう!」

 双眼鏡の向こうで、いつの間にか二人が何故か見つめ合っている! 一体私たちがほんの雑談していた間に何があったというのか!

 しかし私の心とは裏腹に二人の顔はどんどん近づいてきて、そのままキキキキキスを――

「UFOだあああああああああああああああっ!!!」

 私は声の限り咆哮していた。

「……ああ、よかった、ギリギリセーフ」

 響き渡るエコー。私の叫びに反応しムードを破壊された二人は、気まずそうに顔を背けあっている。作戦は成功だ。とっさの判断が大惨事を防いだのだ、英雄的な行動である。

『なあ、お前本当にバカなんだな』

「もーいいです、私はバカで。個性なんです。暦バカです」

 おお、釣りバカみたいでいいではないか。そうだ、私は暦バカセツナだ。

『いや、お前は暦のこと抜きにバカだろ』

「余計なお世話」

「それで、UFOってどこにいるんですか?」

「いや、それは方便に決まって――」

 私は声のした方に振り返って、硬直した。

 カレンがいたのとはまた別方向、左隣。

 幼い、中学生になりたてくらいの童顔。五芒星の髪飾りに、おかっぱ頭は絹めいた銀髪、その前髪の真ん中が帯状に真っ赤な紅色に染まっている。

 そして、あのときも印象的だった琥珀色の瞳が、いたずらっぽく私を見つめていた。

 ……どうして今の今まで忘れていたのか――そうだ、カレンと初めて会った、その直前まで話していた少女ではないか。

「――って、なんであなたここにいるの!?」

「なんでって、それはずいぶんと哲学的な問いかけですね。あなたは自分がなぜここにいるか説明できるんです?」

 出来る、暦のことを監視するためだ。言わないが。

「……じゃあ、いつからいたの?」

「本性がどうのって言ってたあたりから」

「ず、ずいぶんと前からね」

「それで、ならそこの半透明な子は宇宙人じゃなかったら何者?」

 そう言って、琥珀の瞳が硬直しているカレンに向けられた。

 そうだ、彼女の髪はカラフル――魔力保持者だ、姿が見えるのも当然である。

「……えっと、それはね」

 しかし素直に異世界からやってきた魔法少女の片割れですなんて言えるはずもなく、私は口ごもった。

「あ、もしかしてスタンド!?」

 琥珀の瞳を期待に輝かせた彼女に、私は思わず答える。

「……そう、スタンドよ! 名前は『カレンダー・ガール』! 破壊力E、スピードE、射程距離E、持続力A、精密機動性E、成長性E! 能力は人を罵倒すること!」

『ステータス低い上に能力しょぼっ!』

「でも、スタンドに強い弱いはないって言ってましたよね? その罵倒で敵スタンド使いを精神破壊したり」

「たしかにそうね――って、突っ込むところそこなの、二人とも!?」

 ツッコミが冴え渡る。さっきの叫びも加えて喉が悲鳴を上げていた。

「それじゃあ、この子はスタンドじゃないの?」

『こんなにかわいいスタンドがいてたまるかよ』

「じゃあ、何?」

「『………』」

 顔を見合わせる。この子のペースに飲まれていたが、冷静に考えるとけっこうヤバい状況だ。

(どうしよう、素直に説明する?)

 私は彼女に見えないようにカレンの横腹に手を突っ込み、念じる。すると、カレンの思考もまたこちらに伝わってきた。ここ三週間で手に入れた技術である。

(するわけねえだろ。スタンドがどうのこうの言ってるときに逃げりゃ良かったのに、バカみたいにボケやがって)

(だったらあなただってすぐ私の中に隠れればよかったじゃない)

「その前に、あなたの名前は?」

 いろいろと考えた末に、とりあえず話を逸らすことにした。

「そういえば名乗ってなかったですね。私の名前はミヅキ。二人は何ていうの?」

「私は天音セツナ」

『……カレンだ』

 私は素直に、カレンは渋々答える。

「天音セツナかあ。セミみたいな名前ですね」

 ミヅキは目を細め、屋上に響く蝉の鳴き声に耳を澄ますようにして、そう言った。

「……は?」

「ほら、このやかましいセミたちの声って、こんな屋上にいるのに聞こえますよね? まるで天から降ってきてるみたいに。でもって、しばらく土に潜ったあとほんの少し地上に出て生殖のために全力で命を燃やす。刹那的です」

 実に微妙な、わかるようなわからないような言葉。とてもほぼ初対面の相手に言うことではない気がする。それとも、友達がほとんどいない私が知らないだけで、今の若い子の間ではこれがスタンダードなのだろうか。

(スタンダードなわけあるか、ただこの女がトンチキなだけだろ)

「でも、セミの生き方ってロマンチックよね。恋のために残り少ない命を燃やしてるんだもの」

 あの頃とは真逆の意見が口をついて出て、私は暦にすっかり変えられてしまったと、改めて彼女のことを強く意識する。

「あははは、物は言いようですね。でも、そんな考え方も素敵です。もしかしてその双眼鏡もロマンチックな生き方のための道具なんですか?」

「ちょっ――」

 手元の双眼鏡をさり気なくひったくられ、ミヅキはそれを覗き込んだ。

「ほお、セツナさんはあんな地味な男が好きなんですね。蓼食う虫も好き好きってやつかな」

「違うわよ、その隣の美少女」

 そう言って、双眼鏡の片目を拝借する。……よかった、相も変わらず気まずそうだ。

(って、そんなこと言う必要なかったんだ)

 気がつけば、言わなくていいことをべらべらと話していた。この少女には、なにか隠し事を無効化する魔性のようなものがあるのだろうか。

「わあ、カレンさんそっくり。もしかしてスタンドじゃなくてイマジナリーフレンド?」

『お前に見えてる時点で違うだろ』

「あはははは、それもそうだね」

 そこで双眼鏡を返して、私たちを見つめてにっこり笑った。かわいらしい、しかし多分にいたずらっぽい笑み。

「友達を遠くからストーキングするために立入禁止の屋上に入るなんて、二人はもしかして変人さん?」

「しかも片方はなぜか透けてる。……言われてみれば、かなり面白いわ。でも、私だったらそんな連中に話しかけたりしないわね。どう考えても危険人物だもの」

「ん? どういうこと」

 猫のように笑って、首をかしげる。

『つまり、お前も人のこと言えないくらいに変人だってことだ』

「おお、似た者同士!」

 そう言って諸手を上げたから、私は反射的にハイタッチしてしまった。そのまま、ミヅキはカレンの方にもよって、ハイタッチを要求する。

『………』

「ノリ悪っ」

 無論のところそれは拒否されたが、何故かミヅキは楽しそうだった。

「何がそんなに楽しいの?」

「私って友達いないですから。人と話をしてるだけで楽しいのですよ」

「……へえ」

 やっぱり――そう言いそうになって、無理やり口をつぐむ。私も人のことなど言えない。

「そういえば、あなたって何年何組なの?」

「んー、1年6組」

 彼女がそういった瞬間、チャイムが鳴った。

「暦と同じクラスね、私は1年1組」

 私はミヅキに背を向けてランチボックスに双眼鏡をしまい、パラソルとレジャーシートを片付ける。

 そしてそこで、はたと気づいた。

「――待って、あなたのことなんて一度も見たことないわよ!?」

 そうして振り返ったときには、ミヅキはすでにいなかった。

「また明日もここで会おうねー!」

 そんな声が、吹き飛んだ扉の向こうから聞こえた。

 ああ、返事をするつもりもなければ、返事を聞く気もないようである。

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