漆
スースー
気持ちよさそうな寝息が聞こえている。
思わずイラッとくる。
こいつはいつまで寝てる気なんだ?
机に突っ伏して寝ている少女を見下ろして舌打ちする。
「おい、起きろ!アシュレイ」
しかし全く起きる気配はない。
「起きろ!じゃないと痛い目にあわせるぞ。」
その瞬間、身体が動かないくらいの殺気に当てられた。
なんだこれは?冷たく恐ろしい気配は?アシュレイなのか
しかしすぐに殺気は消え、寝ぼけた表情のリーナが見上げていただけである。
「・・・・誰?」
この問いにさすがにイラッと来る。
「俺はミシェル・フロー。このクラスの一人だ。」
「それで?私に何か用なのかな?」
小首を傾げるさまは小動物のようで可愛い
だが、ミシェルは目を吊り上げて睨む
「用があるから起こしたんだ。よく聞け。」
なんとも偉そうな態度であるが、すでにリーナの方は興味を失い、再び机と仲良くなりかけている
「今から不本意だがやりたくなかったが君のパートナーを組む事になった。」
その言葉にはさすがのリーナも口を出す。
「なんのパートナー?何かあったかな」
疑問を浮かべる姿に堂々と胸を張ったミシェルが怒りを抑えた声で
「もういい。君は大人しく従ってくれ、先生からの直々の指名だ断ることは出来ない」
宣言した。
それをうんざりげに見つめ、ため息をつく。
これはマイマイ先生のご指示かな
ちなみにマイマイ先生はクラスの副担任の男である。
もっと言うとマイマイ先生は本名はマイケル・マイセンで略してマイマイ先生だ。
このマイマイ先生は早く言ってしまえばチョーがつく俺様の性格である。
「それで結局何があってパートナーなのかな?」
「やはりその部分も聞いてなかったか」
本当に呆れきった眼差しで睨まれ、
「半月後にある学年別トーナメントだ。それも忘れたのか」
突き放される。
しかし、そんなのは全く堪えていないようで、ふにゃりと笑う
「私、楽しいお茶しか飲みたくないのでお断りします。
お茶会に野蛮な話しはしたくありませんもん」
まぁ、彼じゃなくても切れるだろう。
拳を握り、身体を震わしているミシェルが俯かせていた顔を上げ、口を開いた
「てめぇ、覚悟は出来てるんだろうな?」
多少の危機感を覚えたのかリーナが身を引く
だがすぐにズイッと近寄られ、腕を握られた。
「その綺麗な顔を涙で歪ませてやろうか?リーナ」
耳元で囁かれ、背筋がゾクッと波打つ。
同時に浮上するようにリオンが囁く
落ちてろ。片つけてやるから
その瞬間日だまりのような表情は消え、爛々とした瞳が見開かれた。
面白い。久しぶりにゾクゾクする。
微かに興奮に頬を染め、『リオン』は一歩近付く。
「フロー、あなたは学年何位?」
リーナの異変に気付いたのか訝しげに見る。
「アシュレイ?」
「強いの?
なんだかとっても胸がドキドキするんだ。久しぶり過ぎてゾクゾクする」
舌なめずりし、ミシェルに手を伸ばす。
その瞬間ミシェルは例えようのない殺気に呑まれていた。
体が震え、冷や汗が止まらない。声は詰まり瞳は恐怖に染まる
それを楽しげに見つめ、ミシェルの肩に触れた。
ドサッ
そして白目を剥いて倒れてしまったミシェルを、冷たい妖しい笑いを浮かべ見下ろして、音もなく教室を後にした。
それから数十分後部活帰りのクラスメートに見付かるまでミシェルは放置された。
ついでにいえばミシェルは記憶が一部抜けており、自分が倒れたのか分からなかった