プロローグ その3
ここまでがプロローグ
ドクンドクンドクンという心臓の音が聞こえてくる。あれ、おかしいな。俺は死んだはずじゃなかったっけな。精一杯の力を込めて瞼を開ける。あれは夢だったのだろうかという淡い期待を胸に抱きながら。そしてそれは儚く散った。目に映ったのは玄関にあった血だまりと先ほどまで胸に刺さっていたであろう槍だった。
「ヒィッ」
そんな悲鳴をあげながら俺は部屋を飛び出した。あいつらから逃げなくてはでもどこへ。そんなことを頭の中でぐるぐると考えながらあてもなく走る。そして俺は、街の大通りに出て絶望した。いつもならば人通りの激しいはずのその通りは今や人っ子一人いない無人の地になっていた。
「何だこれ」
俺が混乱しながら周りを見回していると子供の泣き声が何処からか聞こえてきた。
「ど、何処だ?」
俺は少し周りを見渡してすぐにその子を見つけた。8歳くらいの女の子が母親を呼びながら泣いている。どうやら親とはぐれたらしい。俺は彼女の元へと近づいて手を伸ばす。
「どうかしたのかい」
俺は彼女の頭の位置まで頭を下げてそう言った。すると泣いてばかりいた彼女は俺の顔を見て、安心したのか今ままでよりも更に大きな声で鳴き始め、俺の胸に抱きついてきた。
「あ、えーと。大丈夫だからね」
そう言いながらも俺は彼女の頭を撫でる。彼女の名前は田中 燐というらしい。俺は燐ちゃんと一緒に彼女の母親を探すことにした。
そうして彼女の母を探しながら歩いていると突然、背後から女性の声が声が聞こえてきた。
「見ーつけた」
びっくりして振り返るとそこには金髪でつり目の女性がそこに立っていた。その女性を見て女の子の母親じゃないかと思い彼女の方を向いてみるとどうやら親じゃないらしく先程までと同じ表情のままだった。そんな彼女を見て誰かわからない人物ということで警戒を始める。そんな中、目の前の女性は誰かに話すように声を上げる。
「ターゲット見つけたよ2人ね」
その言葉に俺は危険を感じた。もしかしたら協会の手先かもしれない。そう思った瞬間に、俺は燐ちゃんを抱き上げて彼女から遠ざかるために走り出す。近くにあった横道に入り、入り組んだ道に入り込む。走りすぎて迷うくらいに逃げた。そうして後ろからの追っ手がないことを確認して担いでいた燐ちゃんを下す。彼女は訳がわからないのに担がれ、振り回されたことで泣きそうな顔をしていた。
「ひ、ひぐっ」
「ごめんね、でも仕方なかったんだよ」
そう言いながら頭を撫でて慰める。そうして少し休憩していると足音が聞こえてくる。燐ちゃんに静かにと言いながら口元に人差し指を持って行と彼女は自分の口元に手を持って行き口から音が出ないようにする。可愛らしい仕草に少し癒されながらも音がする方に耳を集中させる。静かだからか何時もよりもずっと音がはっきり聞こえてくる。相手の人数は1人、か。こっちには来ないみたいだ。段々と音が遠ざかっていく。
「もう大丈夫だ、よ」
俺は燐ちゃんの方を振り向くとそこには首の繋がっていない燐ちゃんと先ほど俺を殺そうとしてきた協会の職員2人の内ずっと笑っていた方だった。彼は多分燐ちゃんのものであろう血が着いた、剣を振りかざす。
「やぁ、じゃサヨナラ」
さっき燐ちゃんの首を切り裂いたであろう剣が俺の方へと向かってくる。周りがゆっくりに見えてくる。ああ、これが走馬灯というやつか。死が近づいてくる、そう思うと俺は恐怖によって体が固まってしまい動くことができなかった。しかし、少しだけ安心できる。これでこの悪夢からも解放されるのだ、そう思うと少しだけ安心した。そう思っていると周りがよく見えるようになった。
ふと燐ちゃんの顔がはっきりと見える。その顔には恐怖と痛みに嘆くようなそんな悲しそうな顔をしていた。それを見た瞬間、先程までの安心は何処かへ行ってしまった。恐ろしい。怖い。死にたくない。だから動け、俺の体。そうやって願うがうまく動かすことができずに目の前にまでやってくる剣を見ることで精一杯になっていた。それでも最後の意地でもがくように動くと何かに足を取られてこけた。剣を振るってきた彼もその不意の出来事に対応できなかったようで俺の体を少しかする程度で済んだ。
「おや、運がいいですね」
そんなことを言ってくる彼のことを無視して足元を見るとそこには血溜まりが存在していた。それを辿るように見ているとその血は燐ちゃんの方から流れてきていた。そうか、俺を助けてくれたんだな。そう思うと涙が出てくる。こんな、君の事を助けることさえ出来なかった俺の事を。このままじゃきみに顔向けはできないな。俺は立ち上がり目の前にいる男を睨みつける。
「ほう、戦うというのですか?素人だというのに。まぁいいでしょう。遊んであげますよ」
そういった彼は剣先をこちらに向けて殺気とでもいうべきものを向けて睨んでくる。俺は、それを見て、何故か、安心した。倒せる。こいつを倒すことができると、安心した。勝てるはずないと頭で思っても何故か何処かで勝てると感じる。そんな矛盾。それに戸惑っていると彼が先に動いた。
「行きますよ」
剣が振られる。右から左、左下から右上、上から下。全ての動きを見切って避けることができている。訓練などしたはずないというのに手に取るようにわかるのだ。次に繰り出す攻撃は左下から右上。その次に突きか。ならば
「クソッ」
俺は彼の突きを体を横にずらす事で避け、突きが避けられたことで引き戻そうとする手を掴む。その手を引きながら右拳を顔面にぶち込んだ。彼は俺の拳を受けて後ろに倒れた。俺は彼が倒れたのを見届け、燐ちゃんの元へと向かった。彼女の顔は相変わらず恐怖と痛みに嘆くような悲しそうな顔をしている。俺はその目を閉じさせる。
「ごめん、そしてありがとう」
そういって俺は立ち上がる。そして後ろを振り返ると思った通り彼は立ち上がっていた。
「私を本気にさせましたねぇ貴方。今すぐここで殺してあげましょうか」
その顔はもはや先程までの笑顔ではなく、無表情の顔に汚いものを見るかのような目を開けた、まるで悪意というものを体現するかのような顔だった。
「では、死ねっ」
何かモゴモゴと言った後、彼の姿は消える。次の瞬間悪寒がして前に跳ぶと同時に背中が熱くなる。
「イッデェ」
前に倒れそうになりながら後ろを向くとそこには何もいなかった。そして次は腹が切られる。何処からか攻撃を喰らい、身体中からともなく痛みが走り、血が飛び出す。
「クソッ」
とこにいるのか分からない。しかしスピードが速いわけでもない。切られている感覚からまともなスピードで切られているのがわかる。しかし何故目に見えないのだろうか。それだけがわからない。
「クソッ」
何度も何度も、繰り返し切られて多くの傷が生まれたことにより体から力が抜けていく。もう限界に近いのだろう。俺は体は地面に倒れて横になった。
「ここで限界のようですね」
何処からともなく現れた彼は俺の頭の方に近寄ってくる。
「ではさようなら」
彼がそう言うのを聞きながら俺は意識を手放した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ではさようなら」
私は剣を振り上げ転がっているゴミに向かって振り下ろす。その剣はそれにあたる手前で止まった。誰かが私の手を止めたようだ。私の手を止めたのはこの国ではないとわかる髪色と顔をした女だった。
「アンタ、協会の執行官だね」
なるほど、知っている者ですか。ならば、私は
「『made and nobody not』」
私がそう言うと私の目に映る全てが膜に包まれていく。彼女の手は私をすり抜け私は自由に動けるようになった。そう、これが私の魔法の奥義。元々私の魔法は『剥離』という魔法だ。この魔法は第2次元へと指定した者を送る魔法だ。そしてこれは自分自身を第3次元へと送る。そうした私は誰からも干渉されることがなくなる。そして彼女から見えない位置へと向かいそこで第2次元へと戻り攻撃しまた第3次元へと剥離するを繰り返す。これこそ私の最終奥義。今まで破った者など1人もいない。
「消えた?いやこれは」
ふふふ。考えたって答えは出ません。しかし、早めに殺すとしましょうか。彼女の後ろからひと突きで殺してあげるとしましょうか。私は元の次元へと戻り剣で突きを放つ。その瞬間身体中を痛みが走る。
「クソッなんだこれは」
痛みがずっと身体中を走り続け抜ける気配がない。私はあまりの連続的な痛みに思わず膝をついてしまう。
「やっと掛かったか」
そんなのんきな声が目の前から聞こえてくる。
「特殊系の魔法か何かと思ったんだが当たりだったようだな」
「な、何を根拠に」
「すり抜けとかだとすると私の前にまで来るはずだし面倒だから後ろからは狙わないはずだ。それに自分の魔法に絶対の自信を持っているからすり抜け系統なら姿を消さないだろ」
そこまで言われて、自分が完全に彼女に頭脳で負けたことがわかった。そして彼女の魔法がわからない今、勝つ方法も彼を殺す方法もないだろう。であるならば、
「私の負けですか。ですが、ここで死ぬわけにもいかないので逃げさせてもらいますよ」
私は第3次元に飛んで逃走した。まさかこんな極東に彼女のような人物がいたとは要注意ですね。
リメイク中です