第15話 コルダ地方動乱 コルダ平原の戦い
さて第15話です。
いよいよコルダ平原での会戦に入ります。
軍勢同士の戦いと、戦場での判断が中心の回になります。
よろしければお付き合いください。
コルダの街を開放したライアスとユウマ達は、予定通りライアスの部隊から10名選抜し、捕縛したエゴトスを一旦街の衛兵詰め所の牢に留め置いたあと、コルダ平原向けて進軍を再開した、騎馬隊中心のライアスの部隊は歩兵部隊をコルダに置いた関係もあり、さらに行軍速度が上がり、1日で宿場町へ到着。
そしてカサンドラへ派遣していたゲス・イネンの斥候が宿場町に戻って来たので状況を聞くと、アダクイカーン率いる軍団が出撃したという報告を聞く、斥候の報告に側近が
「いかがしましょうか、このままコルダ平原の防衛陣地に向かいますか? 」
とライアスに聞くが
「いや、合流に間に合っても正面からぶつかっていたのでは戦力差の不利は埋められん、ユウマ殿に先に合流してもらうという手もあるが、その場合は乱戦の最中に突っ込む事になる、だが同士討ちはなるべく避けねば」
というライアスにリリアが
「では、このままカサンドラ方面へ街道を進み、ゲス・イネン子爵の槍兵部隊と敵がぶつかった場合、後方の敵本隊の注意も槍兵旅団に向いているので、その隙に回り込んで背後を撃つ、或いは側面へ打撃を加えて二方面での戦闘に持ち込むというのはどうでしょう」
リリアの言葉に俺も
「では、俺が敵の大将であるアダクイカーンを攻撃して部隊を撹乱いたしましょう、俺の戦闘力であれば奇襲の効果もあるかもしれません」
というと、ライアスは
「ふむ、確かにそれはあり得る話だな、よしならばすぐに動きましょう、ユウマ殿が別動隊として動くのであればリリア様やミナ様もついて行かれるのでしょうな」
というライアスの言葉に
「当然ですわ、わたくしはユウマの仲間ですもの」
「は、はい私も仲間としてユウマについていきます」
というリリアとミナの言葉に、ライアスも納得し
「なるほど、であれば私の部隊から護衛として中騎兵10名をリリア様に、弓騎兵10名をミナ殿へお預けいたします、ユウマ殿は」
とライアスが言ったところで俺は手で制した
「お心遣いは有難いですけど、俺は一人で大丈夫です……むしろ、巻き込みたくないので俺には人をつけないで頂きたい」
と言うとライアスは
「なるほど、リリア様もミナ殿もよろしいですかな? 」
というライアスの言葉にリリアもミナも頷く
「よし、では参りましょう……第六騎兵旅団、進軍を開始する! 」
こうしてライアス率いる第六騎兵旅団は魔王軍の部隊を側面から叩くことになった
――そして第六騎兵旅団が進軍を開始する少し前
コルダ平原にて防衛陣地を構築したゲス・イネン率いる第七槍兵旅団と民兵たちは斥候部隊にカサンドラ方面への偵察を行っていた、ゲス・イネンは本陣で折りたたみ式の机に広がった地図を眺めながら敵部隊の進路を予想して現地に設置した防御柵に見立てた長方形の小さなコマを置く。
敵は赤色のコマで示し、カサンドラに大きく3つ置かれていた、そこに小さな赤いコマを5つ追加する
「兵数はこちらが若干上回っているが、戦闘力を考慮すると敵の方がまだ有利、その上竜騎兵が3体から5体へ増加……か」
そこに斥候兵が戻って来た
「申し上げます、カサンドラに留まっていたと思われる魔族の軍勢がコルダ平原へ向けて進軍を開始、その数はおよそ1400あまり」
ゲス・イネンは机の地図にあるカサンドラに置いた大きな赤いコマを3つコルダ平原へ移す。
ゲス・イネンは斥候兵に問う
「竜騎兵の動きはどうか、カサンドラから動いたか 」
ゲス・イネンの質問に斥候兵は答える
「いえ、龍騎兵に動きはありません」
と、そこに別の斥候兵がやって来た
「申し上げます! 敵竜騎兵が3体移動を始めました、進軍方向から真っ直ぐこちらへ向かっております! 」
ゲス・イネンは小さな赤いコマ5つの内3つをコルダ平原に移動させると、剣を取った
「迎撃態勢を取れ! 槍兵隊防御陣形のまま前進して、敵の進軍を防ぐぞ! 」
そう言ってゲス・イネンは軍馬に跨り前線の槍兵隊の元へ駆けていった
前線では重装歩兵隊、槍兵隊、弓兵隊の3重防御陣形で構成し、周囲には逆茂木や土嚢の防御陣地、行く手を阻む柵など本陣へは簡単に到達できないように整備していた、通常の軍なら2日、早くても丸1日半掛かる所を彼等は半日で構築していた、流石に逆茂木に関しては丸1日掛かっていたが彼の抱える工兵部隊はトラップからトンネル掘り、仮設宿舎まで幅広くこなす事の出来る熟練工を中心に編成されている為、それでも通常より早く設置していた
「周囲が遠くまで見渡せるという利点の一方で、兵を伏せる場所は殆ど無い……兵数の優劣が出やすい地形ともいえる……但し、それは並みの軍隊であればという話だ」
コルダ平原は南に街道の在る背の低い草花が生い茂る平野であり、東へ進むとカサンドラへ西に進むとコルダの街を経てやがて王都ファール―ンにたどり着く、北には標高の高い山脈があり山脈から吹き降ろす冷たい風が南部にある平原の気温を一定に保つ役割を果たしていた。
その平原の西にゲス・イネン子爵の構築した防衛陣地があり陣地を守る柵を背に現在ゲス・イネン率いる槍兵隊が敵を迎え撃とうと前進していた
「ライアス達が到着するまで何としても持ちこたえるんだ……なに、1万の軍勢を相手にするよりは簡単だ、だが突出しすぎるな、敵が押して来たら引いて受け流せ」
敵の姿はまだ見えない、だが斥候兵からの報告は、徐々に接近する敵の部隊の実態を浮き彫りにしていく、魔狼や魔犬に騎乗するゴブリンやオークの組織だった編成、その数800が前線の兵力として真っ直ぐこちらに向かってきていた、竜騎兵はさらに後方、恐らく敵の本陣上空で待機しているのだろう、と斥候からの報告が入る
「敵竜騎兵はいまだ本陣の上空、しかしゴブリンとオークの機動部隊が迫ってきています! 」
やはり予想通り、補充の容易な戦力からぶつけて来たか、ゲス・イネンは剣を掲げ号令をかける
「敵目標、ゴブリン及びオーク機動部隊! 槍隊構えろ! 」
本陣に抑えで残した兵士を除き、前線の槍兵は420人、重歩兵100弓兵80と合わせても600名、兵数は不利だが、馬鹿正直に突っ込む気など無い、斥候兵が叫ぶ
「敵部隊第一陣来ます!」
斥候の声と同時に多くの獣の足音と共にゴブリンとオークの軍勢が迫って来た、ゲス・イネンは号令をかける
「弓隊構え! 」
弓隊が矢をつがえ弓を引き狙いを定める
「 ……放て! 」
弓隊から放たれた矢の雨は、ゴブリンやオークたちに命中し、次々と倒れるがゴブリンやオークたちの進軍の勢いは止まらない、遂に槍隊の目の前まで迫って来た
「怯むな! 槍衾で持ちこたえろ! 」
ゲス・イネンは飛び掛かってきたゴブリンを斬り捨てると、後方に下がり指示を出す
「重歩兵隊、前へ! 槍兵は一度後ろへ下がれ! 」
ゲス・イネンの命令を伝令が槍兵の斜め後方に控えていた重歩兵隊に伝え、槍兵より前に出ると歩兵は横に隊列を組みラージシールドを並べて構える
「重歩兵隊は敵の勢いを押しとどめよ! 弓隊、構え! ……放て! 」
槍兵隊の両脇から重歩兵隊が盾を構えて横一列に並ぶ、そして盾の壁のよう隙間なく横一列に並んだ重歩兵隊が前進し、突進してくるゴブリン隊を跳ね返す、そこに弓兵隊の矢が降り注ぎ、中央の槍隊が重歩兵隊の構えた縦の隙間から槍を出して突き崩していく、高い練度の部隊による一糸乱れぬ動きは勢いだけで突っ込んでくる敵の数を確実に減らしていった。
――戦いが始まって1時間、互いに少なく内損耗が出始めた頃、伝令が駆けて来た
「申し上げます! ライアス隊及び勇者様一行は敵将アダクイカーンが居る本陣を南側の敵側面から攻撃中! 」
伝令の報告にゲス・イネンは問いかける
「ライアス隊はこちらに向かっていなかったのか」
ゲス・イネンの言葉に伝令は答える
「カサンドラから敵が出陣という報せを受けて、街道から途中で迂回して平原に向けて進軍する方針へ変更していたとの事! 」
伝令の報告を受けてゲス・イネンは陣形図を頭の中に浮かべる、中央で戦う敵の第一陣の後方には本陣及び魔族兵300体が控えている、ライアス達は敢えてその魔族兵を目指して進軍していた、丁度ゲス・イネンの正面と、ライアス達の接敵が本陣横からの奇襲になる
「なるほど、やはりライアス君は状況判断が抜群に早いな、これはこちらも負けていられん、槍兵隊隊列を崩すな! 少しでも多くの敵をこちらに惹き付けろ! 」
一方の魔王軍側のゴブリン、オークの混成機動部隊は後方にいる本陣が攻撃を受けているという報せを受けて動揺が走る、しかしゲス・イネン率いる前線部隊が巧みにこちらの下がるタイミングで攻撃を仕掛けてくるため、退いて救援に向かう事も叶わず、徐々に兵力差は拮抗し、逆転されつつあった
同時刻、ユウマとリリア、ミナの別動隊はユウマが単騎でアダクイカーンのいる本陣目掛けて突っこんでいった、リリアとミナも結界魔法やボウガンによる牽制で敵を撹乱していく、そして数で押し潰そうと一部が別動隊として回り込もうとした、その時
「今だ! 突撃! 」
とライアスの第六騎兵旅団が回り込もうとした敵別動隊目掛けて突っ込んで行く、回り込んで挟み撃ちにするはずだった魔族で構成された別動隊は完全に背後を突かれる格好になり、精強な重装騎兵などで構成された部隊は混乱し、その兵力を削っていく
アダクイカーンとその軍勢本体は突然の側面からの攻撃に動揺していた、そこにユウマが単騎で突っ込んで行く
「はああああっ! くらえ! ファイアボール! 」
ユウマは両手が塞がった状態で魔法を発動、ユウマの目の前に魔法陣が展開されてそこから火球が敵陣へ放たれる、火柱が上がり隊列が乱れる、ユウマは剣を抜きアダクイカーン目掛けて斬りかかる
「うおおおおおぉっ! 」
声を上げて気力を振り絞るユウマの剣がアダクイカーンの身体を捉えた……と、その時
地面に魔法陣が展開される、これはユウマの物でもリリアの支援魔法でもない
「フハハハハハッ! 引っ掛かったな! 勇者ユウマよ! 」
魔法陣から無数のひも状の黒いオーラが現れた次の瞬間ユウマとユウマの乗る軍馬諸共そのオーラのロープが縛り上げ動きを封じる
「なに! クソッ! 」
オーラを纏った黒いロープはユウマの身体を縛り、その場に留める、藻掻くが思うように動けない、その姿にアダクイカーンは余裕の笑みを見せる
「フハハハハハッ、この捕縛術はただ敵を捕らえるだけでは無い、こうして魔力を与えれば」
そう言ってアダクイカーンは禍々しいオーラを放ちながら手をかざしてロープに魔力を与える黒いロープは茨のように無数のトゲが現れ、体を切り裂こうとする、ユウマは無事だが、軍馬の方がダメージを負い、血を流し傷ついてゆく
「クソ! 預かっていた軍馬が」
徐々に締め付けていたその茨の黒いロープはユウマが乗っていた軍馬を切り裂き、倒れた
と、そこに騎馬の小隊が駆けてくる、その中心で光るオーラが現れると光の矢がアダクイカーン目掛けて飛んで魔力を放出していた手を傷つけた
「グアッ! 邪魔立てするのは何者だ! 」
アダクイカーンの言葉に光の矢を放った本人が答える
「悪しき魔族に名乗るなど無いですわ! 」
声の主はリリアだった、しかしレベル差を考えると到底かなう相手ではない、たとえ魔族に有効な神聖魔法の使い手であったとしても、だ
「フン、そうか……ならば貴様も死ねい! 」
アダクイカーンは魔力を込めて手のひらから黒い火球を複数出現させるとリリアの騎馬隊目掛けて放つ、リリア達は巧みにこれを躱すと再び光の矢をアダクイカーンに浴びせる
「ウヌウッ! 小癪な! 」
リリアが作ってくれた隙を使い、俺は魔力を練り上げて体中にめぐらしていく、力を込めてロープを引っ張る、すると身体を捉えていた黒い茨のロープは引き千切られて黒い霧とともに消えていった
「なに! 馬鹿な……我が捕縛術を破るだと⁉ 」
動揺するアダクイカーンに対し、拘束を解いたユウマは再び剣を構える
「アダクイカーン! 覚悟! 」
とユウマが斬りかかろうとしたその時、複数の火の玉が突如降り注ぐ、ユウマはとっさに回避して直撃を避けた、ユウマが上空を見上げると3騎の小型飛竜に乗る魔族がそこに居た
「将軍! 助太刀に参りました! ここは我らにお任せを! 」
という魔族の竜騎兵に向かってアダクイカーンは
「待て! ここは一旦引き上げるぞ! 連中の小賢しい奇襲で少なくない損害が出た、ここは体勢を立て直すぞ! 」
という言葉に龍騎兵は応え、1体の竜騎兵がアダクイカーンの元に降り立つと竜騎兵の後ろにアダクイカーンが乗り、再び上空へ飛び立つ
「クソ! 待て! アダクイカーン! 」
ユウマが魔法陣を展開しようとした瞬間、残りの2体の竜騎兵が急降下で攻撃を仕掛ける、
ユウマは魔法陣を解いて剣で応戦し、竜騎兵2体を倒し終えるころには上空にいたアダクイカーンを乗せた竜騎兵の姿はもう居なかった
「ユウマ! 大丈夫ですか⁉ 」
呆然と見上げるユウマの元にリリアの小隊が到着し、ユウマの手当を行う
「ユウマ! ライアスさんから本陣に引き上げるようにって伝令兵さんが来ているよ! 」
遅れてミナの小隊もユウマの元に到着し、俺達はゲス・イネンさんの居る本陣へ引き上げる事になった、敵はカサンドラの近くにある本陣迄退き、夜襲の気配も無いことからこの日の戦いは終了した
「皆の者! 勝鬨を上げよ! 」
ライアスの声と共にオオーッ! という兵士たちの勝利を称える声が聞こえた……
本陣天幕内、ゲス・イネンは本陣に戻った俺達に
「戦闘はこちらの勝利だが私の部隊の槍兵と重装歩兵、併せて100人とライアスが率いていた騎馬隊が150人戦死した」
と、俺達に教えてくれた。
「今日はご苦労だった、次の戦いに備えて休んでくれ、リリア様もあまり無茶はなさらないように」
ゲス・イネンの言葉にリリアは
「ええ、お気遣い感謝いたします、ユウマ、ミナ、ひとまず休みましょう」
リリアの言葉に俺とミナも頷き、俺達に割り当ててくれた野営用のテントに兵士が案内してくれた、俺達は装備を解いて休んでいる頃、本陣の天幕ではゲス・イネンさんが次の作戦を立てるために残った兵力から陣立てを考えている、ライアスさんは酒を兵士たちに振舞って士気を高めていた
天幕の中で俺はリリア達に相談をする、その内容は俺の完全蘇生を使うタイミングだ
「俺の力が均衡鎖の影響で弱体化している事は奴の捕縛術をすぐに解くことが出来ず、軍馬を失った事で痛感した、兵士達も大勢死んでいる、今完全蘇生を行えば、万全の体制にまた近づける事は出来る」
俺の言葉にリリアは首を振る
「ユウマの考えも理解できます……ですが、この戦はまだ始まったばかり、頻繁に完全蘇生を行っていたのでは、ユウマの力が弱まる一方です、大丈夫ですよ……私もサポートいたしますので、あまり無茶はなさらないで下さい」
リリアの言葉にミナも同意する
「そうですよ、それにゲス・イネンさんもライアスさんも頼りになる方ですし、皆で力を合わせて頑張りましょうよ」
そう言って、ミナも俺を励ましてくれた
「そうだね……うん、ありがとうリリア、ミナ」
そうだ……戦はまだ始まったばかり、次の戦闘では奇襲はもう通用しないだろう、俺は単騎で掛けていった己の慢心を恥じながら、その日を終えたのだった。
――カサンドラ近くのアダクイカーン率いる軍団の本陣にて
「どういうことだ? 我が捕縛術はあの光の矢で邪魔されたとはいえ、そう簡単に解けるものでは無い、あの勇者もそこまで強力な力が有るとは思えなかった……なのに以前のような強力な拘束が出来なかった……魔王様の居城がある魔の島への第1から第3軍団の撤退と軍の再編成、そして大陸の王国占領から殲滅への命令変更……何が起こっているというのだ? 」
アダクイカーンは、自身の力が弱まったその原因を見極める事が未だ出来ずにいた。
お読みいただきありがとうございます。
会戦はひとまず決着しましたが、代償も小さくありません。
そして、この戦いが次の局面にどう響くのかが重要になります。
次話では戦後処理と、次の動きに入っていきます。
引き続きお付き合いいただければ嬉しいです。




