一番勝負 “剣鬼”オーガスタ対“爆裂電撃魔女”ニュルキ③
「なんて言ったのかしら。よく、聞こえなかったわね」
立て続けに撃ちこんでいた電撃を消して、ニュルキは問いかける。
「どうも、おかしなことを口走っていたように、聞こえたんだけれど」
努めて口調は抑えているが、にじみ出る怒気は隠し切れていない。
「では、聞こえるように言おう」
懐に手を忍ばせ、オーガスタは水晶付きの小型ステッキを取り出す。
「あっ、あれは我々が使うマイクと同じタイプのものですッ。あの衣服のどこにしまっておけるスペースがあったのか!」
「東洋の神秘だねぇ」
驚くジョージィと、特に驚いた様子の無いガルガザッハ。彼らを含めて檜舞台の周囲の者はみな、オーガスタのマイク・パフォーマンスに注目した。
「ニュルキ殿、それがしは貴殿をAMUきっての実力者と聞いていた。そのような実力者を十番勝負の第一戦に迎えられて、内心光栄の至りと思っていたものだ」
静かな語り口と控えめな内容の中に、どこか相手を侮っているような雰囲気が感じられる。だが、これはまだ序の口だった。
「それが、何だ。仕合が始まってから、お互いに有効打を決められていない。いや、それがしはあっという間にやられてしまうのではと危惧していたのに、そうではないことが問題なのだ」
自らを下に置きつつも上から見下ろすような、妙な物言いである。しかし、あまりにも堂々としている為に、かえって言いようのない迫力があった。
(こ、こいつ、ド新人のくせに……ッ)
魔法合戦におけるキャリアはニュルキの方が遥かに上なのだから、所詮新人の法螺吹きと受け流せばよいのだが、それができないのがニュルキの若さであった。あるいは、沸点の低いニュルキは、わざわざ聞き直した時点で冷静さを失っていたのか。
「新人相手といい勝負をしているようでは、実力者といっても大したことはない、全く持って拍子抜けだ、観客もがっかりする、……、そう言っている」
最後に、にやりと笑って、オーガスタはマイクを持つ手を下に下げた。
(さて、うまいこと調子が狂ってくれれば、こちらとしても付け入る隙ができるのだが)
仕合途中のマイク・パフォーマンスの目的は、ニュルキの緻密な魔法戦術を乱すことにあった。
近距離から遠距離まで隙のないニュルキの攻撃は、常に先手を打って魔法を仕掛けていることに要諦がある。
自らの攻撃の二手先、三手先を読んで的確に攻撃を仕掛け、攻撃を受けた相手の動きすら読んでさらに先読みの攻撃をしているのだ。
オーガスタは、まず絶え間ない連続攻撃を切ることを念頭に置いて、挑発行動に出たのだった。
(一旦、仕切り直して、ついでに落ち着きを無くしてもらえると、助かるのだが)
さて、挑発の効果は、とオーガスタがニュルキの顔を見ると、
「は、は、は、は、は」
どうやら抜群のようだった。こめかみに青筋が浮き出て、唇の右端が吊り上っている。
「実況!」
「ハイッ」
真っ赤な顔をジョージィに向け、
「マイク!」
「ハイッ」
マイク入らずの大音声でマイクを要求した。
反射的に、ジョージィは檜舞台へと愛用の拡声ステッキを放り投げてから、
「ガルガザッハさん、これは、どういうことでしょうか」
と、隣で笑いを噛み殺しているガルガザッハに尋ねた。
「あぁ、オーガスタとニュルキじゃオーガスタの方が年上だ」
「はい」
「でも、オーガスタの方が魔法合戦の経験は浅い」
「はぁ」
いまいち、ジョージィにはガルガザッハの言わんとすることが理解できない。
「自分より経験の浅い年上に馬鹿にされるのは、単に経験豊富や奴や年下に馬鹿にされるよりムカつくものだよ」
「そんな、怒らせて大丈夫なんですか?」
「さて、ねぇ。……、それにしても、よく喋るね」
ジョージィから拡声ステッキを受け取ってからずっと、ニュルキは思いつく限りの罵詈雑言を、怒涛のように浴びせ続けていた。
「アンタみたいなド新人が!この三下赤キャベツ!角付きピーマン!!!!!!」
(まさか、ここまでハマるとはな)
オーガスタは殆ど聞き流しているが、ニュルキはその態度も気に入らない。
「うが~」
荒れるニュルキのボルテージは上がりっぱなしで、どうにも収まる様子がなかった。