一番勝負 “剣鬼”オーガスタ対“爆裂電撃魔女”ニュルキ④
唸る電撃、爆裂する閃光。オーガスタに迫る脅威は衰えることなく、むしろ勢いを増しているが、マイク・パフォーマンス後のオーガスタには余裕があった。
「どうした、当たってないぞ」
「う、る、さ~い!」
猛然と襲い来る電撃を紙一重でかわし、ニュルキの眼前に到達、素早く抜刀し一閃。ニュルキは回避に手一杯で、爆裂魔法が追いつかない。
形勢はほぼ互角か、僅かながらニュルキに不利となっていた。
「これはどうしたことでしょうッ、先ほどまで猛威をふるっていた爆裂魔法が封じられています!」
実況席のジョージィの声が、さらにニュルキを苛立たせる。
「う~が~が~ッ!」
苛立ちは緻密な戦術を歪め、生じた歪みが苛立ちを助長するという悪循環。
「や~、若いっていいねぇ」
ジョージィの隣でガルガザッハが笑っている。
「ニュルキ選手が短気であることはよく知られていますが、ここまで怒りを爆発させることは珍しいことです。オーガスタ選手の挑発が功を奏したといっても、これほどまでに激昂するとは……」
「実際に、ほいほい避けられているからね。思い通りにいかなかったらイラつきもするさ。まぁ、オーガスタの粘りが効いたね」
「なるほど、爆裂魔法が上手く発動していないようですが」
「あらかじめ設置するタイプの魔法だからね。設置場所に来てくれなきゃ意味がない。さっきまで主導権はニュルキにあったが、今はオーガスタが握っている。一度取られた主導権を取り返さないことには、ニュルキの勝ちは遠いだろうね」
「オーガスタ選手は主導権を取る為にマイク・パフォーマンスを行いました」
「同じことじゃあ通じない」
「では、どういった切り返しをしていくのか、楽しみですね」
「そうだね」
檜舞台のオーガスタは、今や仕合展開をほぼ手中に収めていた。
(電撃の緩急は掴んだ。爆裂魔法の位置も把握した。ならばッ)
電撃をかいくぐり剣の間合いへ到達、袈裟切りに振り下ろす。勝負は決まったと、観客の目には映ったが、
「ぬいッ」
ニュルキはオーガスタの右脇腹へ向けて倒れ込み、刃はニュルキの頭上を斬った。
「じッ」
「がッ」
好機逃さずとばかりに刃を返して剣を振り上げたが、ぎりぎりの頃合いでなお一歩踏み込んできたニュルキを捕えることはできず、千載一遇の機会は杖を斬るのみで終わった。
「惜しいッ、実に惜しい!」
「疲れが出たね。前半食らいすぎたね」
両者、肩で息をしている。観客からは、一歩も譲らぬ熱闘に惜しみない拍手が送られていた。
「新人の、新人のくせにぃ……」
ぶつぶつと、ニュルキの口から詠唱が漏れ聞こえる。
「む、う」
ニュルキから溢れ出る尋常ならざる量の魔力を感じ、オーガスタは先の先を取るべくニュルキの下へと駆け寄るも、蓄積したダメージが動きを鈍らせた。
「ざっけんじゃ、ないわ!」
俄かに夜空の星が黒雲に覆われ、
「うが~ッ!」
檜舞台に、特大の雷が落ちてきた。
舞台丸ごと包み込む規模の落雷により観客の目は閃光に眩み、手元の酒杯すら見えていない。追って叩きつけられた轟音の衝撃で、酒杯を落とした観客が幾人もいた。
「こ、これは凄まじい威力の電撃です、オーガスタ選手は無事でしょうか」
落雷よりしばらくして、閃光と轟音から立ち直ったジョージィが檜舞台を確認する。すると、そこには黒焦げで息も絶え絶えなオーガスタがうつ伏せに倒れていた。
かろうじて息があるように見受けられるが、それ以上動く気配がない。ジョージィは実況席から立ち上がり、ニュルキの勝利を宣言した。
「オーガスタ選手ノックアウトッ。ニュルキ選手の勝利です!まさに一発逆転!!」
「どうだぁ!はっはっはっはっは」
笑顔で勝ち誇りながら檜舞台を去っていくニュルキを、観客は立ち上がっての拍手で送り出す。
「む、ううう」
ニュルキの姿が檜舞台の遥か先に消えたのと、頭を振りながらオーガスタが立ち上がったのは、ほぼ同時であった。
「オーガスタ選手、なんとッもう……立ち上がりましたッ。敗れたとはいえ、驚くべき生命力です!しかし、見るからに重傷ッ。明日以降の勝負は大丈夫でしょうかッ!」