秋の焼き茄子②
「お茶漬けの用意を、します」
それを食べて帰れ。
オーガスタの態度は、拒絶の態度を隠そうとせずに立ち上がった。
出口近くまで歩いたところで、ガルガザッハは語りかけた。
「まぁ、話を聞いてほしいな。魔法合戦……、どのぐらいまで知ってるのかな。話ぐらい聞いておいても、いいんじゃないか?」
ガルガザッハは拒絶されながらも慌てた様子はない。こういう反応も予想済みとでもいうような口調だった。
「見世物でしょう」
にべもなく、オーガスタが斬り捨てる。
「浅いね」
ガルガザッハも負けてはいない。
「その程度かい?」
「……、あなたが俺とどういった関係なのかということから、始めてくれますか?」
席に戻りながら、オーガスタは答える。途中、床の間に寄って、飾ってあった剣を掴んで持ってきた。つまらぬ話ならば斬る、という意思表示である。
「おれと、君の関係ね、ええと……、君の師匠が亡くなったのは、もう二ケ月ほど前になるかな。東西の物流は今のところ伝手頼みだからね。手紙を出したら届くまで一ヶ月以上はかかる。それで、死の間際に君の師匠が出した手紙をおれが読んで、おれがここに来るまでは、二ケ月ぐらいかかったわけだよ」
「師の知人、と?」
オーガスタの師匠リンセイは剣を極めた達人であった。老境に至りその剣技はますます冴えわたり、オーガスタをはじめとした多くの弟子に見送られてこの世を去った。
「そう、手紙には、こうあった。『剣を振るのと飯を食う以外に暇の潰し方を知らん奴が道場にいるから、面倒みてやってくれ、ここまま埋もれるのは惜しい』とね」
「そんな手紙が……」
「ちなみにこれだね」
ガルガザッハはマントから手紙を取り出して、ガルガザッハの前に広げた。
確かに師の文字、師の手紙。
「あなたが師を知る者であったことは分かりました。……、師の墓は道場から離れた、あの山の上です。頂上まで一本道ですので、案内は不要でしょう」
オーガスタの態度は、揺るがない。
「もう夜だよ?」
「存じております」
師が異国の者と友誼を結んでいたことは承知したが、それとこれとは別である。
だが、次のガルガザッハの言で、オーガスタの顔色が変わった。
「君の師匠も、リンセイも……、昔、魔法合戦に出たことがあるのだよ」
「……!」
意外な気がした。
オーガスタの知るリンセイは、そういった見世物興行に出て己の剣技をひけらかすような人ではなかったからだ。
「君がリンセイとであったのは、リンセイの人生が終盤に差しかかる頃、無くなる五年か六年前だろう。その前のリンセイを、自分の知るだけのリンセイで決めてはいけないね」
寝ぼけまなこに笑みを浮かべながら、ガルガザッハは言った。
「師から、自分が魔法合戦に出たとは聞いておりませんでした。あなたは、師との関係を盾に、ありもしないことを言っているのではありませんか?」
自分でも、苦しいことを言っている自覚はあった。それを知ってか知らずか、ガルガザッハは、オーガスタの興味の核心を突いた。
「君の剣技に、魔法を斬るってのがあるだろう。火球だのなんだのを斬るという、あれだ。……、あれ、リンセイはどうやって編み出したと思うかい?今のままで、君はその技を高められると思うかい?」
正鵠を射るとどめの一撃。理の歯車が噛み合う音を、オーガスタは聞いた。
オーガスタの住む東の地域では、あまり魔法は盛んではない。しかし、盛んでないからといって、現状のままで良いとはいえない。己の剣技を高めようと思えば、魔法対策は欠くべからざる必須事項となる。
「魔法合戦てのは、魔導士双方にとってメリットがあるから、やっているのさ。実践的な魔法による攻防、多彩な魔導士との戦いの経験、ベストを尽くしつつもお互いを尊重する暗黙の了解事項等々。君にとっても、利のある話だと思うな。それに……」
「それに?」
とびきりの笑顔で、ガルガザッハは付け加えた。
「西の方にも、こことはまた違った数々の料理がある。それに、これから君と行くところはそこそこの大都市だから、各地方の色んな料理が集まっている。さらに、魔法合戦には地方への巡業があるから、全国津々浦々、まだ見ぬ料理が君を待っているのだよ」
駄目押し。
心中で、オーガスタは魔法合戦に出てもよいかなと、思い始めていた。
決して、食べ物に釣られたわけではないとも、思っていた。




