第4話 新衣装お披露目
夜の中心街を背筋を伸ばして歩く。
服装が違うと、いつもと同じ道も何故だか新鮮な気分だ。
「ケモミミ姉妹にどんな反応されっかな」
革靴が静かな大通りにカツカツと音を響かせている。
ヒラヒラと揺れる外套の裏地にはリボルバーの銃が隠されており、腰では日本刀が揺れる。
我ながら不思議な組み合わせだな、とは思う。
「そろそろ配信始めっか…」
徐々にダンジョンが近づき、俺は小さく呟く。
サラとリアの俺の新衣装への初見リアクションは配信に乗せたい。そう考えると、今のうちから配信を始めたほうが良い。
「ってことで、配信開始っと」
配信開始ボタンを押すとカメラが出現する。
俺は急いでカメラを自分の近くに移動させて、顔面ドアップの画角で固定させた。
カウントダウンの終了と共に配信が始まり、視界の端でコメントが流れ出す。
「こんばんは!! 夢空ハルです!! 今日はとっても近い画角から失礼します!!」
【きた】
【こんばんはー‼】
【顔近っ‼】
【こんばんは‼】
【ひえっ】
【顔近すぎだろww】
【てか、顔良いなコイツ】
「いや、悪かったって‼ 今日はせっかくの新衣装のお披露目配信だから、あんまり初っ端から見せない方がいいかなって。ぶっちゃけ、こうするしか方法がなかった。ほら、企業のVtuberさんとかって結構お披露目まで配信引き延ばすじゃん? なので、今はAsariママ謹製の俺の顔を拝んどいてください」
【ホントに新衣装あるんだ…】
【異世界で新しい装備でも買ったんか?】
【新衣装お披露目まで時間稼ぎするの割とあるあるだよねw】
【流石はAsariママ謹製、顔が良い】
【えっへん】@Asari
【Asariママは今日も出席っと…】
【ほんとにいつでもいるな、この人ww】
「とは言っても俺の顔面だけの画角も飽きるだろうから、お披露目しちゃうんだけどね。ってことで、カメラをバックにして新衣装お披露目です‼ Asariママの力作、どやっ‼」
俺はそう言ってカメラを下がらせて全身を画面に映す。
視界の端のコメント欄が一気に加速し、視聴者の反応が伝わってくる。
【あ、もう見せちゃうのねw】
【もうちょっと顔面拝んでたかった】
【え】
【ふぉおおおおおお‼】
【ヤバ、かっこよ】
【洋装が来るとは思わなかった】
【めちゃくちゃ似合ってる‼】
【えっへん<(`^´)>】@Asari
【てか、デザインはAsariママなんだね】
【ずっとドヤ顔してんな、Asariママ】
どうやら新衣装は好評のようだった。まあ、当然と言えば当然だが。
そして、Asariママはずっと胸を張っている。ない胸を張っても…いや、やめておこう。
「いや~、こんなに喜んでもらえると嬉しいもんだな。Asariママもありがとう‼ なんというか、実際に新衣装を着てみて違和感ないのは凄いわ。てことで、Asariママからのコメントを読みます。あ、今更だけど、俺と連絡取れるリア友2人のうちの1人がAsariママです。もう1人がスタッフ君ね」
【相当作り込まれてるな、この衣装】
【え、そーなん?】
【地味に爆弾発言ww】
【マジか‼ 夢空ってAsariママとリア友なん?】
【女性絵師とリア友とか裏山】
【でも、個人勢でAsariママにデザインして貰ってるのって夢空だけだから納得かも】
【確かにリア友ならAsariママが配信皆勤賞なのも分かる】
【妹がVtuberで友達が絵師とかラノベかよww】
あえてサラッと言ったつもりだったが、やはりAsariママとの関係に視聴者、というかコメント欄は食いつく。まあ、そうなることは分かっていたから、俺は気にせずに配信を進める。
「それじゃあ、読みまーす。“今回の衣装は考え抜いた結果、日本出身のイタリアンマフィアの若頭、というテーマとなりました‼ 他のVtuberさんと違い、本当の戦闘を意識して武器デザインするので、そこが難しかったです。この新衣装、夢空さんも視聴者さんも気に入ってくれると嬉しいです‼” とのことでした~‼ Asariママ、ありがとう。そして、視聴者さん、気に入ってくれましたか?」
【気に入ったよ!!】
【たしかに、ホントに戦う用に武器描くことなんてないよな笑】
【日本刀がいい味出してる】
【てか、普通にスーツが格好良い】
【描いたものがこんだけリアルになるとAsariママも楽しいだろうな〜】
好意的なコメントが視界の端に流れ、俺は満足げに頷く。
和装からは大きなチェンジだったが、視聴者さんも新衣装を受け入れてくれたようだ。
流石はVtuberの視聴者、呑み込みが早い。
「とまあ、普通だったらこの後はちょっと雑談して終わりなんだが、俺達は一味違うぜ。なんてったって、実際に戦ってリボルバーと日本刀の性能を確認しないといけないからな。久々にサラリア姉妹と潜っていきます‼」
そう言って俺は外套からリボルバーの銃を取り出す。
【銃もあるのかよ!! 男のロマンじゃねーか!!】
【かっくいい】
【ヤバ、マジでマフィアやんwww】
【てか、異世界で銃とかチートじゃね?】
【サラリアちゃん、久し振り!!】
【普通に戦闘は楽しみ】
さあ、ダンジョンの入口が見えてきた。
ダンジョン前広場にはサラとリアの姿も見える。
「それじゃあ、こっからは性能確認配信ってことで、よろしく‼ …というか、今更だけど、雰囲気変わりすぎてサラリア姉妹に俺って気付いてもらえるか?」