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#1   幸せそうな家族

 ……最近、うちの親父の様子がおかしい。

親父は普通の、どこにでもいるサラリーマンだ、本当に普通の。

 朝は目覚まし時計で起きて朝刊を読みながらコーヒーを飲み、昼は大抵、蕎麦屋で済ます。親父が帰ってきた時を見ると、ネクタイを緩めながら「ただいま」と言い、その後はもちろんビールを飲んで一言。


「あ〜、やっぱり仕事の後はビールに限るぜ」


 このセリフはサラリーマンの仕事の一部らしい。でも、本当なのか、本当にサラリーマンは毎日このセリフを言っているのか?

 一度、俺がまだ小学生の時に親父に「何で毎日同じこというの」と聞いたんだ。そうしたら親父は真っ赤な顔で、くだらない、というようにこう答えた。


礼一れいいち、お前はそんなことも知らねえのか? 毎晩ビール飲んで『あ〜、やっぱり仕事の後はビールに限るぜ。』って言うのもよぉ、サラリーマンの仕事なんだよ。これやらねえと上司には咎められるし、給料は減るし、嫌なことばっかりなんだよ……ヒッ」


 う〜む……、これはやっぱり嘘っぽくないか? 酔ってたっぽいし……。

 いや、いやいやいや、やっぱり人を信じないのは良くないな。それに、親父が嘘をつくわけないじゃないか。

 でも、親父は最近このセリフを言わないんだよ。なぜ? 何かあったのか?

 何度か理由を訊こうとしたが、親父を前にすると言葉が出てこない。

 今だって目の前に親父がいるけど話しかけられない、親父が深刻な顔をしているからだ。

 嗚呼、何があったんだ? 親父はいつも自分勝手で能天気に笑っていたじゃないか。俺は20年間生きてきて親父のこんな顔を見たことはないぞ。母さんも見たことないみたいで気味悪がってるし……。

 ああ、いつまでも悩んでいても仕方がない! 思い切って訊いてみようじゃないか!


 「おい……、おや……」

  チャラララララ〜チャ〜ラララララ〜

 

 せっかく意を決して話しかけようとしたのに、俺の携帯に電話がかかってきた。弟の誠二せいじからだ。

 ちくしょう、せっかく覚悟を決めたのに……。でも、イライラしてもしょうがない。仕方がなく電話に出る。


「もしもし?」

『あ、兄貴?』

「それ以外に誰がいるんだよ!」


 当たり前のことを訊いてきた弟に腹が立った。それにこのタイミングなんだから声が荒くなっても仕方ないだろう。


『あれ? 何か怒ってる?』

「うるさい! 用件は何なんだ?」

『何で怒ってるんだよ? いつもあまり怒らないのに……』


 弟は俺が怒っていることに驚いているようだ。確かに、俺は普段からあまり怒るほうではない。しかし、やっと覚悟を決めて親父に問いかけようとしたのに……、この覚悟をするまで2週間もかかったのに……。怒りたくもなるさ! ちくしょう!


「で? 何の用なんだ?」

『あれ? 機嫌直ったの?』


 不思議そうに訊いてくるが、そんな訳ないじゃないか! でも、これでまた言い返したら話が進まない……。


「もういいから! 何の用なんだ?」


 もういいと言ったからか、誠二はホッとしているような声で答えた。


『あのさ! 今バイト先なんだけど、迎えに来て!』

「はぁ? なに甘ったれたこと言ってるんだよ! 自分で帰って来い!」


 信じられない……、高2にもなって、なんてやつだ。

 しかし、誠二は引き下がらない。


『今、大雨なんだよ。濡れて帰れって言うの?』

「お前、俺が何も知らないって思ってるだろ? 俺は見たんだからな! お前が傘を持って出かけるのを」


 俺が目撃していたことを言ったのに、誠二はまったく焦らない。なんて図太い奴だ。


『え? 見てたのかぁ。でも、あれ後輩に貨しちゃったんだよね』

「え? 本当に?」

『あぁ、本当に。つーか、後輩の面倒みんのは、先輩として当然だろ?』


 ……俺は誠二のことを、いつまでも自分のことしか考えない子供だ、と思っていたが、いつの間にか成長していたんだな。俺は誠二の成長に感動した。

 こうなったら、どこへでも迎えに行こうじゃないか!


『それに、傘がなかったら兄貴が迎えに来てくれるっておもったからさぁ』

「…………」

『あれ? 兄貴? どうしたんだよ、黙りこくって』


 ……やられた、まさかそんな続きがあったなんて……。少しでも感動した自分がちょっと恥ずかしい……。


『兄貴? 迎えに来てくれるよな? 俺、本当に傘がないんだよ』

「はぁ、しょうがないな。後輩に貸したのは本当みたいだし……。わかったよ、迎えに行く。加賀崎駅の前の土産屋だよな?」

『やった、よっしゃ! 有り難う兄貴! あと、もうすぐバイト終わる朝河って後輩がいるんだけど、一緒にいい?』

「え、後輩?」

『そう、家で妹が1人で待ってるらしいんだけど、歩きなんだって。こんな雨の中、大変だろ?』


 なんだって? 後輩のことをそんなに気に掛けるなんて……なんだろう、この込み上げる熱い気持ちは、どうしよう、わからないが叫びたい、この気持ちを伝えたい!!


「クッ……誠二よ、一体いつの間にそんなに成長していたんだ! 兄ちゃんは嬉しいよ!」

「感動しすぎだろ……」


 想いを叫んだ結果、呆れた声が聞こえてきたが、だって感動したんだからしょうがないじゃないか!


「じゃぁ、今から行くから、わかりやすいとこにいとけよ」


 そう言って、俺は携帯を切った。

 俺が車のキーと財布と携帯を持って出かけようとすると、すかさず親父とお袋が俺を呼び止める。


「礼一! お土産屋の饅頭買ってきてくれ」

「母さんは屋台のたい焼き買ってきて!」


 ……抜け目のない家族だなぁ。なんだか悲しくなってきた。でも、曇りのない笑顔で頼まれると、断れない……。


「……わかった」

「さすが礼一! 俺に似てやさしいなぁ! ハッハッハ」

「何言ってんのよ、私に似たのよ! ウフフフフ」


 2人の幸せそうな笑い声を後ろに聞きながら、俺は家を出て、車に乗って出発した。 

 親父のやつ、ついさっきまで深刻そうにしていたのは、何だったんだ?まったく、都合のいいやつだなぁ。


面白かったでしょうか?

少しでも楽しんでもらえたら、嬉しいです!

これから巧く、礼一を振り回させれるように頑張ります!

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