11 礼一の意外な特技
原田さんは、結構怒っています。
……はぁ、なんでこんなことに? いや、俺等が悪かったんだが……。
あぁ、車の中に重い空気が流れている……。
「ん? ハハッどうしたんだ、君達? さっきみたいに楽しげに話したらいいじゃないか!! ……俺を無視して」
く、暗い……、さっきから原田さんがしきりに俺等に会話を進めてくる。でも、最後に必ず「俺を無視して」をつけてくる……。
「い、いやぁ、そんなこと言わずに、原田さんも一緒に話しましょうよ!」と、最初の頃、俺等の爆笑が終わってすぐの頃に朝河が応えた、俺は勇者みたいだ、と尊敬した、が、「ハッハッハ、……どうせ忘れられるんだから、最初から会話に入ってないほうがまだいいよ。」と、すごいジト目で、しかし笑顔で朝河を見ていた。俺は鏡越しに見た。……恐かった。
…………。
沈黙が続く、なんだか1分が10分にも、30分にも思えるよ……。
道路を延々と、まっすぐに走っていたこの車が信号で止まったとき、朝河が口を開いた。
「あ、す、すいませんっす! お、俺、ここでいいっす!!」
に、逃げか? 逃げなのか!? 1人で逃げるなんて、許せない!!
「ん? なんでだ? お前の家は5丁目なんだろ? まだ遠いじゃないか!」
俺は、にこやかに、友好的に言った。
「あ、あはははっはははっは、な、なな何言ってんだよ? 俺の家はす、すぐそこだよ? 大丈夫だって!!」
こんなに挙動不審になっていたら、どう考えても逃げじゃないか!!!
「へ〜、お前って、こんな雰囲気の中で、1人で抜け出そうって考えてるんだ?」
せ、誠二!? 原田さんのいるところで、そんなことを言ったら、多分またなんか言われるぞ!? 笑顔で!
「ハッハッハッハ、だぁかぁらぁ、楽しそうに話していればいいじゃないか! ……俺抜きで」
う、うわぁ!! こ、恐い、原田さんの目が、目がギロッてなってる!! 誠二!? どうするんだ!?
「ハッハッハッハ、そんな言いかたしたらぁ、逆に話しにくくなるってぇ、わかりませんかぁ?」
な、なああああああああ!!!!!
や、やばい、やばいヤバイやばい!!!!! 誠二の声が、語尾が伸びてる!!! こ、これは誠二が切れる寸前だ!!!
俺か? 俺しか、この状況を何とかできないのか!?
「ハッハッハッハ、すまなかったなぁ、俺のような、影の薄いヤツには? そんなことはわからないよ。影が薄くて悪かったな。」
ひ、ヒィィィイ、恐い、恐いよ……、ホラー映画よりも恐い……。
最後の一言のとき、原田さんの目がギロってなった!! マジで恐い!!!
「誰もぉ、そんなこと言ってないでしょぉ? なぁに悲劇の主人公気取ってるんですかぁ? あぁ、すいません、脇役の主人公ですよねぇ?」
いや、あの、その……、言ってないっていった瞬間に、存在が薄いって言ってるぞ?
あぁ、もうしょうがない!! この手は……、この手だけは使いたくなかったが……、やるしかない!!
「はぁぁ……、俺が、俺が全部悪いんだよなぁ……」
俺は重〜く、重〜くため息をついた。絶望感を含ませて。
「はぁ? 次は兄貴が悲劇の主人公気取ってるわけぇ?」
せ、誠二が恐いけど、頑張るんだ! 俺!!
「だってよぉ、俺が……、元はといえば、俺が原田さんの声に驚いてしまったから悪いんじゃないか……」
とにかくこれは、超危険な技だ。なんせ、成功すれば、俺が、俺だけが悪者だ。
でも、この場を収めるにはこれしか……。
「あぁ、全て俺が悪いんだよ、原田さんのことを忘れていた、俺が悪いんだよ」
来い! 喰らい付け!
「ハッハッハッハ、そんなこと気にされると、逆にムカつくんだけどな?」
よし! 原田さんの矛先がこっちへ向いてきた! よし! もうちょいだ!!
「いや、影が薄い、とかじゃないんだ。俺の記憶力の問題なんだ……、本当にすまなかった」
「ハッハッハッハ、記憶力は確かに問題だけどな? この2人だって、俺のことを忘れてただろ?」
よし、来た!!
「いや、俺があんなに盛大に忘れてたことを暴露してしまったせいで、誠二と朝河までもが忘れていた、と思い込んでしまったんだ。」
「は? どういうことだ?」
「何言ってんだぁ?」
「へ? なんて意味っすか?」
よし、みんな話に聞き入っているようだ。仕上げだ!!
「だから、俺が盛大に忘れてしまっていた、と言うことによって、誠二と朝河は忘れたと思い込んでしまったんだ、つまり催眠状態みたいなものだ。だって、思い出してみろよ、2人共、原田さんが声を出したときに、驚かなかっただろ?」
「そういえば……」
「確かに……」
「そういうことか……」
「だから、俺が全て悪かったんだ、本当にすまなかった、ごめん」
……否定の声は出てこない……な?
ふう、うまくいったみたいだな。しかし、本当に大変なのは、ここからだ。みんなに怒られてしまうからな……。
「いや、礼一だけが悪いんじゃねぇよ、思い込んでた俺も、俺だしさ。原田さん、すいませんっす。」
「……俺も、すいません。しかも勝手に切れそうになってしまったし……」
「いやいや、俺も大人気なかったよ。礼一? くんも、気にしないでくれ」
おぉ? なんか丸く収まりかけてる? これは、もしやお咎めなしか!?
「お、怒らないのか?」
「「「まぁ、俺等にも非があったし……」」」
おお、初めて語尾までそろったな……。
よかった、怒られなくて済んだ……。
「ありがとう!」
俺は満面の笑みでそう伝えた。
ここまでうまくいったのは、初めてだ! 3人とも素直でよかった。
ん? さっきの話? あぁ、全部デマ、俺が即興で考えた作り話だよ。
催眠状態なんて、そんなの簡単に作れない。いや、緊迫した状況ならありえるかもしれないけどな?
それにしても、この作戦はリスクもでかいし、難易度も高い。
だって、成功したら、大抵は俺だけ悪者だし、しかも突然これを使うときはやってくる……。
セリフを考える暇もないし、そこにいるメンツによってパターンも変えなければならない。
使いたくなかったこの手段、名づけて、「全て俺のせいにして丸く治めようじゃないか作戦!!」 略して、「全丸!」。言う上で難しいところは、フルネームを言うときよりも、略して言うときのほうが、ちょっと、力を弱めなければならないことだ。
え? なぜかって? ほらほら、よく見てくれ! 略しているときのほうが、「!」が少ないだろう?
この手段は、俺が3才のときに編み出した技だ。
理由は…………、まぁまた今度でもいいだろう。
これは、話術と演技力と応用力がないとできない……、だって、その場にいるヤツを全員騙さないとダメなんだ。
これは、俺だけの技、たった一つの俺の特技だ!!
真似しちゃダメだぞ? なんたって、超危険だからな。それに、これは絶対に俺だけの技だ。譲れない、この技のよさがあるんだよ♪
「れ、礼一? 信号! 信号青になってるぞ!!」
「え? お、おお!!」
しまった、物思いにふけりすぎてしまった。
「礼一、俺の家は、次の次の角を左に曲がって、まっすぐ行ったとこだからな!」
「お、おう。というか、降りるんじゃなかったのか?」
「気が変わった、つーかこの雰囲気で降りれねぇよ」
「そうか」
よかった、本当によかった!! 丸い、車の中の空気が丸いよ!! 頑張った甲斐があったよ!!!
「なぁ、気になってたんですけど、原田さん? どこに行く予定なんですか?」
おぉ!! 会話が突然始まった! 誠二だ!!
「ん? えっと……」
原田さんは、ポケットからメモ帳を取り出して応える。
「う〜ん、……市城町だ。どこにあるか知ってるか? 俺はこの辺りはあまりわからないんだ」
「へ〜、……え!? 市城町!? 俺の家、市城町ですよ! 何しに行くんですか?」
「あぁ、浅生さんという人の家に行くんだ。88−56番地なんだが、知ってるか?」
「「「えぇ!?」」」
「ん? 何をそんなに驚いているんだ?」
「お、俺、自己紹介してなかったっけ? ……俺、浅生礼一なんだけど」
「俺は、浅生誠二です……。あと、住所は市城町88−56番地です」
「な、なに!? それは調度いい!! 乗せていってくれないか?」
「それはいいけど……、加賀崎に停めてある車はどうするんだ?」
「ん〜、まぁ、明日にでも取りに行くさ!」
「了解」
不思議なことも、あるもんだなぁ……。
「ちょ、礼一!! ここ左! 左!!」
おっ!? 忘れてた!! ちょっと行き過ぎた!!!
思わず俺は急ブレーキをかけて一瞬バックしてしまった。そして左に曲がった。
「「「うわわわわわわわわわ!!!!」」」
ブーーーーーーーー!!!!
「「「何してんだよ、アンタ!!!?」」」
「バッキャロー! 何考えてんだ!?」
「ごめんなさい!!」
結果、誠二と朝河と原田さんと後ろを走っていた車の運転手さん(おじさん)に怒られた。恐かった。
この特技は、書くのが難しい・・・・・・流石必殺技?
いや、でもこの技ができた理由は、シリアスじゃないです!!!




