16 病院という名の迷宮
突然ですが、いきなり話がぶっ飛びます。いや、でもその設定は私の話作りに関係してくるのでご了承ください。
さて、主人公の礼一はトイレへと行ってしまった。という訳なので、今回は私がナレーションをしよう。
ん? 私の名か? う〜む、適当にナレーとでも呼んでくれ。
実は、この話はまだ本編に入っていない。しかしもうすぐ本編に入る予定だ。末永くよろしくお願いします。
おっと、これを言うためにこんな話をした訳じゃない。本編に近づき、入ってくると、私の出番は多くなる。だから以後、私、ナレーをよろしくお願いします。
ここで話を進めよう。少し早めに行くぞ。
礼一がトイレへと駆け出し、その後姿に忠彦――礼一の親父が病室の番号を叫ぶが、おそらくあれは聞こえてないな。しかし、そんなことを気にする者は今ここにはいなかった。忠彦が気持ちを変えるように明るく言う。
「よし! じゃ、とりあえず見舞いに行くか!」
それを合図に、一行は暗くて見えにくい道を街灯と月明かりを頼りに歩き始めた。前を見ても、礼一の姿はもう見えない。本当に必死だったからもう既に病院の中に入っているんだろう。
病院に入り、受付を済ませて226号室の隆弘、原田の親父の病室へと向かう。ちなみに個室だ。もっとわかりやすく言うと、2棟2階の右端から6つ目の部屋だ。原田政俊が病室を一応知っているらしいので一番前でみんなを誘導している。
しかし、皆さんは覚えているだろうか? 政俊は市城町に行くまでに道に迷ってしまったんだ。もう言ったような気もするが、政俊は宅配便を仕事にしている。しかし迷った……。要するに方向音痴なんだということを。
さぁ、何を言いたいかわかったかもしれないが、政俊について行った一行は勿論道を間違えてしまった。何故間違えたことがわかったかって? 5分ほど歩いたとき、一行の目の前に病院の入り口があったんだよ。つまりスタート地点に戻ってしまったんだ。忠彦は入り口を見て驚き、誠二は目を疑い、母さんの恵美は能天気に笑っている。性格の違いがわかる光景だ。
「えっと、政俊っつったっけか? お前、なんでこんな単純な造りの病院で道を間違えれたんだ!?」
もっともな意見だ。誠二も頷いて肯定している。恵美は微笑み続けている。
もう、なんだろう、恵美の描写にあまり変わりがないのだが、どうするべきだ? もう無視してしまってもいいのか? しかし、そうしてしまえば、#10の政俊のように可哀想なことになってしまう気がする……。
いや、主人公の母親を忘れることなんてないだろう! そう信じよう、ということで話がずれてしまったが次へ進もう。
道を間違えたと気づいた政俊は冷や汗を掻いているようだ。本人は自信を持って案内していたため、間違えていると気づいた今、政俊は右に行けばいいのか左に行けばいいのかわからず、見てわかるくらいに動揺している。
見かねた忠彦は、元々まどろっこしいことが嫌いな性格だったため先頭を切って進んでいく。
「ったく、しゃーねぇな。俺が前を行くからついて来い! 226号室だろ? 病院の造りなんてわかりやすいんだぜ? 大体部屋の番号でわかるんだよ。」
「……。」
政俊は少し落ち込んでいるようで何も言わない。自信を持って進んでいく忠彦について行くだけだ。だが忠彦はそれを赦さない。
「政俊! 何ボーっとしてんだよ! いいかよく聞け! 番号の最初の番号は大体が何棟目かを表してんだよ。この場合は2棟だ。」
そう言いながら忠彦は迷い無く進んでいく。しかしどうやったら別の棟に着くかわからないはずだ。一体どこへ向かっているのだろうか? 政俊もおそらく気になっているのだろう。腑に落ちない、という顔をしている。
「おい、どうやったら別の棟に行けるのかわかるのか?」
政俊が尋ねる。すると忠彦は自信に満ち溢れた顔と声で返す。
「知るか! だがな、大抵こんなのは何となく広く感じる道を真っ直ぐ歩いてたら――」
忠彦は途中で言葉を切り、後ろを歩いている政俊たちを見てもう一度口を開く。
「いつの間にか着いてるんだよ。」
そういう忠彦の真上には「ここから2棟です」という看板が掛かっていた。
……微妙にカッコつけてるように見えるのは気のせいか? 私のナレーション人生はまだ短く、まだ5年といったとこだが、私の経験が告げている。忠彦はカッコつけている、と。しかしこれだけは言わせて欲しい。いや、本人にこの言葉が届かないことはわかっている。しかし言わせてくれ!
忠彦よ、そんなことでカッコつけていても全くカッコよく感じないから辞めておけ!
しかし、こう思っている私の気持ちとは裏腹に、本当に道を間違えずに一発で2棟まで来た忠彦に尊敬の眼差しを向けている政俊がいる。しかしよく考えろ? 忠彦はただの勘でここまで来れたと言うだけなんだぞ? 尊敬するところなんてどこにも無いじゃないか。
まぁ、私が何を思ったところで政俊の尊敬の眼差しは止まらないのだがな。
「すごいな! 本当に2棟についたじゃないか! ……そういえばこんなところを通った覚えがあるぞ!」
「へっ、そんなに驚くなよ。こんなの誰にでもできることだ。」
そういう忠彦の顔はまんざらでもない感じだ。だが、みんながみんな勘で行動すると思うなよ! 普通は地図を見たり、看護婦さんなどに道を訊いたりするだろう。
「次は部屋の番号の2つ目だ! へへっ、俺のようになりたければようく訊くんだぞ!」
「おう!」
「2つ目は大体階を表してるんだ、226号室だから2階だな!」
はぁ、ナレーションにあるまじき行為かもしれないが、私だって生きている。調子に乗っている50代のおっさんと、少年のように瞳を輝かせている20代を見たらため息だって出てしまうよ。
「……はぁ、なんだよこの2人のテンションは? ここは病院だぞ? 一応夜なんだぞ? 少しは落ち着けよな……。」
お? 後ろの方で私を同じ感覚の者がため息をついている! 何か嬉しいじゃないか! 誰かと見てみると誠二だった。オォ! 私は誠二のキャラが好きになりそうだよ。仲間だな。
「ところで、2階へはどうやって行くんだ?」
「フン、愚問だな。さっきと一緒だ、何となく在るんじゃねぇか? と思う曲がり角を見てみると――」
またまた忠彦は途中で言葉を切り、そして覗き込むように曲がり角の右側を見た。政俊は少し大回りをして見た。すると階段が――
「……これが階段なのか?」
「愚問だな。どう見てもこれは上に登るためのものだろう? 男なら梯子ででも躊躇無く登っていくもんだぜ。」
すまない。正直私も忠彦を信じすぎていた。つまり私も階段があると思っていたんだが、もうわかっているだろうがあったのは梯子だった。予想外だったために説明が思わず止まってしまったよ、ハッハッハ。笑い飛ばしてくれると嬉しいのだがな。
忠彦はああ言っているが、おそらく梯子は天井裏に続いているのだろう。何故なら梯子の先を見ても、ただ暗闇があるだけだからだ。2階に続いているとすれば、少なからず明かりはあるだろう。まぁ、忠彦がそんなことに気づくわけも無く、もう既に5段くらい上に上がっているのだがな。はぁ、止めてくれるヤツはいないのか?
「そんな危険な階段があるわけねぇだろ? なんだよ梯子って、多分それ業者の人が使ってる天井裏に繋がる物だぜ? 辞めとけよ親父。」
おお! なんと誠二がツッコンでくれたぞ! 嗚呼、誰もツッコマない中でのナレーションは心細かった。なんせ当事者達がツッコンでくれないと、本人には伝わらないからだ。そして私が変だったらどうしようと思っていたのだが、誠二がツッコンでくれて私は本当に嬉しいよ。私の中での誠二の株がどんどん上がっていってるよ。
「なんだよ、止めてくれるな我が息子よ。男にはなぁ、立ち向かわねぇといけねぇときがあるんだよ。今俺はこの梯子を登らなかったら一生後悔するだろう。」
「馬鹿。本当に馬鹿だな。救いようのねぇ馬鹿だ。つーか子供だな。親父が何を言おうと、瞳を見れば何考えてんのかわかるんだよ。親父はただ登ってみてぇだけなんだろ? なんだよその眩しい少年の瞳はよぉ?」
確かに忠彦の瞳は好奇心で輝いている。本当に子供のようだ。しかし……、本当は誠二を否定するようなことは言いたくはないんだが……。いや、やはり言っておかなければ、何故なら私はナレーション、不公平などあってはいけないのだ!
誠二よ、いくらなんでも実の親に3回も「馬鹿」と言うのはどうかと思うぞ?
「誠二よ、いくら年老いたところで少年の心を忘れちまったらそれで俺は終わりだと思うんだ。だから俺はいつまでも少年の心は忘れない。よって少年の瞳だっ――」
「御託はいいから。とっとと階段探して見舞いに行くんだろ? まさか当初の目的を忘れた訳じゃないよな?」
忠彦の熱弁も虚しく、セリフの途中で誠二の淡々とした言葉に阻まれてしまった。
……ん、うん? い、いやいや何を言っている? 私は目的を忘れたりなどしてないよ? え、言ってない? いや、だがその目が「お前目的を忘れてただろ」って訴えてるぞ? しかしそんなことはない! だって、だって私はナレーションなんだぞ!? 信じてくれ!!
!? なんだ、矢文? 突然私の足元に紙が巻いてある矢が飛んできた。いや、誠二たちの世界じゃない。私がいる説明界にだぞ?
説明会というのは、例えば誠二たちの世界があるだろ? その世界と二重に存在する世界で、つまり普通世界は2つ重なっているんだ。ひとつは普通の暮らしをする世界。そしてもうひとつは私たち、ナレーションが神や閲覧界の者たちに状況を説明するための世界、または進みが遅い世界を、巧くナレーションをすることによって話の進み具合を早めるための世界だ。説明するだけだから向こうの世界に干渉をしてはいけないし干渉されてもダメだろ? だから説明会の創造神であるシンは世界を2つ重ねることにしたんだ。
ここまで言ったらもう言い切ってしまおうか。私はシン以外の神であるゼンにこの世界のナレーションを頼まれて派遣されてきた雇われナレーションだ。なんでも、なかなか進まないこの世界を少し早く進めて欲しいらしい。あと、いたら色々便利、と思われているらしいんだよな……。
まぁいい。とにかく、この矢文を放てるのは神か閲覧者、または別の世界の乱入者だけだということだ。わざわざ長々と説明した理由がわかったかな?
矢文を放ったのは一体誰なんだ? 私は疑問に思いつつも文をとり、開いて読んだ。書いてあることは――
『お前絶対見舞いに行くっていう目的忘れてただろ? 言い逃れはできねぇぞ、なんせお前は梯子を登っていく忠彦を見ても、見舞いのことに触れなかっただろ? まぁ、忘れてたことがそんなに悪いって言いたいんじゃないんだぜ? ただ、オレはナレーションとしての信頼を保つためには嘘は言わねぇほうがいいんじゃねぇか、って思っただけだ。 シンより』
わ、私は精神的なショックを受けてしまったよ。ん? ま、まだ文には続きがあ――、いかんいかん、危うく意識が飛びそうになってしまった。勿論先に書いてあることへの恐怖でだ。しかし、読まなければ何が起こるかわからない……。仕方なく読むか。
『君は、ボクがなんで君を雇ったのか覚えてるかなぁ? 話を早く進めてって言わなかった? 巧くナレーションすれば早く話も進むんだよね? それが、忘れてたって何? 君は忘れてなかったって言うけど、どう考えても忘れてたよね? 神をあんまり舐めないほうがいいよ。ま、解雇されたいんだったら別だけど? ゼンより』
フ、フフフフフ……、まさか神であるシンとゼンが直々に手紙を寄越すとはな……。今、私の全身から冷や汗が出ているよ……。
……コホン、えーっとですね、前言撤回させてください! 申し訳ございません、私はナレーションでありながら見舞い、という目的を忘れていました! 以後気をつけるのでこれからも私を信じてください! そして私を雇ってくださったゼンさん、いやゼン様、私を解雇しないでください!! もうこの仕事が無かったら食っていけないんです、お願いします!!
は、ははははもう嘘は吐かないんで信じてください。話の流れも忘れません。本当にすいませんでした……。
――ならちゃっちゃと話を進めてよ!
ガンッ
ぐはっ 高めの、世界に響いている声と共に、私の頭にタライが落ちてきた。おそらくゼンだろう。解雇されない前に、急いで話を元に戻そう。
目的を覚えているかを訊いた誠二。ここからだな。
「ん? も、勿論だ! 親友の見舞いを忘れるわけがねぇだろ? な、政俊?」
「あ? あ、あぁ。実の親の見舞いを忘れるわけがないじゃないか!」
「政俊さんまで忘れてたんですか? はぁ、しっかりしてくださいよ。」
呆れたように言う誠二。いつの間にか呼び方が政俊さんに変わっている。
少し戸惑いながら答える忠彦と政俊を見て、誠二は瞬時に嘘だと見抜く。赦せないのが忠彦と政俊のリアクションが微妙に私とかぶっていることだ。
そうか、私はあんなにわかりやすい反応をしていたんだな。
――だから
おおっと、話を逸らさないようにしよう! 瞬時に嘘を見破られた2人は、渋々梯子から離れて行き、そして今度こそ階段を見つけた。なんてことはない、左側にあったのだ。
階段を登って行く一行。そして病室は探すまでもなかった。何故なら階段を登りきった目の前には『226 原田』と書かれた個室があったからだ。
「んお? ここか、着いたぞ。」
忠彦が呼びかけ、政俊が扉を開く。磁石で固定されている横開きのドアは、少し力を入れるだけで開いた。
ドアを開けると、忠彦と同じくらいの年齢の男がベットに寝て、女がその横で椅子に座っていた。
私の書く小説で、神たち、閲覧者達、またその他の世界の話も色々と増えていくので、いきなり世界観が入ってしまいましたがご容赦ください。
そして、これからも読んでくださったらすごく嬉しいです!
あと、勢いで書いているので、色々と今までの話に修正が入っています。そして未熟さゆえに、少しでもと今までの話に描写を付け足しています。
また読んでくださったら嬉しいです!




