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人違いでエルフに特攻魔法をかけられた僕act10

作者: 文月しわす

「ごめんなさい。君に魔法をかけてしまったの」


 街を歩いていると、後ろから呼び止められた。

 エルフの女性だった。盗賊のような風貌で腰に剣を携えている。

 若く見えるけれど僕より歳上だろう。


「どんな魔法ですか?」

「特攻魔法よ」

 

 エルフは淡々と言う。


「何の特攻ですか?」

「オニョルキー、知っているでしょ」

「もちろん知っています」


 最古の魔物だ。


「そのオニョルキーへの特攻魔法。オニョルキーへの攻撃が増大する貴重な魔法よ」

「そんな貴重な魔法をなぜ僕に?」

「勇者と間違えたの。ごめんなさい」


 エルフは深々と頭を下げる。


「頭を上げてください。説明してもらえれば大丈夫ですから」


 エルフは頭を上げ、今度は首を傾げた。


「不思議、随分と落ち着いているのね」

「実はよく間違えられるんです。そんなに似てますか?」

「ええ、勇者そのもの」

「そのー、僕にかけられた魔法は今解除できますか?」

「いいえ、できないの」

「解除する方法は?」

「ないわ、永続よ」

「それは困りましたねえ」

「ええ、だから私と一緒にオニョルキーを討伐してほしいの。勇者と同じ格好をしているのだから君も戦えるのでしょう?」

「僕と討伐するより、勇者に特攻魔法をかけて討伐する方が確実だと思いますが」

「もらい物の魔法だから、もう唱えられないの」

「でしたら尚のこと勇者と一緒に討伐されては? 特攻がなくても僕よりは戦力になると思いますが」

「あの勇者がエルフの頼み事をすんなり聞くと思う?」

「思いません」

「もし気まぐれで引き受けたとしても、特攻なしの勇者ではオニョルキーに勝てないわ。花神のエヒホホもオニョルキーに殺された」


 花神のエヒホホは勇者と対をなす英雄だ。行方不明の噂は聞いていたが、まさかオニョルキーに殺されていたとは。


「だとしたら僕の手に負える魔物じゃありません」

「安心して、策は立てるから」

「これから立てるんですか?」

「そう。二人で協力しましょう」

「あのー、もし断ったら僕はどうなりますか?」

「申し訳ないけれど、一年以内に死亡するわ」

「なぜですか?」

「特攻魔法の中核に毒の卵を仕込んであるの。私はこちらが専門。卵が羽化すれば君は毒で死ぬことになる」

「羽化を止める方法は?」

「オニョルキーの討伐よ」


 一呼吸入れる。


「もしかしてオニョルキーを討伐できれば良し、討伐できなくても勇者が毒で死亡すれば良し、という算段でした?」

「そう、完璧な策でしょ。君聡明ね」


 あの勇者ならエルフを細切れにしてから、オニョルキーを討伐していたと思うが。


「今思いついた僕の策を言ってもいいですか?」

「聞かせて」

「特攻魔法をオニョルキー自身にかけたらどうなりますか?」


 オニョルキーがオニョルキー自身を討伐しない限り一年以内に毒の卵の羽化で死亡する、のだろうか。


「ーー死亡するわね」


 エルフは真面目な顔で言った。


 そもそも毒の卵なんてモノを仕込めるのなら特攻魔法にこだわらず、回復魔法や攻撃魔法に卵を仕込んでオニョルキーに当てさえすればいいと思うが。


「なら、僕にかけた特攻魔法を摘出しましょう」

「ーーてきしゅつ?」

「そうです。特攻魔法を取り出すんです。もう一度特攻魔法を唱えることができるんですよ。オニョルキーに」

「可能なの? そんなことが」

「幸いこの街には魔法の摘出を生業にしている人間がいます。難しいと思いますが試す価値はあります」

「すごい人間がいるのね、この街」

「ただしそれなりの額が必要となりますが、持ち合わせはありますか?」

「これで足りる?」


 エルフは皮袋を取り出して、僕の手のひらに金貨を二枚乗せた。


「とても足りません」

「そうよね」


 更に二枚乗せる。


「んー、難しいと思います」

「なら全部預けるわ」


 皮袋が乗った。かなり重い。


「これなら絶対足ります」

「時間はどのくらいかかるの?」

「長くても半日あれば済みます」

「そのくらいならここで待っているわ」

「わかりました。では行ってきます」

「行ってらっしゃい」


 エルフと別れ、僕は駆け出した。

 この街には魔法を解除できる店がいくつかある。少し遠いが一番安い店を目指すとこにした。

 店に入ると、店のおじさんに「またお前か!」と怒鳴られた。

 気難しい性格だが腕は確かだ。横になって今日一日を思い返しているうちに魔法の摘出は終わっていた。


「上等な酒の中に固めた糞をぶちこんだみてえな魔法だ。ガキや猿でもこんなこたぁしねえ。これやったのエルフだろ。全くエルフってぇのはろくな奴がいねぇ」


 摘出した魔法を見ただけで、おじさんはエルフの仕業だと看破した。

 金貨一枚を払い、店を後にする。

 正直吹っ掛けられたが、摘出した魔法を入れるゴミ袋のような袋込みの価格と思えば良しとしよう。

 行きつけの酒場で食事をした。溜めたツケを含めた代金を払う。「まだ勇者の格好なんてしてるんですか」と店の女の子に呆れられた。


 日が沈みかけていた。そろそろ戻る。

 エルフは別れた場所で立ったまま空を眺めていた。


「お待たせしました」

「早かったのね」

「はい、急いでもらいましたから」


 ゴミ袋のような袋を渡す。

 袋から取り出した赤く光る石をエルフは一口で飲み込んだ。見ていて気持ちの良い光景ではない。


「お金は足りたの?」

「ぎりぎりでした」

「そう、良かった」


 エルフに軽くなった皮袋を返す。


「これからどうするんですか?」

「オニョルキーを討伐するわ」

「特攻魔法をオニョルキーにかけるんですね」

「ええ」

「特攻魔法をオニョルキーにかけると言ってください」

「なぜ?」

「言ってください」

「特攻魔法をオニョルキーにかけるわ」

「お願いします」


 街の外までエルフを案内する。


「色々ありがとう。君のおかげでオニョルキーを討伐できるわ」

「こちらこそありがとうございました。必ずオニョルキーに特攻魔法をかけてください」

「私はラル•レロ。君は?」

「僕は、ーーえーと、ジンです」

「さようならジン」

「さようなら、オニョルキーに特攻魔法をかけてくださいね」


 ラル•レロと別れて二年が経つが、オニョルキー討伐の知らせは届いていない。

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