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一滴の波紋【原文】・1巻の1  作者: 藤田幸人(ペンネーム)
8/41

ある日の日記・8

   8


ある年8月


【ある手紙3号】

・ ・ ・ ・ ・ ・


神よ!


私に力を与えたまえ!


彼女に誤解を抱かせないように、この筆を正しくお導き下さい!


(僕はクリスチャンではありません)


もうこの手紙を最後にします


この最後の手紙に全てを託して


貴女に捧げます。



どんなふうに言ったら僕の心が分かってもらえるのか‥


どんなにしたら、僕の貴女への愛が真実のものであることを分かってもらえるのか‥分かりませんが


とにかく、書いていきます。


今は、ただ手紙を差し上げることだけしか僕に成せるすべはありませんので


とにかく、僕は事の次第を知っています


と言っても、誰一人として僕にそのようなことを告げる人はいません。


密通をしている人がいるなどとはもってのほかです。


しかし無理のないことですね


貴女がそのような疑いを抱くのは。


どうして誰も言わないのに、そのようなことが分かるのかと…


前もって断っておかなければ話の内容がちぐはぐになりますので


その真相を明らかにしておきます。


それは全て妄想癖のせいなのです!


だからその妄想が全て無縁のものであったら


これから話していくことも、まったく滑稽なことになりますが。


しかしもう僕にはこれを頼りにするしかありませんので、勇気を出して書いていきます。


僕には生来、鋭い観察力があるのだと思います。


前はこんなに鋭くはありませんでしたが、貴女との事があってから、それがものすごく働きました。


人の言葉の切れ端から

人の態度のチョッとしたことから


またはとても聞こえそうもない所にいる人達の会話がアリアリとテレパシーのように聞こえてくることもありました。


まるで魂が別個に浮遊して、とても分かりそうもない事が分かったり、聞こえそうもない会話が聞こえてきたりしてとか‥‥


それらは全て貴女への愛が真実のものであるからだと思います。


まるで僕の魂までが、どうしても貴女を必要としているかのように、貴女の身辺につきっきりになっていたのかも知れません。


だからこのような能力は、もう二度とないことだと思います。


ただ、貴女が本当に必要だったから起こった現象だと思います。


それをもとにして話の筋を組み立て妄想にふけっていました。


ただそれだけの頼みですから、それがまったく違っているものであったら


貴女に打ち明ける前に抱いていた妄想がまったくうそっぱちであったということに陥ることにもなります。


しかし今回の事だけは全てうそっぱちではないものと思います。


僕は本当に貴女が好きだったのです


今でも好きなのです


その心で一杯だったのです。


だから貴女にかかわることに対して、ものすごい観察力が働いて


このような不思議な能力が出たのだと思います。


貴女に断られてからは、もう一旦は全て諦めかけていましたが


その後、何かまた手紙を差し出して、貴女の気を引こうとすることもできましたが


貴女の気性が全て解っておりますので、しつこくすることはかえって貴女の心を遠ざけることになると思い


全てを神に託して、ことのしだいを見守っていました。


その後、貴女が僕の噂を聞いて、だんだん心を引かれてきたことも‥


また、僕が会社の人達に対してふりまいた誤解や、僕の本当の姿を知らせるためにママさんが骨を折っていたことも知っています。


知っていながら何食わぬ顔をしていたことは、悪いことだったと思っています。


あやまらなければなりません。


しかし僕は一度としてママさんを、そんな風にしむけようと挑発的な言動を取ったことはありませんし


ママさんの方でも、決してそのようなことを口にしたりはしませんでした。


時たまそのような匂いを感じるようなことを言ったことはありますが


しかしそれも僕に鋭い勘がなければなんのこともないことなんです。


だから僕とママさんとがぐるになって貴女を引っかけようとしていただなんてことは、誤解もはなはだしいことです。


ママさんは(その店の人達全てそうですが)、僕の心を本当にうそいつわりなく理解してくれているものと思いますが


だからママさんの口から出た言葉は、全て真実のことを表しているのだと信じています。


結局はママさんも、全てのものをも利用したことになってしまいましたが


しかし僕が何もしないのに、ママさんが骨折り損にしかならないと分かっていることを惜しみなくしてくれたことも


全て今まで苦しみにジッと耐えてきたことを、神が思いやられて、そのように力をかしてくださったことだと楽観的に受け止めていました。

(これも妄想の域のことですから、それが外れていたら滑稽なことになりますね)



僕は決して自分の良さを利用して、自分だけ得をしようとか、いい目をみようとかいう気持ちはまったくありません。


返ってそのように見られたら苦しいんです。


同じ一回きりの人生を与えられていながら、良い女が良い目を見る、良い男が良い目を見る


能力の優れた者が得をする、器量の良い者が得をする


それと反対の者が全て損をするというような、矛盾したことには納得がいきません。


そのことが分かっている者にとっては、それらの弱い立場に居る人達と同じ立場に立ち


その苦しみを同じく苦しみ、悩みを同じく悩み


解決出来るものなら解決し、手を貸して助けられるものなら手を貸してやり


力を与えられた者は、それを自分だけの欲を肥やすことに利用することなく、弱い者の手となり足となっていかなければならないものだと思います。

(また誤解を招く恐れのあることを言ってしまいました。そんなことを言うのは思い上っているからだと、そんなふうには受け取らないでください!)


こう言っても、この会社で振る舞っている僕の姿からは、とても信じられないことでしょうね。


まったく会社の人達とは関わりを持たず、手を貸しもしません。


しかしそれにもちゃんとした理由がつくのです。


いくら賃金が安いと言っても、いくら労働がきついといっても、誰にでも苦しみや悩み事があるといっても


僕のそういったものを基準とした、愛の心にふれるほど不幸な人達を見かけないのです。


皆、たくましく自分の力で立派に幸福を掴みうる人達だと判断しているからなんです。


僕が関わりを持たずとも立派に幸福をつかみうる人達だと判断しているからなんです。


僕が関わりを持たずとも立派に切り開いていける人達だと思うから、僕の心を動かさないのだと思います。


だから僕はまったく死んだ者のように、自分本意な人間のごとくふるまっているしかないのです。


本当はもっともっと


苦しんでいる人達の所へ行って働きたいのですが、まだ僕にはそれが出来る力が養われていませんし


今ここを出ることは返ってその重みに押し潰されて駄目になる恐れがあるからです。


もっともっと力をつけてから、その後どのような一生の仕事を、一生の道を選ぶのか、今の僕には分かりませんが‥


ただ、今分かっている事は‥


決して弱い者いじめをする側に荷担かたんしないだろうということ‥


弱い者の側に立って、それをかばう自分になるだろうということです。


イエイエ、これも全て理想なんです!


そんな途方もない目標に追い付くどころか


返ってダメな人生の敗北者になるかも知れません。


僕には力がありませんから。


しかしだからと言って、最初からその理想を捨てる気にもなれないのです。


力がなければないなりに、やれるだけのところまでやってやろうと思っています。


あぁ~…


また虚勢を張ってしまいました。


本当はもうそのようなことほっぽらかして(放って)、ちっぽけな幸福に落ち着きたい気持ちなんですが……


話しは別の事に飛びますが


そういったママさんの善意でまかれた種が、種を生んで


今一番心痛い自体が起こっていると思うことが二つほどあります。


女の子が僕をかばった為に言ってくれたことが、他の男の人達の心をキズつけ、それによって僕に対してものすごい反感を持っているということ。


そしてもう一つは、そんなにかばってくれた他の娘の好意を裏切るように、貴女に今度の行為をしたことです。


前者のことも、この男の世界で生きていくためには、とても手痛いことで、それに耐えていけるかどうか? 分かりませんが、自信がありません。


後者の方では許しを得るすべを知りません。


また、貴女のように良い立場の人を選ぶことにも随分と躊躇したんです。


そんなきれいごとを言っていながら、結局はお前も良い目を見たいんじゃないかと思われることも辛いことです。


どうしようもなく好きになったものは、どうしようもないのです。


全て考え過ぎていることだと思います。


まだまだ色々と詳しく書かなければなりませんが、時間も迫ってきましたので、この辺で失礼させていただきます。


後は言い残したことを簡単に書いて、ひとまず筆を止めます。



・僕が醜い心をしているかどうか、僕の心に触れてみなければ分からないことです。


・絶対に貴女をひっかけようといった、いい加減な気持ちではないこと。


・貴女を本当に愛しているからこそ、どんな事をしてでも貴女を引き付けたくて、自分を売ることを絶対にしないと自負している自分が、これまで色々と自分を売ってきた事。


・他の娘に心から謝りたい気持ち。


・ママさんを結局利用した形になってしまったことについては、後日、謝りにいきます。


・酔っぱらい運転、お巡り(さん)。


・土曜日に貴女が言ったこと。


・土.日と貴女達の行為、全て妄想の域のことですが……。


・また、あの言葉を聞いてから、死にたいほどに、今すぐにでも皆の前に姿をさらけ出すことが辛くて、田舎に帰ろうと涙して悲しんだ土.日曜のこと。


・この会社にとどまれるには貴女が是非とも必要なこと。



僕を信じてください。


この手紙によって、また誤解を招くようなことがあったら悲しいことです。



とにかく8月7日から、僕はしばらく田舎へ帰ります。


それまでにどうしてもこの事を解決しなければ、帰るにも帰れないのです。


文章を書くのがおっくうだったら、僕と会って話したら良いことです。


とにかく帰る前にどうしても話をしておきたいのです!


もし貴女も人の子なら、僕のこの苦しみが解るものと思います。


僕は貴女を信じています。


そして周囲の白い目に耐えて、貴女のご返事を期待しています。




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