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一滴の波紋【原文】・1巻の1  作者: 藤田幸人(ペンネーム)
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ある日の日記・3


   3


その彼女は義理の姉が経営しているスナックで、その経営を助けるために手伝っていました。


昼間は本姉が経営している食堂で働いていました。


僕は彼女との淡い恋心にひたりたいために、わびしい金代かねしろをはたいて、


その二つの所を通いつめていました。


その頃の僕の胸の痛みをいやすにはうってつけの場所でしたから…


その食堂の店には、彼女の他に姉と妹がいました。


その人達も群を抜いて美しい女性ばかりでした。


僕には男兄弟ばかりしか居なかったので、


昔から欲しい欲しいと思っていた理想の姉妹像にピッタリと一致しました。


不思議なくらい、それはピッタリ一致したのです。


それで元来かたくなな性分の自分の心が、何の抵抗も感じず、

彼女らに心を開くことができました。


本当の姉妹のように慕っていました。


向こうの方も、ささやかながらも、よく僕の事を気遣ってくれていたようです。


そして、そこでそうこう心の痛みを癒しながら時が過ぎていきました。


その内に、いよいよ彼女への思いは膨れ上がり、痛切に僕の胸を締め付けるようになりました。


その思いに関連して、そういった姉や妹が欲しい、


その家族の一員になれたらなぁという気も起こり、彼女との結婚を切望するにいたりました。


しかしその思いがハッキリとしたとたんに、僕はハタと立ちすくんでしまいました。


僕は、まだ暗黒の世界から抜けきれていなかったのです。


ふしだらな生活から抜けきれていなかったのです。


アルバイト暮らしという、世にも惨めな身柄だったのです。


やっと光明の世界へとつづく扉の前に来ながら、僕は思案に暮れました。


その扉を開けるには条件がいったのです。


光明の世界へ出るには、それにふさわしい身柄になっていなければなりません。


そこで僕は思案のあげく考えました。


前アルバイトで勤めた経験のある、


今の会社に就職する事を。


そして意を決して頼みに行ったのです。


先方では僕のアルバイト時分の真面目な印象を持たれていたので、気安く引き受けてくれました。


本当は、それにも一言注文がつきましたが……


それでも、とにかく身をたてなおそうと今の会社に働き始めたのです。


最初の一、二ヶ月間は、今までの性根しょうねの腐った非気力さで、もう自分にはとても勤まりそうもないと、

何度思い、何度無断欠勤したかしれません。


もうこんなだらしない自分だと見られたら、先方も愛想つかして諦めるだろうと嘆いていても、


総務の山村さんが、わざわざ車できて、しゃにむに引っ張り出そうとします。


『とにかく、お前はウチの会社でもまれる必要があるんだ』


『今の社会では、お前のような人材が必要なんだ!』


と言って、半分騙されたみたいな半分勇気づけられたみたいな、あんばいでした。


それで、またとにかく勤め始めたのです。


しかし、その頃からすでに、


もう彼女らから、一歩一歩、遠ざかざるを得なくなっていたのです。


あの頃の給料では、とてもアパート暮らしは出来なくなっていたのです!。


その頃の状態をかいつまんで言いますと、こういう次第です。


給料をもらって最初の10日間ぐらいは、その食堂に通って今までどうりに楽しい思いに浸っていることができました。


しかし、後の20日間は、即席ラーメンきりで過ごさなければなりません。


朝一個と晩二個の献立です。


この味気ないことと言ったら、そんな事を味わった者でないと解らないでしょう。


その期間での一番のご馳走といえば、


昼の弁当でした。


今のように、少しは楽になって、食にも別に困らない状態にあって食べる弁当は、


同じ弁当でも何ともお粗末な味気ないものですが、


その頃の僕にとっては、ほほが落ちそうなくらいに、じょうご馳走でした。


はらわたがおどり狂うくらいのものです。


また、その頃の僕の道を歩く姿と言ったら、


いつも下ばっかり向いていました。


そうです、


お金が落ちていないかなぁ~と、


目を見開いて歩いていたのです。


しかし、そのような時に限って幸運はふってわくれないのです。


そんな時、僕は、神様の無慈悲なことを嘆きました……


などと言って、ぜんぜん神様の責任ではないではないか。


自分の身から出たサビでわないか…?と


すぐに心を改めますが…




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