【30】四大公爵家当主への招集(ブレッサン公爵視点)
子供の頃に、地方貴族も集う定例議会ごとに集まっていた四大公爵家の嫡子と第一王子は、その後第一王子が王太子となり国王になって、各公爵家の嫡子が公爵家を継いでも、集まりは続いていた。
今回は、定例議会の時の集まりとは違い、緊急の招集を陛下がかけた。
この部屋に居るのは、国王サラディーノ=エジェオ・ロンバルディスタ、フルヴィオ・アンセルミ公爵、バジャルド・サンタレーリ公爵代理、そして私グスターヴォ・ブレッサンを含む四名だった。
メルクリオ・モルテード公爵が領地にて亡くなったと、モルテード公爵家の早馬が知らせてきた。
陛下が我々に召集をかけたのは、メルクリオの葬儀の件だろう。
我が領地の港でとんでもない事故が起こった直後の混乱の中だったが、その件で謁見する必要もあり王城まで馬車を飛ばしてやってきたところだった。
「モルテード公爵家からそれぞれに文が届いていると思うが、メルクリオが闘病の末に亡くなった。その件については、この会合の最後に話す。
今日其の方たちを呼んだのは、我が長子ジュスティアーノの婚約を破棄することになった件についてだ。……フルヴィオ、座り直せ。フルヴィオと先に話し合っていないことがどういう意味か、分かるな?」
娘と殿下の婚約が破棄されることをこの場で初めて聞いたと言わんばかりに、フルヴィオが椅子を鳴らして立ち上がったのを陛下は座るように言った。
ヴィオランテ嬢との婚約破棄について父であるフルヴィオと話し合っていないということは、王室から一方的に婚約を破棄するだけの『理由』があるということだ。
息子たちが我が屋敷で話し合っていたことがいよいよ公になるのだ。
思わず唾を呑み込む。
座り直すというよりソファに倒れ込んだフルヴィオに一瞥を向けてから、陛下が話し始めた。
「当初、ジュスティアーノの婚約者に名前が挙がっていたのはフルヴィオの次女だった。それをフルヴィオが嫡子のヴィオランテ嬢を推してきたのだ。未来の王妃に相応しい資質を持っているのはヴィオランテ嬢だと。バディーニ侯爵家の次男である婚約者がいたが、彼は皆も知ってのとおり、子キツネ狩りで落馬して命を落とした。その落馬事故が、実はヴィオランテ嬢が企んだものだという調査結果が出た」
「ヴィオランテが!? そ、そんな馬鹿な……」
「バディーニ侯爵家の従者が、狩り場で生肉を猟犬たちの前に投げるヴィオランテ嬢を見ていた。他にもハンツマンを務める婚約者愛用の角笛を盗んだり、婚約者の馬に興奮剤を嗅がせたりもしていた。婚約者を殺そうとまでは思っていなかったとしても、仮にも軍馬育成に長けたアンセルミ公爵家の嫡子ならば、落馬の危険性を知らなかったはずがない。
妹が第一王子の婚約者となりいずれ王妃になれば、公爵家を継ぐ自分は妹を王妃殿下と仰ぐことになってしまう。それを嫌厭するばかりに婚約者を害したヴィオランテ嬢とジュスティアーノの婚約は破棄とする。何か言いたいことはあるか、フルヴィオ」
「……陛下がそのお言葉を発したということは、調査の裏打ちに基づく真実でしょう。ならば……婚約破棄を受け入れることだけが、自分にできること……」
「では書類にサインをするように」
自分はフルヴィオ・アンセルミのことを、幼い頃からあまり好きではなかった。
四大公爵家の集いでも、フルヴィオはいつも自分に都合のいいことを声高に主張し、なまじ能力が高いこともあってその主張を強引に押し通した。
人の良いメルクリオ・モルテードは、いつも折れて割りを食っていた。
だからと言って、フルヴィオ自身も嫡子のヴィオランテ嬢が人の命を軽んじるような娘だったとは思ってもみなかったのだろう。
アルマンドも驚いていた。
我がブレッサン公爵邸にて、ジュスティアーノ殿下がアルマンドたち公爵家嫡子を呼び寄せて、ヴィオランテ嬢について話し合うと聞いた時は、私だって驚いた。
陛下はまだ、ジュスティアーノ殿下の事故のことを一言もこの場で言っていない。
フルヴィオは知らないのではないか。
万が一にもジュスティアーノ殿下の大怪我が、この婚約破棄を左右することがないように、陛下は意図的に隠しているのかもしれない。
「……陛下、ヴィオランテとアンセルミ公爵家はどのような罰を受けることになるのでしょうか」
「自分の利益の為に人を傷つけようとして、その結果死に至らしめた罪は重い。ヴィオランテ嬢はジュスティアーノと婚約破棄の上、悔悛の塔に幽閉とする。
また、アンセルミ公爵家が保持している軍馬産業と狩りに関するすべての権利をバディーニ侯爵家に渡すものとする。そして、次期アンセルミ公爵を継ぐは三女のマリアンナ嬢とし、その婿はバルトロ・ラッティ伯爵令息とする。マリアンナ嬢が婚姻可能年齢になればすぐに婚儀を執り行い、その後フルヴィオは公爵位から退き、夫人と次女と共に領地で暮らすことになる。フルヴィオと夫人の離縁は認めない。フルヴィオの夫人はわしの従姉妹だが、誰も彼女を引き取りたくないと言った」
「……承知、いたしました……」
アンセルミ公爵家としては、一つとして受け入れがたいことだろう。
馬に関するすべての事業を渡す件は、ヴィオランテ嬢によって命を奪われたバディーニ侯爵家への慰謝料として妥当と言える。
それから、フルヴィオの三女はまだ十歳くらいのはずだ。
その婚約者とされたバルトロ・ラッティ伯爵令息は、陛下の従姉妹の次男だ。
彼の母はフルヴィオの奥方の姉で、この姉妹は犬猿の仲だと聞いている。
陛下は、アンセルミ公爵家を王家の管理下に置こうとしているのだ。
アンセルミ公爵家は王家の傀儡となるしかないが、マリアンナ嬢次第では必ずしもそうなるとも言い切れない。
アンセルミ公爵家の三姉妹のうち末のマリアンナ嬢は、賢さにおいて長子のヴィオランテ嬢を上回るという評価も聞く。
未来はどうなるかは分からないと言ったところか。
「メルクリオの葬儀は、モルテード領で執り行われるそうだ。アンセルミ公爵家は、不参加となるだろう。ブレッサンとサンタレーリからは嫡子を出すのか?」
陛下から水を向けられた。
「ブレッサン公爵家からは、私が出席します。長年の盟友メルクリオのことは私自身が見送りたく」
「サンタレーリからも、公爵代理の私が出席いたします。エウジェニアの葬儀の際は、モルテード公爵に大変お世話になりました。エウジェニアに代わって何か力になれることがあればそうしたく思っています」
「わしがメルクリオの葬儀に参ることができるか、調整しているところだ。できることならわしもメルクリオを送りたい」
陛下のお気持ちは理解できるが、実際モルテード領に行くのは難しいだろう。
城を空けるとして、本来なら第一王子殿下を臨時代理と命じて行くところだろうが、第一王子殿下は……。
すっかり冷めた茶を干した。
モルテード領に行くのが難しいのは自分も同じだった。
新港の祝賀会の件で、陛下との話し合いがこの会合の前にあった。
そしてこれから、陛下は王城に戻って来るジュスティアーノ殿下と対面するのだ。
陛下は、ジュスティアーノ殿下のことをどう受け止めるだろうか……。




