四番勝負 ルール無用の魔法合戦②
「あれは、ないね」
実況席のガルガザッハは、涼しげな顔で呟いた。とはいえ、涼しそうなのは顔だけで、いつも纏っている緑のマントは脇にどけ、胸元をはだけている。
「季節感がないよ」
ヴュウヴを見るガルガザッハの目は冷ややかだった。
すでに会場の気温は夏の酷暑を思わせるほどに上がっている。観客たちは、やぐら座敷に水をまきながらオーガスタとヴュウヴの戦いを見守っていた。
「ハハハハ」
檜舞台には、天高くまで炎が渦を巻いている。ヴュウヴの火炎がオーガスタをぐるりと取り巻き、すっぽりと包んだのだ。
上空高くまで炎が昇り、きゅうと蓋をして一気に縮んだ。見る者が見れば、ヴュウヴは魔力を凝縮して高密度の炎魔法にオーガスタを密封し、速攻で黒焼きにしようとしていることが分かる。
しかし、それが分かる者が果たして幾人いるか。傍若無人な攻撃といえた。
火炎がオーガスタの背丈より少し大きいぐらいの塊になったところで、火炎は割れて立ち消えた。
「いい加減にしろ!」
ヴュウヴの魔法を斬り裂いたオーガスタの表情は険しい。
このまま感情に任せて滅多切りにでもできれば、どんなに気分が晴れるだろうか。いっそ全てを投げ捨ててやってしまおうか!?
荒れる心に、剣を持つ手が震える。震えた剣に気がつき、オーガスタは剣を見つめた。
「……」
剣に己の姿が映る。剣を通じてオーgスタは己と向き合った。
いや、それはできない。これはあくまで魔法合戦。斬るか斬られるかの野仕合とは違う。あくまで客を楽しませるもの。個人的感情や私憤は、あくまでも会場を盛り上げ、沸かせる為の添え物に過ぎない。従であるそれが主に取って代わることは許されない。
何より、剣は怒りで振るうものではない。魔を払い邪を斬る為にある。剣で斬るべきは目の前の相手ではなく、己の心に湧き出す邪心なのだ。
「……ッ」
演武三連。剣を持って以来欠かすことなかった日々の所作を、改めて繰り返す。その剣捌きは、ヴュウヴに向かってなされたものではなかった。
「おっと、どうしたことかオーガスタ選手ッ。突然あらぬ方向に剣を振り始めました。それにしても……、流れるような、美しい動きです!」
実況のジョージィは演武の動きに見惚れている。ヴュウヴもまた、突然の行動に対して咄嗟に動けなかった。会場の時が止まった。
「……、ふぅ」
最後の型を終え、納刀するオーガスタ。
なるほど、確かに奴は倒す。それは変わらないが、決着はあくまでも魔法合戦らしくつけねばなるまい。
演武を終えたオーガスタの顔は晴れやかであり、自然と、やぐら座敷から拍手が沸きあがった。
「ああいう、場の仕切り直しが上手いんだよね。オーガスタは。それができるから、新人でもサマになるのさ」
ガルガザッハの言を聞いて、ジョージィは会場の雰囲気が変わったことに気がついた。さっきまで会場を支配していた酷暑も、どこかに消えていた。
「さぁ、来い」
ヴュウヴに向けて半身となり、オーガスタは腰を落とした。その姿には、てこでも動かないかのように思われるほどの安定感と、引き絞った弓のような緊張感があった。
「ええいッ」
演武によって主導権を奪われたヴュウヴは、続けざまに大火球を繰り出す。オーガスタは火球めがけて飛び込み、一刀のもとに斬り捨てる。三拍子で全ての火球は消え去ってしまった。
「どうした!」
オーガスタの大喝に、ヴュウヴは一歩足を引いた。
引いた足に合わせて、オーガスタの紫炎がヴュウヴを襲う。呼吸を合わせられたヴュウヴは、火球を出して紫炎を相殺した。技の応酬が続き、会場も盛り上がっていく。
「ま、まさか!」
意図せず出している火球を見てヴュウヴは驚愕する。呼吸を合わせて攻め合うという基本様式、心の底から軽蔑していた魔法合戦を、今まさに自分が行っているのだ。
「う、嘘だ、嘘だ!」
目の前の光景と自分の行動を受け止めることができぬまま、ヴュウヴは火球を連発する。ヴュウヴの反撃はオーガスタの剣に斬られ、踏み込んだオーガスタが掌底でヴュウヴの顎を突き上げた。ヴュウヴの身体が宙に浮き上がる。
ふわりと浮いた身体は背中から檜舞台に落下し、脳が揺れたヴュウヴは立ち上がることができない。
檜舞台にやってきたジョージィが高らかに宣告する。
「ヴュウヴ選手ノックダウンにより、オーガスタ選手の勝利です!」




