君と僕の恋する世界
①
ウァ~!
ッダダダダダッ!
俺は階段から…
落ちた。
保健室?
目を覚まし、少し起き上がろうとした。
「アッ!ィッテテテテ…」
「もう少し寝てなさいね」先生が言った。
ミーン…ミン ミン ミンミーン……
「イヤ、大丈夫です。もう行きます…」
「ありがとうございました…」
と、部屋を出た。
ガラガラ…扉を開けて出ようとした…その時…
プリントの山を持った女の子だった…
ウワァッ~!!
ドンッ!!
ぶつかった二人は
見事に倒れた…
「痛てぇな~…よそ見してんなよ~」
「イッテ~…… あっ~と ゴメン!……」
「て…誰?」莟が聞く。
「誰って…えっ? ここどこ?」
辺りを見渡す…
「君は?」
「桂木… 桂木 莟…」
「あんたは?…制服違うし… 転校生?」
「えっ?転校生~?」
さっぱりだった。
「ねぇ君… あっ!ごめん…とりあえず、一緒にかたすよ…」
仕方なしに、プリントを拾い集める。
「君さ…あのさ…」
言いかけたけど、
それどころでは…なかった…
「ねぇ名前は?何年生?どこから来たの?」
質問攻めに俺は戸惑った…。
全然 見知らぬ校舎だった。
「ウソだろ…」
②
「俺は…結城 健。たけるでいいよ、二年二組のはずだけど?」
俺は、半ギレだった…
その、質問攻めにも!わけのわからない場所に居るのも!
「えっ?あたしも二年二組だけど…」
「ハァ?真似すんなよ」
「えっ!なによ!」
「ウソだよ、なに真に受けてんだよ…」
「嫌なヤツ!」
ここが どこかもわからない…
俺、何してんのかもわからない。
どうなってるんだ?
暑さのせいか?
気が遠のいていきそうだった…
ため息をついた…
「ごめん、俺よくわからなくてさ…」
「君…ちょっと聞くけど…」
「ここどこ?なんて学校?」
「え?分からないの?…町田…高校だけど…」
「ホントに分からないの?ねぇ頭打った?大丈夫?…」
「町田高校~??」聞いたこともなかった…
俺、どうしちゃったんだ?
「えっと…どうしたんだっけな、
えっと…そうだ、階段から落ちたんだっけ」
「ねぇ…君…「ねぇ!君とかやめてよ!名前…あるし…あたしは…つぼみでいいよ…」
あっそうか…でも初対面だし…呼びにくいよ…」健は照れた。
イヤイヤ照れてる場合じゃない!
「えっと…うん…」
「話しても理解できないと思うんだけど…」
「俺、階段から落ちて…知らない保健室で寝てて…」
「えっと、うーん… 分かりずらい?」
莟はクスッと笑った「それ、口癖?」
「え?何が?」と言うと、「えっと…うん…って…」
またクスッと
「あぁ…いや、気が付いたら、
知らない校舎に居てー…そんでー…」
「ねぇ…信じる?」
俺は必死なのに…
「えーーー!」
「信じないけどっ」とあっさり。
「でも、ホントに記憶ないのー?」
大きな声で聞いたかと思うと、
「ないの?」そっと聞く。
「記憶があるとか、ないとかじゃなくて…」
「ホントに…ただ…階段から…落ちただけで…」
「ウソでしょー??」
「記憶喪失?」
「おいおい、記憶喪失だと~?」
「俺が驚くわ!アホ!」
お互い…
理解不能だった…
③
「ちょっと教室とか行ってみようよ、なんか思い出すかもよ?」
と、莟は案内をしてくれた。
心で思った…「思い出さねーって…階段落ちただけなんだから…」
莟が言った。
「本当に知らない場所なの?」「うん…」
「教室も?」「あぁ…」
「えっ?もしかして…」莟はハッとした…
「なに?」
「もしかして…帰るとことかも…ないわけー?」
健の顔を覗きこんだ。
「ヤベッ!そうか…俺んちが……わからないわ…」
がく然とした。
「困ったなー… じゃっ!一人で頑張ってね~」
コイツ!血も涙もないな
「ハイハイ、さいなら!」
「もう!ホントに嫌なヤツ!」
「まぁね…」
「でも…どうすんのー? 」
少し間をおいて…
「ねぇ、とりあえず…家来る?」
「いや、何言ってんの?ほっとけよ…」ボソっと言う。
「だって、健くん行くとこないんでしょ?」
「そりゃ…ないけど」
「それとも…もう一回、階段から落ちてみる?」
と莟は笑った。コイツ…!
「悪いよ、ホント大丈夫だから、じゃあな!」
と言うと、強引に俺の腕を掴んだ!
「ゥワアッ!何!?」
「大丈夫だって、あたしに任せて!」
「お前に任せる?笑わせんなよ」
「いいから!いいから!じゃあ、とりあえず帰ろうよー!」
開き直ったように莟は言う。
「おい!俺がすげぇ悪いヤツだったりしたらどうすんだよ!」
「ちょっとは心配しろよ!」
「おいって!」
「ほっとけないよー…そんな、帰る所もない人を~」と
ちょっと俺を睨んだ。「なんか…面白そうだし…」
ニヤッとした。
「お前は悪魔か!」
「平気だって。家はお母さんと二人暮らしだしさっ。逆に喜んじゃったりして!お母さんには、あたしがなんとか話しておくから!」
なぜか、はしゃいでいた。
「悪いな… でもホントにいいのかよ?」
「だって家の人驚くだろ?突然見ず知らずの男がやってきたらさー」
「なんか、勘違いされるかもしれないしさー…」
「そうかもね!でも何とかなるって!大丈夫!大丈夫!あたしに任せて!」ニヤッとした。
大丈夫かよー?俺は何だかドキドキしてた。
駅へと向かい、歩いた。
「一回乗り継ぐからね」「あっ…うん…」
見知らぬ場所を歩き、見知らぬ町を抜け…
電車に乗る。
「40分くらいで着くから」
「あっ、えっと…うん…」言葉が出ず…緊張した。
莟が言った。
「なんか、健くんとは前から知り合いみたいな感じがするね…」
「思い過ごしだろっ」
って…つい言ったけど
俺って、もしかして…すげぇ冷たい?
これからお世話になろうというのに!
なんて失態だ…
「あっ…ごめん…」「別にー」莟は怒ってはないようだ。
家へと着いた。
ここは、諏訪というとこらしい。
もちろん心当たりはない…。
「ただいまー!」
「健くんちょっと待っててね」
「えっと、うん…」
莟は家の人に説明していた。
「お母さん?彼ね、転校生なんだけど、ちょっと事情があって…今は家に帰れないの。」
「えー?」
驚くのはとーぜんだわな。俺は思った。
「しばらく家に居てもいい?」
「空いてる部屋もあるしさっ」
「家は構わないけど、健くんのお宅は平気なの?」
「まぁ一時的記憶喪失だから」莟は笑った。
「学校は…いつから?」
「あっ、ハイ!い…いつからでも…いいんです…けど…」
「あらっ、イヤだ、制服も違うじゃない?」と驚く…
苦笑い…するしかないだろ…
この危機をどうやって乗り越えるんだよ!?
すると、「んー、家はいいわよ?」
「どうせ二人暮らしだしね。賑やかになるわ。とりあえずそのー、一時的記憶が戻るまで、家に居なさいよ。家は平気よ、羽伸ばしてね。」と言って笑った。
親子だな…またもや苦笑い。
「制服は気にしなくても平気よ、ここは制服でも私服でもいい学校だしね」と笑う。
「あっ…ハイ…すみません、しばらくお世話になります」
俺は、深々と頭を下げた。
俺の方が、えーーーっ!なのに…
大人は、飲み込みが早い…
④
次の日
俺は、莟との登校生活が始まった。
俺は教壇に立たされ、転校生としてこの学校に通う事になったんだ。
莟は…いろんな事を聞く。
「ねぇ、前の学校ってどんなとこ?」
「彼女とかいたの?」
「うるっせぇなー…聞いてもどうせわかんねぇだろっ!」
「あっそっ!家追い出してもいいのよー?」
「ごめんなさい」
コイツめ!
「悪魔だなーお前は、まったく…」
「健くんに言われたくないわよ!」
「いつも冷たいじゃん!」
「この俺様が冷たいだと?」
「何も話してくれないじゃん…」
「へー…もしかして俺の事、好きだなー?」
「家追い出してもいいのよー」怒った…
「ごめんなさい」
半月近くが過ぎようとしていた。
毎日何事も起きないままの平凡な生活…
窓際の席に居た俺は、外を眺めていた。
俺…なにやってんだろ…頭をかかえた。
「あー…」
莟がきた。「ほら!帰るよー!」
毎日、一緒に帰ってくれる莟には感謝していた。
「もうすぐ夏休みだね」「そうかー」
「翔ちゃんと、ちずちゃんが、夏祭り一緒に行かないかって」
「いいけど、翔太と千津子ってできてんだろ?」
「二人で行かせてやればいいじゃん」
と言うと、少し下を向いた。
「あたしも…行きたいんだよね…健くんと」
「ダメ?」
「えー?…行かねぇよ。」
「だってお前、俺の事ウンザリなんじゃねぇの?」
「登校も下校も、家まで一緒でさっ」
「なんなら風呂も一緒でもいいぜぇ~」
「バカ!変態!んもぅ!とにかく!8月10日
土曜!あけといてよね! わかったー? 」怒られた…
「鞄で頭を殴るなよー」
「じゃ、帰るよー」「ハイハイ…」
⑤
中間テストも終わり、やっと夏休みがくる。
ハーッ「なんで俺知らない学校でテストまでやってんだ…」
千津子が来た!両手で机をバンッ!って… なんかコワッ!
「ねぇ!あのさっ、健くんて莟の何?」
「な…何、って何?しかも突然」焦った…
俺と莟はそう言った関係とは程遠く…
とりあえず…何となく…こうなったわけで…
言えないだろ…
俺は黙った。
「イヤ…その…」
「莟は健くんのこといつも心配してるし、健くんが来るまでは、ぜんっぜん男っけもなくてさー!?」
「お前なー言い方が悪い!言い方が!友達だろー!?」
「今までこんなことホント全然なかったのに、健くんの事いつも気にしてるし、いつも一緒に帰るし…なんか…謎ー…」
「好きってことかな?」「あれ?もう付き合ってるとかー!?」
「健くんは莟の事どぅ思ってるの?」
「え?えーーー?」
「ちょっと…待て待て待て!お前な、よく聞け」
「付き合ってもないし、ただのー…」
ん?ただの?なんだ?
「いや、そのー…」
「アイツは、ただ、おせっかいなだけでー… 」
「考えたこともなかったけど…えっとー…」
「少しは考えなさいよね!」「えっと…うん…ハイ…」
俺はダサい出合いがバレた訳じゃなくて…
ちょっとホッとしてた。
その夜
コンッコンッ
「おーい莟ー、ちょっと部屋入っていいかー」
「いいけどー?」
ガチャッ
「何よ…あらたまって…」
「あの、えっと…」
「俺、明日からバイトするから…」
「その…だから、明日からは 色々世話やかなくてもいいから…」
「おばさんにも言ってある…」
「そうなんだ」
ハーッ…「これで少し肩の荷が降りるわー」と莟は言った。
なんだか、寂しげに言うんだった。ホントかウソか…
「でも、ちゃんと10日はあけといてよね!」「ハイハイ」
「それだけだから、じゃおやすみ」
部屋を出た。
二週間ほどが経った。
なんとか言って日雇いにしてもらったバイトは、なかなかの高収入だった。
8月10日
「莟ー!おーい!つーぼーみー!」
「早く出てこいよー」「翔太たち待ってるぞー!」
ガチャッ
出てきたのは、浴衣姿の莟だった。
思わず…赤くなった… 俺って…ヤバイ…
目をそらした。
「翔ちゃん、ちずちゃん、お待たせー!」
「遅くなってごめんねー」
「可愛いー莟ー!!」「ヤダッちずちゃんだって」
翔太が言う「孫にも衣装だね!」
「いいこと言うな!お前!」俺は必死に話をそらす…
「じゃ、そろそろ行こっか」
翔太は張りきっていた。
「嫌な予感…」俺はボソッっと呟いた。
⑥
三人ははしゃいでいた。
俺は…
なんとなく莟が気になってた。
好きとか嫌いとか、よく分からない気持ち。
莟は無邪気にはしゃいでいた。
莟の射撃の下手さに、俺は本気になった。
「なにが欲しいか?」「え?えーー?」
「取れるの?」「お前と一緒にするな!」
と言って…
外した…
「えー?下手くそ!」
「しょうがねぇだろ!当たってんのに倒れねぇんだもん!」
「実はボンドとかでくっついてんじゃねぇの?」
「下手くそなだけじゃーん!」と笑う。
なんか、莟が笑うのが…俺は、ホッとするようだ。
「なんか、祭りって案外楽しいもんだな」
「俺、小さい頃以来…あまり祭りとかって来たことなかったけど、来てみるとさ…なんかさ… あれ?」
「どうしたの?」
辺りを見回した…
仕組まれた… ハメられた… なんてヤツらだ!
結局二人きりになるのだ。
二人で歩いた。
気マズイじゃん…
「ちずちゃんたち探そうかぁ…どこ行ったんだろ!?」
「お前、ホントに鈍感だな…」
「なんでよ!」
「まぁいいや」
「ねぇ、あそこの高いとこで花火見ようよ!」
小走りに先へ行ってしまった。
「おい、待てよー」
俺も走った。
辺りは暗くて…
「ゥワア…」
階段を登ったその時…
莟の花尾が切れてしまった。
倒れそうな莟を抱き抱えた。
「ゥワア!…ごめん…」
「えっと…うん」
「平気?」
「うん…平気」
変な気持ちになった。俺は恥ずかしくて
でも、莟を抱きしめた。
花火が上がった。
「キレイだね 」莟は照れていた。
二人は笑った。
このまま時間が止まってもいいと思った。
ひと夏の思い出となった。
⑦
学校が始まる。
放課後…
いつもなら「帰ろー!」と来るはずなのに…
どこ行ったんだ?アイツ…
「しょうがねぇなー…探すかー…」
俺は、学校中を探したけど…居ない。
先に帰ったのかな?
翔太に合った「おい、翔太!莟知らねぇ?」
ちょっと、なんだか俺は焦っていた。
「あれ?二人で帰ったんじゃなかったの?」
「いや、居ないんだ…」
「じゃあ、わかんねぇなー…」
「あっそっか…あ、ありがと!」
ゆっくり歩いて…
屋上へ行った。
なんで、俺は焦ってんだ?
夕日を眺めていた。
あれ?
あそこ歩いてるの莟じゃ…
俺は急いだ…
ダダダダダッ!ゥワア~!
お、落ちる~!?
階段から
落ちた…
ん?
目が覚めた…
イッテテテテ…
ここが保健室だといいと願った…
ミーン…ミンミンミンミーン…
暑いな…
「もう少し寝てなさいね」
先生が言う。
こ、ここは…
俺の…
俺の…学校…。
なんてタイミングなんだよ!
「先生、今日は何月何日ですか?」
俺はドキドキして、頭を抱えていた…
「今日は7月に入ったところよ!明日は土曜だからゆっくり休みなさいね!」
「ウソだろ…」
俺って…
どうしてだ?
訳がわからなかった。
「帰ります…」
俺は、保健室を出て…家へ向かった。
家に着くと…
「お帰りー健、今お母さん買い物してくるから!」
と、なにげなく、いつもと変わらない…俺んち…だった。
いろいろ考えた。
けど答えは見つからなかった。
月曜日
久し振りの我が校だったが、なんかいつもと違う…
なに引きずってんだ俺は…!
もう終わった事だし、夢かもしんねぇし!
あー!考えるのはやめよ!頭を振った。
席につき、外を眺めた。
なんで、俺は自分の気持ちに気付いてたのに…
言わなかったんだ…
でも、忘れないよ…思い出は。
⑧
転校生が来た。
ガラガラ…扉を開けて入ってきたのは…
思わず立ち上がってしまった!「莟!」小さく呟いた。
うりふたつだった。
「マジかよ…」俺は混乱した…。
隣の席に着くと…莟は言った。
「よろしくね」
「えっと…うん…」
赤くなった。
「ホントに桂木?」「うん」
「莟?」「そうだけど…」
「前に俺と会ってない?」
俺って!これじゃまるでナンパじゃねぇか!
「えっと…うん…あの…」
クスッと笑った。「それ、口癖?」と。
暑い夏は、これから始まる。