8 打ち解けた2人
誠二がダッシュで走っています。
クッ、なんてすごい笑い声なんだ!?
こんなにでかい笑い声に包まれるのは、約17年生きてきて初めてだ。四方八方から聞こえてくる笑い声はひとつひとつは明るいけど、何十人もの笑い声ともなると不気味だ。でも、こんなに笑い声に包まれてしまうと非常にまずい……。
まずい、本当にまずいぞ! このままではのまれてしまう……。このままでいくと、俺も間もなく限界に達するだろう。
だが、あの軽の車まで、あと10m!
走りぬけ俺! いや、名前を読んだ方が気合が入るかもしれないな。
走りぬけ! 誠二!!
おぉ? やっぱりなんか、名前読んだほうが力が湧いて来たぞ!! よし、この調子だ!!!
俺はさらにスピードを上げて走る。しかしこの危機的状況のせいで、たった10mの距離を走っているだけなのに、一秒が20秒にも、へたしたら1分にも思えてきてしまう。
――ハハハハハハハハハハハハハハハ
ああ!! なんだ、この頭に響く笑い声は!?
このままでは……、このままでは、俺まで笑ってしまいそうだ!!!
でもダメなんだ、さっきの朝河を見て笑いすぎた。もう既に俺の声は笑いすぎて嗄れてしまっている……。それなのにこれ以上笑ってしまうと、明日は声が出ないだろう、そして会話が出来ない……。
そんなのは耐えられない! あともう少し、頑張れ! 俺!
――ハハハハハハハハハハハハハハハ
いつまで経っても止まらない笑い声。ブフッ……つられてしまう……、いや、耐えろ! 耐えるんだ! あともうちょっとで軽車に着くんだ!
俺は笑いそうになる口と、笑うために息を吸い込もうとしてしまう肺を押さえて、代わりにさらに全力で走ることに努める。おそらく体育祭の団体対抗のリレーのときよりも本気になっているな。でも、まだまだもっと頑張れるはずだ! もっと地を蹴るんだ! 腕をもっと力強く引け! そして目標に真っ直ぐに突っ込むんだ!!
俺は本当に人生で最高の速さで走った。とはいってもたったの10mだけどな。
……よし! 着いた!
乱れる呼吸を整えつつ車の中を見る。軽車の中には、やっぱり困っている顔をしている男がいた。兄貴よりも少し年上っぽい男性だ。
コンコン、コンコン
俺は右手を軽く握り、窓を軽くノックをした。気づいて男は窓を開けてくれた。
「おい! あんた、なんでこんなとこで止まってるんだ? もしかして、ガソリンがなくなったのか? いや、この際そんなことはどうでもいい! 俺と一緒に来い! ここから逃げるぞ!!」
早く行かねぇと! 大変なことになっちまう!! マジで明日喋れねぇよ!
そんなことにならないためにも、俺は頑張って呼びかける。
「おい! 早く出て来いよ!」
しかし、中の男はなかなか出てこない。なんで出てこないんだ?
もう、早くしろよ! 手遅れになっちまう!
「……? なにか大変なことが起こっているのか?」
「へ? わかんねぇの? もう! とりあえず来い! この場から脱出するぞ!」
「いや、でも……」
ああ! もう、じれったい!! 何そんなに落ち着いてんだよ!?
もう俺の我慢は限界だったから、無理やり窓から腕を突っ込んで車のキーを奪って、ドアを開けながら男の腕を引っ張って車から引きずり出した。
車のキーはボタンを押せば、ロックがかかるヤツだったから、すぐにロックをかけて、俺は男を引っ張って走り出した。
「おい、お前何考えてるんだ? 泥棒か!?」
泥棒とはなんだ、泥棒とは、人がせっかく親切にしてるってのに……。
いや、そんなことを言ってる場合じゃねぇ!
クッ、早くこの場から逃げねぇと……。
とにかく必死で走った。
男が途中で躓いたけど、気にしてる場合じゃなかったから、すごく頑張って引っ張った。
男を引っ張りながら走っていたから、流石にさっきほどに速くは走れなかったけどな。
……よし! 兄貴たちの乗ってる車までたどり着いた!
コンコン、コンコン
俺は車の窓を叩いた。
でも、兄貴と朝河は楽しそうに話していて気づかない……。
もう! なにやってんだよ!!!
――誠二を待っている間の車内――
……誠二先輩が全力疾走している間、俺は車で考え続けているけどわからない。本当に、誠二先輩は何であんなに深刻そうだったんだろう……?
う〜ん……、ああ! 考えてもわからない!
「なぁ、朝河?」
「うわぁ!?」
「!? な、なんだ? 何でそんなに驚くんだ!?」
「いや、突然話しかけてくるもんっすから……」
誠二先輩のお兄さんが俺に突然話しかけてきた。けど俺は周りのことなんて見えなくなる程に集中して考えていたからマジでビビった……、心臓がバクバクいってる……。
「……だからといって、そんなに驚かなくても……、はぁ」
ああ!? また暗くなってる!? ため息をつくお兄さんからは、また暗いオーラが出そうになっている。
うわぁ、どうしよう……。 よし! とりあえず話題を変えよう!
「ところで、何か言いかけてませんでした?」
「え? あ、あぁ。素朴な疑問なんだけどな、なんで……き、君は俺の事を『お兄さん』って呼ぶんだ?」
「君? ……あ! すいません! 君って言う人を初めて見たものですから、ビックリして質問を聞き逃しました」
君って……、初めて聞いた……。俺の周りに君って呼ぶ人っていないよなぁ……。
やっぱりこの人って変わってる!
「あぁ、わるい。俺もなんて呼ぼうか迷ったんだけど、思いつかなかったからなぁ……」
そう言いながら、お兄さんは頭を掻いた。
なんだ、思いつかなかったから言っただけだったのか!
……ん? でも、だったらやっぱり『あんた』とかの方が普通なんだけどなぁ……。
やっぱりこの人変だ! つくづく変だ!!
「で? なにを訊こうとしてるんですか?」
「え、あ、あん? あな? おま? きみ、いや、ちがう……う〜ん。
あ、アハハッ、あ、朝河君はなんで俺のことを『お兄さん』って呼ぶのかな?
……なんて、訊こうとお・・…」
あ! 今のお兄さんの気持ちがわかった!
訳すると・・・
『え、(なんて呼ぼう……。) あん (た、は違うなぁ。) あな (た、は堅苦しい……。) おま (えは、なんかなぁ……。よし、) 君 (! って、おっとと……、)違う (違う、変だと思われるよ……。しまった! ネタ切れだ!) う〜ん (うぅ、こうなったら、朝河君って呼ぶか、いやでもなんだか照れる。こんなに代名詞で迷った末に結局苗字なんて……。いや、言うしかない!)
あ、(照れる!) アハハ、あ、朝河君はなんで俺のことを『お兄さん』って呼ぶのかな?
(……ああ!? 恥ずかしくて『かな?』なんてつけてしまった! これで終わったら何か変だ!) なんて、訊こうとお (もって……、あぁ、なんかグダグダだ)』
・・・だ! 多分!
だって、そんな感じに顔が歪んでたし! ってか口が動いてた!
ってか、俺、読心術できるかも、いや読唇術か……。いや、ただ単に、お兄さんがわかりやすいだけだよな。
「アハハ、き、訊いてるかなぁ? 朝河君?」
これは多分、さっきなんて呼ぼうか迷っていたことを、カモフラージュするために、わざわざ『朝河君』って呼んだんだろうなぁ……。なんか恥ずかしそうに冷や汗を掻きながら言う姿を見ていると、可哀想になってくるな……。
あ! 質問に答えるの忘れてた!
「っ、聞いてますよ! 聞いてます、『なぜ、お兄さんと呼ぶか』ですよね? そんなの、先輩のお兄さんだからに決まってるじゃないですか! 礼儀ですよ、礼儀!」
まさか、そんなことを訊かれるとは思ってもみなかった……。中学のときに礼儀だ、とか言って先輩達に教え込まれたんだけどな……。でも、確かに「お兄さん」と呼ばれた人たちは微妙そうな顔してたような……。それに、そう呼んでいる姿を見て先輩が笑いを堪えているような仕草をしていたような……って、え? もしかして先輩達が俺をからかってただけなのか!? そういや俺と同じ学年の他のヤツは何も言われてなかったような……?
そんなことを考えているうちにもお兄さんの言葉は続いていく。
「いや、でも、俺は朝河君の先輩じゃないわけだし……、っていうか、はっきり言うと俺、敬語使われたりするの嫌いなんだ!」
そうだったのかぁ!
「だから、俺とはタメ口でいいから! な? あと、お兄さんって呼ばれると、なんか、……言っちゃ悪いけど気持ち悪いってぇか、俺がお兄さんって、似合わねぇってぇか……、だから! 俺のことは、礼一って呼んでくれ!
いや、それでも気になるってんだったら、苗字で浅生でも、浅生兄でもなんでもいいから、とにかく! お兄さんだけは止めてくれ!!」
「は、はい」
そんなに嫌だったのかぁ。なんか、すっごい必死さが伝わってきた……。本当に嫌なんだなぁ……。
アハハハ、なんか必死そうなお兄……コホン、礼一を見ていると笑えてきた。こういう時は素直に笑ったほうが得だよな! 思いっきり笑おうじゃないか!
「アハハハハ! 必死すぎっす、おっと、必死すぎ! マジ、変! アハハハハ……。わかりました、いや、わかったよ、じゃぁ礼一って呼びま……呼ぶ」
あぁ、妙に敬語が混じってしまった……。
「ビャハハハハ! 朝河……君だって、敬語言わないように必死じゃないか!
ビュェハハハ……」
「ビュェハハハ!? どんな笑い方だよ!? マジ信じらんねぇ!! アッハッハッハッハッハ……」
コンコン、コンコン
あれ? なんか鳴ってるような……?
まぁいいか! 本当、この人おもしれぇ、見たことないくらいに変人だ……。
ゴンゴン、ゴンゴン
あれ? やっぱりなんか鳴ってる? さっきよりもでかい音が鳴っている。何かを叩いているような?
「礼一? なんか鳴ってない?」
「ビェハハハハ。 ふぅ、何が?」
「ブフッ、笑い止まんのいきなりすぎ!」
「そうか? ハッハッハ」
笑いの余韻も無く、突然笑いが止まる礼一にはビックリだ。
ガンガンガンガン
「うおわ!? なんだ? この音……、ってあ! 誠二!」
誠二先輩だったのか! うわ! なんか鬼の形相してる! 恐ぇ! 隣にいる男もビクビクしてる!
誠二先輩に気づいてすぐ、礼一はロックを開けた。
あぁ、最近書くのが前以上に楽しいです!
でも、キャラが思うように動きません・・・・・・。
小説を書くっていうのは、本当に難しいですね!
でもすっごく楽しい!!!




