弐
暗い暗い闇の中でそのものは身を潜めていた。
天敵とも言える者達に追われた挙げ句このような暗闇に身を隠さなければならなかったためである。
もう自分を追ってきてないだろうか?
こんなところで終わりたくない
捕まれば自分は生きて太陽を見ることは二度とないに違いない
そんな思いに囚われ、闇の中でまどろんでいた。
だから油断していた
「あなた大丈夫?」
「っ!!」
突如掛けられた声に大きく体を震わせ警戒に声を掛けてであろう相手を振り仰ぐ
そこには自分とそう変わらない少女が不思議そうに警戒し威嚇してる自分を見ていた
「怪我でもしているの?」
少女の問い掛けに一瞬の躊躇い、それから軽く首を振る。
「‥‥‥逃げている。追われて‥‥もう力が出ない。」
囁くように答えれば少女は今度は心配そうに眉を寄せ、手を差し延べてきた。
「それじゃ、うちに来ない?なんにもないところだけどあなたがいる場所くらいはあるのよ」
「居場所?‥‥‥良いのか?もしかしたら危険が及ぶことも」
「構わないわ。家にいるのはみんな何かしら事情がある者達だし、勿論私もね
それに嫌になったり何かあったらいつでも逃げてもかまわないが家の信条よ
まぁ、うるさいちび達が多い家だから嫌になっちゃう可能性は無きにしもあらずだけどね」
明るく笑う少女に頷く
そして差し延べられた手に縋るように少女の手を取る。
「私はアリシアよ、あなたは?」
「‥エル‥‥‥俺はノエル」
「ノエルくん?良い名前だね。それじゃ急いで帰ろうか?」
走り出した少女-アリシアに手を引かれ、色々な道を通り過ぎて行く。
微かに感じていた追っ手を撒くためわざと走ってくれているのか
本当にありがたい
そうして大分進んだ所で、ノエルと名乗った者はその紅いを空へと向ける。
振り切ったのか?気配が消えてる
「ここまで来れば大丈夫かしら?ノエル追いかけて来てる?」
「いや、来てない」
振り返って尋ねられ、小さく首を振る。
するとホッとしたようにアリシアは笑み、今度はゆっくりと歩き出す。
「あともう少ししたらあなたの新しいおうちよ。汚い場所だけどね」
ノエルは緩慢に頷き、辺りを見渡す。
少し荒れた空気が漂っている。
しかしこちらのほうが目立たなくていいかもしれない。
流石にあの者も当分の間追っては来ないだろう。
ならばここで少し休息を取ろう。
「ノエル?どうかした?まだ追って来てた?」
不安げに顔を暗くするアリシアにノエルはなんでもないとばかりに小さく笑んで見せる。
「ノエル、やっと笑ってくれた。嬉しい」
握られた手をギュッとされて困惑げにそれでいて恥ずかしそうにノエルは頷いた。
「さぁ、次を曲がった先が私達の家だよ。急いで帰りましょう。」
「‥‥うん」
いつまでかは分からないけど、居場所が見つかったよ。
だから見守って欲しい・・・・・母さん