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拾壱

疲れた。

でも恐怖のない生活は久しぶりだ。


いつも追われ、逃げ続ける生活が何年も続いていた。


「ノエル、ご飯だよ!」


「分かった、アリシア。今行く」


かれこれアリシアの家に住まわせてもらって幾月か経った。


そろそろ終わりにしなければいけないか。

これ以上長居をすればアリシア達を巻き込んでしまう。


傷付けたい訳ではない。


ましてや彼女は恩人だ。


アリシア達の平穏な生活を俺なんかがこれ以上乱す訳にはいかない。


でももう少しそうもう少しと延ばしている自分もいる

温かい、あんな家を俺は初めて知った。

馬鹿にも失いたくない、ずっと居たいとさえ思っている。


そんな願いを望んじゃいけないのに


今、振り切らないと


じゃないと望みを持ってしまう。


だから告げないと


出て行くと、今までありがとうと告げなければ

家に入って行くといつもと変わらないアリシア達の笑顔


済まない


許して欲しい。


こんな俺を今日まで匿ってくれて


だから俺は告げる。


「アリシア、すまない。俺、出て行くよ。ありがとう。今まで本当に、忘れない優しい君達を」


別れを


悲しみに歪む顔を見たくはない。


でも俺は去る。


ありがとう


幸せになってくれ


願わせてくれ。独りよがりな願いだとしても


君の、アリシアの笑顔は俺を救ってくれたから







「すみませんでした。」


開口一番の土下座付きの謝罪に冷めた表情で見下ろすリーナ

そのリーナの機嫌を伺っているのは本当に情けないギルドマスターギイだ。


「・・・・たとえ奴が来るのは許せても、それを伝え忘れた事は許せないな」


地を這うような低い声は怒りの度合いを感じる。


「一辺、死んどく?」


ついには死の宣告まで飛び出した。

いよいよ後が無くなってきたのを感じたのかギイが首を横に振る。


「た、確かに最終的な報告を怠ったのは謝る。だが話を聞いてくれ」


焦るギイに哀れみ一つ見せず、


「じゃ、20秒以内に話しなさい」


通告する。


「えっと、報告をしようと伝達鳩を飛ばしたんだ。間違いなくリオンに届いたって俺に伝えて来た。」

「あと10秒よ」

「だが少し伝達鳩が変な事に気付いて調べたら、狂わせられていた。犯人は・・・・」

「5、4、3、」

「ライルだった!」

「1、ゼ・・・。チッ、そうライルは自分が行く事を知らせないように工作したって事なんだ?」


軽く舌打ちし、不機嫌に鼻を鳴らす。


「だからどうか責めるなら、ライルも同罪いや俺より重いはずだ」


確かにそれは正論だ。


正論だがそもそもは


「ギイあんたが最初に私が学園にいる事を、しゃべったのが悪いはずだけど?」


固まるギイに容赦のよの字もない勢いでリーナは糾弾する。

視線を合わせないギイに軽く、いやかなり殺意が浮かぶ。


「責任持って私の八つ当たりの的になりな」


言い切ったと同時に攻撃が開始された。

二時間後、黒炭になりかけたギイが見つかることになった。






最初に会った時、変な奴だと思った。


次に会った時、敵わないと思った。


そして三回目に会った時、恐怖を感じた。


だがその瞬間に見せた、悲しげな絶望の色を宿した瞳


誰も寄せ付けない後ろ姿


その酷く脆い儚さに


俺は護りたいと、強くなりたいと思った。

だから俺は修業し、強い魔物がいれば戦いを望んだ。

がむしゃらに、ただひたすらにあの子の側に居られるぐらいの強さを求めて


幾度死にかけたか分からない。

何度周りの者に気味悪がられたかも知れないのだから。


でもそんなものは些細な事だ。

全てはあの脆く儚い存在を護り、支えてあげるためだ。


だから俺は二つ名を貰い、会いに行った。


ほとんど人形のように感情が見えなくなっていた彼の人

向けられた瞳はもうなんの色も宿していなかった。


そう悲しみも絶望も


それさえも越えてしまった人の瞳


俺が強くなっている間に彼の人になにかが起きた事は間違いない。

だから俺は能天気そうに手を差し延べ、


「初めまして、俺はギイって言うんだ。ちなみに二つ名は『紅の黒羊』だ、よろしく」


自己紹介をした。


せめて彼の人を、最強と謳われ恐れられる小さな少女を少しでも子供に戻してやりたくて

力不足だと、役不足なのだと分かってはいたが、それでも俺はその手をその側から離れたくない


だから会う度に声をかけた。


いつも警戒されていた。


「今度の依頼は一緒だな。」


だけどたまたま依頼を合同で受けたあの日


彼女は俺のために涙を流した。


ちょっとした事で彼女が不意をつかれ、攻撃を受けた。

それを庇い怪我した俺を見て、彼女の瞳に怯えが走った。


「大丈夫だから」


そう言っても、攻撃してきた魔物を切り伏せた彼女が不安に揺れる瞳で近付くのをためらい、立ち尽くしていた


「本当に大丈夫だ。だから泣かないでくれ」


宥めるように笑顔で言うが、目を逸らし近付いて来ない。


「怪我してないか?」


その瞬間、体を震わせ本当に恐る恐るといった感じにこちらを見た。


「・・・んで、か・・・ったの?」

「何?」


何か呟いたのを聞こえて聞き返すと、唇を噛み締めて近付いてきた。


「なんで庇ったの、俺より弱いくせに」


確かにお前より弱いけど、でも


「お前は確かに最強だろうが、その前に普通の可愛い女の子だろう?」


いつものノリで照れ臭さを隠し、本当に思っていた事を告げる。

すると、初めてそう初めて涙をこぼし、そして少し照れたように笑った彼女


「馬鹿な奴、女の子なんて。俺は最強の『黎明の蒼王』だ。普通じゃないのに、普通だって・・・」


そうは言ってたけど本当に綺麗な泣き笑いを見せてくれた。

その日から彼女はリーナは俺に着いて来てくれた。

色んな表情を見せてくれた。


色んな話もした。

俺がギルドマスターになる時、何も言わずに俺のギルドに来た。


そしてあれから何度も見せてくれた笑顔で


「このギルドを最高の、俺達の安らぎの場所にしよう」


そう言ってくれた。


ああ、俺もそう思う。

ここを安らぎの場所にする、リーナが安心していられる、帰れる家にすると誓うよ。


だから俺は言うんだ。


「いってらっしゃい」と





いつもと変わらない。


そんな一日が始まると思っていたんだ。


「はよう、シャイン」


本当にだるそうにリーナが教室に入ってくる。


それを満面の笑いで迎えたシャイン


「いよいよね。リーナ」


もう楽しくて仕方がないとばかりのシャインを冷たく見つめる。


「なんでめんどくさい事をするんだろう。学年別トーナメント」


本気でうんざりぎみだ。


と言うか聞くだけで気分が

なぜ出なければいけないとばかりに不機嫌だ。


バックレたくても逃げられない。


いくら落ちこぼれていてもさすがに留年はしたくない。

と言うか、すると悲しげに肩を落とす人間がいるからだ。


「無理して学園にいれてくれたんだから。卒業ぐらいしないと泣きそうだもんな、ギイの奴」


八つ当たりばかりしているが、リーナはギイに感謝してるし、家族のようだと思っている。


だからギイの願いを叶えてやりたいのだ。


年相応に学校に通い、友達を作り、楽しい生活を送って欲しいとギイがリーナの請け負う依頼の大半を肩代わりして学園に通わせてくれているのだ。


それにギイはまだ自分だって二十歳そこそこのくせに身内がいなくなっていた子供だった私を引き取ってくれた。


自分を利用しようとする大人達、巨大な力を忌み嫌う大人達、もう世界に色を見失っていた自分に再び色を取り戻させてくれたのだ。


だから嫌でも出なければいけない。

ギイの悲しげな顔を見るよりは良い。





「何時から?さっさと終わらせ」

「早く終わらせたいからってわざと負けるなよ」


背後からの注意にジロリと振り返る。


「・・・・そんな事は、しない」

「その間、少しは考えていただろう?」


呆れた顔で見られ、横を向き舌打ちする。


「それより何時から?」

「大いに不安が残るが一時間後の第2グラウンドだ。」


それに頷き、机に突っ伏し眠ろうと目をつぶる。


「おい、寝るな。」


ウルサイな。


「ダメだよ。リーナは一度決めたらテコでも動かないよ」

「惰眠を貪るならウォーミングアップでも」

「それこそ無理だね。


リーナに殺されたくないなら、リーナの好きなようにさせてあげなよ」

「しかし、皆真面目にやっているのに」


あんた達人の頭上で話すとは良い度胸してるね


そんなに捻り潰されたいのか


別に買ってあげようか。


「うるさいな、二人とも今すぐ視界から消えてくれる」


とびきりの笑顔で二人を見れば


片方はびっくり顔、かたや赤面


なんだその態度は


ムカツクな


だが静かになったのだ。


よしとしよう。


「もう邪魔するなよ」


そしてそのまま、スヤスヤと眠りの世界に


「凄まじい爽やかな笑顔だったわ」

「殺人的な可愛い笑顔を出しやがって」


と二人は眠るリーナを見下ろし呟いた。

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