一番勝負 “剣鬼”オーガスタ対“爆裂電撃魔女”ニュルキ②
閃光が闇を裂き、雷鳴が唸りを上げる。
「ほらほらほらぁッ!」
息つく暇もなく次々と襲いかかる電撃を避けながら、オーガスタは状況の打開を模索していた。
「む」
背面の鉄柱まで追い込まれると、
「ぐわッ」
と、背中にびりりとした衝撃を受ける。
仕合開始より四分が経過したが、オーガスタは攻めきれず、避けきれない。
やぐら座敷の観客には、動揺が広がっていた。
無論、魔導結社の当主と新人では、実力に天地の開きがあることは子供でも分かる。しかし、それでもオーガスタならば何かを起こすのではないかという期待があった。
予想通りであるという期待外れは、好ましいものではなかった。
「はっはっは、ほらほら!」
「むゥ」
檜舞台のオーガスタは、ニュルキの実力を身を以て感じ取っている。
(なるほど、さすがは当主、ということか……ッ)
ニュルキの電撃魔法の『置き所』は絶妙で、上手く避けたと思いきや、いつの間にか鉄線や鉄柱まで追い込まれている。矢鱈と火球を撃ってきたロッシュとは、檜舞台における戦い方がまるで違う。
(数手先まで見透かされているような気さえする。それにしても……、この電撃というのは、よく分からんな)
鬼としての体力に任せて受け切るにも、限度というものがある。
(ならば……)
一意専心、被弾覚悟でオーガスタは突進を仕掛けた。何とか懐に潜り込み、ジリ貧の状況の打破を狙ったのだ。
「甘ぁいッ!」
ニュルキの前に近づく直前、オーガスタの足元が赤く輝いた。
「ムッ」
異変を感じ横に転がったが、猛進した分だけ遅れが生じ、結果としてニュルキの敷設型爆裂魔法をもろに食らう形となった。
爆風に飛ばされたオーガスタは檜舞台の周囲に張られた鉄線に受け止められたが、そこも安全ではない。
「ギ……ッ」
電撃魔法が待ち構えていた。
「いやぁ、形勢はオーガスタ選手に圧倒的に不利ですね。ガルガザッハさん」
「そうだね」
実況席では、ジョージィとガルガザッハが戦況を分析していた。
「離れていては電撃魔法、近づけは爆裂魔法。まさに“爆裂電撃魔女”の看板に偽りなしです」
「そうだね。敷設魔法と電撃魔法をどこにどう割り振るかというのは、力量が出るところなんだが、やるもんだね。オーガスタは足元の爆裂魔法に気を配りながら間合いを詰めないといけない。大変なことだよ」
「オーガスタ選手も遠距離攻撃ができれば、状況も変わってくると思いますが」
「出し惜しみしているようには見えないね」
「ロッシュ選手にやったように、魔法を受けても無傷、というのはできないんですか?」
「できていたら、とうにやっているだろうし、ロッシュの魔法にできてニュルキの魔法にできないというのは、一つの大きなヒントではあるだろうね」
「ありがとうございます。おっと、オーガスタ選手、剣を抜きましたが……」
「いかんねぇ」
松明の火を受けきらりと煌めく刃に向けて、無数の電撃が殺到する。
「どわッ」
「はっはっは、わざわざ金属を掲げてくれてありがとう。狙いをつけやすくて助かるわ!」
(むぅ……、打つ手、なしか?)
確かに、現状は八方ふさがり、一太刀も浴びせることなく無念の敗北となるのも時間の問題だった。
しかし、オーガスタに潔く負けを認めるつもりはさらさらなく、あと一手、何か手を打たねば気が済まなかった。
(彼我の力量差はいかんともしがたい。だが、素直に降参するのも癪だ)
また、クールキャラとしての売り出しは魔導結社としての方針だが、クールさと淡泊さは別である。今すぐに降参しては、今後の売り出しにもよくない。一矢報いねばならなかった。
(ちょいと、やってみるか)
電撃の間隙を縫って素早く呼吸を整え、オーガスタは口を開く。
「ふぅ、実力者と聞いていたが……、思ったほどではないな。期待外れだ」
なるべく平静に、そして相手の神経を逆立てるような口調を心がけた。