加速する現実 2話
3話です
俺は起きるとまた、前と同じ真っ白な部屋の中にいた。ベッドから降りて伸びをする。体を少し動かすためにラジオ体操を始める。ラジオ体操の最中に自分の体から薄い膜が張っているのが見える。それに自分の体が思った通りに動かしやすいことにを感じる。まるで今までの体とは違う体のようだ。しみじみ自分が魔法使いという奇々怪々な存在になったのだなと実感する。
「……六、七、八っと終了っと」
俺はふうっと息を吐く。
「終わったのか」
突然声が聞こえてきた。少しびっくりして声のする方向を見るとそこには黒の帽子に黒のコートを着てタバコを吸っているおっさん、ドラインがいた。
「ドライン一ついいかな。今さら遅いかもしれないけどあんた入っている組織に入れちゃあくれねぇか」
「ああ、いいぞ」
「ところでこの組織の名前ってなんなんだ」
「俺たちの組織の名前か。それはだな、フェンリルだ」
「フェンリルか。神に牙を剥いた狼の名前か。まぁいい名前だな」
そう言うとドラインはドアに手をかけた。
「付いて来い」
俺はドアの方に小走りで近づいていきドアを開けた。すると目に入ってきたのは前と同じ灰色の廊下ではなく、
「へ?」
かなり巨大な部屋に出た。前とは違い人が多くいて少し声がうるさいくらいだ。
「あれここって廊下じゃなかったけ」
俺は周りを見ながらそう言う。
「ああ、それは」
「おいらの魔法だね」
部屋の奥の方から髪を金色に染めている、ド派手なパーカーを着た男がやって来たみたいだ。
「あんたは」
「おいらの名前か?おいらはベイル。ベイル・テッダー。よろしく」
そう言って右手を差し出してきた。俺はその手を握ろうとして右手を差し出したが、俺の右手はベイルの右手をすり抜けた。
「へへ。いたずら成功!」
ベイルはその光景を見て笑った。
「今のはおいらの魔法でな、『屈折』っつうもんなんだぜ」
「『屈折』?」
「『屈折』ていう魔法はな。周りにある色を集めてきて現在見ている景色を他の景色に変えてしまうっつう魔法だ」
ベイルはそう言って右手をパーカーのポケットに突っ込んだ。そしてパーカーのポケットの中身を取り出して俺に見せてきた。
「おいらが持っているもんってなんだ」
俺にはトランプに見える。特に考えることもなく俺は見えたままのことを言う。
「トランプに見えるぜ」
すると彼の口元は少し釣り上る。
「本当にそうか」
ベイルがそう言うと彼の手に持っているトランプの色と輪郭が周りに溶け始めた。
「実は何にも持ってないんだぜ」
そう言ってベイルは手をヒラヒラさせる。
「こんな感じにおいらの魔法は相手の視界に見えるものを変えることが出来るんだぜ」
「へぇースゲェ魔法だな」
敵に回すと厄介な魔法だが味方になるとかなり強力な能力だ。
「まぁおいらが今みたいにかなり精密なことができるのは1人を対象にしたときだけなんだけどな」
「どのくらいまでできるんだ」
「ベイル!もういいだろ」
ドラインが俺たちの会話を強引に止めた。流石に1人たで待っているのもつかれたのか少し声がイラついていた。
「あ、ああ。すまんドライン。じゃあな新人」
そう言ってベイルは部屋の奥の方へと消えていった。
「じゃあ行くぞ多助」
そう言ってドラインは部屋の奥の方へと向かっていく。俺はその後ろを歩きながら疑問に思ったことを口にする。
「これからどこに行くんだ」
「ああ、それはここの支部の支部長のとこさ」
ドラインはこちらを見ずにそう言った。
「支部長か。どんな人なんだ」
俺がそう言うとほんの一瞬だけ一瞬体の動きがぎこちなくなり、よく見ればわからないくらいだけでしかなかったのだが魔力が右手に集まった。
「合えばわかる」
と言ったドラインの声は少し震えていた。そして俺の周りにいる奴らも俺の声が聞こえたやつから少しピクッと動き、コソコソと小さな声が周りで囁かれ始めた。支部長とはそこまで恐ろしい人なのだろうか。俺は少し不安になりつつもドラインの後ろを付いて歩いていく。やがてドアの目の前にやって来た。
「ここに入るぞ」
ドラインはそう言ってドアを開けた。ドアはなんの音も立てずの開く。かなり新しい部類に入る建物だなという感想を持ちながら俺はドラインに続いてドアの奥へと進んだ。その先は短い廊下と真っ赤に塗られたドアがあった。
「そこが支部長の部屋だ。終わったらでてこい。俺はこの外で待っている」
そう言ってドラインはきたドアを開けて大部屋へと戻っていった。ゴクリと生唾を飲む。あそこまで色々と言われていたり、コソコソと話されていたりしたのだ。何かとてつもなく恐ろしい人なのかもしれない。そう思うと、なんだか体が少し震えてきた。覚悟を決めろ、と俺は頬をつねる。
「痛い!」
思わず痛いと叫んでしまったが大丈夫。今ので少しは覚悟が決まった。俺はドアに手をかける。そして戸惑う俺の腕を力で無視してドアを開ける。
「失礼します」
「あ〜ら、可愛い子じゃなぁ〜い。ドラインちゃんの言っていた子かしらぁ」
くねくねと気持ち悪く動く筋肉でムキムキの上半身裸のとても見ていて血が引いていく強大な狂気を宿したオッサンがいた。俺の脳内がフリーズした。
「新人君かしらぁ〜。入団だったかしらぁ。いいわよぉ〜。認めちゃ〜うわぁ〜」
…
「確か名前は多助ちゃんだったかしらぁ〜。じゃあ承認ねぇ」
…
「じゃあもう終わりよぉ〜。ってこの子全く動かないわねぇ。もしかして私とぉいろんなことしたいのぉ」
…
「あらこの子気絶してるわ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺が起きるとそこにはいつも通りの白い部屋だった。
「三回目だな。ところで今回のはなぜ気絶したんだったかな」
そう言って明後日の方向を見る。
「支部長の部屋に行ったんだろ」
「ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」
悪夢の光景が蘇ってくる。吐きそうになるのをなんとか堪える。今ならわかるドラインや周りの皆の反応の訳が。その訳を知った今ならば、俺でもあんな反応をしてしまうだろう。
「今日は風が騒がしいな」
「現実逃避し始めたなコイツ」
何かそう言う感じで返して欲しかったのだが色々と無視された。まぁこんなこと言い始めるやつに続くやつのほうがおかしいのだが。
「っていうかあんたはこの前助けてくれた金髪の女性じゃないか」
「金髪の女性じゃないよ。あたいにはちゃんとスルト・スイールっていうちゃんとした名前があるんだよ」
そう言ってスルトはなんか寂しい胸を張る。
「なんか今とても失礼なこと考えてなかったか」
そう言ってかなり睨んでくる。俺はスルトの直感スキルに少し驚きながらも取り繕う。
「そ、そんなことないよ」
彼女は目を細めてこちらを見てきた。ちょっとだけ怖い。やがてスルトもこちらを疑いの目で見るのをやめた。
「まぁ支部長のなんだかんだ言うのはいいが、というかみんなが言いすぎてもう言ったところでって感じだけどな」
そう言ってスルトは後ろを向き歩き出した。
「付いて来な」
「え?」
「付いて来なって言ったんだよ」
「何故に」
「あたいがあんたの指導役だからさ」
そう言いながらある部屋のドアへと手をかける。
「あたいはあまり教えるのが上手くないんでね。実戦やるのが一番だって思うのさ。だからあんたにはここで戦ってもらうよ」
そう言いながらドアを開いた。そこには広場があった。その中で色々な奴らが自身の魔法を使って戦っていた。
「スゲェ。ここにいる奴全員ライトロードの魔法使いかよ」
「ああ、あんたはここにいる誰かと戦ってくれ。ここにいる奴ならはお前より強い程度のレベルだからな」
「へぇー。でもその言い方だとあんたはここにいる奴らよりも格段に強いみたいじゃないか」
「その通りだな。ここにいる奴らなら、全員あたいよりも実力は下だな」
「じゃあ、スルト」
俺がスルトを呼ぶと彼女はこちらを向いた。
「なんだい」
フゥと息を吐き続ける。
「俺の練習相手になってくれよ」
「ハァ、あたいじゃあんたを瞬殺しちまって相手をすることもできないね。どれだけあたいに手加減しろって言うんだよ。嫌だねめんどくさい。他の奴をめっけて来いよ」
そう言って手を払うような動作をする。
「じゃあどうやったら相手してくれんのか」
「ハァ。おい、そこの」
そう言ってスルトは奥にいたやつを呼んだ。スルトに呼ばれたやつは実戦訓練の相手をしていたやつと礼をして、スルトの方に向かってきた。
「はい。なんでしょうか」
「ここで訓練してるやつから5人くらい連れて来い。なるべく強いやつを、な」
「わ、わかりました」
スルトはこちらを向き、口角を上げながら言った。
「今からあいつが5人連れてくる。そいつら全員から勝ちをとればあたいが戦ってやってもいいぜ。勝てればだがな」
「いいぜいいぜ。ボスの前の連戦ってか。よし、そいつら全員ぶっ倒して」
人差し指でスルトの方向をビシッと指して続ける。
「スルト、あんたと戦ってやる」
後書き部分の魔法紹介は消去させていただきます。




