第8話 ゴブリンの洞窟、討伐へ 終結編
※第8話は、洞窟討伐後の処理と村編の締めを中心にした回になります。
大きな戦闘はありませんが、責任と結果、そして今後への選択を描いています。
一区切りとしてお読みいただければ幸いです。
森の奥にあるゴブリンの巣の調査と討伐を終え、ゴブリンの巣の『宝物庫』で発見した囚われの女性達5人を連れ、そしてそれ以前に囚われ命を落として白骨化した数多くの亡骸を回収した俺たちは森を出て村に到着した、そしてこの結果と囚われていた彼女たちの報告もあり、冒険者ギルドへ向かった俺はアイテムボックスから洞窟で討伐したゴブリンの耳を取り出すと予備の皮袋に詰めてガルドさんに渡しておく、そしてギルドに入るとユーノさんがカウンターで出迎えてくれた。
「あら、おかえりなさいませユウマ様リリア様ミナ様、それにガルド様もお疲れ様でした」
「おう、今戻って来たぜ、こいつがゴブリンの巣で討伐したゴブリンどもの耳だ」
「はい、確かに……あら? そちらの女性の方々は……? 」
受付嬢のユーノさんは笑顔でガルドさんがカウンターに置いたゴブリンの耳を受け取ったが、俺達の後ろにいた5人の女性に気付いて徐々に真剣な顔つきになる
「もしかして、そちらの女性の方々は、ゴブリンの洞窟に? 」
「あ、はい、その……ゴブリンの洞窟で」
「ああ、そうだ、ゴブリンたちに捕らえられ、連中のねぐらの奥……『宝物庫』に居た、奴らの繁殖の苗床にされていたよ」
ユーノさんの問いに俺が即答できずにいたのを見て、ガルドさんが代わりに答える
「ユウマ、言いづらいのは分かるが、お前がリーダーなんだから、次はしっかり答えるんだ」
「ガルドさん……はい、すみません、あと、ありがとうございます」
「なに、悲惨な現場なんて俺はいくつも見ているからな、まあ……余り気分が良いものじゃ無いが、これも経験だ、気にするな」
そう言ってガルドさんは掌でポンポンと俺の肩を軽く叩くとユーノさんに質問をする
「ユーノさん、本当に今まであの洞窟のゴブリンが原因で、村に被害が及んだというケースは無いんだな? 」
ガルドさんは恐らく、何もせずに放置して被害が出ない事の不自然さが引っ掛かっているのだろう、俺も確かにそう思った、なぜ今まで目立った被害が出ていなかったのか
「分かりました、ではここに至るまでの経緯をご説明いたしますので、奥の方へ」
ギルド側も予想していたのか、ユーノさんの案内でギルドの奥にある応接室に通されると、応接室に初老の男性が来客用のソファーに座っていたが、俺達を見て立ち上がる
「お初にお目にかかる、ユウマ殿、リリア様、そして御父上から話は聞いておりました、ミナ様ですね、そちらの方はガルド様ですな……ああ、申し遅れましたが私はこの冒険者ギルド、中央支部ソウダ村支局の長をやっておりますアジントスと申します」
アジントス局長の挨拶を受けて俺達も挨拶をする
「いえ、支局長、丁寧な挨拶を有難うございます、自分はユウマ、こちらは仲間のリリア、ミナです」
「ごきげんよう、アジントス局長殿、リリアですわ、以後お見知りおきを」
「あっあの……父がいつもお世話になっております、娘のミナです」
「ゴブリンの巣討伐の依頼を達成して下さり大変感謝いたしますぞ、何しろ魔王軍の件以降、冒険者は不足していましてな」
ギルド支局長のアジントスさんはそう言って頭を下げた
「おいおい、よしてくれ、頭下げられるなんてガラじゃないんだ、まあいいさ、このご時世じゃあ仕方ない、それよりこれまでの経緯を話してくれるんだろ」
「ゴブリンの洞窟の件については私が詳細をお話いたしましょう、ではそちらにお掛け下さい、席が無いようでしたらそちらのスツールをお使いください……ユーノ、お茶の用意を」
「承知しました、では皆様お席の方へ」
アジントスさんの指示でユーノさんゴブリンの耳の入った革袋を別室へ運び、戻って来てお茶を用意している、ユーノさんに促されて俺たちはソファーに座ると、ガルドさんの座るスペースが無かったのでスツールを進めると
「いや、俺は立ったままでいいぜ、疲れたらそこのスツールに座るけどな」
と言って立っていたのでアジントスさんはそのまま今回の経緯について話してくれた、ゴブリンの巣と化した倉庫についての経緯は最初にユーノさんから聞いた話とほぼ同じだった。
村の近くにある森の奥深く、かつては村の祭具を保管や、森で狩猟を行う狩人たちの道具や捕獲機の一時保管場所として利用されていた倉庫。
洞窟を一部改装して利用していた倉庫だったが、村の中に倉庫を新たに増築して中の物資を移動して以降、扉は閉じられて使用されなくなっていた。
しかしいつの頃からか、ゴブリンがその倉庫の奥の洞窟を根城にしてしまった為、久しぶりに倉庫を管理するために訪れた村人がゴブリンの姿を発見し、ミナの父である村長は洞窟及び周辺の立ち入りを禁じた、ゴブリン自体は単体の戦闘力は高くない為、冒険者ギルドは度々森周辺の探索の依頼書を発注していたが、ゴブリン自体の潜在的な危険性を考慮して、ベテラン冒険者との合同と言う形でしか認めていなかった。
「これまでに、ゴブリン退治を含めた依頼はあったんですか? 」
俺の質問にアジントス支局長は答える
「ええ、そうです、ただ連中は集団戦を得意としますし、油断すると危険であるため、事故を危惧して必ずベテラン冒険者と組ませていました」
「逃げ帰ったゴブリンは居たのか? 」
ガルドさんの問いにアジントス支局長は
「いいえ、発見したゴブリンは逃がすことなく討伐されておりました」
と答える、ユーノさんは黙って傍に立っていたが、空のティーカップを見つけるとお茶を注いでいた、アジントス支局長の話では稀に知能の高いゴブリンが出てくる事もあるので、油断すると新米冒険者の命に関わる事もあるという事らしい、冒険者ギルドとしての活動とは別に猟師ギルドとも連携して森の探索依頼をする事もあったが、やはり洞窟への侵入は一切禁止していた、その甲斐もあってか、今まで村がゴブリンの襲撃に遭う、という被害報告はこれまで一件も無かった。
「俺達が受注したようなゴブリンの襲撃による依頼がこれまで一件も無かったというのは本当か」
ガルドさんの質問にアジントス支局長は答える
「ええ、それは間違いありません、これまで一度として村に対してゴブリンの被害が有ったという報告もありませんでした、ギルドがこれまで発注したゴブリン関連の依頼は、あくまで森の中の探索であり、洞窟周辺の依頼は一件もなく、被害報告も今回が初めてだったのです」
俺はアジントス支局長の話に答えを見つけ
「それはつまり、森周辺にはゴブリンは居なかったとしても、獲物を探して移動しているゴブリンと出会っていない可能性もあるのでは? 」
俺の言葉にガルドさんも続く
「それに、ゴブリンの巣の周辺の森自体は広く、そこに近い村はここだけではないだろ、その辺の情報はどうだったんだ? 」
と聞くと、アジントス支局長は冷静に
「その可能性は否定できません、冒険者ギルドや狩猟ギルドの探索も毎日行っているわけでは無いので、そのすきを突かれる可能性もあります、ですが周辺の村のギルドの情報でもゴブリンによる被害は報告がありませんでした、周辺のギルドでも森周辺の探索とゴブリン討伐の依頼があったのは聞いております」
やはり、ニアミスという状態は可能性としてあった、しかしゴブリンは用心深く冒険者が去るのを待っていたのだろう、そうやってやり過ごしていた可能性は高い
「じゃあ、彼女たちは何なんだ、奴らの巣の奥に何人も閉じ込められ、助けられなかった者達もいる、これに関してはどう説明するつもりだ」
ガルドさんの言葉が強くなる
「それについては、ゴブリンの巣の調査を軽視した、こちらの落ち度と言わざるえません、申し訳ない」
「なぜ、ゴブリンの巣の調査をこれまで後回しにしてきたんですの? 魔王軍襲来の事があったとはいえ、力のある冒険者は居たはずです、もしこの調査がもっと早くに行われていれば、助けられたかもしれなかったのに」
今まで黙って聞いていたリリアがアジントス支局長を問い詰める、確かにこの国の王女である彼女の立場から見れば下部組織の怠慢と見てもおかしくは無い、彼女もくやしいのだろう、たとえ小さな村の出来事であっても、知っていれば何か出来たのにと言う思いが、彼女の言葉を鋭くしたのだ、俺はリリアの怒りとも悲痛ともとれる表情からそれを読み取った、アジントス支局長は両手を握り膝に置き、真っ直ぐ俺たちに顔を向けて話す
「それについては、大変申し訳なく思っている、救出された彼女達については、故郷が無事であれば、本人の希望があれば送り届けると約束しよう、もし彼女達がこの村に留まると云うのであれば、村での職業を斡旋し住居も提供いたします、ゴブリンの犠牲となってしまった遺体については此方で引き取り、村の教会で丁重に弔い、村には慰霊碑を建造して今後の戒めとしましょう、今回の件は本当に申し訳ない」
そう言ってアジントス支局長は再度深々と謝った、傍で立っていたユーノさんも深々と頭を下げる
「ユウマ、これで彼女たちは救われるのでしょうか」
「体の傷は癒せても、心の傷はどうかな、時間を掛けてゆっくりと癒して忘れるしかない気がする」
俺の言葉にミナが
「あの人たちがここに住むのなら、私も父に頼んで色々助けてあげたいです」
ミナの言葉にリリアも頷く
「って事だが、どうだ? ギルドのお偉いさんよ……何なら報酬も、少し上乗せしてもらいたいものだがな」
とガルドが問いかける、何というか抜け目ない
「分かりました、報酬の方は特別手当として上乗せいたします、ゴブリンの耳の引き取り単価も通常の耳一つにつき銅貨20枚の所を、3倍の銅貨60枚で計算したいと思いますが」
「安い、今回は戦士タイプのゴブリンやリーダー格のゴブリンもいた、アンタらギルドでは一括りにゴブリンとして扱っているが、それではこっちが割に合わない、耳一つにつき小銀貨1枚だ」
とガルドが吹っ掛ける、その言葉にアジントス支局長は一瞬驚く
「なっ、しかし……いえ、分かりました、耳一つにつき小銀貨1枚で引き取りします、これをもって謝罪として受け取って頂きたい」
アジントス支局長の言葉にガルドは
「という事でどうだ、ユウマ」
と、俺に決断を促す、俺はリリア達の方を向くと二人とも頷いてくれたので
「分かりました、では報酬はそれでお願いします」
と、ここでリリアが
「くれぐれも、彼女たちを丁重に扱って下さいまし、決して粗相のないように」
と念を押す、そこに居るのは冒険者リリアではなく、紛れもなくこの国の王女リリア・フォン・レーヴェンシュタインの威厳ある姿だった、その言葉にアジントス支局長が思わずその席で深々と頭を下げる
「今回の件は本当に感謝しております、捕らえられていた女性の事は私どもにお任せください、ユーノ、依頼達成の手続きと報酬の用意を」
アジントス支局長の言葉にユーノさんは頷く
「はい、かしこまりました、では皆様しばらくお待ちくださいませ」
そう言って一旦応接室から退室する、俺達はしばらく待つことになったが、待っている間俺はゴブリンの巣の件で気になっていたことをガルドさんに聞いた
「そう言えば、左の通路にはリリアさんの結界が張ってあったんですよね、あの結界はゴブリンには突破できないはずですけど、どうやって気付いたんですか? 」
「ああ、それか、俺が着いた頃には結界なんて無かったぞ、俺が仕掛けたスネアトラップにゴブリンどもが引っ掛かって倒れたから、それに俺が気付いただけだ」
「分岐まで結構離れていたのに、よく気が付きましたね」
「まあ、その辺は俺の盗賊のスキルみたいなものさ、あの程度の変化に気付かなきゃ今頃俺は牢屋行きだからな」
というガルドさんの言葉にリリアも感心する
「やはりベテランの冒険者と言うだけの事はありますわね、私の結界は術者本人か道具によって魔力を補充しなければ時間経過とともに効果が弱まりやがて消えるので、ガルドさんが見た光景は結界が消えた後の通路で間違いありませんわ」
「なるほど、だから結界が消えていたのか、それに俺が着いた時はゴブリンが先頭のゴブリンの転倒に巻き込まれて倒れていた所だったからな、しばらく結界が阻んでいたんだろ」
「ガルドさんもリリアも凄いですね、私も頑張らなくっちゃ」
「ミナだけじゃないよ、今回は俺も色々と勉強になった、今後の旅に生かしていかないと」
と、俺とミナは決意を新たにする
しばらくしてユーノさんが応接室に戻って来た、書類と報酬の銀貨の入った革袋が机に置かれる
「では、今回の依頼達成の報酬です、ゴブリンの耳は大小合わせて36個ありましたので小銀貨36枚となります、そして特別報酬として大銀貨1枚、ガルド様の応援手当は別途大銀貨1枚となっております、保護した女性は今のところは宿屋を手配しております、こちらが当ギルドの紹介状となりますのでお納めください、そしてこちらは依頼達成を証明する書類となります、ここ迄で何かご質問はありますか?」
と、ガルドさんが口を開く
「おいおいユーノさん、彼女たちを宿へ送るのはアンタがやってくれ、男の俺やユウマ達が送るなんてのは、依頼には書いてなかったぜ、契約違反じゃないのか? 」
「確かにそうですね、失礼いたしました、では彼女たちは私が宿までご案内をいたしますので宿への紹介状もこちらでお預かりいたします、では報酬内容に同意できましたら記入をお願いいたします」
とペンとインクが置いてある、俺は代表として記入する、ガルドさんも同行者の欄に記入を済ませると、ユーノさんが書類に目を通しアジントス支局長へ渡す、支局長は書類にサインをして懐にしまうと
「ありがとうございます、これでこの依頼は完遂となります、今後の事ですが後程村長のお宅へ伺いたいので、ミナさん、案内を頼めますかな? 」
とアジントス支局長はミナに案内を依頼すると
「はい、では父の家まで案内をしますのでユウマ、宿の方で待ってもらえますか? 」
とミナが言うので
「ああ、いいよじゃあ報酬の分配を先に済ませようか」
と俺が言うと
「じゃあ俺はそっちのゴブリンの報酬は小銀貨6枚だけもらう、残りはアンタ達で分けてくれ」
とガルドさんが言ってきた
「え? いやそれは、少なくないですか? 俺たちがこんなに貰って大丈夫なんですか? 」
と俺が聞くとガルドさんは笑って
「ハハハッ、お前さんはちょっと人が良すぎるぞ……いいんだよ、元々俺は追加の手当の方がメインだからな、大銀貨1枚だけでも御の字さ、遠慮なく貰っとけよ」
とガルドさんは言うので
「分かりました、じゃあ特別手当を含めた大銀貨1枚と小銀貨30枚は此方で受け取っておきますね」
と俺は銀貨を分けて自分たちの取り分を纏めて革袋に入れ直してアイテムボックスに入れた、ガルドさんは残った大銀貨1枚と小銀貨6枚を懐から出した革袋に入れて、再び懐にしまうと
「じゃあ、俺は一旦宿に戻るから、用事があるなら今日中に言ってくれ、俺のいる宿のメモを渡しておく」
と言ってメモの紙切れを俺に渡すとガルドさんは
「じゃあまたな」
と言って応接室を出ていった、俺達は取り敢えず保護した女性と亡骸ををギルドに預け、ミナはギルド支局長と共にミナの実家へ向かうために一旦別れた、俺達は先に宿に戻る事になり、宿に着くと部屋に荷物を置いて片付けなどをしているとしばらくしてミナが戻って来た
「お待たせしました、助けた人達の事で話をしたいのですが」
と言ってきたので
「じゃあ、その辺の話も含めて酒場へ行こうか、そうだ、ガルドさんも誘いたいんだけど大丈夫かな」
「はい、ガルドさんの意見も聞きたいので是非」
という事で、俺達はガルドさんの泊まっている宿屋へ行き、酒場へ向かう事になった、ミナの作る食事も良いけど酒場で酒を飲みながら話す方が気がまぎれると思ったからだ。
酒場へ着くと、俺は外に話が漏れない談話用の個室を希望し、店員は冒険者パーティーが話し合いに使用する団体用個室に案内したので、そこで打ち上げと話し合いをする事になった、最初の一杯で皆の喉が潤ったところで、本題に入る
「みんな、今回はお疲れ様、それで今回保護した彼女たちについてなんだけど」
と切り出すと、ミナが
「えっと、アジントス支局長と父の三人で話し合って、保護した皆さんはアジントス支局長の提案通りに仮の住居として宿屋で過ごしてもらう事になりました、宿は父の紹介した宿屋で、そこのおかみさんは私も小さい頃によくお世話になった良い人で、彼女たちの世話も女将さんが請け負ってくれるそうです」
「故郷に戻りたいといった者はいなかったのか? 」
ガルドさんがミナに質問すると
「いいえ、一人も居ませんでした、ユーノさんが事情を聴いてくれたんですが、何でも元々この周辺の村の出身ではなく、駆け出しの冒険者だったそうです、4人とも出身は違うので面識は無かったそうです」
「え、そうなのか? しかし駆け出しの冒険者が誰とも組まずに旅なんて」
と俺が言うとガルドさんが
「別に珍しくは無いぞ、まあ護衛を雇うにしても金が要るからな、駆け出しなら路銀も少ないし一人旅になるのも無理はない、ましてや多少腕に覚えがあるなら尚更だ」
やはり現代の価値観とこの世界は明らかに違うのだなと、またしても思い知らされる
ガルドの話を受けてミナは続ける
「ええ、それでここのような冒険者ギルドの支局がある村へ向かう途中に、道に迷ってしまい、森に入り込んだところをゴブリンに襲撃されて捕らえられたようです、捕らえられてから彼女たちは、あの部屋で一緒になったみたいですが」
ミナの話を受けてガルドが答える
「ゴブリンっていうヤツは同族にも雌が居て、繁殖も出来るようなんだが、連中は異種族との交配の方が数が増えやすいという性質があってな、それにゴブリンは人間の若い女を好んでよく狙うと聞いている、恐らくあのゴブリンリーダーが種の繁栄の為に狙ったんじゃないかと俺は見ている、事実連中にとっての宝だったから奴らにとっての宝物庫に入れたんだろうな」
その言葉に俺は嫌悪感を隠すことが出来なかった、アレが宝に対する扱いか? あんな粗末な部屋に押し込めて、不衛生極まりない環境で、しかも望まぬ交配を強いるなんて
「もっと、俺が早くここに来ていれば……こんな事には」
俺がそう言いかけてガルドさんに遮られる
「おい、それは違うぞ……例えお前が早くに辿り着いたとしても、過去に犠牲になった連中全てを救える訳じゃない、自惚れるんじゃねえ」
そう言われて、ハッとする、確かにそうだ……俺は本来の目的を見誤ってはいけない
「まあ、目の前の危機に対処できないのは論外だが、お前はよくやっていると思うぞ、あんまり気に病むなよ、余り頭でゴチャゴチャ考えすぎるとそのうち禿げるぞ」
「禿げませんよ! 」
と俺が突っ込んで皆が笑う、俺はそんな可笑しなことは言っていないはずだが
「ユウマ、貴方がみんなを助けているという事実は変わりませんわ、もっと胸を張ってくださいな」
と言うリリアの話に
「そうだぞ、まあこのネーチャンの胸みたいに無駄に大きくなくて良いがn」
と言いかけてリリアにビンタされるガルド
「あら、ごめんなさい、あなたはお酒が入るとデリカシーまで酔っぱらうんですか? これで酔いは醒めたかしら? 」
「あわわ……リリアさん、落ち着いてくださいよお」
リリアの行動に慌てるミナ、ガルドは頬をさすりながら
「いやあ、スマンスマン、まあこれで許してくれや」
と酒をリリアの空のコップに注ぐ、それをリリアは少し飲んで
「まあ、今日の所はこれで許しますわ、神も寛大なる気持ちを持つようにと仰っておりますので」
というリリアの言葉に
「そいつは有難い、寛大なる神に感謝だな」
と酒を煽る
「まあ、それはそうと、故郷に帰る事を希望する者がいないとなると、この村に定住って事か? 」
とガルドが再び本題に戻すとミナは
「はい、なので住居の方は父が大工職人さんに話を通して建築する予定です、仕事については元々冒険者と言う事なので冒険者ギルドで預かる予定でしたけど」
ミナの言葉に俺は疑問を持ち
「冒険者にはならないという事なの? 」
と聞くとミナは頷く
「はい、やっぱりゴブリンの襲撃がショックだったみたいで、普通の仕事につきたいと言っていたとユーノさんから」
やはりそうか、確かに多少腕に覚えがあったのに『いわゆる雑魚』という扱いのゴブリンに負けて、挙句あの状態では自信を喪失してもおかしくは無い
「それでしたら、私も協力いたしますわ、希望者が居ればここの村の教会に入ってもらい、聖職者を目指していただくというのはどうでしょう」
「はい、ユーノさんにもその話をして貰えれば、きっと喜ぶと思います、私も父に頼んで仕事の斡旋んをして貰うつもりです、ただ、見習いから始めるのでお給金は少ないかもしれないですけど」
ミナの話にガルドは酒を一気に飲み干してから一息ついて
「別にいいんじゃねえか? 衣食住の住居を冒険者ギルドが請け負うって話なんだから、衣服は見習いの給金でも十分購入できるし、食事もそこまで高くない、生活する分には不自由はしないさ」
と言ってきたのでリリアが
「因みに、ひと1人が生活するのにお金ってどの程度必要なんですか? 」
と聞くとガルドは
「そうだな、1ヶ月宿で泊まるなら素泊まりだと簡素な部屋で大体、小銀貨4枚と大銅貨1枚ってところか、生活費は食事も込みで小銀貨1枚と大銅貨1枚かな、大体職人の弟子とかだと住み込みで食事つきが当たり前だ、給金は確か」
と言いかけてミナが捕捉する
「職人の弟子だと、お給金は月に小銀貨2枚と大銅貨1枚です、一人前と認められれば小銀貨6枚になるそうです、場所によっては月払いではなく日払いの事もありますが、合計金額はさほど変わらないそうです」
なるほど、だから職人の見習いは住み込みが基本なのか……今の話だと住居費が、かなり掛かるみたいだし、それ以外の費用の方が割と安いのも何か納得だ、そうなると住居を新たに建てて住む彼女たちの場合は、少なくとも住居費だけは考えなくて済むわけか……何か見落としてる気がする
「そういえば、ここの住民って税金は幾らなんですか? 」
と言う俺の問いにミナが答えてくれた
「人頭税の事ですか? ひと1人につき確か3か月に1回大銅貨1枚だから……年間で小銀貨2枚になるはずです、あでも、家に一緒に住むという場合なら確か、2人で年間小銀貨2枚になるはずです、確か父がそう言ってました」
「そうか、お金の心配はそれなら大丈夫そうだな」
ミナの話に俺は一安心する、自分の事じゃないのに気になってしまうのは、元の世界でも節約生活をしていたからなのだろうか……母親の為にも旅を急がねば
「それで、彼女たちは定住するという事で、仕事に関しても問題無いんだね? 」
と俺がミナに聞くと
「はい、まだ宿屋に仮住まいですけど、新しい家が建ったらそこに住んでもらう事になってますし、仕事の方も書類を渡して興味があるものを選んでもらうようにすると、父が言ってました」
「まあ、それは良いことですわ、神も彼女たちをきっと祝福する事でしょう」
「何にせよ、これで一件落着って事でいいんじゃねえか? 」
皆の言葉に俺も頷く
「ああ、今日は皆お疲れ様」
そう言って、皆笑顔で酒を飲んで食事を済ませる、外に出ると時間は夜だった、酒場を出るときにガルドさんは
「じゃあな、明日は昼過ぎに村を出るつもりだから、もし用事があるならそれまでに来るんだな」
そう言ってガルドさんは宿に戻っていった、俺達も宿に戻る事になったのだが、ミナが
「あの、私は一度実家に戻って、その後冒険者ギルドに書類を渡す用事があるので」
という事でミナは実家に戻っていった、俺達もそろそろ、この村を出て旅を再開するつもりだったから、父親に別れを告げるのだろう、危険な旅に連れていくという事もあるので、俺は一層気を引き締めてかからねばと、宿に戻る途中に見上げた星空に向かって誓うのだった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
第8話で一つの区切りとなりました。
救えた命と、救えなかった命。
その結果が、これからの旅にどう影響するのか。
次話からは新たな局面に入ります。
引き続きお付き合いいただければ嬉しいです。




