1話 門出
閲覧少ない(´;ω;`)
もっと頑張らねば…!!
暖かい光を感じ、意識が浮上していくのを感じる。
それとともに、少しずつ鳥の囀りも聞こえるようになってきた。
「…んぅ……?」
視界が真っ黒から少しずつ白に染められていく。
「兄ちゃーん?朝だよー」
暗闇そして微睡みの中、確かに声が聞こえた。
それによって、さらに意識が浮上していく。
「朝…か……?」
長年の経験から得た教訓、眠気に逆らうためにはとりあえず体を起こすべし。
俺は微睡みの世界から手招きする睡魔に鋭いジャブを繰り出し(イメージ)、その世界からさよならする。さらば、睡魔よ。また夜に頼むぜ。
「起きてないのー?」
「起きてるよ…」
意識が少しずつはっきりし始め、声が若い…いやむしろ幼いと感じられるような女の声であると知覚できた。
「入るよー」
「どうぞ…」
許可を出しつつ、目を擦ってぼやけた視界をはっきりさせる作業を行っていると、俺は油断していたことに気づいた。
まずい、あれがくる―――
「お邪魔しまーす!」
「おぅふ」
飛び込んできた黒い塊が俺の鳩尾を的確に穿った。頭突きである。
胃液が戻ってくる感覚を必死にこらえる。しかしむせ返ってしまうのは止められなかった。
「げっほげっほ!!…う…うぐぐ……」
「おはよう、兄ちゃん。起きた?」
浮かんでくる涙をこらえ、視線を少し上げるとそこには我が愛しき妹の目が。髪は短く、俺の視界に入っている前髪と同じ、漆黒である。それが俺の目の前でさらさらと揺れていた。
起こしに来たのはいいけど、嬉しいけど、手段を考えて欲しいというのは甘えなのだろうか…?
「…ああ、起きたよ。お前の(繰り出した頭突きによる痛みの)おかげでな」
と髪を撫でながら返すと、妹は気持ちよさそうに笑った。…うん、今日も我が妹は可愛いなあ。
「えへへー。感謝してね?」
「ああ、ありがとな」
今だに鈍い痛みを感じながらも許してしまう俺は少し甘いのだろう。
しかし、今はダダ甘な兄でも反抗期になったころから厳しくすればいいだろうと思った。r
◆
とりあえず着替えるために妹には外に出てもらって、いつも来ていたのと違う、完全な新品である制服に着替える。
そう、今日はルクソール士官養成学校中等部へ進級し、その登校初日なのだ。
ルクソールでは、13歳になると初等部から中等部に進級する。
その差は扱う銃が初等部なら拳銃のみ、中等部からサブマシンガン、アサルトライフル、反動が軽めのスナイパーライフル、ショットガンなど多種に渡るようになるなどが挙げられるが、なにより大きいのは戦場に出始めるところである。
早めから戦場に慣れ、高等部から活躍できるようにということが考えられているらしいが、保護者の中には早すぎるという声も上がっているらしい。
俺もついに命の駆け引きにでなければならなくなったのか、と期待、そして多少の不安に心動かされている内に着替えが終わっていた。さすがに気が抜けすぎか、と一人苦笑する。
さあ移動しよう、と決めた時下から
「アルフー?ごはんよー?」
という声が聞こえてきた。
ちょうどいいや、と思いそれに
「今降りるよー」
と返すとはーい、と声が返ってきた。
おかずは何かな、と鼻をヒクつかせると下の階から肉の焼ける香ばしい匂いがしてきた。
今日のごはんはベーコンエッグかな、と少し胸踊らせながら階段へ向かう。
近づく内に匂いが強くなっていくのを感じ、思わずよだれが垂れそうになってしまったのは秘密にしておくことにした。
◆
「おはよう」「おはよう、アルフ」「改めて、おはよう兄ちゃん」
俺を出迎えてくれたのは、三人の声だった。父さん、母さん、妹だ。
「おはよう」
「もう朝ごはんできてるわよ。座って座って」
「うん」
すでにそういう母さんも含めて三人とも席についており、その前にはトーストとできたてなのか湯気を上げているベーコンエッグがあった。
(予想通り…)
そう言って人差し指を額に当て、親指を右、中指を左目の目尻に当てながらにやりと笑う。
「兄ちゃん兄ちゃん、なんで新世界の神みたいな顔してるの?」
「新世界の神?」
「うーん、まあ、いっか。忘れて」
「?」
こういう風に、たまに我が妹は意味の分からないことを言う。
まあ、忘れろと言われたのだ。別に覚えてなくていいことなんだろう。
「全員揃ったな。じゃあ、いただきます」
「「「いただきまーす」」」
父さんの号令で全員が手を合わせる。
寝起きで、口が粘つき気持ち悪いためとりあえず水を口に含み、行儀は悪いが軽くくちゅくちゅとうがいをする。
水を飲み込み、目の前で美味しそうに湯気を上げているベーコンエッグに手を伸ばす。
ようやく、香ばしく焼けたベーコンを食べれると思うと、またよだれが垂れそうになる。
フォークでそれを突き刺すと、油が流れ出てさらに食欲をそそる。
口に含むと、肉汁と肉本来の味が広がりごはんがとても欲しくなる味だ。
「うまい!!」
「そう言ってくれると、作った甲斐があるわぁ」
僕のうまい!!発言がよほど嬉しかったのか、ニコニコと笑う母さん。
しかし表情が一変。声も喜色から昔を懐かしむような、少し悲しそうに変わる。
「そういえば今日から中等部なのね…」
その言葉を聞き、父さんも遠くを見つめながら話に混ざる。
「ああ、そうだな…ついに中等部、か」
「制服、似合ってるわよ」
「ありがとう」
「でも、中等部ってことは…戦争に出始めるのよね?」
「うん…。でも、今俺には何かやらなければならない気がするんだ。だから、頑張って訓練してくるよ」
「「「………」」」
「うん?皆、どうしたの?俺を突如現れたUMAみたいな目で見て」
我が家族が驚きに目を見開き、こちらを見つめている。な、何なんだ…?
「おう…いや、なあ?」
「うん…あの無気力を人間にしたような兄ちゃんが……」
「ええ…」
「「「やる気に満ちた顔してあんな事言う(とは)((なんて))!!」
「なかなかに皆ひどいな!?」
「いや、昨日まで『戦争行きたくねえ~』ってベットの上で漫画を読みながらだるそうに言うような奴だったからな…」
「うん…私もその現場、兄ちゃんの部屋で見たからね」
「ええ、私も洗濯物をアルフの部屋にもって行ったとき部屋の角で座りながらゲームしているところを見たわ」
「皆ほんとにひどい!!」
家族からハートをひどく傷つけられた俺は、部屋の角で体操座りをして床に向かって叫んだ。
さすがにその涙をさそうオーラに耐え兼ねたか、慌てて家族(俺を除く)がフォローに入る。
「い、いやあ兄ちゃん!違うよ、やる気が出たんなら結果オーライというか!!」
「そうよ、アルフは頑張ればできる子だし、頭はいいし!!」
「ああ、これから頑張っていろいろ取り返せばいいんだ!」
「そうか、僕はいろいろ取り返さなきゃいけないくらい物を失っているのか…」
「「………」」
「やめろ、そんな目で俺を見るなぁ!」
これ以上凹んでいると母さんと妹の無言圧力によって父さんが発狂してしまうので、そろそろ立ち直るか、と部屋の角から脱出する。
「まあ、いいよ。確かにいろいろ取り戻して、強くならなきゃ生き残れないし、ね」
「「「!!」」」
「?また皆UMAを見るような目をして」
また両目を見開き、驚きを露わにしている我が家族達。
「アルフ…お前……」
「兄ちゃん…かっこいい……」
「今日はアルフの好きなハンバーグね!!」
「ほんとにひどかったんだな、今までの俺……」
家族から再び向けられた驚きと優しさ、その他諸々の目線によってまた悲しみにくれる俺。
せっかくの門出だってのに、なんでこんなに何回も凹んでいるんだ…?
そんな疑問を抱いてしまった俺を、誰が責められるだろうか?
◆
今日は始業式、進級式のみであり、授業の用意は特にいらない。
ちなみに父はもう仕事に出ており、母も洗いごとをしているのか水の流れる音に混じって楽しそうな鼻歌が聞こえてくる。
早々と学校に行く用意を済ませ、靴を履きながら少し考え事をしていた。
家族に言われた事が自分気にかかってたからだ。
(今日確かに俺、なんだか変な感じがする…。今まで全くやる気なんて湧かなかったのに。それこそ、いつでもゲームを持っていてゲームが友だちって感じだったのに…今日は、今からでも筋トレしたくなるくらいやる気に溢れてる。何なんだろうな…?)
「兄ちゃん、いくの?」
「うん?あ、ああ…」
我が妹との会話と考え事を天秤にかけたら勢い良く、それも考え事のほうが吹っ飛ばされるくらいの勢いで会話に傾くだろう。よって自分のモチベーションの事など忘却の彼方へ吹き飛び、首を傾げる愛しき妹に視線を向けた。…ああ、可愛い。
「兄ちゃん、頑張ってきてね!!」
そして、ニカーッと笑う妹。
(ず、ズッキューン!!)
その暖かささえ感じる晴れやかな笑顔に俺のハートビートはズッキュンドッキュンだぜ…。
だけどそのおかげでやる気が倍プッシュだ!
「ああ、頑張ってくるぞ!」
そう勢いよく言って頭を撫でてやるとえへへ、とまた笑ってくれた。
これで一日頑張れる、ってものである。
「じゃあ、行ってきます!」
「いってらっしゃーい」
扉を開くと雲ひとつない青空から日の光が降り注いできた。
やる気に満ちあふれた俺にとって、最高の門出日和だ。
空気をいっぱいに吸って清々しい気分になった俺は、足を大きく踏み出し、その勢いのまま駆け出したのだった。
文字数は基本これくらいです。
前話のように例外はありますが。