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婚約破棄を申し出られました

婚約破棄を申し出られました

作者:

「アデライン・ローズウッド公爵令嬢、貴女との婚約は破棄させてもらう。」


 凛とした声で、クリストファー・レッドフェルド王太子殿下に伝えられた言葉に数瞬、脳がその言葉の意味を理解する事を放棄しました。


 徐々に、理解していく内に、言い知れない悲しみが私の心へと染み渡ります。


 久しぶりに学園のバラ園へと誘われ、前を歩く殿下の背中を一歩下がった位置から眺める幸せを噛み締めていた私ですが、まさに、天国から地獄へと叩き落された瞬間でした。


「な、何故、と、お聞きしてもよろしいのでしょうか……。」


 私が呆然と殿下の碧玉の瞳を見つめると、殿下が苦々しげに端麗な顔を顰めました。


「それは、貴女がよくわかっているのではないのか。胸に手を当ててよく考えてみて欲しい。」


「と、申しますと……」


 私は言われた様に手を胸に当てて考えて見るものの、心当たりが無く、先ほどから煩いほどに響く心臓が動悸を激しくしているだけです。


「わ、わたくし、何をしてしまったのでしょうか……?」


 すると、殿下が形の良い口を歪めて一つづつ、私の所業を話し始めました。


「手を繋ごうとすると、ひねり上げられ」


「肩を抱こうとすると、避けられ」


「腰を抱き寄せようとすると、半回転のち足払いをされ」


「背後から目隠しをしようとすると、背負い投げ」


「舞踏会ではパートナーとのダンスをしないといけないのに、お辞儀の後はむしろ武闘会」


「良いムードになったかと思って、キスをしようとすると、瞬間移動」


「思いあまって、椅子に押し倒そうとすると、腕ひしぎ十字固め」


「婚約者とのふれあいも出来ない私にはもう、貴女との距離を縮める為にどうすれば良いのか思いつかない。」


 確かに、殿下のおっしゃる通りの事をしてきました……。でも、それは、


「ここまで嫌われているのであれば、婚約破棄も致し方ないと」


「で、殿下がいけないのです。」


「どこら辺が?」


 冷たく響く声に、つい殿下を詰ってしまったと怖気付いて震える身体を押さえ、勇気を振り絞り声を上げました。


「ちょ、直前まで、気配を感じさせないのですもの。殿下のお側で高鳴る鼓動を何とか抑えている私にいきなりあの様な行為をされてしまったら、つい反射で身体が動いてしまうのです。」


「気配を感じさせると貴女を捕まえる事も出来ないのに?どうすれば私は貴女に触れられると言うのだ。」


「そ、それは、一言言葉をかけてくだされば……。」


「……一言、声を掛ければ良いと?」


「は、はい……。」


「アディ」


「はい。」


「手に触れても?」


「はい。」


 差し出した手に、殿下が優しく触れてくださいました。初めて、手を繋いだ私はあまりに恥ずかしく幸せできっと顔が真っ赤になってしまっている事でしょう。涙目になって殿下を見上げると、苦笑いしていらっしゃいます。


「アディ、肩を抱いても?」


「はい。」


 殿下が私の肩を抱き寄せます。初めてまともに触れた殿方の固い胸板に心が跳ねる様に踊ります。

 そうしていると、殿下がすっと、右手を私のほお近くに上げ、触れる寸前でやさしく言葉を掛けてくださいました。


「アディ、頰にふれても?」


「はい。」


 顔を少し上げて、殿下の手が触れやすい様に致します。殿下のきらめく瞳が私をじっと見つめていて、その熱い眼差しに耐えきれなくなり、私は目を瞑りました。


 すると、殿下の気配が私の顔へと迫り、触れる直前に思わず反射で、払い腰をかけてしまいました。


 ドスンと、芝生の上に見事な受身で転がる王太子殿下に、私は真っ青になってしまいました。


「やっぱり、婚約破棄しよう。」


「あぁっ、殿下ぁ、申し訳ありませぇえん!!!」


 私が殿下に思わずすがりつくと、殿下は踵返しからの縦四方固めを繰り出しました。


 油断していた所為でガッチリ固められてしまいます。


「ふ、これで逃げられまい。」


 そう、殿下が呟いたと同時に、唇に柔らかな感触を得ました。





 後日、バラ園で繰り広げられた組んず解れつの格闘劇が、目撃者により学園中へ噂を拡散され、何故か公爵令嬢が王太子殿下に襲われた挙句初めてを奪われた事になり、婚約者であった事もありそのまま結婚へとなだれ込んだのであった。


 なんだかんだと二人はおしどり夫婦として幸せに暮らしたそうである。




アデライン・ローズウッド

 公爵令嬢。幼い頃にクリストファーと婚約をしたが、恥ずかしがり屋さんな為、中々殿下との距離を縮める事が出来ず、フラストレーションを格闘技で発散していた。

 殿下に触れられるとうっかり技を繰り出してしまう。

 一言、声を掛けてもらえれば大丈夫。


クリストファー・レッドフェルド

 王太子殿下。幼い頃にアデラインと婚約して以降、寄ると触ると技を掛けられ、すっかり受身の達人に。

 いつか一本取ってやりたいと、格闘技をこっそり習得しようとしているが、天性の格闘家のアデラインに中々叶わない。せめてもと、寝技に絞って習得中。なんとか一矢報いることが出来て嬉しい。



 本編後、縦四方固めを外して巴投げをした後、「(キスは)初めてだったのにぃぃ〜!!!」と恥ずかしさのあまりに泣き叫びながら逃げ出す公爵令嬢姿を目撃され、その後、草まみれの王太子殿下も目撃された事から、噂が広まり、激怒した公爵閣下に押し切られ、学生結婚に至る。

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― 新着の感想 ―
[良い点] くだらないけど凄く納得できる婚約破棄の理由で面白かったです。 後、殿下が聖人な所も良かったです。 [一言] 肉体言語より普通に話す方が良いに決まってますよね。
[一言] わぁっはハハハハハハハハハハはっ!! いい意味で裏切られた(?)作品っ!! おもしろくて、どこかほっこり。
[一言] 何という似たモノ夫婦。近衛が不要なレベルですねえい(笑)
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