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第9話 レベルダウンの影響、ガルドの思惑

第9話です。


レベルダウンの影響が、じわじわと表面化してきます。

そしてガルドの動きも本格化。


ユウマはまだ、自分が巻き込まれているものの大きさを知りません。


ここから物語は少しずつ“縦軸”に入っていきます。

ソウダ村から次の街に向かう街道の途中には、道を横切る形で少し広い川が流れている、その川を渡す石造りの橋は多くの旅人や交易商人の行き交う物流の生命線の一つでもある、だがその橋の手前に、まるで立ち塞がるように大きなモンスターが横たわっていた


モンスターの名はアースドラゴン、リリアの話では

「アースドラゴンの個体としては小柄ですが、それでも街道を遮り、不便を強いられる程度には迷惑な存在ですわ」

と言うリリアの話の通り、橋の手前を塞いでおり、回り込もうにもアースドラゴンの視界から離れて移動するにはかなりの大回りとなってしまう、そして街道から外れることによる野良モンスターや野党の襲撃のリスクや、たとえ迂回して人は橋のない川を通れても、荷馬車などは川を渡れない為、足止めされた商人達は橋から離れた街道沿いに簡易的なバリケードや柵を作り、キャンプを続けてアースドラゴンが去るのをひたすら待っている状態だった、俺達は足止めを余儀なくされた商人の一団の依頼でアースドラゴンを移動、もしくは討伐をする為に対峙していた、俺は早速ピンポイントで奴を屠るべく強力な攻撃魔法を放つことにした

「焼き尽くせ! ヘルフレイム! 」

竜巻のように火柱を上げる強力な炎がアースドラゴンを包む、だがヤツの頑丈な皮膚と甲羅がダメージを軽減させていく……レベルダウンの影響で、王都では使用出来たメテオ系の呪文は使用できなくなっていた、ヘルフレイムの魔法の効果が薄いと判断した俺はすぐさま剣を抜きアースドラゴンの首目掛けて斬りかかる

「こんのおおおおぉ! 」

 俺は勢いよく飛びあがると、そこから落下するスピードに乗せて真上から剣を振り斬り下ろす、だがヤツは首を引っ込めて甲羅の中に身を隠してしまった、目標を失った剣は地面に突き刺さろうとするが、俺はとっさに体を翻し回転させて横へ剣を振って勢いを逸らす、空中で大勢を整え地面に降り立つと再度剣を構えて自らの甲羅に閉じ籠るアースドラゴンを睨む

「くそっ、先ずはあの固い甲羅を何とかしないと」

因みにリリアとミナはアースドラゴンの物理攻撃が届かない程度に離れた場所で結界を張って巻き込まれないように見守っている

「ユウマ、あの甲羅は魔法の耐性が高いですが物理攻撃は幾分有効なはずです、時間は掛かりますが一点に集中した物理攻撃に切り替えてください、私が攻撃力を上げる加護を使いますので、一旦こちらへ! 」

リリアの言葉に従い、俺は一旦引き、リリアの支援魔法を受けて再度攻撃を開始すると甲羅の上に乗り一点に攻撃を集中する


ガキンッ! ガキンッ! ゴキンッ!


と言う金属音のような音が当たりに響く、剣は刃こぼれする可能性もあるが、俺は構わずに剣を甲羅に二度三度と斬り付けて、少しづつ甲羅の耐久値を削っていく、もしレベルが転移直後の9999だったならば、アッサリと甲羅を砕くことが出来たかもしれないが、やはり地味にレベルダウンの影響が効いているようだ

「このっ! このっ! しぶといやつだ! 」

同じ場所を攻撃し続け、十数度目の攻撃でようやく甲羅に亀裂が入る、

「いまだ! おりゃああああ! 」

俺は渾身の力を込めて振り下ろす、甲羅の亀裂目掛けて振り下ろされた剣は甲羅を真っ二つに切断、アースドラゴンは最後の力を振り絞り尻尾で俺をはじき飛ばそうとするが、俺はとっさに身を翻し、振り下ろした剣を今度は切り上げ、尻尾を切断する


グギャアアアアアアアアーーーッ……


断末魔の雄叫びと共に、その巨体は力を失い崩れ落ちた、コイツのせいで2日も足止めを喰らってしまったが、ようやくコレで街道が通行できる

「お疲れ様です、流石ですわ、ユウマ」

「ようやくこれで街道も安心して通れますね」

リリアとミナはそう言って喜んでいる、商人達からは今回の依頼のお礼にと金貨を5枚もくれた、俺は断ろうとしたが俺達の行き先がポートルガルだという事を知って、船を仕立てるのなら最低でもこれぐらいは持っておくべきと言われたので、受け取る事にした。

「もし大型船を希望ならば大金貨が必要になるので、元手として持っておいてください」

と商人は取引関係のある商店をいくつか紹介してくれた、もし利用する機会があれば行こうと思うが、ポートルガルも王都と同じように壊滅している可能性は高い、都市から避難している人が戻っていれば可能性はあるのだが、それは行ってみない事には判らないが、

俺は足止めされた商人のキャラバンにガルドさんがいるのではと探してみたが

「ここにはやっぱり居なかったか」

足止めを同じように喰らっていると思っていたガルドさんはここには居なかった

「予想以上にかなり先に進んでいるのか、しかし」

アースドラゴンと戦って感じたのだが、やはり以前より力が弱くなっている様な感覚がある、それでも大抵の魔物は脅威にはならないのだが 

「やっぱり、アレも関係あるんだろうな…… 」

俺はソウダ村を出発する前の、あの日の晩のことを思い出していた


 ゴブリン討伐を完遂し、ギルドからの報酬を受け取った俺達は、酒場でささやかな打ち上げをした後、ガルドさんは宿に戻っていった、俺達も宿に戻る事になったのだが、ミナが

「あの、私は一度実家に戻って、その後冒険者ギルドに書類を渡す用事があるので」

 と言ってきたのでミナはそのまま実家に戻っていった、俺達もそろそろ、この村を出て旅を再開するつもりだったから、父親に別れを告げるのだろう、危険な旅に連れていくので、俺は一層気を引き締めてかからねばと、宿に戻る途中に見上げた星空に向かってそう誓った……はずだった。


 最初の違和感は宿に帰って来てからのミナの相談だった


「え? 宿屋に泊っている女性が体調を崩した? それは本当か? 」


何でも極度の緊張から解放されたものの、疲労が一気に押し寄せて救出した女性の内の1人が寝込んでしまったらしい、と宿の管理をしている女将さんから伝言が有ったという事だ

「もし万が一、ゴブリン由来の伝染病だと危険なので、リリアさんも一緒に来てもらえませんか? 」


 と言うミナの話にリリアはミナの眼をじっと見つめ、そしてため息とともに

「まあ、それはいけませんわ、ユウマも一緒に来てもらえませんか? きっと彼女は心細いのです、あなたが傍にいれば彼女達も安心するでしょうから」

とは言うが、彼女達とはゴブリンの巣で救出したという事以外の接点はない、おまけに彼女らが居る目の前でゴブリンを倒したという訳でもない、そんな状態で果たして信用されているのだろうか、と悩んでいるとミナが

「それならガルドさんの所に行って一度話を聞いてもらいましょうよ、まだ起きていると思いますから」

と言う、確かに夜と言ってもまだ寝るには早い

「まあ、ミナがそういうのなら、ガルドさんの泊まっている宿屋を訪ねてみようか」

という俺の提案にリリアは

「そういう事でしたら早く行きましょう、病人を待たせるわけにはまいりませんもの」

という事で、ガルドさんの宿泊している宿屋に着いたので、早速受付にいる主に話をしようと思ったら背後から

「よお、ユウマたちじゃねえか……こんな時間にどうした? 」

とガルドさんが声をかける

「ガルドさん、丁度良かった、実は相談したい事がありまして……先日助けた女性たちの事なんですけど」

とミナの話をそのまま伝えると、ガルドさんの顔の片方の眉毛がピクリと動いたと思ったら腕組みをして

「うーん、そいつは恐らく病気と言うより、疲労からくる眩暈とかだろうな……とは言え、お前さんを頼りにしているっていうのなら、彼女の傍に居てやった方が良いと俺は思うがね」

と言ったので、俺もそれを信用して

「分かりました、ではガルドさんも一緒に」

と言ったらガルドさんは

「いやいや、俺みたいな胡散臭い中年の盗賊が一緒にいたら彼女達も安心できないだろ、こういう事は歳が近いお前らの方が安心するもんさ、さあ早く行った行った、急ぐんだろ? 」

とガルドさんに促されたので

「分かりました、相談に乗ってくれてありがとうございます、このお礼はいつか必ず」

とガルドさんに礼を言って俺たちは女性たちが止まっている宿へ向かった、宿に着くと主である中年の女性が俺を待っていた、俺を見ると

「ああ、アンタがユウマさんだね、彼女たちの部屋は2階の奥の団体部屋だよ、ホントは個室の方が良い部屋なんだけど、彼女たちが一人になるのは嫌だと言ってね、さあ部屋まで案内するからついてきておくれ」

と女主人の案内で彼女たちが泊まっている部屋まで案内される、女主人は

「じゃあ私は下に居るから、何かあったら下まで降りて来ておくれ、今は……ちょっと手が離せなくてねえ」

と言うので、部屋には俺達だけで入る事になった……扉をノックすると中から

「えっと……どなたですか? 」

と聞かれたので俺は正直に

「下の階にいる女主人から話は聞いています、体調を崩された方が居るという話でしたので神聖魔法を使える仲間も一緒に来ました、ドアを開けてもらえないでしょうか」

と答えるとガチャリと鍵を開ける音がした後にドアが開き、中にいた若い女性が出てくれた救出した時より幾分顔色が良くなっていた

「お待ちしておりました、こちらへどうぞ」

と案内されて中に入ると、その宿屋は少し広めの居間と寝室……そして大きめのクローゼットが備え付けられた高そうな部屋だった、高そうな調度品こそ無いものの、落ち着いた雰囲気の家具や絵画などが置いてあり、寝室も広くベッドはダブルベッドが二つもあった、俺はミナに促されてベッドに横たわる女性の元へ行き、傍に背もたれの無い丸椅子があったのでそれに座る

「彼女はどんな様子でしたか? 」

と俺が聞くと、傍で看病していた女性から

「はい、うわごとのように繰り返しユウマ様の名前を呼んでいました、ですので彼女の手を握ってやっては貰えませんか? そうすれば安心いたしますので」

と言ったのでリリアの方を向くと

「彼女の言う通りにしてくださいませ、こちらはすぐに回復魔法を施しますので」

と言ったので俺はベッドで寝ている女性の手をそっと握る、が

「ん? あ、あれ? うわっと⁉ 」

弱々しく横たわっていたはずの彼女の手が、力強く俺の手を引き、不意の事でバランスを崩してしまった俺は女性の方に倒れ込んでしまう、そして傍にいた女性が申し訳なさそうな顔で俺に話しかける

「申し訳ありません、勇者様、このような騙すようなことをしてしまって、でも許して欲しいのです、今は貴方のぬくもりで、私達を癒してくださいませ」

と言ってきたが、どういう事か理解が追い付かない、ともかく俺は早くベッドから離れようとすると、再び俺の手を引きベッドにいる女性の方へ倒れてしまった

「お願いです! いかないでくださいませ勇者様……本当はガルドさんと言う方に頼むつもりでしたが、あの方が勇者様の方が適任だというので、このような芝居をしてしまいました、お許しくださいませ」

といっていきなりその両腕で俺の身体を抱きしめる、俺は慌ててリリア達に助けを求めるのだが

「ユウマ、彼女たちはゴブリンで穢れた身体を清めて欲しいのです、それにはやはり盗賊よりも勇者の方が良いという事なのですわ」

とリリアは何故か魔法を唱えることも無く服を脱ぎ始める、いつの間にか部屋の窓はすべて閉じており、周りには荒い息をした女性達と笑顔のリリアとミナ

「ま、まさか……二人とも、俺を騙したのか? 」

と言うとリリアとミナは顔を見合わせクスクスと笑うと

「いいえ、ユウマ、わたしは騙してなんかいません、あなたの助けが居るというのは本当です」

とミナが言うとリリアも

「ええ、まったくその通りです、私も傍に居てあげた方が良いとは言いましたが、決して騙しているつもりはありませんわ……まあ強いて言うならば、ガルドさんの方が黒幕でしょうけれど」

という言葉に、相談をした時のガルドさんの表情の僅かな変化を思い出す

「あれは、気づいていたのか? こういう事を……いや、そもそもガルドさんがこれをやるはずだったのを何故断ったんだ? 」

と言う俺の疑問は、ベッドで器用に俺の衣服をはぎ取る仮病の女性を含めた積極的過ぎる女性達が4人とリリアとミナ、併せて6人の攻勢に、落ち着くようにと諫めるも聞き入れられる筈も、ましてや女性に対して力で抗うなどできる筈も無く、しいて言うのならこの顛末を予想していたガルドさんに聞こえる筈もないが、俺は

「なんで、なんで止めてくれなかったんですかぁ! ガルドさぁぁぁぁぁん! 」

と言う叫びも女性達の嬌声によって虚しくも阻まれてしまったのである。

俺は、女難の相でも有るのだろうか? 


地震か? と思うほど部屋を揺らした、はたから見れば妖艶かつ甘美な夜が明けて、満足そうにツヤツヤとした女性達、またしても幸せそうな顔で寝ているリリアとミナ、そして絶倫スキルのせいで体力を持っていかれ干物にでもなったかの様な俺がゆっくりと起き上がると、不意に天から声が頭に聞こえてきた

「6人の異性とのまぐわいを10回行いましたので、そのペナルティーとして合計60レベルを上限と共にダウンします、現在のレベルは8920レベルです」

ま、またやってしまった……愕然とする俺を彼女たちは知る由もない、普通の男性ならば天国と思うだろうが、レベルが1を下回りマイナスになれば命を落とす俺にとっては災厄でしかない、疲労と筋肉痛で痛む腰をさすりながら俺は1階にいる女主人の所に行くと、またしても信じられない報せを聞くことになった、なんでもガルドさんがまだ薄暗い早朝、この宿屋にやって来て俺宛のメモを渡したそうだ、俺はメモを受け取り内容を確認する、内容はこうだ

「宿屋での件はすまなかった、昼まで滞在するつもりだったが、急用が出来たので一足先に旅立つ事になった、もし俺に用事があるのなら、お前さんの目的地である交易都市ポートルガルで待っている、俺を呼びたきゃ酒場の主に『珍しい鳥がいると聞いたので鳥を探している』と言った後に店主が『珍しい鳥なら今は預けている』と答えるから、こう伝えろ『影鴉かげがらすの止まり木は何処だ』とな……縁があれば、また会おう」

そしてメモの端にガルド・シルヴァードの署名があった、ガルドさん……貴方は一体、何が目的なんだ


街道を走り、橋を渡る一台の馬車、この国ではよく見かけると言われる定員8人までの乗合馬車の車内、客は少なく、車内には馬車の主人と商人が二人、そしてガルドの姿があった、御者は辺りを警戒しつつ、馬車を走らせる

「旦那、この馬車の行き先ははカサンドラの手前の町までですがね、ホントに良かったんですかい? 」

乗合馬車の主人が客席のガルドに向かって話す

「いいんだ、どのみち今のカサンドラは廃墟同然だからな、モンスターの巣になってるかもしれない場所まで行ってくれと、無茶は言えないさ」

「旦那がそれでいいのなら、構いませんがね」

乗合馬車は快適さを犠牲にして速度を上げて街道を移動する、村を離れ、辛うじて生き残っていた乗合馬車に乗り込んだガルドは、どんどんと小さくなり見えなくなったソウダ村を後にして他の客にも聞こえないほど小さな声で呟いた

「すまねえな、悪く思うなよユウマ、レベルダウンは辛いだろうが、これも均衡鎖きんこうさくの為だ」

ガルドは元々指輪にあったのであろう小さな宝石のはめ込まれたペンダントを見つめ、呟くその言葉は誰に聞かれる事も無く、虚空へ消えていった。


お読みいただきありがとうございます。


今回はアースドラゴン戦、そして宿屋での出来事とレベルダウンの影響、さらにガルドの思惑が描かれました。


「均衡鎖」という言葉の意味は何なのか。

なぜガルドはユウマのレベルを下げさせたのか。


次話から本格的に物語が動き出します。


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