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願わくは  作者: 十八十二
山口編〜除け者達のファンファーレ〜
10/17

怪談のない怪異に階段はキツい

「見逃してくれねぇか、それが無理なら死んでくれ」


 天上から絵の男が二択を迫ったが、俺はどちらも選択するつもりはない。

 黒縁の切っ先を男に向けて挑戦的な笑顔を作った。その裏で記憶に検索をかけてこの妖怪の名前を探る。該当なし。


「お前、なんて妖怪なんだ?」


 絵の男はキョトンと俺を見た。名前を聞かれると思ってなかったようだ。男が顎をさすってから答えた。


「……カラカサ。名前くらいは聞いたことあるだろ」


 今度は俺が驚く番だった。カラカサに対するルックスがイメージと違いすぎたからだ。

 カラカサお化けいえば、一つ目か二つ目で、傘に二本の腕と一本足でぴょんぴょん跳び回っている妖怪だ。

 見に覚えのない記憶ではカラカサはこんな姿なのかもしれないと思い、俺はその名前を用いて記憶に再検索をかけた。該当なし。

 そんなはずはない。カラカサは妖怪の中でも知名度が高い妖怪の一つだ。なにか一つくらい目撃情報やカラカサが登場する怪談があっても可笑しくない。

 

 でも、覚えていないのは仕方ないと諦めよう。そもそも見に覚えのない記憶なんだし。


「本当の意味で初めてカラカサに会ったことがあるってことじゃんか、光栄だよ」


「……フン、神に光栄に思っていただいてこっちは至上の喜びだ」


 カラカサが番傘を振り上げ、天上から落下した、番傘がゴオッと音を立てて振り下ろされる。

 妖怪が持ってると言ってもただの傘、自分の神力の前では何の脅威でもない。

 神力を付与した愛刀黒縁で番傘を受ける。


 切り結んだのは一秒にも満たない間だった。

 番傘が黒縁に当たった瞬間にカラカサが空中で体をねじったのだ。

 たった一度の、しかもわずかな間で俺の能力を見破った。

 

「チッ、俺の傘に傷が……。なぁ、頼む。見逃してくんねぇか?」


 片足しかないカラカサは片手をついてクラウチングスタートの構え。殺気に満ちた目。

 とても見逃して欲しそうには見えない。

 俺の答えは決まっていた。


「めっちゃい嫌」


 返答を聞くや否やカラカサは目を弓なりに細めて弾丸となった。


「面倒くせぇぇー!」


 さっきから言動がちぐはぐだ。俺には戦闘が好きで好きで堪らないようにしか見えない。

 接近戦なら願ったり叶ったりだ。今度こそ傘を真二つにしてやる。

 義足で踏み込み間合いに飛び込んできたカラカサに袈裟斬りを見舞う。


 しかし、カラカサは予想外の動きをした。

 刃が当たる瞬間、カラカサの姿が視界から消えたのだ。


 黒縁が空を切る。

 そして俺は背後から現れたカラカサに側頭部を強打され、壁際まで吹き飛ばされた。


「ぎゃははははは!」


 左耳から爆音の耳鳴り、右耳からカラカサの哄笑が聞こえた。

 ぐわんぐわん揺れる視界がゆっくりともとに戻るまで、壁にもたれながら、カラカサが何をしたのか予想する。

 

 黒縁が当たる瞬間に能力で絵になって床づたいに背後に回ったのか。

 頭から被った埃を払ったら、義手に粘度の高い血がベットリ付いていた。

 とりあえず耳障りなカラカサを黙らせよう。



「単純な能力だ。慣れてしまえば怖くない」


「……ア?」


 俺は軽く挑発して、カラカサの不快な笑い声を消し、シワも目尻から眉間に移動させることに成功した。


 カラカサがまた同じ構えをとる。

 単純で扱いやすい、加えて芸のない奴だ。


「ぶっ殺す!」


 そら来た。

 パターン通りに黒縁を振り下ろす。カラカサが絵になって視界から消えた。


 本当に芸がない。

 後ろを振り返ると、壁。


「バーカ!」


 カラカサの哄笑が頭上から聞こえた。


「馬鹿はお前だろ」


 今さっきまで壁にもたれ掛かっていたのに後ろ向いて、「しまった、壁だ」ってなる奴はいないだろ。


 カラカサの攻撃をしゃがんで避ける。番傘が頭上を通過したら俺のターンだ。

 顔を上げれば壁から出てきたカラカサがいる。体の一部だけを絵から戻せないようだ。さらに絵になるには壁や床に接していなければならない。しかし今、カラカサの体はどこにも接していない。つまりカラカサは能力を発動できない。

 成す術が無くなったカラカサへ刀を斜めに切り上げた。


「取ったー!」


 しかし、まただった。

 また同じことをしてやられた。

 カラカサの着ていたスカジャンだけが宙に残っている。

 黒縁が空を切り、スカジャンがパサッと床に落ちた。


 俺は刃を下に向け、カラカサが出てくるのを待つ。

 絵になっても攻撃するには出てこないといけないし、逃げるにしてもスカジャンから床に移って移動しなくてはならない。どっちにしろカラカサはスカジャンの下から出てこなければいけない。


 じっと待っているとシラとホスセリが来た。


「ヒルコ、何してるんだい!? ゴキブリでも出たのかい!?」


 端から見たらそう見えるんだ。


「カラカサに遭遇した! 絵になる能力を持ってる。いまこのスカジャンのしたにいる」


 状況を手短に説明すると同時に、シラが矢を放った。

 矢は俺のすぐ横を通過。


「クソ、敵が増えやがった」


「うわぁぁあ!?」


 いきなり真後ろから声がして、驚いて情けない声が出た。

 振り返るとすでにカラカサの影はなくなっていた。


「ヒルコ、真下だ!」


「おぉぉぉ!」


 黒縁を真下に突き刺した。

 カラカサは身をよじって避けたが、ギリギリ足に当たった、と思ったのだが。


「三対一は部が悪い……」


 カラカサが床から飛び出て、スカジャンを強奪、そのまま壁画になって、商品棚の後ろに入っていった。

 ホスセリが直ぐに銃で棚を破壊したが、そこにカラカサはいない。

 姿を消したカラカサの奇襲を警戒して、三人背中合わせ合わせで武器を構えた。


 戦場なった廃墟から離れた、元国道の道端。青色の逆三角形の国道9号線の標識が折れて落ちていた。

 そこからカラカサがヌルッと頭を出した。ヒルコ達がいる廃墟からまんまと逃げ出していたのだ。

 回りに誰もいないことを確認して、体を捻りながら標識から出る。


「さてと、頼まれたお使いを済ませるか……あぁ、面倒くせぇ」


 カラカサは国道から外れて北西に向かってぴょんぴょんと片足で歩き始め、森のなかに消えていった。


 その頃ヒルコ達は、いつまでも出てこないカラカサに業を煮やし、ホスセリが取り出したダイナマイトを廃墟の各所に設置していた。


「どこにいるか分からないなら、全部吹き飛ばそう。そしたら、カラカサを見つけられるし、絵になれる壁や天井を破壊できて一石二鳥だ」


「天才か!? ほらほら早く出てこないとひどい目にあっちゃうぞー」


「シラ、設置完了したかい?……よし、爆破十秒前」


「カラカサァ、いいのかぁ? ホントにやっちゃうぞー」


「…………2、1、0」


 爆風と熱波が三人の頬を叩いた。

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