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Sna Knot《スネイノット》  作者: アリャハバキ
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この狭苦しい街で生きていく為に

この狭苦しい街で生きていく為にボロボロのカーテンが陽射しを遮る薄暗い寝室の中、涎を滴ながら眠る少女をボロボロの薄汚い格好をした壮年の執事が何度も起こそうと声を掛ける。

「う~ん……これから自由を求めての一人旅ですわよ~……邪魔しないでくださる……。」

 良い夢を見て起きる気配の無いと悟った執事は溜め息を吐くとカーテンを思いっきり開けた。眩しい朝陽が少女に向かって照り付ける。

「……ふあっ!? 朝ですの!?」

「御早う御座います、マナコお嬢様……。」

「御早う、じゃないわよ、アナコンダ! 何でもっと早く起こしませんの!?」

 執事に向かって理不尽に怒るマナコだったが、執事アナコンダは「いつものこと」と言うように聞き流す。

「さ、支度を済ませたら朝食が出来ておりますので……。」

 そう言うとアナコンダは寝室から出ていった。マナコの愚痴を聞き流しながらそそくさと。

「まったく……、ほらアレキサンダー達! アナタ達も早く起きなさい!」

 マナコは八匹の蛇、アレキサンダー達を叩き起こすと服を着替え、朝食と身嗜みの整えを済ませた。


「さて、アナコンダ! 今日の依頼は?」

「まだ一件も無いですお嬢様。」

 淡々としたアナコンダの返答にマナコは「ハァ?」と怒声を上げる。

「やはりこの前の依頼の報酬をちゃっかり上乗せしようとしたのが不味かったようですお嬢様。」

 言い返すことができない理由を提示され押し黙るマナコ。そんなマナコに八匹のアレキサンダー達はそれぞれの意見を押し付けるが「うるさい!」と一喝され口を閉じる。

「あ、アレはそもそも……私が起床する予定の時間外に依頼を押し付けたからいけないのであって私はそもそも正義の味方でもボランティアなのでもなく早々に自由を求めてこんな狭苦しい島から出ることが目的なのであって――」

「でも、頼み事は面倒臭いことでも我慢して文句を言わずにやる人に回って来るんだよ? マナコは……ほら、そんな性格だから誰も何も頼まない……頼めないんじゃないのかな?」

 言い訳を早口で並べるマナコに一匹のアレキサンダーが下手なフォローをしつつも突き刺さる助言を完全に善意のつもりで突き付けてくる。

「う、うるさいですわね! 私だって面倒臭いことでもやる時はやるのですわ!」

「お嬢様、依頼のお電話です。どうやら、財布をドブに落としたので一緒に探して欲しいと……」

 マナコがしているのは「アイギス退治」なのだが、どうやら何でも屋と勘違いした者が場違いな依頼を寄越して来たようだ。

「ちょっと、そんなの警察にでも頼みな……――」

 暴言を吐こうとしたが、先程のアレキサンダーの言葉が頭を過ると、喉まで出かかった暴言を呑み込んだ。

「ふ、ふん! 良いじゃない、これも目的達成の為の糧ですわよ!」

「マナコ! 心を入れ替えたんだね!」

「入れ替えたのではなく、元からよ!」


 こうしてマナコは心を入れ替えて(?)、受けなくてもいい依頼を積極的にこなしていった。

 ある時は木の枝に引っ掛かった風船を取ってあげる等の完全に慈善事業なことでも……

「ちょっとこの木、幾ら何でも高過ぎなくって!?」

 何度か落ちそうになりながらも八匹のアレキサンダー達を使い、無事に風船を取った。

 またある時は浮気の調査という明らかに探偵に頼むべき仕事でも……

「あの人は完全に黒ですわね……あら、依頼人が……包丁を……ちょ、警察に連絡ですわぁ!!」

 流血沙汰に発展しそうになったものの、八匹のアレキサンダー達を使い依頼人を拘束して事なきを得た。

 そしてまたまたある時は――

「向かいのコンビニで弁当とコーラ、10分以内に頼むわ。」

「は、はいただいま~……」

 マナコはひたすら明らかに自分がしなくてもいい事でも、とても面倒臭い事でも、報酬が少ない依頼でも積極的にこなしていった。いつかはちゃんとした報酬が貰えるアイギス退治の依頼が来ると信じて。そして……――


「お嬢様、依頼です。今回はペットの犬が……」

「んもう、またですの!? ホント私をボランティアかなんかと勘違いしているみたいですわね!」

「あの、お嬢様……」

 アナコンダが何かを言いたそうにしているが、マナコは怒りのあまり聞き入れようともしない。

「もう良いですわ! アイギスは自分で探して、報酬はそこら辺の人間や蛇を上手く言いくるめて戴いてやりますわ!」

 制止しようとするアナコンダやアレキサンダーの言葉も聞かずマナコはボロボロの扉を激しく突き破り外へ出ていった。


 夜の街中、大口を叩いて家を飛び出したものの普段は身を隠しているアイギスが簡単に見つかる訳もなく途方に暮れていた。

(どうしましょう……今更帰るに帰れませんし、そもそも蛇達を置いていったら何もできませんわ……。)

 プライドを捨てて帰るか、意地を張って帰らないかの二択に迫られながら歩いているマナコに一人の少女が話掛けてきた。

「あ、風船取ってくれたお姉ちゃんだ!」

「アナタはあの時の……。」

 少女はマナコに懐から取り出した飴玉を取り出しマナコに差し出した。

「何ですの、これは?」

「お礼だよ! あの時はお母さんがお礼したけど私からはまだだったから! それじゃあね!」

 少女は飴玉を一方的に押し付けた後、そそくさと家へと帰ってしまった。

 マナコは渡された飴玉をしばらく見つめアレキサンダーに言われた言葉を思い出すと、袋を開けて口にした。

「成果は少しだけ、でも確実に進んでいるのですわよね。ペット探しでも何でも受けて立ってあげますわ!」

 意を決して舘へ戻ろうとするマナコに今度は一匹のアレキサンダーがそそくさと駆け付けて来た。

「マナコ! 何処へ行っていたんだ……まあ、いい。そんなことよりさっきの依頼だが、ペットの犬が実は犬に化けたアイギスだったらしい! 早く行くぞ!」

「ちょ、勝手に迎えに来て勝手に色々話進めるのはやめてくれませんこと!? でもまあ、そんなことも言っていられないみたいですわね……!」

 マナコは面倒だと思いつつも信頼を得ることも大事……とは行かないまでも悪くはないと思いながら依頼をこなす為に舘へと戻る。


 その後、アイギスは無事に退治をしたが調子に乗って莫大な報酬を要求した為に3歩進んで2歩下がる結果となったのはまた別の話…………。 


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