第七話 とある花壇
種の次は、植える場所を用意する。
TVやネットに巷の噂にのぼる事件…。
関係ないって思ってた。
当事者になるまでは。
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飯野紗英の日々は変わらない。
今日も、かわり映えのない何時もの授業。
いつもどうりの時間に終わり、いつもどうりの部活に友達。
いつもどうりにまた明日…になる日だったのに…。
「…なにこれ」
朝、登校したら白い網みたいのが、学校全体を覆っていた。
『ソレ』は、屋上から校門まで絡まり縺れながらどんどん地面から生えて、先生や学生達を捕らえてゆく。
網は変化し、繭状に形を変え、色は白からピンクに、ピンクから赤にドンドン染まっていく。
「あぁ…あぁ…っっ」
あの色は…!
みんなの!?
早く逃げなきゃっ!
逃げなきゃいけないのにっっ!
私はただ、『ソレ』を見ている。
体が震えて動けないのだ…。
『ソレ』は、とうとう私を飲み込み…全部が一つの繭になり、『今日』は閉ざされた。
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トクン トクン トクン… (チュゥ〜〜〜…チュゥズチュ)
やさしい音がする。
いつか聴いた音。
トクントクン…
(ビュチュゥゥィズルルル…)
そうだ。
おかあさんの鼓動。
懐かしいなぁ。
トクントクン トクントクン…
(カリカリカリ…カリカリカリ…カリカリリ)
ずっとこのままで。
「聴いてたいな…」
薄く目を開いてみたら、橙色の薄暗い景色が、私を囲んでいる。
ここはお腹の中?
あるはずのない胎児の頃の郷愁に、私まぶたを閉じる。
私は、きっとこのまま…還るんだろう…。
人になる前の曖昧な受精卵。
繭の中のみんなは…きっと…私と同じ。
私たちは還るんだ…あの揺りかごに。
怖くないのは還るからだ。
消えてしまう自我…戻る肉体…。
大丈夫、おかあさんの中に還るだけ…。
あとは眠るように…。
「おやすみ…おかあさん…」
後に残るは何も無し。
「かわいいあなた、ゆっくりねむりましょう?
」
なぞるその手は誰の手か?
知るは赤し繭どもぞ…。
まだ死んでないかもよ?