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【20】殿下からの手紙


王家からの早馬がサンタレーリにやってきた。

家令に王家からの使者であることを名乗り、私宛のこの手紙は本人に直接手渡さなければならないと言ったそうで、呼ばれて出向いた。

やはりドナート様だった。


「急なことで申し訳ございません。殿下から直接の手渡しと言われておりました」


「ええ、解っております。殿下にレティーツィアが確かに受け取ったとお伝えください」


ドナート様は深く一礼すると、すぐに帰って行った。

受け取った封筒の表にも裏にも、ジュスティアーノ殿下の名は記されていないけれど、宛名である私の名前の飾り文字の中に、差出人がジュスティアーノ殿下だと示す記号があった。


いったい何があったというの……。

暗号を潜ませた表書きから、子供の頃に叩き込まれた暗号文を思い出す。

癖字のような綴りの中に、癖字と見分けのつかない飾り文字が含まれている。

その飾り文字だけを拾って読むと、短い文になった。

当然、この暗号文は読むよりも書く方が難しい。

そこまでして、ジュスティアーノ殿下が伝えたかったことは何なの……?


急いで私室に戻り、手紙を開封した。

心臓が早鐘のように打つ中で、普段の殿下の文字の特徴とは違う独特の筆致が現れた。

やはり中身も飾り文字を混ぜた癖字で書かれている。

中の紙に私の宛名はなく、代わりに『3/3』と書かれている。

これは『三通書いたうちの三番目にあたるもの』という意味だ……。

私は紙を持つ手が震えた。

この暗号を知っているのは、ジュスティアーノ殿下と四大公爵家の嫡子の四人だけなのだ。

暗号はいずれ国王となる後継者の世代ごとに変えられるという。

今の陛下の代の暗号はジュスティアーノ殿下の代の私たちには読めず、私たちが読めるこの暗号は、陛下と同じ代の私の母やイラリオやヴィオラやアルマンドの御父上は読めない。


東のイラリオ・モルテード、西のアルマンド・ブレッサン、南のヴィオランテ・アンセルミ、そして北の、私──レティーツィア・サンタレーリ。

この暗号文の手紙を、四人のうち三人にしか出していないということはどういうことなのか。

当然、残る一人のことに関する内容だろうがそれは誰なのか……。

癖の強い文字を目で追う。


『あの日の……紫について……知りたい。七の後、希望の……海で』


そのように読めた。

あの日の、紫について……。


この手紙は四人の公爵家嫡子のうちから一人を除いて三人に出されている。

私たち四人の中で、紫の特徴を持つのは……。

美しいバイオレット色の瞳の……ヴィオラしか思いつかない。

婚約者になったヴィオラのことを、暗号文を使ってまで私たちに調べて欲しいというの?

第一王子の婚約者を決める際に、王家は徹底的にヴィオラのこともアンセルミ公爵家のことも調べ尽したはずだわ。

それなのに、いったいジュスティアーノ殿下とヴィオラの間に何が起こっているの……。


私は自分に落ち着くように言い聞かせ、手紙の内容を考え始める。

あの日……あの日とはいつのこと……?

紫がヴィオラだとして、殿下が『あの日』と言えば私たちに解るはずだと思っている『あの日』とは……。

定例議会にて、ヴィオラとの婚約を発表した日のことだろうか。

あの日についての記憶は、どんなに思い出そうとしてもほとんどが霧の中のように霞んでしまっていた。

ヴィオラが、あの日どんな色のドレスを着ていたかのさえ記憶にない……。

それに私は、定例議会後に具合が悪くなってその後の茶話会も欠席した。

そんな私にジュスティアーノ殿下が『あの日のヴィオラのことを知りたい』と尋ねるだろうか。

『あの日』とは、婚約を貴族に発表した日のことではない?

だとしたら、『あの日』とは、どの日のことだろう……。


頭の中を整理しなくては。

ノーラにお茶を頼もうとしたら、家令がまた慌ただしくやって来た。


「お嬢様、アルマンド・ブレッサン公爵令息様が、お見えになっております」


「アルマンドが!? 分かったわ、応接室に通して」


先触れも無く訪れるなんて、きっとこのジュスティアーノ殿下からの手紙の件だわ。

王都のブレッサン公爵邸から、ここはそれほど離れていない。

私はノーラに頼んで急いで身支度を整え、アルマンドが待つ応接室へと向かった。


***


「お待たせしてごめんなさい」


「こちらこそ突然ですまない」


「アルマンドが何の用件で来たのか分かっているつもりよ。人払いをしたいのだけど、アルマンドと二人になるわけにはいかないから、扉の無い隣室に父に居てもらってもいいかしら。この件については、すぐに父にも話すことになるでしょうから」


「もちろんだとも、是非そうしてもらいたい」


私はお茶を出してくれたノーラに目配せをして、父を呼んでもらうようにした。

それまでは扉を開け放っておく。

ほどなくして、父が応接室にやって来た。


「ブレッサン公爵が嫡子、アルマンド・ブレッサンにございます。本日は突然の訪問をお許しいただき、ありがとうございます」


「私は隣室におりますので、何かありましたらお声掛けください」


父はアルマンドに丁寧にそう言うと、扉の無い続きの隣室に行った。

お茶をひと口飲んだアルマンドが口を開く。


「ジュストから手紙が届いた。レティにも届いただろう」


「ええ、先ほど読んだわ。もう一通は……イラリオに届いているのでしょうね」


「そうだ。何故三通しか出されていないのかと言えば、手紙の中の紫というのが……彼女だからだろう」


「私もそれは判ったの。だけど、『あの日』というのがいつを指しているのかと考えている最中に、アルマンドが来たのよ。『あの日』とは、陛下が二人の婚約についてお話しになった定例会議の日のことかしら」


「いや、僕は子キツネ狩りの日のことだと考えている」


「あの事故の日……?」


『あの日』というのが、ヴィオラが婚約者を事故で亡くした子キツネ狩りの日ではないかというところまで、私の思考はまだ辿り着いていなかった。


「そうだ。ジュストがヴィオラ以外の三人に、ヴィオラについて情報を集めたい『あの日』とは、あの事故についてだろうと考えている。僕は、少し気になることがあるんだ」


アルマンドが声を落として、子キツネ狩りの日のことを話し始めた。


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