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イタチ狩り

「おまえさん、イタチがどんな奴か知らんだろ?」


 シリウスさんがまるで渋いベリーを食べたみたいに酸っぱい顔をして言う。

 そんな変な事を言っただろうか?


「悪い人です、ならそれで十分でしょう」


「そういうこっちゃない。イタチの野郎は、野盗の中でも、ちょっとは名の知れた男だ」


「仲間を捨て(ごま)にして、平然と後ろから矢を射かける。そういうイカれたやつだ。で、奴は逃げ足がとても速い。だからついたあだ名がイタチだ」


「なるほど、矢を使う野盗さんなんですね?」


「あぁ、そうだが」


「では、矢が当たらなければいいんですね。矢逸(やそ)らしの呪符を作りましょう」


 私は木片を取り出して小刀でルーンを刻む。

 「風、包、力」いや、「風、力、外、」の方がいいかな?

 ルーンとは魔法の元になる、力をもつ言葉だ。それは超自然的な運命すら操る。


 私がさっき治療に使った魔法、それを秘めたものだ。

 そこまで万能ではないが、一回の戦い程度なら、十分に役目を果たす。


「えー……ほんとにこんなので大丈夫なの?」


「あら、(うたが)ってますね?」


「だって……ただの木の板だろ?」


(きん)の板でつくったら持ち逃げされそうですし」


「そういうこっちゃないんだが?」


「では、思いっきり私に石を投げてみてくださいますか?」


「えぇ???うーん……」


恐る恐る石を放るシリウスさん。石は私の手前に落ちた。


「ほらほら?投げてみてくださいな」


「あれ……?もう一回」


石は私を飛び越えていった。うん、ちゃんと働いているようだ。


「うっそだろ……?」


「はい、嘘じゃありません。これが矢逸らしの呪符です。良いでしょ?」


 信じました?と聞くと、こくこくと頷くシリウスさん。


 呪符や魔法は、それを信じる強さが無いと、その効果が弱まってしまう。

 なのでこういう実演がけっこう効くのだ。

 私は2枚の矢逸らしの呪符を作り、シリウスさんに押し付けた。

 私たちはシリウスさんが襲撃を受けたという場所まで戻った。

 彼が残した血の痕に、いくつものブーツの足あとと、争った跡。


 来たはいいけど……ここからどうしましょうか?


 シリウスさんは屈みこんで、数ある足あとをあれこれと調べている。


「うん、これがあいつらで……こっちがイタチの野郎だな」


「わかるんですか?」


「ああ、重さ、足の速さで足あとの形は変わる。後は……臭いだ」


「ははぁ、なるほど」


「この足あとは続いている……行こう、こっちだ」


 彼の後に続いて進む。盗賊騎士というから、乱暴な人なのかと思ったけど、意外に几帳面なものの見方をしている。


 土の上に残った足あとが消えた後も、シリウスさんによる追跡は続いた。


 地面の枯れ葉の散り方、巻き上げられた土が乗った葉っぱ。

 そうした何気ない痕跡からも、この捨て犬さんはイタチを追いかけている。


 この人の注意深さとねちっこさは、私のお師匠にも負けて無いかもしれない。


「すごいですね!よくスイスイ進めますねぇ」


「慣れりゃ簡単だよ。野原でヒトや獣が歩くと、必ずなにがしかの痕跡が残る」


「葉の重なり方、土のへこみ方。枝ぶり、虫の巣、そいつらに何かしらの変化を見つけるんだ。その疑問を突き詰めていきゃ、追いかけられないもんはない」


「すごいですね。野生の勘か何かだけと思いました」


「ハハ、それも大事だ。肝心なのは、ものごとをよく見るって事よ」


 シリウスさんはそれからもしばらく進んで、急に立ち止まった。


 (シッ……きっとあれが隠れ家だ)


 (なるほど、旅人の宿、その廃屋ですか)


 私たちの前にあったのは、傾いた屋根の廃屋だ。


 屋根の落ちた馬屋が離れにあり、母屋はL字型をしている。もとは母屋を囲う柵か何かがあったのだろうが、今は横木はすべて失われて、柱だけになっている。


 いつ崩れ落ちてもおかしくない家からは、確かに生活のにおいがする。


 薙ぎ倒された草、まだ乾ききっていない泥。

 おそらくここがイタチさんの隠れ家で間違いないでしょう。


 さて、ここからどう動きましょうか?


「シリウスさん何か名案はありますか?」


「そうだな……、昼寝でもするか」


 ――はい?

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