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12  家に帰ろう

「ったく、マジにありえねぇんだけど? なぁ、兄貴?」

「すまん」

「すまんで済んだら警察はいらねっすよ? わかってるか? あぁ?」

「本当にすまん」

「本当にをつけたところで、事態は何も変わらないぞ?」

「……もう、なんと言っていいのやら……」


 わからない。もう、何と言ったら許してくれるのかがわからない!!



 前回、危ない運転をしてしまった俺は、後ろを走っていた運転手に怒鳴られて、説教をくらった。しかも、誠二と朝河と原田さんもとばっちりを受けてしまった……。


 そのおかげで、今3人の心はひとつ。「どうやって落とし前をつけさせようか」で一致している。恐い。酷い。


 しかも、俺は今、車の外で、アスファルトの上に正座させられている。砂利がいっぱい転がっていて、痛い。でも、それを伝える勇気が俺にはない。まるで拷問だよ……。



「本当に反省してんのか?」

「あぁ、勿論だ!! 反省しているよ!!!」


 咎めるように訊いてくる誠二に、俺は全力で応えた。



「ならもっと、元気が無くなっていてもおかしくないと思うんだけどな?」


 全力で応えたのに、逆効果だったらしい。朝河の視線が痛い。しかし、応えなければ……。



「……あぁ、俺は自分の不甲斐なさがうらめしいよ……」

「元気に応えた後に、そんなにしおらしくされても、演技にしか見えないんだか?」


 原田さんのちょっと控え気味の意見が出た。じゃぁ、一体俺はどうすればいいんだ!?



「……演技じゃない、よ?」


 あぁ、語尾がちょっと変になってしまった!! 



「『よ』だって? 兄貴に似あわねぇんだけど? 演技だろ?」


 こ、恐い……、いつもは気さくなのに……。しかも細かいとこまで鋭い……。流石我が弟! 兄の変化にはよく気づく! 俺は誉めてあげたい気分だ! だが、今は、今だけは恨んでやる!!! 



 チャラララララ〜、チャラララララ〜ララ〜……



 怒られている俺の目の前で、朝河の携帯電話が鳴った。あの、よくマジックのときとかに流れる、アレだ。



「ん? 誰だ? あぁ、美智(みち)か。 もしもし? なんだよ? っわ、うっせぇ!!!」


 朝河が電話に出てすぐに、携帯から怒声が聞こえてきた。何を言ってるのかは流石にわからないが、美智、という人はすごく怒っている。話し方からして、多分妹かな?



「え!? 今? ……うわ!? もう9時!? 悪い悪い、もうちょっとだから頑張れ!!」


 ん? なんでそんなに慌ててるんだ?

あ! まさか俺が迎えに来るのが遅かったせいで、朝河が帰るのも遅くなってしまったのか!? 俺は……、俺はなんてことをしてしまったんだ!!



「おう、あと5分くらい……、あぁ、あぁ、じゃ、切るからな」


 朝河は電話を切ると、俺の方へ向き直って言った。



「まだ、許したわけじゃないけど、全くもって許してないけど、落とし前は誠二先輩と原田さんに任せるよ。だから、一刻も早く俺を家まで送ってくれ!! いや、送ってください!!! マジで妹が切れ掛かってるんだよ!!」


 何!? さっきまであれほど怒っていたのに、頼んでくるなんて……、本当に大変なんだな。切れ掛かってるって? そ、それは恐いな……。でも、送るの、赦してくれるかな?


 俺は誠二のほうをチラッと見てみた。



「あぁ? なんだよ? こっち見てないで、早く車に乗れよ!」


 おぉ!! さすが我が弟!!! やっぱり俺は、よく出来た弟を誉めるよ!!! 


 俺はすぐさま運転席に乗った。そして、誠二も朝河も原田さんも乗ってきたのを確認して、出発した。



「朝河? 5丁目の2−53だよな?」


 俺は朝河の番地を確認する。



「あぁ、わかるか? そこの角を右だぞ?」

「勿論♪」


 わからない訳がない。だって、俺は車に乗っていろんなとこに行くのが大好きなんだから!!!  よく迷ってしまうけど……、まぁ、こんな住宅街だったら楽勝だ♪


 

「朝河? 俺が迎えに来るの遅くなって悪かったな。妹が待ってたんだろ?」


 俺は、後部座席の左側に乗っている朝河に謝った。

今謝らないと、多分一週間は引きずってしまう……。


「へ? いや、あんまり関係ないけど?」

「いやいや、気を使わないでくれ、50分も待ったんだろ? 本当に悪かった」


 こんな俺に気を使ってくれるなんて、なんていいヤツなんだ!!



「兄貴? 朝河が終わったのって、俺が終わってから30分後だぞ?」

「へ?」

「うんうん、しかも、運の悪いことに、主任に捕まって、後片付けもしたし、実際にバイトが終わったのは、誠二先輩が終わってから50分後だよ?」

「そりゃ不運だったな〜♪」


 言葉を失くしている俺を無視して、誠二は茶化すように言った。

 つか、50分!? 俺が着いたころとほぼ同時じゃないか!!!


「ちょ、誠二先輩!? それ、不運だって思ってないでしょ!!」

「え? 俺はお前のことは不運だったって思ってるよ? でも、まぁそれ以上に主任に見つからなかった俺は幸運だったな〜♪ って思ってるだけだぜ♪」

「そりゃないっすよ〜!」

「気にすんなって! アハハハハハ」

「全く……アハハハハハ」


 快活に笑った誠二に釣られて、朝河も笑った。そうか、誠二はこんな感じでバイトをしているんだな。兄として、少し心配してたんだが、まぁ誠二に限って心配するようなこともないか!


 しかし……、2人は楽しそうに笑っているが、俺の……、さっきのあの申し訳ないという心はどうすればいいんだ!? クッ……無念だ。



「そうそう、9時から今日、テレビでホラー映画があるでしょ?」

「おう、あの、去年話題になったやつだろ?」

「そうっす! 妹がねぇ恐がりなのに、ホラーが好きなんすよ」

「確かに!! 恐がりでもホラーは面白い! いや、恐がりだからこそホラーは面白いんだ!!!」


 ホラーの話になると、原田さんが活き活きしてきた。



「ホラーが好きなんっすねぇ。そういえば、あの着メロも恐かったもんっすね」

「……変な丁寧語だな?」

「そうっすか? あぁそうそう、それで今日は早く帰って一緒に映画を見るってのが妹との約束だったんっすよ。 で、あの時間帯の映画は大体4分後に始まるでしょう? 礼一? 間に合う? た、多分だけど……、もし遅れたりしたら、俺の妹は鬼になると思うんだ……、いや、あくまでも多分の話なんだけどな!?」


 いきなりタメ語になったから、正直ビックリしてしまった……。

って、朝河!? すっごく冷や汗かいてるぞ!? それ、今までに何度もあったんだな? トラウマなんだな? なんか可哀想になってきた……。


 元気付けるように、俺は言う。


「あぁ。間に合う、間に合うさ!! ……というよりもう着いたぞ」

「ありゃ、いつの間に!? じゃ、送っていただいて有り難うございました!! おやすみなさ〜い」


 そう言って、朝河は扉の向こうに入っていった。5階建てのアパートだった。


 妹に怒られないことを、車の中で祈っておいてやろう……、な〜む〜……。


 ふぅ、次は家までだな。そういえば、映画があるってことは今日は金曜日かぁ……。


 ん!? 金曜日!?



「しまったーーーー!!!!」

「ぬわ!? なんだ!? 何かあったの!?」

「ん? シートベルト締めてないのか?」


 おっと、思わず声に出てしまった。何事かと思って、助手席から誠二の驚いた声が聞こえてきた。原田さんは、シートベルトが締まってないと思ったのか? 妙なことを訊いてきた。


 自分で言うのもなんだが、あれだけの叫び声を聞いといて、よくシートベルトだと思ったな。



「いや、実はな……」


 いや、多分こんな事を言うと、呆れられてしまうだろうなぁ……。


「なんだよ!? もったいぶらずにさっさと言えよ!!」


 言いよどんでいると、誠二が痺れを切らした。



「それが……」


 しかし、これを言ったら『くだらない』と怒られるような気がしてなかなか言えない。



「そうか、そういうことだったのか」


 え!? まだ俺は何も言ってないぞ!? なぜ突然重々しい様子で納得したんだ!? 原田さん!? アンタの思考回路はどうなったんだ!?



「え? なんだよ。何かわかったの?」


 わかる訳ないじゃないか!! 俺は何も言ってないんだぞ!?



「あぁ。アレだろう? アンタもホラーが見たかったんだろ?」


 違う! 違うよ!! 言っちゃ悪いけど、俺はホラーなんてだいっ嫌いだ!!!



「なんだよ。そんなことかよ。心配して損した……」


 あぁ、誠二があきれた視線を俺に向けてくる……。違う、違うんだ!! 



「違う!! 聞いてくれ! 違うんだ!!! 俺は、俺は今日の8:30からある、『隠れたドライブ名所、暴こうぜ♪ 〜あなたはこの道、挑戦できますか?〜』っていう番組を見たかったんだよ!!!」


 信じてくれ!!!



「……そんなに心配しなくっても、わかってるって♪」


 おぉ、ありが――



「どっちにしても、くだらないことには変わりないんだろ♪」


 やたらとテンションを上げて言っている……、つまり本当にどうでもいいらしいな。



「くだらないだと!? 貴様、ホラーを愚弄するか!?」


 あぁ、なにやら原田さんの機嫌が悪くなってしまった……。



「誰もそんなこと言ってないじゃん♪ ま、どうでもいいけど」

「なに!? ホラーがどうでもいい!? お前の頭は何でできてるんだ!?」


 原田さん? そんなに真剣な顔して……、本気で訊いているのか? というか、なんでそんな話になってしまったんだ!? 


 いや、落ち着いて考えてみよう。

誠二はホラーがどうでもいい、と言った。そして、原田さんは驚いて、お前の頭は何で出来ているんだ!? って……、言ってた、よな? そんなの、脳と頭骸骨に決まっているんじゃないか? 一気に話がズレてしまっているぞ!?



「俺の頭ねぇ、遊び心とプラス思考かな?」


 えぇ!? 誠二!? 実体がないじゃないか!!! なんだそれは!? 原田さんも納得しないぞ!?



「そうか……、ちなみに俺は、恐がりな心と、プラス思考とマイナス思考がごっちゃになってるよ!!」


 えぇ!? 原田さんまで!? 実体がないじゃないか!!! しかも、機嫌が良くなってる?


 さては、原田さん、ただそのセリフが言いたかっただけなんだな?

だが、これだけは、そんなものでは頭は出来ないことを教えてやらないと……。



「2人とも、頭がそんなのでできてる訳ないだろ? 実体が無いじゃないか!! いいか? 頭ってのはな、大体脳と頭蓋骨と皮膚と髪と……、ああ!! キリがない!!! とにかく、そんな実体のないもので頭は出来ないんだ! わかったか?」


「……」


 ん? 返事がない。



「おい?」


「クー、クー……」

「ガー、ガー……」


 ……寝てしまったようだ。人が話しているときに寝るなんて、失礼な奴等だ!!!


 でも、起こすのも可哀想だから、そっとしておいてやるか。



 そして、俺は静かに家までのドライブを楽しんだ。おっと、心配はいらないぞ? 今度は寄り道してないからな♪

やっと家に帰れそうです!!


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