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19  過去にて

 今、私は神からの依頼で渋々ながら過去にタイムスリップしている。忠彦と隆弘が何かを約束した頃らしい。それにしても、今は一体西暦何年なんだろう? あの二人が何かの約束を交わしたときというのなら、おそらくそんなに昔ではないだろう。


 今、私の目の前に見えるのは、青々と風になびいている稲がたくさん植えられている田んぼに、遠くを見ると山がある。最近雨が降ったばかりなのか、随分遠くにある山なのにその姿はハッキリと見える。よく見ると、周りには水溜りがたくさんある。そして空気も美味しい。

 ここはとても田舎のようだ。見渡す限り美しい大自然が広がっているし、人があまりいないように見える。

 お、今チリンチリン、と自転車のベルの音がしたぞ。音の方向を向いてみると、制服のカッターシャツのボタンを掛け違えて、上3つ開けている男と、キチッとぼたんを上まで止めている男が自転車で二人乗りをして田んぼのすぐ横の道を走ってきた。自転車はしっかりとボタンを留めている方が運転していた。


「アハハハ、すっげぇ楽だ! でももっと早くこげよ!」


 後ろで、運転している男の肩に捕まって立って、自転車を跨っている男が、心地よい風に吹かれながら運転している男に要求する。


「煩い馬鹿。お前自転車忘れたくせに偉そうなんだよ。少しは後ろに乗せてやってることに感謝しろ!」   


 うんうん、懐かしいような光景だな。背の高さからして高校生の二人が仲良く自転車に乗っている。


「隆弘、サンキュー! だからもっと早くこいで〜!」

「忠彦、お前英語苦手なくせになんで礼だけ英語なんだよ」


 なかなか珍しいとこにツッコミを入れる運転している男――隆弘。ん、ん!? 隆弘だと!? しかも後ろに乗っているのは忠彦だって!?

 そうか、この二人が若かりし頃の忠彦と隆弘なんだな。


「サンキューくらい、誰だって言えるって、こんな時にしか英語を使いこなせないんだからいいだろ? っとぉ」


 若かりし頃の隆弘に話していると、地面にごつごつの石があったようで、突然自転車がガタンとゆれ、若かりし頃の忠彦は体制を崩しかけた。が、すぐに体制を取り直し、また安定しながら風に吹かれている。


「おう、悪い悪い、大丈夫だったか?」

「余裕余裕、俺がこんな石くらいでこける訳ないだろ! って、うぉ!? ちょ、ま、ストップストップストーップ!!」

「へ、どうした――」


 ガコガコガシャーン


 揺れたことに謝り、心配する隆弘に余裕だと答えた忠彦。しかしその瞬間、自転車が揺れた拍子に忠彦の履いている運動靴の紐がチェーンに絡まってしまったようで、必死に忠彦が停まってくれと叫んだが、隆弘は何があったのかよくわからず、そうこうしているうちに忠彦の靴が巻き込まれていき、二人は自転車から落ちた。


「つつ……」

「いってぇ……、あ〜ぁ、絡まっちまったな」


 自転車を見ると、忠彦の靴紐が、短いながらチェーンと絡まり、忠彦は動けない。仕方なく忠彦は靴を脱ぎ、倒れている自転車から靴紐を外す。

 思っていたほど複雑に絡まっていたわけでなく、すぐに靴紐は外せた。しかし、自転車を立てた瞬間にあることに気づく隆弘。


「あ! 俺の自転車のベルが……」


 悲惨な響きの隆弘の声に、少し冷や汗を流しながら自転車のハンドルの左を見る忠彦。

そこには、無残にも円形の半分くらいから見事に折れ曲がっている上に、あの……その、なんだ。え〜と……自転車のベルを鳴らすときに、こう……引っ掛けてパッとやる……引き金だ! 引き金がなくなっている。つまり、自転車のベルが再起不能なまでに壊れてしまった。


「おま、おれ、……はぁ」


 何かを言いかけようとするが、ベルがなくなったことでショックを受けている隆弘は力が入らないようでため息をつく。


「ま、まぁ壊れたのがベルだけでよかったよな! あれだ、ベルだったら口笛でも代役できる訳だしな」


 暗いどんよりとした雰囲気を変えるべく、できる限り明るく話す忠彦。口笛だったら、ただ気分がいい人にしか見えないように思えるのだが、この際気にしないでおこう。


「俺、あのベルの音、全く濁りがない上に涼しげな感じがして気に入ってたんだよな……」


 咎めているわけじゃない。本当に悲しいからそう言っているようだ。しかし、だからこそ忠彦は申し訳なく思っている。そのことは隆弘を見る忠彦の目が泳いでいることからわかる。


「本当に悪かったよ……」


 左肩を慰めるように叩く忠彦。と、なにやらいいことを思いついたような顔をしている。口元は右端が上がり、目は目尻のほうがニヤッと垂れ下がっている。一体何を思いついたんだ?


「いい事思いついた! じゃあさ、これから都会の方へ行こうぜ! そしてもっといい音色のベルを探そう!」


 明るく提案するが、隆弘からの声は聞こえない。嫌なのだろうか。


「……あ、ああ、いい案だな!」


 少し間を取ってから答えた隆弘。しかしその間が気になって仕方がない様子の忠彦。


「無理してねぇか? なんか間があったし、嫌なら無理するなよ」


 心配そうに顔を覗き込みながら言う忠彦。


「いやいや、そういう訳じゃない。ただショックが大きすぎたせいでお前が何を言ったのかを理解するのに時間がかかっただけなんだ。気にしないでくれ」

「そ、そうか」


 予想外の答えに、そうか、としか言えない忠彦。私もその気持ちはわかる! なんだか微妙な空気も流れてしまっている。

 それにしても言葉の意味もわからなくなるくらいショックだったのか。ベル一つで? か、変わったやつだったんだな。


「ま、まぁそれならいいや! じゃ、家に帰ったら早速行こうぜ」


 忠彦は微妙な空気を変えるべく明るく言う。隆弘もその気持ちがわかったのか明るく返事を返す。


「ああ! じゃあ財布を持ったら駅前でな!」

「おう!」


 元気に返事をした後、また二人は自転車に乗る。やはり前は隆弘、後ろは忠彦だ。二人は本当に仲がいいんだな。

 ふう、では私は駅前で待つとしよう。

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