第14話 コルダ地方動乱 コルダの街解放
さて、第14話です。
作戦は実行段階へ移り、状況が一気に動き始めます。
今回は「作戦の進行」と、ある人物の決断が描かれる回になります。
よろしければお付き合いください。
ゲス・イネンから明かされた真実
「均衡鎖とは勇者と魔族のパワーバランスを変化させる世界の法則の様なものだ、勇者のレベルが下がれば下がるほど魔族が弱体化する、但し勇者が命を落とすと魔族の力が元に戻ってしまうという諸刃の剣という事だ、だからこそこの事実は外部に漏らしてはいけないのだ」
俺はゲスに質問した
「この事を知っている人は他に誰が? 」
ゲスは丁寧に答える
「此処に居る我々の他にはガルド君が知っている、それ以外はこの真実を知る者はいない、遺跡調査を行う魔術ギルドでも判明しているのは天聖石の存在とその効果のみだ、均衡鎖の事については研究すらされておらんよ、これもガルド君から情報を得ている」
どうやらガルドさんは以前から均衡鎖の謎について調べていたようだ、何故そこまで執着しているかはゲス・イネンも知らないらしい、兎も角その上で明日から進軍が開始する事になったので、俺達は寄宿舎に割り当てられた個室に入り翌朝に備える事になった。
朝モヤの漂う、まだ薄明かりの早朝……ライアス率いる第六騎兵旅団1000名、ゲス・イネン率いる第七槍兵旅団600名、そしてアルガス砦で編成した民兵200名らと共に、俺達はコルダの街に向けて進軍を開始、行軍速度の速さもあって昼前にコルダの街目前となったとき、背後のアルガス砦から白い煙が立ち上る……煙を見てゲス・イネンは
「あれは、コルダの街の衛兵に向けての合図の狼煙だな、これでコルダの街の敵兵力は事実上0になった」
と言ってライアスも頷く
「うむ、作戦通りだな……ではユウマ殿、コルダの街へまいりますぞ」
ライアスの言葉に俺は頷く
そしてゲス・イネンは槍兵旅団の行軍進路変更の指示を行う
「では予定通り、我々第七槍兵旅団と民兵は先の宿場町へ向かいます、ユウマ殿……ご武運を」
コルダ平原に近い宿場町へ向けてゲス・イネン率いる第七槍兵旅団と民兵はそのまま進軍、ライアス率いる第六騎兵旅団と俺達は門番をしていた衛兵の案内で街へ入る
「お待ちしていましたライアス様、そして勇者様、エゴトス子爵邸は予定通り衛兵隊が包囲しています、向こうからは邸宅の防衛に見えるように配置しておりますので、まだこちらの意図には気付いておりません」
案内の衛兵の言葉にライアスは
「流石だな、ゲス君は……よし、このままエゴトス邸へ向かうが重騎兵及び中騎兵は門前で待機、残りは私と共にエゴトス邸へ向かうぞ」
ライアスは市街戦で不利になる騎兵を門の防衛として押さえに回し、軽騎兵と歩兵を中核としてエゴトス邸へ向けて進む、俺達もそれに同行した、街の中は人通りも無く家々の窓は鎧戸で塞がれ扉は閉じられている、リリアは辺りを見ながら
「混乱を避けるために街の住民を外出しないようにしているのですね」
と衛兵に聞くと
「はい、名目上は盗賊団襲撃を想定した訓練と言っております、冒険者ギルドの皆さんも協力して下さっています」
街中の通りには冒険者らしき人が立って辺りを警備している姿が見える、そのなかにはエリスの姿もあった、俺達に気付くと手を振って応えた、衛兵の説明にリリアも
「それは心強いですわ、街の方の安全も考慮に入れなければ意味がありませんもの」
リリアの言葉に俺も
「確かにそうだね……それにしてもエゴトス子爵が黒幕というのは意外だったな」
俺の感想にミナも頷く
「そうですよ、わたしなんかゲス・イネンが黒幕とばかり思ってました」
俺とミナの言葉にライアスが苦笑する
「まあ、あいつ口は悪いが筋の通らない事は決してやりませんよ、誤解されやすいのは認めますが……さて、あれがエゴトス邸ですな」
ライアスの言葉通り、衛兵がこちらに向かって整然と並んで邸宅を囲っている姿が見える、ライアスが衛兵の元へ向かうと衛兵たちは揃って敬礼をする
「衛兵の指揮を賜っております衛兵隊長であります」
と言って衛兵隊長は敬礼したのちに報告を行う
「第六騎兵旅団隊長ライアス殿、ゲス・イネン子爵の要請による巡察お疲れ様です、予定通りエゴトス邸の警備は滞りなく行っております」
上官の衛兵の報告を受けてライアスは
「任務ご苦労、街の警備を行っていたゲス・イネン子爵の報告によりエゴトス邸に賊が侵入したとの通報があった、我らはこれより歩兵20名で邸内への突入を行う、衛兵隊は我らに従い邸内の賊を退けてエゴトス子爵を保護するぞ」
もちろんこれは街の住民へ向けての方便で、実際は作戦通りエゴトス子爵の捕縛である
「突入開始! 」
ライアスの号令と共に歩兵20名と衛兵100名、そして俺達はエゴトス邸の門を開けて屋敷の扉を物理的に開錠し屋敷に入る、ゲス・イネンの読みどおり、エゴトス子爵の私室の前にしか護衛はおらず、瞬く間に制圧、室内で呑気にお茶を飲んでいたエゴトス子爵はそのまま捕縛された、捕縛の際に
「無礼者め! この街を治めるこの私を一体何の容疑で捕らえるのか! 」
と、息巻いていたがライアスが出したエゴトス子爵と魔族との契約書を見せると
「な、何故お前たちがその紙を持っている⁉ 」
と真っ青になっていた、更にリリアが前に出て
「エゴトス子爵ですね? レーヴェンシュタイン王国王女リリア・フォン・レーヴェンシュタインが国王の名代として命じます、魔王軍から逃げてきた王国国民である避難民の命を軽んじるだけでなく、魔族と結託し保身に走る行為、断じて許すことは出来ません、ライアス子爵よ、エゴトス子爵を逮捕しなさい」
その言葉にライアスは敬礼をして、エゴトスに向き直り
「エゴトス子爵、あなたを反逆の罪で捕らえます」
と言った事でエゴトスは力無く項垂れた
エゴトスはそのまま衛兵詰め所の罪人を収監する牢屋へ入れられた、その後ライアス隊の歩兵80名が予定通りコルダの街に防衛に、残る騎兵部隊は再度進軍を開始した、俺達も同行し途中野営で休息を挟みつつ翌日朝にコルダ平原に近い宿場町に到着した
「よし、ここで一泊したのちに進軍を再開、ゲス・イネンの旅団が構築した陣地へ向かうぞ」
コルダの街でのエゴトス捕縛が遂行されている頃、ゲス・イネン率いる第七槍兵旅団と民兵は行軍途中で斥候を宿場町へ派遣した、目的は宿場町周辺での野営休息を行うための先ぶれと、民兵を休ませるための宿営地の確保である、ゲス・イネンはコルダの街周辺の宿場町や村の人員を廃砦に避難させていたがコルダ平原近くの宿場町はそのまま留め置いていた、しばらくして斥候が帰って来る
「申し上げます、この先の宿場町にて住民が自主的に防衛の為に街の周囲に柵を設けておりましたが、その柵の外側に野営を行うなら良いとの事でした、なお民兵を受け入れる宿の手配は住んでおります、何しろ旅人も少なく空き室も多いので歓迎するそうです」
斥候の報告を受けてゲス・イネンはしばし考え
「よし、民兵はそのまま宿場町へ向かえ、我らはこのままコルダ平原へ向かう、斥候部隊は2つに分け1つは宿場町と我が部隊との連絡、もうひとつの隊はこれから防衛陣地を張る場所の偵察だ、行け! 」
ゲス・イネンの命令に斥候部隊はすぐに部隊を二つに分けてそれぞれ行動を始めた、ゲス・イネンはコルダの街駐留中も先々の戦闘を想定し部隊の再編成が即応できるように訓練を施していたのだった。
防衛陣地を構築するために設営された天幕の中でゲス・イネンは一人、机に広げた地図を睨み、設置する罠の数を割り出してメモに書き、側近を呼んで渡すと、折り畳み式の簡素な椅子に座り、お茶を飲んでいた……
「思えば、アレがこの件の始まりであったな…… 」
話はゲス・イネン率いる第七槍兵旅団がコルダの街に入った時まで遡る……
あの時、コルダの街は衛兵自体少ないので持て余し、ほぼ空き家同然になっていた衛兵の宿舎と、同じく併設された空き家の屋敷を提供してくれたこと自体は、エゴトス子爵に感謝していた
私は、残存部隊のコルダの街入場と仮居住の見返りに、街の治安維持や周辺の町や村に出没するオークやゴブリンの討伐などの条件を受け入れることにしていた、しかし入場時の会談で
「こちらは住む場所は提供できるが、あくまでも一時的にだ……時期が来たら廃砦を修復してそちらに戻って頂きたい、あと兵士たちの食料はそちらで自力で調達してくれ、こちらは街の住民の生活を守る事で精一杯なのでね」
エゴトス子爵の言葉に、嘘はない、だがそれだけだ
「こちらとしても、その方針に依存はありません、お心遣いには感謝いたします」
私は表向きは感謝の言葉を述べながらも、エゴトスという人物の狭量さに嫌悪感を感じていた
このエゴトスという男……典型的な小者だな、余りにも近視眼的過ぎる、しかも魔王侵攻が間近という事が伝令兵の報告で知っていたにも関わらず、食料の備蓄増加も守備兵の増員も一切行っていなかった……結果としてこちらが住む場所を確保できたが、ソレとコレとは別の話だ、まあ……しばらくは様子見か
しかし決定的な事件が起こる、魔王軍侵攻によって大量の避難民が各地に散らばり、その一部の団体がコルダの街への避難を要求してきた、街の治安を担っていた関係上、本来は私にも話をするべきだが、奴は何の相談も無く全ての受け入れを決断した、奴は貧民区画の空き家を整備し、一応仮設の住居を確保していたようなので4000人の避難民の受け入れも取り敢えずは混乱なく進んだ、だがやはり感情優先……というより避難民を保護したという実績が目当てで無責任に受け入れた為、食料が案の定足りなくなったらしい、まあ当然だろう……そしてこれも予想出来たことなのだが、ヤツは相変わらず食料の確保を怠った
そして私の目の前で、恥知らずにもエゴトスはこの問題をどうにか出来ないか……と相談に来ている
「ゲス・イネン殿、何か良い策はありませんか? このままでは街の食料備蓄も長く持ちません、そうなれば避難民共々飢えに苦しむ事になってしまいます」
私は呆れつつ、一応対策を提案した
「策が無いことも無いですが、重大な決断となる覚悟はおありですかな」
私が問うとエゴトスは、額の汗を拭きつつ
「もちろんです、この街の住民の命を預かる身ですので、その為ならば」
ほう……それならば、と思い、私は避難民の半数以上を廃砦へ移送し、砦の設備を修復し整えつつ街の残された避難民の理解を求めるという提案をした、その案に奴は承諾したがとんでもないことを口走った
「なるほど……それは良いですな、早速衛兵に通達して移送する避難民の名簿を作りましょう、名簿だけならばすぐに出来ますし、移送も明日から行いますのでご協力をお願いできますかな? 何しろ人手が必要ですのでね」
食料を最低限確保しつつ完全に移送するには最短でも一日は必要だというのに、しかも護衛はどうするのだ? 嫌な予感がして念のために私は聞いた
「お言葉ですが、移送する避難民に持たせる食料は有るのですか? 廃砦はここから徒歩でもまる一日必要です、その間の護衛の食料も必要なのですが、当然確保しているんでしょうな? 」
私の問いに奴は少し驚きながらこう言った
「食料ですか? いやいや、ご冗談を……あくまで現在の食料の備蓄は、街の住民の腹を満たすための物、まあ800人ぐらいは避難民の仮設住居に配るだけはありますが、あいにく棄民に食わせる食料はありませんのでな」
なんだと……棄民? 私の目の前で棄民と言ったのかこやつは! つまり、3200人は見殺しか! 一瞬怒りで我を忘れそうになったが、何かの利き間違いだと思い再度尋ねた
「ほう……では、3200人は食料も持たせず廃砦へ移送という事ですか? 移送途中で餓死して倒れるやもしれません、その死肉を目当てに魔獣が寄ってくるリスクもありますが、その事は、微塵もお考えにならなかったと……そういう事ですかな? 」
私は冷静に答えたつもりだったが、どうも目つきが鋭くなっていたようだ、エゴトスは一瞬怯えたが、お茶を一口飲むと少し呼吸を整えてこう言った
「おやおや、なんとまあ冷酷無比な貴方らしくありませんね、ではそちらで何とかしてください……どなたかが戦に負けてしまったので、この街もあまり余裕はありませんのでね」
やはり見殺しにする方針に変わりはないようだ、私は勉めて温和な表情を心がけ
「承知しました、避難民の名簿はそちらにお任せいたします、そちらは多忙なようですので、選別と移送はこちらで行いますのでご心配なく、エゴトス殿がお帰りだ、見送りを頼む」
部下と共にエゴトスが退室した後、私は机に置かれたティーカップを持つとお茶を飲みながら窓から見える景色を眺め、お茶を飲み終えると空のティーカップを下げさせ、そして執務の席に着くとゆっくりと呼吸を整えようとする……最初は指で机をトントンと叩き、やがて拳で軽くコンコンッと叩いて気を紛らわせようとする
だがやはりこみ上げてくる感情を抑えきることが出来ず、遂に私は柄にもなく拳をドンッと机に叩きつけた
「おのれ! 保身主義のクズ貴族め! 王国国民である避難民を棄民扱いとは! 」
机を叩いた瞬間側にいた部下が驚くが、すぐに元に戻る……そして私の意図を察したようで冷静に進言してきた
「私はあのエゴトス子爵の方針に賛同出来ません、あの男の下では駄目です、あのように命を軽く扱うものは、いよいよとなればこの街の住民……そして兵が棄てられます」
まったくその通りだ、私の部下が優秀で良かったと、つくづく思う
「分かっている」
そして机の上に置いてあった白紙の便せんに羽ペンである程度要点を書きこむ、付近の町、村の位置と移動日数……住民の数に動員可能兵数と兵站の計算など、これはあくまでも下書きだ、そして部下に声をかける
「ふん……そちらがその気なら私にも考えがあるぞ……だれか伝令兵を呼んでくれたまえ、これから手紙を2通用意するから代筆員も併せてこちらに寄越すように……ああ、待て、もう1通は私が書くその手紙も渡さねばな、確か……ライアスの友人がまだ付近の村にいたな、奴の居場所は把握している、急げ」
慌しく部下が部屋を出ていく、私は窓から外の空を眺めつつ、今後の動きを組み立てていく、時間はあまり無いが問題ない
「ライアス君とは違って私は頭脳労働専門なのでね」
こうして私は、造反の準備を進めライアスと合流する意思を固めたのだった
――そして現在、防衛陣地に話は戻る。
「そろそろ斥候兵が戻ってくる頃か」
私は防衛陣地の進捗を確認に天幕を出ると、工兵たちは慌しく行き交う姿が見えた
そしてコルダ平原の防衛陣地構築後、民兵200人は宿場町から防衛陣地へ移動して合流、天幕を張るなど本陣の設備を整えている頃、斥候からライアス隊とユウマ達が宿場町に到着したとの報告が入った
「ふむ、概ね予定通りだな」
とそこにカサンドラ方面へ派遣していた斥候からの報告が入る
「申し上げます! カサンドラ上空に竜騎兵らしき影有り、その数5つ! 」
斥候からの報告にゲス・イネンは直ぐに防御陣の見直しを図る、幸い資材は豊富にあったので部隊内の工兵の技術で簡易的な投てき武器は作成可能だった
「前回の報告よりも増えている……急ぎライアスへ使いを出せ、一刻も早くこの情報を共有しなければならん、しかし予想以上に過敏な反応だ、古来より魔族は己の力には絶対の自信を持っていると聞くが……もしや、均衡鎖の影響か? 」
開戦の時は刻一刻と迫っていた
お読みいただきありがとうございます。
第14話では作戦の第一段階が進み、戦線が前へ動きました。
ただ、敵の動きも想定通りとは限りません。
次話はいよいよ会戦――盤面が戦場でどう崩れ、どう立て直すのか。
引き続きお付き合いいただければ嬉しいです。




