ちゃん呼び
「お兄ちゃん、私たち婚約者なんだよね?」
思い出して優希が念押ししてきた。
休日の午後、家に士郎と優希の二人きりだ。
「ああ。それがどうかしたのか」
「あのさ、婚約者だったら『お兄ちゃん』呼びやめてもいいかな」
「そっか。そうだよな。好きに呼んでいいぞ」
「じゃ、士郎さんって呼んでいい?」
「いいよ」
「士郎さんは私の事『優希ちゃん』って呼んで」
「……呼び捨てじゃだめなのか?」
「なんか呼び捨てはやだ。士郎さん優希ちゃん呼びがいい」
「わかったよ。優希ちゃん」
「うん。嬉しい」
本当に優希は幸せそうに笑った。
「優希ちゃんはさあ俺のどこが好きなの?」
「え……全部」
「全部って……逆に嘘くさいんだけど」
「だって本当に全部なんだもん」
「よくわかんないんだよな。前言われたみたいに俺お前の特別になれる程お前を守ってきたか? 自覚がないんだけど」
「お前じゃなくて『優希ちゃん』」
「……優希ちゃんの特別になれる資格は俺にはないぞ」
「士郎さんは私の事守ってきてくれたよ。まるで本当の妹みたいに」
「だからさ、本当の妹だと思ってたからそう接しただけで特別な事は何もしてないって」
「あのね士郎さん。実の兄妹は喧嘩が日常茶飯事なんだって。友達に聞いた」
「……」
「でも私たち喧嘩なんかした事ないじゃん。いつも士郎さんが私を優先してくれて」
「……そうだっけか」
「そうだよ。だから大好きなの」
「そっか。まあお前がそれでいいならいいよ」
「お前じゃなくて『優希ちゃん』だってば」
「あ、悪い。ごめんごめん」
「まあ、いいけど。次からは優希ちゃん呼び慣れてよね」
優希が本気で怒っているようには士郎には見えないのでちょっとだけ安心した。