ポチ
「ポチ」
浪漫は20才
独り暮らしにも慣れて
犬を飼うことにした。
名前は「ポチ」
1才の柴犬だ。
ポチはとても人懐っこくて
よく吠える。
食欲も旺盛だ。
浪漫はポチを溺愛した。
マクドナルドのアルバイト店員をしながら
お金を稼ぎ
家に着いたらポチの世話をする。
それが浪漫にとってかけがえのない幸せな生活だった。
《結婚なんてしなくていい。おれにはポチが居れば幸せ
だ》
浪漫にとってポチは
唯一無二の親友だった。
ポチは浪漫のことが大好きだ
ある日、浪漫はマクドナルドのアルバイトで嫌なお客を
対応し
疲れ切っていた。
「ただいま」
と元気ない声で
玄関を開ける浪漫
そんな時でもポチは嬉しそうに
主人の帰りを歓迎してくれる。
浪漫は思わず涙をこぼしてしまった。
「ポチ、、ただいま、、
元気か??
おれ、、今日は疲れたよ、、、」
ポチもクンクンと小さく鳴きながら
いつもとは違う主の雰囲気に
心配そうに反応する。
浪漫は
嫌なことを少しだけ忘れ
気持ちを切り替えて
夕飯の支度に取りかかった。
平凡なほのぼのとした生活が続く
浪漫であったが
ここ最近、少し変化があった。
ポチの様子が少しおかしいのだ。
ポチが妙に浪漫に対して
距離が近いというかやたらと
好意を示してくる。
浪漫もポチのことが好きなので
嫌な気持ちはしなかったが
それでもどうしても気にはなるものだった。
ある時、浪漫はポチに聞いてみた。
「ポチ〜、きみさ〜、おれのこと好きなのは分かるけ
ど、ずっと見つめられるとおれも照れちゃうよ、、ちょ
っとは気を遣って、たまには突き放したりしてみて
よ。」
分かりもしないこととは分かってはいたが浪漫はポチに
本音をこぼした。
ポチはその言葉に呆気を取られたような表情でポカーン
としたがすぐに浪漫のほうを見つめた。
「えっ、なんでなん??」
ポチが喋った。
「えっ、、、?ポ、、、ポチ?」
浪漫は自分の耳を疑いつつも
ポチに問いかけた。
「えっ?なに?
浪漫、、、急にどしたん?」
また喋った、、、
というか、まともに会話をしている。
「ポチ、、、きみ、、、喋れるの?」
「うん、そうやで。
わい、喋れるねん。浪漫、、腹減ったからそろそろメシ
にしてや。」
「な、、、なんで関西弁、、、」
浪漫はしばらくそこから言葉を失った。
ポチが突然会話を習得した。
浪漫の生活は一変した。
というか、立場が大きく逆転した。
「おい、浪漫、、、メシは??メシ!!」
朝起きると、ポチは浪漫に朝ごはんを要求するようにな
った。
「あっ、、、ポチ、、きみ喋るんだったね、、ごめ
ん、、すぐ用意するよ。」
寝起きの浪漫は休む間もなくポチに朝ごはんを出した。
「てか、、いつまで犬用のご飯食わすん??浪漫、、オ
マエ、美味そうなメシ食ってるよな?
それわいに食わせろや。」
「えっ、、?、、、」
浪漫は言葉を失った。
「えっ?ちゃうねん。
ワレの美味そうなその焼きそばとか
餃子とか食わせ言うてんねん!!」
ポチは語気を強めた。
「・・・・・」
浪漫は正気を失った、、、
温厚で心優しい浪漫だが
ポチのあまりにも行き過ぎた言動には腹も据えかねた。
「ポチ、、きみは人間の言葉を習得した。
それはシンプルに讃えたいし、素晴らしいきみの功労だ
と思う。
そこは本当に賞賛に値することだよ。
でもね、、よく考えてごらん、、
言葉って有限なんだ。
ずっと話すことは出来ない。
いつかは言葉って話せなくなるんだよ。
きみの使う言葉も限りがある。
そんなことを考えたときに
今、きみが話している言葉は本当に
正しく活用出来てるかな?
きみの言葉、、みんなを幸せにしてる??
僕はきみをそんなふうに育てた覚えはないよ。
きみはもっと素敵な方向で言葉を使えると思うんだ。」
浪漫は跪いてポチの目を見つめ
自分の気持ちを訴えた。
「はっ?なに?ポエマー?
ドラマの見過ぎちゃうん?
そういうの要らんから。」
「・・・・・」
「そんなことより、浪漫!
われは前々からわいに対して
なんか偉そうやねん!
ええ加減にしときや!
わいが犬やからって
なめとんちゃうか?
わりゃ、あんま調子こいとったら
いてまうで!!」
いつになくポチは怒っていた。
「えっ?ポチ、、なんでそんな言い方するの?
おれはそんなふうに思ってなんか一つも無いよ。」
「うるさいねん!
黙っとけやタコナスが!
わりゃ、ほんまいてまうからな!」
立場は大きく逆転した模様だ。
その後もそういった生活が続いていった。
浪漫は生きる気力も失い
ただただポチの奴隷として
過ごす日々だった。
「おい、浪漫!
ピザ取れ!ウーバーな!
はよせえよ!」
「は、、、はい、、」
「おい浪漫!風呂入りたいから沸かせ!
はよせえよ!」
「は、、、はい、、」
もはや、そこにお高いの愛情など
成立していなかった。
あるのはただの
犬と人間の奴隷世界だけだった。
浪漫は何もかも考えることをやめ
ただ、ただ無となって生きていた。
そんなある日、
浪漫は一つのことを決心した。
《ポチ、、、おれはお前を許さない、、、》
浪漫はついにキレた。
あんなに可愛がっていたポチ、、
浪漫にとっては生きる意味でもあったポチ、、
浪漫はポチに生きる気力をもらった、、
尊敬し、また愛したポチが
今は浪漫にとって
最低な犬でしかなかった、、
浪漫は心からポチのことを憎んでいた、、
《ポチ、、、おれはお前を許さない、、、》
大きな風が浪漫の目の前を通り過ぎていった、、、
翌る日、
浪漫はポチを裏庭に呼び出した。
「よく来たな、ポチ」
俯いたままで浪漫は静かに呟いた。
「あっ?なにカッコつけてんねん?なんかのドラマのつ
もりか?」
ポチは不機嫌丸出しの表情で言った。
「ポチ、、、おまえがそういう口を聞けるのももうこれ
までだ。
おまえは押してはいけないスイッチを押してしまった。
明日、後悔すればいい。」
浪漫は少しカッコつけて囁いた。
「だからおまえはなにをそんなにイキってんねんっ
て、、、
いてまうぞ、こら。」
ポチの怒りもかなり激しくなってきた。
「ポチ、、、四の五の減らず口はもういい、、おれはお
まえを倒す。」
浪漫はグッと拳を握り
戦いの構えを見せた。
ゆっくりとした姿勢から
浪漫はポチに対して喧嘩の構えを見せると
微笑を浮かべながら
ポチのほうへとゆっくりと歩みを進めた。
「いてまえ、こらー!!!!」
なんと先制攻撃を仕掛けたのは
大声を出したポチだった。
ポチは浪漫の肩を目掛けて
大きな牙で噛みついた。
「グハァァァァッ!!!!!」
浪漫は痛みに耐えきれず叫び回った。
浪漫の肩からは血が流れていた。
ポチは噛みついた肩から一行に
離れようとしなかった。
みるみる浪漫の顔色が青ざめていく。
「や、、、やめろーー!ポチ!!」
精一杯の抵抗を見せる浪漫。
そろそろヤバいと感じたポチは
浪漫の肩から牙を離した。
「ドカンッ!!」
その場に崩れ落ちる浪漫。
「われは、たいがいにしとけよ、コラッ!わいに勝とう
なんて50年早いんじゃボケカスがっ!!」
ポチはぶち切れながら浪漫に言い放った。
「く、、、くそ〜、、、」
地面の砂を顔中につけながら
その場に沈んだ浪漫は悔しさを滲ませていた。
「ちっとは頭冷やしやがれ!このクソガキが!!!」
怒り心頭のポチは浪漫へ暴言を浴びせた。
うずくまる浪漫は肩で息をしながら悔しさをぐっとこら
え、唇を噛み締めた。
ポチは浪漫に背を向け歩き出した。
〈ここしかない、、、、〉
浪漫は隠し持っていたハサミを取り出し
ポチの背中に向かって右手を振りかざした。
《グサッ!!!!》
けたたましい音が周囲に響いた。
浪漫が振りかざしたハサミはポチの背中に食い込ん
だ、、、
「ぬぉっ!!!!!!」
ポチの叫び声が鳴り響いた。
「おれをなめんじゃねえぞ、、、このクソガキ
が、、、」
浪漫の目はもう昔のそれではなく悪意に満ち溢れた目だった、、、
〜完〜




