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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

Rowdit Online(企画サークル名「Bash!」)

作者: 芳右

 なろうで「Bash!」という企画サークル活動をしている友人から話を聞き、MMOというお題に興味を持ったので書いてみました。

 執筆時間は二時間ほどのプロットも何も無い状態で書いた拙い作品ではありますが、暇つぶしにでもなれば幸いです。

 俺が昔好きだったコンシューマゲーム「ロウジット」。

 それはオーソドックスなRPGでありながら、初期のMAPですらランダムで低レベルでは討伐不可能な敵が出るという仕様の物だった。

 当然そのゲームバランスの悪さからクソゲー認定され、ほとんどの者達がクリアする事を諦めた。

 しかし、当時では最高峰と言っていいほどの操作性の高さから、そのゲームを心酔し最後までプレイしたつわものたちが極少数ながら居たのだ。


 その極少数の中の一人である俺は、今心の中で歓喜の声を上げていた。


『あの問題作「ロウジット」がオンラインゲーム化!』


 全てはこの記事が原因だ。

 製作サイドが何をトチ狂って、その所業に踏み切ったのかはわからない。

 しかし、あのゲームが操作性をそのままに…いや、さらに進化させてオンラインゲーム化すると言うのなら、これほどやり応えのあるオンラインゲームも無いのでは無かろうか。


 こうして多大な期待を胸に秘めて過ごす事一年。ついに新作MMORPG「Rowdit Online」がそのサービスを開始したのだった。



 ロウジットオンラインのサービス開始から三ヶ月、俺は開始当初からの熱狂的なユーザーとして、今もプレイを続けていた。

 世紀のクソゲーから稀代の死にゲーへと進化を遂げた「ロウジット」は、ネタ作りにとプレイし始めたにわかプレイヤー達を次々に退会へと追いやり、残ったのはコンシューマ時代からのヘビーユーザと新たにロウジットの虜となった本物の変態(つわもの)たちばかりだった。


 ゲーム自体も期待通りコンシューマ時代よりも進化しており、その自由度たるやプレイヤーが何をしていいのかわからなくなる程に高いものだった。


 物を作るにはソレ相応の時間と技術、設備と体力が必要となり、ゲームとは思えないほどのシビアさを誇る。

 作れる物も多岐に渡り、回復アイテムや戦闘の補助アイテムから始まり、家や乗り物と言った大型のものまで作成可能と言う創作性の充実にはプレイヤー全てが度肝を抜かれたものだ。


 そんな多様性のあるゲームが何故たった三ヶ月たらずで過疎化したのか、その要因はRPGゲームの要である戦闘システムに関係していた。


 この「Rowdit Online」というゲームにはRPGでは当たり前の戦闘スキル、魔法スキルの類は一切存在しない。

 戦闘に勝利するには、ただひたすらに攻撃と回避、防御を繰り返して敵と戦うと言うとても原始的で高度な操作を行わなければならないのだ。

 プレイヤー達がフィールドで剣や槍、弓を用いて戦う様は、さながらローマのコロッセオで戦うグラディエーターだ。

 それでも、最初はその操作性の高さから根強くプレイする人々が居たのだ。


 そんなプレイヤー達の心を折ったのは何を隠そうコンシューマ時代からの伝統システム「キリング・モブ」と、オンラインとなってから追加された「ハイデスペナルティ」である。


 本来なら低レベルでも狩れる雑魚敵が出現するはずのポップポイントから何割かの確率で、明らかに低レベルでは狩れない程のモブがランダムで出現するのだ。


 それに出くわしたが最後。逃げる事も叶わず、敵の圧倒的な膂力りょりょくを以って一撃でPCプレイヤーキャラクターは葬られ、理不尽なデスペナルティと共に最後に立ち寄った町へと送り返されるのだ。


 そしてそのデスペナルティと言うのが本当に醜悪だった。

 敵に殺され、最寄の町へと戻されたプレイヤーはまず装備が変わっている事に気付く。慌てて装備を確認してみれば、それまでしていた上位装備が全て初期装備化…どころかステータスやレベル、所持金までも全てが初期化されるのだ。


 レベル1…つまりこのゲームで死ぬという事は、それまで培ってきた全てがリセットされるのと同義だったのだ。

 これをバグだと考えた多くのプレイヤー達はこぞって運営に辛辣な文面を以って抗議した。


 しかし運営から返ってきた言葉は「一度死んでしまえば何もかもを失ってしまう。そんなリアリティを求めた末の仕様であり不具合ではありません。ですので装備等の保障につきましては一切致しかねます。」と言うものだったのだ。


 どうしてそんなリアリティを求めてしまったのか…はなはだ疑問ではあるが、それが原因で多くのプレイヤーが「Rowdit Online」を去ったのは間違いない。

 以降このゲーム史上最悪のデスペナルティはロウジットプレイヤーのみならず、全てのゲームユーザーから「ハイデスペナルティ」と名付けられ恐れられている。



 そんな鬼畜仕様なゲームをプレイするヘビーユーザの中でも、俺はそこそこ有名な上位プレイヤーとなっており、数少ないロウジットプレイヤーの友人もできた。

 その友人達と共にロウジットをとことん遊び尽くすという目的の下に作られたギルド『がんばロウジット』などというふざけた名前の組織まで作った。


 名前とは裏腹に、メンバーはプレイヤースキルの高い者達が集い、今最もロウジットオンラインのクリアに近いギルドとして名を馳せているのだ。


 ちなみにここで言うクリアとは、現在実装されている中で最も高レベルのダンジョンを攻略する事だ。

 ラストダンジョンも例に漏れず鬼畜仕様となっており、ダンジョン内の敵はその全てが全力で当たらないと勝てないほどに強力な者ばかり、さらにダンジョン内は罠が張り巡らされ、中には即死級の物までが含まれているのだ。


 おかげで長い間一緒に上位をキープしていた仲間達の多くが「ハイデスペナルティ」の犠牲となり、その数を減らしていった。

 そんな中で、俺の操るPC『ピッケル』と、サービス開始当初からの友人であり『がんばロウジット』のギルドマスターでもある『サリバン』は多くの危険を退け、犠牲を出しつつも生き残り、とうとうラスボスが控える部屋の目前まで探索を終えたのだ。


「ついにここまで来たんだな…」


「あぁ…」


 ネット回線を利用した通話ソフト越しのサリバンの声は、どこか震えているようにも聞こえる。その言葉に俺も短く返事をした。


 俺達は今、万感の思いでラスボス部屋へと続く扉の前に立っている。

 画面越しに見るラスボス部屋への扉は、どこか威圧感を放っているように見える気がする。確実に気のせいだが…。


「それじゃぁ…」


「おう」


 俺達はPCを操りお互いの顔を見合わせる事無く言った。


「帰るか」


「だな」


 こうして俺達は帰還アイテムを使用して、本拠地のある町へと戻ったのだった。


―――――


「いやぁ…最初はどうなる事かと思ったけど、これでラスボスまでのルートも道中の罠も確認できたし、あとはメンバー揃えて挑むだけだな」


「そうだなぁ…、つーか『よっちゃん』たちが罠で死んだときはどうしようかと思ったよ」


 現在俺達のPCはギルドホームへと戻っており、「ハイデスペナルティ」を食らって初期化された仲間たちと共にギルドチャットで盛り上がっていた。

 中にはデスペナのショックに立ち直る事ができず、途中で去っていった仲間もいるが、それゆえにここに残っている仲間はロウジット愛もプレイヤースキルもトップクラスの者たちばかりだ。


 パーティー上限四人と少人数ながら、レベルも装備も現在確認されているものの中で最高の物を取り揃えている俺とサリバンはラスボス攻略組として組み込まれており、残り二人もプレイヤースキルに優れる者の中から上位二人を選んでの攻略となる。


 それから数ヶ月は「ハイデスペナルティ」によって失われた仲間たちの装備とレベルを取り戻すための準備期間となり、「Rowdit Online」サービス開始から五ヶ月目の今日、ついに全ての準備が整った。


 最終的なラストダンジョン攻略メンバーは、『がんばロウジット』ギルドマスター『サリバン』、ロウジットオンラインの中でも有数の上位ランカーであるこの俺『ピッケル』、ロウジットオンラインのマゾ武器と言われる弓を意地で極めた変態つわもの『よっちゃん』、そしてこのゲームで最高のプレイヤースキルを誇る廃ゲーマーの中の廃ゲーマー『ムハサ』である。


 以前攻略したルートを辿り、敵を蹴散らし、罠を発動させないように慎重に歩みを進める。

 そして遂に俺達は最高の状態でラスボス部屋へと到達した。


 誰も成し遂げた事の無い偉業を成す。

 そのために俺達はここまできたのだ。

 扉を前に緊張した面持ちで待機する俺達。そんな中ギルドマスターであるサリバンが、一歩踏み出し言った。


「泣いても笑っても最後だ…行くぞ」


「「「おう」」」


 言葉と共にそれぞれがボス部屋へと入っていく。

 そして未だ誰も見たことの無かったソイツが、姿を現した。


 全身を銀色の鱗に覆われ、神々しくも野生を剥き出しにした竜。

 発達した後ろ足は二足歩行さえも可能にし、機敏な動きをするのだろう事は明らかだ。

 チロチロと火の粉が舞う口腔は強力な遠距離攻撃『ブレス』を使ってくるのだろう。

 長い尻尾と前足の攻撃は未知数だが、食らって無事でいられるとは思えない。それほどの圧倒的な迫力を要するラストダンジョンのボスは、俺達を見つめ…ついに動いた。


『グォォォォォォォ!!!!!』


 遠吠えによる衝撃波の演出なのだろう。画面が揺れ、周囲が歪む。


「こいつに勝って、俺達の名をロウジット界に刻んでやろうぜ!」


 サリバンの言葉を皮切りにラスボスに見とれていた俺達も戦闘を開始した。


 相手が的を決めかねている間によっちゃん以外の全員が一気に距離を詰め、最高の一撃を叩き込む。

 敵に一番乗りした俺が後ろ足に比べて細めの左前足を切り付け、サリバンが少し遅れて反対側の前足を切りつける。

 そのダメージによって少し前傾姿勢になった竜の首に向かって飛び上がったムハサが大斬撃を食らわせた。


 悲鳴にも似た叫び声をあげた竜へ追撃とばかりによっちゃんの正確無比な矢が頭部を狙って飛来する。


 ドン!ドン!ドン!と矢が当たったにしては酷く重い音を響かせて竜にダメージを与えていく。

 竜は苦し紛れに尻尾によるなぎ払いを仕掛けてくるが、俺達は既に射程圏外に退避し終えていた。


 攻撃を終えた竜が次の攻撃に移るまでの一瞬の隙を見逃す事無く、再び俺達三人は敵の懐へと潜り込む。

 そしてすかさず斬撃によるダメージを竜へと与え、再度距離を取る。


 そんなヒット&アウェイの戦法を続ける。

 こういったアクション要素の強いゲームでは基本的な戦法であるが、基本であるが故にこの鬼畜仕様のゲームでは最も重要な戦法とも言えた。


 どれだけ回復アイテムを準備していようと、どれだけ防御力の高い鎧や盾を装備していようと、このロウジットの世界ではそれらを過信してはいけないのだ。

 アイテムや鎧、盾は飽くまで保険であり、生存率を少し上げる程度の物でしかない。


 ましてや相手はラスボス。その攻撃力は今までのどの敵よりも恐ろしいのだろう。

 一撃でも貰えば終わる…そう考えて然るべき相手なのだ。


 そうして何度か同じようにダメージを与えていると、竜がこれまでと違った動きをしたのに気付いた。


 天を仰ぐように頭を上に向け、首下にうっすらと赤い光が灯る。

 竜が放つ攻撃の中でもトップクラスの威力を誇るであろう『ブレス』が来る事は考えるまでも無い。


 俺達は回避しやすいように散会し、十分に距離を取って念のために盾を構える。

 そうして放たれた竜のブレスは自分の周囲を焼き払う全方位型の攻撃だった。

 炎を吐きながら周囲を見渡すように首をグルリと回し自分の周りを炎の海にする。


 その炎のエフェクトが消えるか消えないか、と言ったタイミングで俺は竜へと突っ込んだ。


「ピッケル!まだだ!!」


 通話をしていたサリバンからの焦ったような声に、俺は竜を注視した。

 炎を吐き終えて止まったと思っていたモーションは、まだ終わりではなかったのだ。


 逸早く竜へと攻撃しようとしていた俺のPCに勢い良く振り下ろされる前足。

 俺は慌ててバックステップに切り替えようとするが、間に合うとは思えない。

 咄嗟の判断でなんとか対応するキーを押して防御姿勢をとったが、叩きつけられた前足によるダメージはピッケルの体力を一気に三分の二ほど削って行った。


 それでも何とか凌いだ俺は、慌てて竜から距離を取り回復アイテムを使用する。


「ぁっぶねぇ…」


「あぶねぇじゃねぇよ!気をつけろ!」


 何とか危機を乗り越えて一息吐いた俺に、すかさずサリバンからのお叱りが入った。

 俺は平謝りして戦線に復帰し、基本戦術を忠実に守りながらダメージを与え続ける事数十分。


 漸く銀竜の体が横たわり、キャラクターたちがその前で喜び合うというムービーが流れた。


「なぁ…なんかさ」


「あぁ…」


「「スゲェ嫌な予感がする」」


 俺とサリバンの声が揃ってその言葉を発したとき、見計らったように地面に横たわる竜の体が輝き始めた。

 ボロボロになっていた体から銀色の鱗が剥がれ落ち、変わりに黄金に輝く鱗が現れる。


 そのまま起き上がった竜が発達した二本の後ろ足と尻尾でしっかりと立ち上がったかと思うと、背中から今まで無かったはずの巨大な黄金の翼がバサッと広げられた。


「…やっぱり、さすがロウジット…鬼畜だわ」


 うんざりした面持ちで画面を見つめ、復活という言葉が生易しく感じるほどの進化を遂げた黄金の竜との第二ラウンドを開始した。


 最初と同じように前足を切りつけようと近寄った俺のPCピッケルの斬撃だったが、翼を広げて空中に飛び上がった黄金竜には当たらなかった。


 忌々しく思いつつ、安全圏まで下がろうとした俺を嘲笑うかのように黄金竜が攻勢に出た。

 一瞬、竜のモーションからブレスかと思ったのだが、吐き出されたのは無数の炎弾。


 それは雨のように降り注ぎ、無差別に大地を焦がしていく。

 俺は影などで判断して何とか回避を繰り返したが、そんな中で回避が間に合わずよっちゃんが炎弾に巻き込まれたのが画面の端に映った。


 その一瞬で画面端に表示されたよっちゃんの体力ゲージが全て削り取られ、PCが死亡した事がわかる。


「やばい!よっちゃんがやられた!!」


「わかってる!!」


 思わず叫んだ俺に、帰ってきたのはサリバンの焦ったような声。

 このゲームに蘇生魔法やアイテムは無い。死んだら終わり。その言葉通りに死んだ仲間を蘇らせる手立ては「ハイデスペナルティ」を受けて最寄の町へ帰還するしかないのだ。


 よっちゃんは「ごめん、あとは頼んだ!」というチャットを最後に画面端から消えていった。

 この鬼畜ボスを相手に残り三人で対処しなければならないという事実に心が折れそうになりながらも、俺達は必死に戦った。


 飛行能力を得た黄金竜は最初とは比べ物にならないほどに手強く、戦っている内によっちゃんに続いてサリバンまでがやられた。

 残るは俺とムハサのみ。そんな状況でも諦めず、長い戦闘の末、遂に俺達は黄金竜を打倒したのだった。


「うぉー!疲れた!これはロウジット史上でも一番の辛さだったわ!!」


「おー!おつかれー!!いや確かに…あれはやべぇわ」


 画面に流れるエンドロールを見ながら感動しつつも疲労感を露にする俺たち。

 そして個別チャットでムハサから「ごめん、親フラ 離席」と来たので「了解」と返してから画面を見ていると…


「おいおいおいおいおい…こりゃねぇよ」


 流れていたはずのエンドロールが急に止まり、倒れ伏した黄金竜にカメラが寄る。

 そして次の瞬間。


 グチャっと言う生々しい音と共に竜の体内から人の手らしき物が飛び出してきたかと思うと、中から人型の何かが現れた。


「おい、嘘だろ、ムハサ今親フラでいねぇんだぞ!?」


「は?おい、どうした?」


 俺の動揺を悟ったらしいサリバンがすかさず声をかけてくる。


「やばい!まだ終わってなかったっぽい!」


「はぁ?!マジか…ありえねぇ」


 そんな事を喋っている間に、どうもムービーも終わったらしく神々しくマップ中央に降り立つ謎の人型。

 おそらく竜神とか竜人とかそういった類の物なのだろうが正直どうでもいい。


 やむなくムハサにターゲットが移らない様に攻撃を仕掛けるが、機敏な動きで攻撃が躱された。

 今までの敵キャラとは一線を隔するその動きに俺は目を見開く。


 そして敵は回避直後に体を回転させて薙ぎ払いを仕掛けてきた。

 俺は慌てて切り込んだ勢いのまま前方ダッシュで敵との距離を稼ぎ、攻撃を躱す。


 そうして視点切り替えで相手を補足すると、敵は既に次のモーションへ移っていた。

 息つく暇も無く飛んでくる炎弾に回避を余儀なくされながら、必死にコマンドを入力する。


 連続して放たれていた炎弾が止むと、敵もクールタイムが必要らしく動きが止まる。

 それを見越していた俺は一気に近づいて今度こそ剣で切り付けた。


 人型になった事で衝撃への耐性が低くなったらしく、切りつけただけで大きく仰け反る竜人。

 その隙を俺が見逃すはずもなく、ひたすら連続で切り付けた。


 一連のコンボをやり終えた俺は、一旦竜人から距離を取り、次の攻撃に備えた。

 意外といけるかもしれない、そんな淡い希望を抱いた。


 続く竜人の攻撃も鋭さはあるものの回避しきれないほどでは無い。

 速さは上がっているもののリーチが人型になった事で圧倒的に避けやすくなっているからだ。


 ある程度パターンも読めてきた所で、俺は攻勢に出た。

 竜人の薙ぎ払いのタイミングを見極め、モーションが終わったと同時に切り付ける。

 そのまま再び連撃を叩き込んで、敵に大ダメージを与えた。


 パターンでは次に来るのは炎弾だ。

 相手に向かって直進してくるだけの単調な攻撃なので、タイミングを間違わなければ近距離でも十分に回避ができる。


 そう見込んで距離を取らなかったのだが、それが失敗だった。

 途中で竜人のモーションが炎弾の時と若干違ったのに気付いたのだ。


 だが、そのときにはもう遅い。竜人は必死で距離を取ろうとするピケットを巻き込んで炎弾を大爆発させたのだ。

 竜人を中心にマップのほぼ半分程度の広範囲を焼き尽くす大爆発は、その一撃でピケットの体力ゲージを一気にゼロにまで削り取り、町へ戻されるまでのカウントダウンが開始される。


 今の一撃は相当な威力だったのだろう。

 いつの間にかムハサのPCも横たわっており、体力ゲージを見ればゼロになっているのがわかった。


 こうして俺達のラスボス攻略はあと僅かと言うところで失敗に終わったのだった。


―――――


 それから一ヶ月という異常な速さで、俺達は以前と同等以上の準備を整えた。

 今回、敵の行動パターンは全て把握している。何度も似たような攻撃方法をする敵を相手にシミュレーションを繰り返し、万全に万全を期して再びラスボス討伐へと向かったのだ。


 未だ誰も倒す事ができていないラスボスとの決戦は…長い時間をかけながらも四人全員揃って討ち果たす事ができた。

 俺達は堂々と凱旋を果たし、最初のラスボス討伐者と言うことで特別な称号と装備を得た。


 そうして感慨に浸ること一週間。

 俺達はその文面に何とも言えない気持ちになった。


『Rowdit Online 大型アップデート』


 内容はレベルキャップの解放と新マップ、新装備の実装という内容の物だ。

 あの苦労は一体何だったのか…という気持ちになったりもしたが、そこは筋金入りのロウジットプレイヤー(つわもの)である俺達だ。


 何だかんだ言いながら、未だ見ぬ鬼畜仕様と言う名の山を上り詰めるべく、笑顔で進んで逝くのだった。

 人々(他ゲームのプレイヤーたち)は俺達の事をこう呼ぶ…真性のマゾヒスト(ゆうしゃ)…と。


 ちげーよ、ただゲームに真剣に打ち込んでるだけなんだよ、やめろよSM要素引き合いに出すの。























 そしてそれから約一年後。

 あまりのプレイ人数の少なさから運営が困難になり、何度か大規模なアップデートが行われるも、一度離れたプレイヤー達は戻る事は無く『Rowdit Online』というゲームのサービスは終了する事が決まったのだった。

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[一言]  どうも初めまして、こんばんは♡  なんというマゾ仕様っぷりなんだRowdit Online!w プレイヤースキル依存で、死んだらレベル1とか、或る意味で現実よりも厳しいッ♡ なのにSM要…
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