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#4   浅生兄弟

 車を運転してどこかへ行くことをこよなく愛する浅生礼一は、現在加賀崎駅の近くの土産屋に到着しつつある。約1時間前にその土産屋でバイトしている弟の誠二から迎えにきてと連絡を受けたのだ。本当なら25分もあれば到着していたのだが、本日は雨。もう降り止んでいるが地面はグチョグチョにぬかるんでいて、田舎の整備されていない道、さらにあまり礼一が来ることのない土地なので、礼一は我慢できずに探検してしまったんだ。しかも道は2本、3本とどんどん増えていき、迷った。故に1時間もかかってしまった。


――ふうっ、やぁっと着いたぜ! 長かった、本当に長かった。迷ったけど近くに民家があってよかった……寝静まってたけど。ま、まぁ、誠二から電話きたけど怒ってなかった……というよりアイスで手を打ったんだけど。まぁ最後は怒ってなかったし……セリフの途中で切られたけど……。


 楽観的な礼一には珍しく、否定する自分とフォローする自分が戦っているようだ。これではダメだと、頭を左右に思い切り振り思考をリセットする。


「でも、ちゃんと着いたんだからいいじゃないか!」


 突如叫ぶ礼一だが、車内にいるのは礼一だけ。礼一の不安そうな声は寂しく響くだけだった。

 気を取り直して土産屋の周りを見渡し、誠二を探し始める礼一。わりとすぐに珍妙な像の前にいる誠二を見つけ、車でゆっくりと近づく。


――なんだ、誠二の目の前にある変な像は……気持ち悪いな。


 少し像に近づくのをためらいながらも、誠二に近づく。誠二はというと、こちらに気がつき口をパクパクしている。礼一には何言ってるのかわからかったが、誠二が言ったセリフは「ドロドロにしすぎなんだよ、バカ兄貴!」だ。つまり怒っている。そうとも知らず、礼一は歩道に入る少し手前で停止し、窓を開けて誠二に呼びかけた。


「誠二、悪い待たせたな!」

「マジ遅え! つかさ、遅いだけならまだしも、ドロドロにしすぎだ。折角最近俺が洗ったっていうのにさ! しかもあまりに遅いから雨上がってんじゃねえか!」


 誠二はご乱心だ。礼一は一度降りて車を確認する。タイヤはもちろん、ライトの部分もドアの部分もドロッドロになっている。泥がたくさんだ。誠二は迎えに来てもらった感謝も、洗った車がドロドロになりすぎているのと1時間も待たされたことで薄れていた。


「あ〜、たはははは……悪い、遊びすぎた。いや、違うんだ、あまりに魅力ある田んぼのガタガタ道があったんだよ、しかも獣道に繋がってたんだぞ? これは今行かないと一生後悔すると思ってさ、な?」


 何が「な?」なのかはわからないが、礼一は誠二に近づき、懸命に言い訳をする。しかし誠二は般若のような形相で礼一を睨んでいる。誠二の隣にいる朝河は初めて見る誠二の怒りの形相を見て驚いている。


「はっはっは……前に俺が細かいとこまで綺麗にしたってのに、歯ブラシを工夫して使ってまで土を落としていったってのに、一週間も持たずにこれか? 俺の苦労はどうしてくれるんだ」


 笑ってはいるものの、誠二の目は全く笑っていないし、頬は痙攣しているし、オーラがそう見せているのか、誠二の髪は逆立っているように見える。ナレーションでよかった、そう思わずにはいられない光景である。


「ま、まぁそんなに怒んなよ。なぁ? アイス……」


 い、いや、ダメだ礼一! さっきの誠二は喜んでいたが、今の誠二は喜ぶどころか「は、アイス? んなもんで俺のご機嫌取りか」と怒りに拍車を掛けているぞ。

 

「い、いや、駅前の喫茶店のパフェ! パフェ奢ってやるから! な?」


 ヤバイと思った礼一はアイスからパフェに変えた。しかしそんなことでこの誠二の怒りは収まらないだろう。ん、いや、誠二のまとうオーラが少し優しくなった。どうやら誠二はとても単純らしい。


「……それは兄貴と2人でか?」


 確認するように誠二が問う。オーラは優しくなったものの、礼一を見る目はいまだに冷たい。


「え、俺と2人がいいのか? クッ、お前ってやつは、今でもお兄ちゃんっ子だったのか! 嬉しい、俺は今、猛烈にかん――」

「んなわけねえだろ2人で行きたくねえから言ってんだよわかれバカ」


 ひ、酷い、なんて酷いんだ。誠二の隣でぼーっとやり取りを見ている朝河も口をポカーンと開けて驚いているぞ。礼一は天国から一気に地獄へ落とされたようで、落ち込むこむどころか固まっている。


「せ、誠二先輩、言いすぎじゃ……いえ、何でもないっす!」


 朝河は遠慮がちに誠二に声を掛けてみるものの、自分の方を向いた誠二の恐い顔を見てビビリ、敬礼して謝った。ちょっとしたパニックを起こしている。


――せ、誠二先輩、めちゃ恐えよ。いつもはもっと大らかで寛容でやさしいのに……俺、絶対誠二先輩怒らせることだけはやめておこう。


 心の中でひそかに誓う、朝河だった。礼一はというと、いまだに固まっている。


――そこまで言うなんて、酷い。昔はよかったなぁ、10年前まではもっと俺に懐いていたのに、俺がやってること全部見よう見真似でやろうとしたり……それが今ではコレだ。あぁ、確かに俺は悪かった。でも、あまりに酷すぎる……


 礼一は固まりながら、どんどん頭の中で暗く、落ち込んでいった。礼一は家、学校、その他もろもろあらゆるところでムードメーカである。つまり、天然素材で場の空気を支配する力を持っている。と、こんな言い方をすると、すごい能力の持ち主っぽいが、ただのムードメーカーである。そして今も、その力を発揮している。礼一から発生している暗いオーラが誠二と朝河、そして気持ち悪いマスコットの像も取り囲んでいる。偶然かオーラの力か、近くの電灯もチカチカとして、切れかかっている。

 そんな状況に危機を感じ、誠二は礼一に声を掛ける。


「わ、悪い、言いすぎたよ……もう、謝るからその暗いオーラをどっかへやってくれ!」

「俺からも頼むっす、なんとかもっと明るいオーラを出してください!」


 必死だ。誠二だけでなく朝河までもが必死に頼みだした。それほどまでにオーラの力は凄まじいというのか。礼一は内心自分がそんなに暗いオーラを発していたことに驚きながらも、何とか明るくしようとする。


「悪い、そんなに暗かったか? よし、ここは切り替えだな」

――明るく明るく……そうだ、好きなことを考えよう。さっきの探検とか。あの田んぼの向こう、獣道に続いてるなんて、なんてワクワクするんだ! でも、そのせいで車はドロドロ、迷うし遅くなるし、誠二には怒られるし……はぁ。


 なんとか明るく思考の切り替えを試みるが、大失敗に終わり、さらに暗いオーラが辺りを襲う。偶然か、礼一が引き起こしたのか、折角上がっていた雨もまた降り始めた。


「なんでさらに暗くなってんだよ! 雨降ってきただろ!」

「そ、それを俺のせいにするのか!? いくらなんでも有りえないだろ!」

「それが有りえるのが兄貴なんだよ! 兄弟だからわかる、人生で会わなかった日なんて1日もなかったんだから……この雨も偶然なんてもんじゃない、兄貴の機嫌の力は絶大だ!」


 なんとも意外な能力発覚! ということは遠足の日に雨が降っても、礼一を明るくすれば晴れになるんだな。便利だ。礼一は礼一で、まんざらでもない顔をしている。


「……そうか、そうだったんだ。俺って影響力があるんだな」

「何嬉しそうな顔してんだよ、迷惑なん――じゃなくて、うん、さすが俺の兄貴だなぁっ」


 わざとらしい。途中までは確実に迷惑だと言おうとしたみたいだが、思いとどまったようだ。朝河は普段見ない憧れの先輩の珍しい一面を見て、ぽかーんとしている。いつもの頼もしい誠二と今の兄弟のやり取りとのギャップに驚いているのだ。

 朝河の中で、誠二のイメージは落ちつつあった。

私が書きたいもののためには、宅配便にしなければいけない、と気づいて突然題名を変えてしまいました……。驚いた方、本当にすいません。


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