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05 こいつら全員生きる価値のない屑だ。だから救わなくても良いんだ


 なに、なんで。

 なんでこうなった。

 というかこいつ誰。

 メカクレの従姉妹?

 絶対嘘! まずは正体を暴く!


「あ、じゃあ俺、ちょっと軽くネット調べてみるわ」


 俺はそう言って戦線から一時離脱し、スマホのブラウザからオークションサイトに飛ぶ。

 そのまま、得意なゲームのジャンルに飛んで適当な商品を片っ端から流し見る。


 高い。安い。適性。高い。高い。高い。安い。高い。適性。高い。高い……。

 そうしていると、まるで神の声のような忌々しいものが、俺の頭に響く。


《スキル『目利き』を獲得しました》


 よし、目利き生えた。

 簡単な判断ゲームから『目利きスキル』を生やした後は、その目利きで更に情報を読み取る。

 二百円。三千円。五百円。ゴミ。百円。ゴミ。七千二百円。ゴミ。二万円。ゴミ。ゴミ。

 目に映る商品の値段を、写真からの情報とは思えぬ程の精度で判断していく。それをすること五分ほど、先程の目利きよりも大分時間はかかったが、目当てのスキルが生える。


《スキル『鑑定』を獲得しました》


 そう『鑑定』である。


 生えたばかりの『鑑定』スキルなど、俺自身の鑑定技術に比べればゴミみたいなものだが、それでもこの世界のデータを直接参照できる能力である。

 それはすなわち、見た目からは分かるはずもないことすら、ある程度は分かるということ。

 俺はちらりと、冴木リコリスさんのステータスを覗き見た。


 ──────


【田舎騎士】 リコリス・ハーヴィン(冴木リコリス)

  LV:25


 ──────


 ですよねー。

 冴木リコリスとか偽名に決まってますよねー。


 いったい、どこの、地球に、【田舎騎士】のレベル25が存在するってんだ馬鹿野郎!

 クソがっ!! いったい俺が何をしたっていうんだ。ただちょっと主人公の称号を頂いてきただけだってのによぉ!?

 というかどうする? どうこの場を切り抜ける? どう動くのが最善だ?


「どうした栗原。なんでネット見てただけでそんな青い顔になんだよ」


 俺が突然押し黙ったのを心配するかのように、大佐が語りかけてきた。

 俺も咄嗟にそちらの方を向いてしまい、気をつけていたことが起こる。

 つまり、あろうことか『鑑定』スキルを友人に対して発動してしまった。

 そしてその瞬間に俺は吹き出した。


 ──────


【一般人:大学生(オタク)】 鈴木桐男

 LV:20


【ネイトの勇者(二代目)】 冴木玄鵜

 LV:31


【宿命の果てに辿り着きし運命を背負う者】 桃城信子

 LV:8


 ──────


 突っ込みどころが多過ぎる!!


 あまりの情報過多っぷりに頭がパンクしそうだよ!

 もう、うっかりプライバシーを覗き見ちゃった罪悪感とかどこかに吹っ飛ぶレベルだよ!

 俺の場合は大学生(理系)だったのに、大佐が大学生(オタク)になってるとかどうでも良いよねこれ。

 理系の大学生なんだー、と同じ感覚でオタクの大学生なんだー、で流せる。


 まずメカクレ。

 お前勇者二代目ってどういうことだよ。

 いや、お前、え、なにそれ?

 お前勇者なん? それもあのクソ異世界ネイトの勇者やっちゃうの?

 これ多分称号が勝手に切り替わってる時点でルート入ってるぞお前。どうあがいてもネイトの勇者コースだよ。

 二代目ってなってるから初代の俺が心の中でアドバイスしとくけど、あの異世界クソだぞ。

 とりあえず、街とか村に入って最初に話しかけてくる人間の八割は詐欺師だから気を付けるんだぞ。この状況で言えないけど。

 言ったらなんでそんなこと知ってるんだってなるからな。俺はまだ、自分のこの先の行動方針を決めてないんだ。


 で、その勇者より気になる称号のモブ子。

 お前どういうことだよ。意味分からねえカッコいい称号持ちやがって。

 ぶっちゃけ【背景】とか【空気】とかのオチ担当だろお前。なに【宿命の果てに辿り着きし運命を背負う者】とか別方向にぶっ飛んだオチ持ってきてんだよ。

 いったいどんな宿命の果てに運命背負って生きてるんだよ。これから怖くてお前のこと空気とか呼び辛えよ。

 しかもお前の名前なんか見にくいんだよ。微妙に字が掠れてるというか、そんなところで空気属性発揮しなくていいから。溶け込まなくていいから。

 あとレベル8ってひっくいなおい! 普通に生きててもだいたい二十歳くらいまでは年齢と同じくらいのレベルになるんだぞ。そっからは普通に生きてると上がらんけどな。


 ああもう、情報が多すぎて俺の頭の混乱が収まらねえ。

 もう【田舎騎士】とかどうでも良くなってきた。きっと東北の田舎あたりで騎士ごっこしてたからそんな称号なんだろ。あ、ポーランドって設定だっけか。じゃあポーランドの田舎ってことで良いわ。

 とりあえずこいつらと居ると頭おかしくなりそう。おうちかえりたい。

 やっぱり『鑑定』スキルとか害悪だわ。精神衛生の為にゴミ箱に捨てたいけど取ったら捨てられねえんだよな。とりあえず心のメニュー画面で無効状態にしとかないと。


「おい栗原。いきなり人の顔見て噴き出すってなんだてめえ」

「いや悪い。気にすんなよオタクの大学生」

「なぜいきなり人をオタク呼ばわりする!?」


 だってお前、自分では気付いてないかもしれないけど第一称号オタクだし。

 オタクの大学生により精神をいくらか回復した俺は、とりあえず奇行をやめる。

 話っていったいどんな感じだったっけ。

 ああ、そうか。リコリスさんが探しているキャラクターの逸話を聞いたところだったんだな。

 で、俺はそれをネットで調べてみるってことで、スマホ見てたんだった。


「残念だけど、さっき聞いた逸話だけじゃ、何もヒットしなかったわ」


 俺がしれっと返したところで、勇者二代目が苦笑いをした。


「そうだよね。僕も同じように調べてはみたけど引っかからなかったし」

「諦めて帰ったほうがいいんじゃない?」

「え!? どうしたの急に!?」


 さっきまで協力的だった俺の唐突な方針転換にメカクレが目を剥く。

 さすがにいきなりだと怪しまれるか。とはいえ、なんとなくだが道筋は見えてきたのだ。


 まず、この【田舎騎士】ことリコリスさんは、十中八九あのクソ異世界ネイトからのお客さんだ。

 どうやってこの世界に現れたのかは……正直言って分からないが、それでもなんらかの方法で異世界からこの世界にやってきてしまった。

 で、話の流れから、創作のキャラとかではなくて、ネイトを救った勇者であるところの俺を探している。

 まぁ、きっと魔王が居なくなったネイトがまたぞろ何らかの危機に瀕しているのだろう。クソ異世界だし。


 だがしかし、この俺はなんとただの一般人である。頼りにした筈の勇者様が、今はその辺の騎士崩れ以下のレベルだとは思うまい。


 そんな中、偶然だか必然だかでリコリスさんが出会ったのがメカクレ。

 彼の称号は【ネイトの勇者(二代目)】だ。

 リコリスさんが探す勇者は見つからないが、既に次代の勇者に出会っているわけである。

 なるほど、これはもう二代目ルートからは逃れられまい。どんまいメカクレ。


 ……あれ、てことは、実は俺はこいつらのストーリーとは関係ないんじゃね?


 メカクレが二代目勇者ってことは、ほぼ確実に【主人公】の称号も持っているだろう。

 そして俺もまた【主人公】の称号を持っている。

 で、メカクレは勇者持ちの戦闘系主人公、俺は一般人のラブコメ主人公。

 なるほどつまり、俺達は親友同士でありながらお互い別々のストーリーを歩んでいるということか。

 そういうことなら無理に邪険にする必要もないな。

 俺はできるだけ穏便に、速やかに、自分のストーリーを進めれば良いだけなのだ。

 クソ異世界にこれから飛ばされるだろうメカクレのことは大変心配だが、まぁ、ネイトなら最悪死んでも元の世界に戻るだけだろう。

 ……俺みたいな、特殊な条件を踏まない限り。


 よし、方針は決まった。

 俺はあっちのストーリーに巻き込まれないように無関係を装いつつ、必死に自分のラブコメを進める方向で行こう。

 メカクレからメインヒロインを紹介してもらうルートは消えたが、仕方ない。


「いや、すまんメカクレ。大丈夫、俺も協力するよ」

「あ、ありがとう。でもなにその目。なんでそんな慈愛に満ちた目をしてるの」

「お前にもいつか分かる日が来るだろう」

「だからなんで、そんな弟子を見送る師匠みたいな目をしてるの」

「今はまだ分かるまい。だが、いつか困難に直面したとき俺の言葉を思い出せ。『こいつら全員生きる価値のない屑だ。だから救わなくても良いんだ』って」

「なにその殺伐としたアドバイス!? これから僕はいったい何をすることになるの!?」


 なにって、ゴミ掃除だよ。

 間違えた。ゴミ救うほうだった。


 俺が尚も遠い目をしてメカクレの肩をポンポンと叩いてあげているところ。

 隣のリコリスさんは不思議そうな顔をしているだけだった。

 大佐は大佐でまたなんの発作が始まったのか、みたいな表情をしている。


 そして視界をそっとモブ子の方に傾けるのだが、


「…………」


 俺を見つめるモブ子はモブ子で、どこか遠い目をしているように見えた。

 ……いや違う。あれはただ、急な奇行を始めた不審者を見る目だ。

 だが【宿命の果てに辿り着きし運命を背負う者】にそんな目をされるのは大変心外だった。


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