給
暗闇を走るのは怯えに顔を歪ませる女
足を縺れさせ、逃げる。
逃げなければ自分に待ち受けているのは”死”だと分かっているからだ。
だがついには力がつき、地面に転がってしまう。
「う、動いて。嫌死にたくない。動いて」
必死に立ち上がろうとするが、身体が言う事を聞かない。
そして、女の耳に近付いて来る足音が響いた。
一気に女の顔色が変わり青を通り越し、白に染まる。
「どうして?なんで私なの。嫌よ。」
はいずってでも逃げようと身体を起こそうとし、肩を掴まれる。
「教えてやろう。それはお前が一番傀儡になって役立つからだよ」
耳元に落とされた言葉と同時に女の瞳から意思の光が消えた。
「さぁ『ミラ王女』、私のために踊ってください。世界を壊すためにね」
ニヤリッと笑い、男は『ミラ王女』と呼ばれた女を転移させた。
「始めましょうか?この世界を壊して我々の楽園を。それには邪魔なものを消させていただきましょう」
邪悪な笑みを浮かべ、男は消えるように転移した。
そして後には静かな森がおびえたように揺れるのだった。
ゆっくりと目を開く。
ああ、もう朝が来たのか。
体を起こし、髪をかきあげる。
今にも閉じてしまいそうな瞼をこじ開けて、洗面台に向かう。
今日は休みだが久しぶりにギルドに顔を出さないといけない。
何せ月一回開かれる会議にでなければならないのだ。
サボってもいいが、後々面倒事に巻き込まれてしまうのは御免被る。
さっさと着替え、フードを目深に被り転移する
ギルド《聖者の双剣》会議の間
すでにそこには仮面あるいはフードで顔を隠した6人が集まっていた。
皆各々に寛いでいたが、転移の気配を感じて立ち上がる。
そしてテーブルの上座に転移して来た人物に一斉に頭を下げる。
「「「「「「お待ちしていました。我等が王《蒼王》」」」」」」
王と呼ばれた人物、リーナは皆を一瞥してから席に腰を下ろす。
それから6人も改めて座り直し、会議が始まった。
まずは
「それでは最初に定期報告を」
その静かで威圧的な言葉に次々と報告されていく
「アザ王国に異常はありません。」
紫色のフードを被った人物、アザ王国を担当する
六公が一《紫苑の雷》
「メンセント公国、多少の内戦がありました。」
次に緑のフードに仮面のメンセント公国担当、六公が一《翠月の刃》
「ブラス国はドラゴンの被害が変わらず報告されています。」
物静かに道化の仮面、ブラス国担当の六公が一《太陽の使徒》
「ダマ・ナガ連合国、魔物、被害、増えた」
単語口調なのは白いフードを目深に被ったダマ・ナガ連合国担当、六公が一《白鬼》
「我がユタ王国は魔物や度重なる政変で国が壊れかけております」
悲痛な報告は、ユタ王国担当、大柄な体型に大きな怖い形相の仮面、六公が一《琥珀の奏者》
「ハウゼンド皇国は、前と変わりありません。」
端的な発言はハウゼンド皇国担当、銀の仮面に漆黒のフード、六公が一《玄狼姫》
六公それぞれの報告を黙って聞いていたリーナはゆっくりと口を開いた。
「まずは、《翠月》内戦の規模及び被害を正確に出して書面で提出だ。」
「了承しました。」
深く一礼して顔を伏せる。
「次は《太陽》、変わらずは分かった。だが詳細は必ず発言しろ」
「了解です。」
大きく頷いている。
まぁ、大丈夫だろう。
「《紫苑》は引き続き頼むぞ。《玄狼姫》、お前は少しは真面目に報告しろ」
一方は優雅な仕草で頷き、一方は気軽に手を上げる事で返事としてる。
頭が痛くなりそうだか、いつまでもつき合っていられない。
「《白鬼》のところには調査隊を出そう。原因は素早く突き止めたい。」
すると安堵したように首を振り、席に深く座り直した。
「さて問題は《琥珀》のところだな。まだ政変が収まらず、魔物被害が加わったか。」
しばし考えるリーナを不安げに見る姿は疲労が滲み出ている。
「仕方ない、《琥珀》よ。今から話す言葉を一字一句間違えずに国に広めろ」
「はい」
「『《黎明の蒼王》の名において命じる。
不必要な争いは要らない。続けるなら我が名にかけて殲滅する。
力が余ってるなら魔物退治でもするが良い』と」
静かにだが染み渡るように響く。
「必ず伝えます。」
深い一礼する《琥珀》に鷹揚に頷き、前に置かれていたグリーンティーを飲む。
「さて最後は俺が担当する国だが、魔物被害は変わらない。しかし、不審な気配もしくは被害が出ている」
ピンッと空気が張り詰める。
「ふ~ん、その気配は見当はついているの?」
《玄狼姫》がワクワクしたように尋ねてくる。
「憶測で発言はしない。だが被害状況は死者が分かるだけでも数人出ている。」
目も向けずに明言する。
そして、静かに立ち上がる。
「皆、警戒を強めておけ。何があっても対処できるように、では会議は終了だ。解散」
すると全員が立ち上がる。
そしてリーナに向かって膝をつく。
「「「「「「『蒼王』よ。限りなき加護を世界のために」」」」」」
一斉に言われた言葉に適当にき、音もなく誰にも声も掛けずに転移して消えた。
「ねぇ、なんでお顔見せてくれないの?」
可愛い五歳くらいの女の子が下から覗き込んでくる。
それを迷惑げに鼻を鳴らし、そっぽを向く。
「少しぐらいいいじゃな?減るもんじゃないでしょう?」
「チッ、うざい。誰だ、この馬鹿な依頼を受け、回して来た野郎は」
心底嫌だと顔にうかべ、それでも命令だと思い我慢している。
今日のリーナの任務は
『迷子になったある重要人物の息女エカテルーナの保護及び警護である。』
早く帰りたい。
迷子になったのはどうやら自業自得のようだし
一応最初は任務だと思い、彼女を探し出した。
後は連れ帰るだけと言う所でこのお嬢さんは自分に絡み出してきたのだ。
はっきり言って目の前から消えて欲しい。
まだ幼い少女には見えないほど小煩い
見付かりませんでしたって言って帰っても良いかな。
ちょっとだけそう思ったが後で周りが騒がしくなるのは目に見えてる
ならばここは
「エカテルーナ殿、親御さんが心配しています。今すぐ家に送り届けて差し上げますね。」
一刻も早くこの少女を家に帰して任務を終わらせるのみだ。
そうと決めて腕を軽く掴み、転移を始める。
「え、ちょっと待って・・・・」
「口を閉じて下さい。舌噛みますよ。(噛んで黙れ!)」
そのまま転移してしまう。
その後、一応無事に家に帰されたエカテルーナだったが、すっかりリーナ(蒼王)に興味を抱いて周りを困らせているとの事だった。