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第11話 朝霞志真の憂鬱



«満足してくれたなら良かった。ってことで、皆も明日の11時に俺の配信に集合な。下見のつもりが、最後はこんなことになるとは思わなかったけど、まあ楽しめたかな。それじゃ、おやすみ。»



画面で仰向けに倒れるお兄ちゃんが笑う。

もちろん私、朝霞志真は今日も兄である夢空ハルの配信を見ている。…コメントはできないけど。



「カッコよかったなあ」



しみじみと配信の終わった画面を眺める。

配信の後半、シーナちゃんを助けた場面のお兄ちゃんは、正直、格好良かった。本人には絶対に言わないけど。



ぼんやりとしながらマウスを操作する。

なんとなく東雲マリア(自分)のチャンネル画面を開いて登録者を確認し、ため息が出る。



「…ちょっと減っちゃったな」



この数日間で登録者は少し減った。

とは言っても減ったのは100人にも満たない視聴者で、全体でみればまったくと言っていいほど大勢に影響はない。



「…それでも」



それでも、停滞期はあれど、今まで増えることしかなかった登録者が減るというのは、思っていた以上に精神的にクるものがある。暗くなる気持ちを振り払うように私はベッドにダイブする。



「…」



私は無言でスマホを掴むと、お兄ちゃんのチャンネルを検索する。登録者は…増えていた。昨日の夜に確認した数字から1000人程登録者数が増えている。企業所属ということもあって初回配信の時点ですでに1万人登録を達成していた私には分からない喜びが、兄にはきっとあるのだろう。



「…」



しばらくスマホとにらめっこをして、枕に顔を埋める。…お兄ちゃんに嫉妬して、バカみたい。なんか、自分の事が嫌になる。



「はあ…」



溜息が止まらない。

仰向けになって天井をぼんやりと眺める。


私を焦らせている理由は登録者が少し減ったこと以外にもある。

所属事務所の同期である一宮リリアちゃんのチャンネル登録が伸びているのだ。



「1週間前までは同じくらいだったのにな」



18時間耐久配信をキッカケに一躍有名になったリリアは、その強烈なキャラと毎日配信によって着実に視聴者を獲得している。気づけばたったの数日で私とリリアの登録者数には5万人もの差が付いている。



「…私のバカ。自分が一番数字で考えているじゃない」



数字で他人を判断するほど愚かなことはない。

分かっているのに、それでも、つい気になってしまう。…さらに自己嫌悪。




暗い部屋で、モヤモヤとした気持ちが膨らんでいく。




優等生な自分が嫌で、そんな自分を変えたくて始めたVtuber活動で思い知ったのは、自分が飛びぬけた才能のない、どこまでも凡人なままの人間だったということだった。




突き抜ける程に個性的で魅力あふれる事務所の先輩たちの放つオーラ。


他人を惹きつけて離さない、恰好良い兄の背中。


どこまでも配信に真摯に向き合う小さな巨人。


飛びぬけた才能のある人達と、私。




“凡人は凡人のままなのか”




優等生と褒められるのが、嫌だった。

みんなに“清楚枠”なんて言われたくない。求められる自分を演じるのは、嫌だ。



…なのに、踏み出す勇気がない。

どこまでも凡人である自分を、配信でさらけ出す勇気もない。



だって、平凡な自分の代わりなんて、いくらでも居るのだから。


アリアリでVtuberデビューしたい人なんて沢山いる。その中にはきっと、私より才能に溢れた人も沢山いるだろう。




”東雲マリア“は、きっと私じゃなくても…




溢れ出しそうな孤独感を誤魔化すように抱き枕をギュッと抱きしめる。…こんな時にお兄ちゃんがいてくれたら。お兄ちゃんに相談したら、なんて答えてくれるだろう。



スマホのディスコードを開く。

フレンド欄に“夢空ハル”の名前はない。



「…もう寝よう」



スマホを放り投げて完全に電気を消す。

これ以上起きていてもきっと良いことはない。



「…おやすみなさい。」



目元に浮かんだ涙を指で拭う。

私以外に誰もいない部屋に、くぐもった声が響いた。



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