表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/52

二番勝負 鬼火②

 ヨードリヒの肉体を覆う青白い輝きはとうに消え失せ、ところどころに水ぶくれができつつあった。


「早く、水で冷やしたほうがいい」


 剣を構えて待ち受けるオーガスタ。じいと立ったきり、動く気配はない。


「ちっ、ち」


 ヨードリヒにまとわりつく紫の炎。けして消える様子が無く、燃え広がる様子もない。ただ静かに熱を伝えている。

 茜色の空が青みを帯び始め、紫炎と絡んで幻想的な色合いを醸し出していた。

 ヨードリヒは素早く左右にステップを踏み、強化魔法なしに攻撃を仕掛けるが、オーガスタには当たらない。攻撃の間も紫炎は燃え続け、容赦なくヨードリヒにダメージを与えている。

揺れ落ちる木の葉の如くゆらゆらと避けるオーガスタと、炎にあぶられながらの攻撃でかえって消耗するヨードリヒ。


「ヨードリヒ殿の魔法は無力化されているが、まだやるのか?」


 静かに、そして鮮やかに、オーガスタはヨードリヒを追い詰めていた。


「――……~~――」


 苦渋の色を浮かべつつ詠唱を始めるヨードリヒ。


「ふッ」


 オーガスタの剣撃がヨードリヒを襲う。詠唱と回避の同時行動が、さらにヨードリヒの体力を奪っていく。

 やぐら座敷から拍手が聞こえてくる。魔法と魔法のぶつかり合いは魔法合戦の醍醐味であり、真骨頂。十番勝負第二戦にて初めて見せる、オーガスタの魔導士の片鱗に、観客は拍手で応えていた。


「じつに見事、見事というほかありません!」


 ジョージィは握った掌の中にじんわりと汗を握りしめている。


「あれは、普通の魔法じゃないね」


 隣のガルガザッハが、


「単純な攻撃魔法ではなく、むしろ攪乱や状態異常にウエイトを置いたものだね」


 と、解説を加えた。


「ははぁ、ヨードリヒ選手の紋様を消して、魔法を発動不能にするために?」


「うん、ああいうペイント系の発動手段は、魔導士のコンディションに左右される。彫っちまえばそういうリスクはだいぶ軽減されるが、そうすると今度は変更が効かないからね。勿論、彼なりにリスク対策はしていただろうが、うまいことやられたわけだ」


 そうこうするうちに、ヨードリヒは魔法を発動、やっとのことで紫炎を消し去った。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 ヨードリヒの顔には憔悴の色が見られ、がくりと片膝をつく。


「ヨードリヒ選手、一気に消耗しました。ガルガザッハさん、これはやはり、ヨードリヒ選手は詠唱型の発動を不得手としていると?」


「そうだね。慣れない発動で一気に魔力を持っていかれたんだろう。あと、あの炎であぶられて体力を消耗したかも」


「なるほど、恐るべき魔法ですが、そうなると疑問が残ります」


「ほう?」


「それほど強力な魔法を隠し持ちながら、なぜ昨夜の戦いで使わなかったのでしょう?」


「使わなかったのではなく、使えなかったと見るべきだろう。あの猛攻でやられっぱなしだったし」


「ありがとうございます。おっと、オーガスタ選手、ヨードリヒ選手の喉元に剣を突きつけています。これは詰みでしょう」


 消耗で立ち上がれないヨードリヒを、オーガスタは黙して見下ろしている。


「……」


「くぅ」


 状況はすでに終局にある。ヨードリヒには反撃の手段はなく、降参の意志を示す以外にない。しかし、意地か矜持か、ヨードリヒは意志表示を拒んでいる。


「やッ」


渾身の左ストレートは破れかぶれの一撃。かすることなくオーガスタの脇に逸れた。


「……ッ」


 伸びた左腕を掴み取り、捻じり上げて倒れ込む。ヨードリヒの両肩は檜舞台に密着し、オーガスタはヨードリヒにのしかかる体勢となった。


「ジョージィ殿」


 実況席に視線を送る。


「これは……」


 ジョージィは、隣のガルガザッハに目配せし、ガルガザッハの首肯を以て会場全体に宣告した。


「仕合続行不可能とみなし、オーガスタ選手の勝利としますッ!」


 沸きあがる拍手喝采。降り注ぐ称賛の声の中、オーガスタはジョージィから預けておいた杖を受け取り、去っていった。

 オーガスタの姿が会場から消え、さらにヨードリヒが退場しても、拍手は鳴りやまなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ