とあるタクシー運転手の記録
ホラーストーリーです。
自分が住んでいる地方都市は、都市部と比べると交通の便が悪い。
酒を飲みに行くのなら市内中心部であることが多く、遅くなれば必然的に帰りの移動はタクシーか運転代行となる。
自分が住む家まで頼むと夜中でも車で30分ほど。
寝ていることもあるが、話しながら帰ることも多い。
これはそんな飲み会の帰り道、代行運転手さんから聞いたお話。
その人は自分よりも少し若い運転手さんだった。
車の運転がうまく、乗っているこちらもストレスを感じない。
深夜で酔っていることもあるが、人によっては気分が悪くなったり苛々することも稀にある。
その日は楽しい飲み会だったこともあって、気分は高揚していた。
車社会とはいっても、深夜の代行は1時間待ちはざらにある。
年末年始は3時間待ちも経験したくらいだ。
代行業者は基本的に馴染みの業者に頼むことが多い。
自分の車を伝えることも省略できるし、家を覚えていて『〜〜駅の近くですよね?』と言われることも多いからだ。
今では飲み会も減り、お願いすることも減ったが、以前ついてくれた方は元々隣の県でタクシー運転手をしていたらしい。
初めてついてくれたので、道を教えながら帰っていた車内でのこと。
取り留めのない会話にも少し飽きて、自分におきた少し不思議な体験を大まかに話した。
この話はまた別の機会に話すことにするが、その時の運転手さんがこんな事を話してくれた。
私は以前、〇〇県の□□でタクシーをやってたんですよ。
最初の頃は当たり前に駅や空港、繁華街の決まった場所で待ってたんですけど、ありがたいことに馴染みのお客さんが増えましてね。
仕事の日は流しながら連絡待ちみたいにしてたんですよ。
その日は生憎なかなかお客さんが捕まえられないまま夜の11時を過ぎましてね。
月に一回くらいはこんな日もあるんですけど、今日がその日かーなんて思ってたわけですよ。
今日は諦めるかと思ってたときに、とある橋のところで、小さい子を連れた女性が手を挙げてるのが目についたんです。
こんな時間に子供連れは珍しいなとは思ったんですけど、まぁ理由なんて人それぞれですし、ウインカー付けて乗せたんですよ。
どちらまで?って聞いたら、△△市の方にって言われましてね。
乗せたところからなら1時間くらいのところで、内心ラッキーなんて思ったもんです。
走り始めてから女性の方は黙ったまんまで、女の子の方が色々と話しかけてくれたんですよ。
昨日はどこに行った、今日は何を食べたみたいなことなんですけどね。
こっちもへー、良かったねぇ。なんて返して。
でも不思議なんですよ。
私は生まれも育ちもその辺でしてね。
タクシー運転してても知らない店ばかりなんです。
いや、ちょっと違うな。
知ってるけど、昔あった店ばかりなんですよ。
まぁ広い街ですから、知らない店がないわけでもないし、新しくできたのかな?なんて思いながら車を走らせてたんですよ。
1時間くらい走らせて、どのあたりですか?って聞いたら、お母さんの方は黙ったままなんですけど、お子さんのほうが右!とか、左!なんて教えてくれました。
お母さんの方は何も言わないんで、寝てるのかなと思いながら、山道を進んで行くんですよ。
街灯の数も少なくなって、ほんとに合ってるのかと思いながら不安になった頃に、突然耳元で「この先です」って聞こえたんですよ。
もうびっくりしちゃって。
だって聞こえたのは右耳、ドア側なんですから。
慌てて後ろ振り向いたら、座席には誰も乗ってなかったんですよ。
車を停めてドアを開けてもやっぱり誰もいなくて。
夏なのに寒気がしてきましたね。
慌てて車に乗り込んで、正面を見たら奥の方に古い家が一軒あって。
引き返そうとした所で警邏中のパトカーが来ましてね、私生まれて初めて職務質問受けたんですよ。
それで事情を説明して、一応納得してもらったんですよ。
それで話を聞かせてもらったんです。
えぇ、お察しの通り。
あの家で亡くなった親子がいたそうです。
それで肝試しみたいに来る若者が多いらしくて、警察も巡回してるそうですよ。
私ですか?
できればそういうところは寄りたくないですね。
ちなみになんですが、付けたばかりの車内ドラレコ見たら、車内は私が独りで相槌打ってる映像が残ってましたよ。
会社からは疲れてるんだろうってことで一週間の休暇を取らされました。
それから半年もたたないうちに辞めましたけどね。
聞こえる気がするんですよ。
まだたまにあのときの声がね。
秋口だったんですけどね。
思わず車の暖房つけました。
それ以来不思議なことはなかったそうですけど、奥さんの実家があるこちらの県に来て運転代行の仕事をされてるそうです。
なぜなのか聞いてみたら笑って答えられましたよ。
『だって幽霊は車持ってないでしょ?』って。
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